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札幌市

みんなに喜ばれるキッズコーナーを。熱き市役所職員の想い20221003

みんなに喜ばれるキッズコーナーを。熱き市役所職員の想い

北海道札幌市東区にある農業体験交流施設「サッポロさとらんど」。
札幌市の中心部から車で30分ほどで、ファミリー層を中心に年間60万人が訪れるサッポロさとらんどに2022年10月2日、「食育×木育」をテーマにした札幌市内最大級の無料キッズコーナーがオープンしました。床や家具、おもちゃまで、全てを「木」で統一することにこだわったあたたかみのある空間は、大人も子どもも一緒に楽しめること間違いなし。屋外での体験が中心だったさとらんどに、「屋内で楽しめる」「乳幼児でも安心して遊べる」という新たな魅力が加わりました。

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今回お話を伺ったのは、このキッズコーナーの開設を担当した札幌市役所の職員・石堂光(いしどうひかる)さん。全くゼロの状態からキッズコーナーのアイデアを練り上げ、実現に結びつけました。その実現の裏には、多くの苦労と努力、そして何より「みんなに喜んでもらいたい」という熱い想いが。
「利益ではなく市民の笑顔のために働けるのが公務員の魅力」と語る石堂さん。キッズコーナー開設に至るまでのストーリーと、市役所職員として働く面白さについて語ってくれました。

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ゼロからスタートしたキッズコーナーづくり。

サッポロさとらんどは「人と農業・自然とのふれあい」「都市と農業の共存」をテーマに1995年にオープンした札幌市の農業体験交流施設です。エリア総面積約74ha、札幌ドーム約14個分もの緑豊かで広大な敷地には、野菜の栽培や収穫体験ができる体験農園や、動物と触れ合えるふれあい牧場、木製アスレチック遊具などの屋外レクリエーション施設が充実。また、バターやアイスなどの手作り講座や農業振興イベントの開催など、食と農について遊びながら学べる施設とプログラムが盛りだくさんで、多くの市民に利用されています。
しかし、さとらんどの来園者数は2015年をピークに減少傾向。そんな中、来園者数を増やすためのさとらんどリフレッシュ事業が2020年に持ち上がったのでした。

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「リフレッシュ事業が始まった当時は『来園者数を増やすためにさとらんどを再整備しよう』という大まかな方向性しか決まっておらず、具体的に何をするかはゼロから考えなきゃいけない状態でした」
札幌市経済観光局農政部の事業推進担当係長・石堂光さんは、そう当時を振り返ります。それまで札幌市内の公園の維持管理や整備計画立案に携わってきた石堂さんが、リフレッシュ事業を担うために創設された現在の係に異動してきた時のことでした。
「さとらんどは屋外のレクリエーション施設が豊富でファミリー層から人気があるものの、悪天候時や平日の来園者数が少ない、0〜2歳程度の乳幼児が遊べる場所が少ないなどの課題がありました」
2人の子をもつ父親でもある石堂さん。日頃から、「天候に関係なく子どもがのびのび遊べて、親である自分自身もゆっくりできる場所が札幌市内にもほしい」と感じていました。
「『もっと多くの人にさとらんどに来てもらいたい』という札幌市職員としての役割と、父親目線としての自分のニーズが一致し『気軽に入れる無料の屋内キッズコーナー』がさとらんどにできたらいいんじゃないか?と思ったところから、キッズコーナーづくりをスタートさせました」

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こうして、利用率が低かった貸し会議室を廃止し、広さ240㎡の屋内キッズコーナーへと改修。無料で利用でき、かつ天候に左右されない、札幌市内最大級の屋内キッズコーナーがさとらんどに誕生したのでした。

仲間と共につくる、木にこだわったキッズコーナー

キッズコーナーを訪れてまず心奪われるのは、床も、家具も、おもちゃも、「木」でつくられた温かみのある空間。足を踏み入れた途端、木のよい香りが漂います。

「自分もいち利用者の目線として、木を使いたいという思いがありました。やっぱり木って、あったかいんですよね。特にここでは、木の中でもやわらかくてあたたかい針葉樹という種類を使うことにこだわりました。柔らかいから転んでも怪我をしにくいし、こうして直に床に座ってもお尻が痛くならないし、冷たくない。冬でも裸足でのびのびと遊んでもらえて、利用者がいかに満足してここで過ごしてもらえるかを考えたら、やっぱり『木』だよなと思ったんです」

satoland23.JPG裸足になって木のぬくもりを確かめてください、とご自身も裸足になる石堂さん。

キッズコーナーを作るにあたって特に参考にしたのは、石堂さんの地元・宮城県仙台市にある大型の屋内遊戯施設だといいます。
「仙台の施設は全体が木で作られていて、訪れた時率直に『すげー!いいな〜!』と感じて。車でしか行けない郊外にあって有料にも関わらず、たくさんの利用者が訪れて親子で楽しんでいるのを見て、やっぱりみんなこういうところを求めてるんだと確信しました」

ただ、木をつかえばそれだけでいいとは限りません。利用者から好まれる施設はやはりその場所にしかない魅力やデザイン性の高さも重要。そのため、キッズコーナーの家具はすべて北海道産の木材をつかい、統一したデザインにしています。

「北海道産の木材で統一して家具をつくるとなると、既製品ではうまくいかなくて。だからすべて特注品で、札幌市内の障がい者支援施設さんに作ってもらいました」

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石堂さんが「こんな家具が欲しい」とおおまかなデザインを考え、障がい者支援施設の方で細かい部分を設計。そうして、道産木材をつかった統一感あるデザインのキッズコーナーを完成させていったそうです。

「障がい者支援施設の方々は、日々いろいろなお仕事をされていますが、このように自分達の作ったものが実際に使われているのを見る機会はなかなかないそうです。このキッズコーナーは、障がい者さんご自身やご家族が『自分が(うちの子が)作ったものがこんな風に使われるんだ』と実感できる貴重な場になる、とすごく喜んでいただけました」

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「こちらの生つみきは、北海道庁の赤れんが庁舎改修工事の際に伐られたイチイでできています。北海道庁の方が、伐るから使っていいよとお声がけしてくれて、1本の木から積み木を作ったら面白いんじゃないかと思って、もらってきました。そして、この輪切りにした枝を磨く作業も、障がい者支援施設の方々に手伝ってもらったんです」

キッズコーナーを作るにあたって「仲間づくり」を大切にしてきたという石堂さん。
関係者の方々に、なぜ札幌市に木でできたキッズコーナーを作りたいのかをきちんと説明し、想いを伝えることを欠かさなかったといいます。その熱意に共感した方達がキッズコーナーを作り上げる「仲間」となって増えていき、さとらんどならではのキッズコーナーを誕生させることができたのでした。

「人に喜んでもらえる仕事を」。公務員だからこその面白さ。

キッズコーナー完成までのストーリーを、目を輝かせながら話してくれた石堂さん。
決して潤沢とはいえない予算の中で、時には自分で簡単なデザインもして、製品を探し回って購入して、DIYもして......と、こだわりを貫き通す石堂さんのアイデア力と行動力には驚くばかりです。
何より、とても楽しそうにお仕事をしている姿が印象的。お話しするだけでも、札幌市職員だからこそできるお仕事に誇りを持っていることが伝わって来ます。

そんな石堂さんですが、大学卒業後すぐに公務員になろうという考えはなかったと言います。
どのような経緯を経て、札幌市役所職員として働くことになったのでしょうか?

「出身は宮城県仙台市で、北海道大学への進学を機に北海道に来ました。暑いのが嫌いで仙台より南には行きたくなかったのと(笑)、自分でもなぜか分からないけど『樹木』が好きで。実際に森に入って、現場で樹木と触れ合える学科に行きたくて、北海道大学の森林科学科を選びました」

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そうして北海道で木について学び、卒業後の進路として選んだのは民間の製紙会社。木から紙を作る製紙会社への就職は、石堂さんの周りでは王道の就職ルートでした。しかし、暑さが苦手な石堂さんが北海道勤務を希望したにも関わらず、1年目の赴任先はなんと山口県。そこで初めて、大手の製紙会社に就職する=転勤族になるということの実感が湧いたのだそうです。

「周りの先輩をみると、数年ごとに全国や海外を転々としていて、単身赴任の人も多くて。自分はその当時結婚はしていなかったものの、将来的には家庭を持ちたいし、子供とはずっと一緒にいたいと思っていたので『これからずっと根無し草かぁ......』という不安がありました」

そんな思いを抱きながら働くうちに、石堂さんの中での違和感はどんどんと膨らみます。

「就職して1年目は、リーマンショックの影響で原油価格がかなり高騰していた時期で、仕事だから仕方のないことではありましたが会社の利益を守るためにいろいろと辛い決断を下さなくてはいけないことがあって。それが率直に自分の性格には合っていませんでした。それに『自分の関わっている仕事で、誰が喜んでいるのだろう?』という部分が見えなくて、お金以外の仕事のやりがいが何なのか、分からなくなってしまったんです」

キッズコーナーについてお話ししている時も、「来園者に喜んでもらいたい」と何度も繰り返していた石堂さん。「みんなに喜んでもらうこと」を仕事のやりがいにしている石堂さんにとって、みんなの喜ぶ顔が見えず、会社の利益を最優先にしなければならない民間企業の働き方は、どうしてもしっくり来ないものがありました。

「1年目でそんな思いを抱いていた時、北海道に遊びに行って札幌市役所に勤めている大学の先輩に会ったんです。そこで『札幌市の仕事、面白いよ』と言われて、なんだか繋がったんですよね。『転勤しないこと』『利益を求めることなく人に喜んでもらう仕事ができること』。この自分の希望を叶えられるのは公務員しかないんじゃないかなって思ったんです」

satoland18.JPGさとらんどに生えていた白樺の木で作った積み木もあります。

さらに決め手となったのは、「子供に関われる仕事であること」でした。

「話をしてくれた先輩が、まさに公園を作る仕事をしていて。自分は子供が好きなので『子供が喜ぶ仕事をしたい』という思いも漠然と持っていたんですよね。そこで『あ、公園を作るって子供が喜ぶ仕事じゃん!』って。不思議と、自分の思いと札幌市役所の仕事は、全てが合致したんです」

こうして社会人2年目の年に札幌市役所の採用試験を受験し、見事合格。
石堂さんは主に札幌市内の公園整備を担う「造園職」の職員として、札幌市役所に勤めることになりました。

「自分は、広く浅くではなく、狭く深くという性格なので、仕事でいうとジェネラリストではなくスペシャリストになりたかった。札幌市役所の造園職は、ずっと公園の仕事をメインにできて、見知った仲間と長くつきあえるのがすごく自分に合っています」と石堂さん。
札幌市役所に就職してから9年間は、札幌市内の公園の造成や維持管理、整備計画の立案に関わり、市民の皆さんに喜んでもらえる公園づくりをしてきました。

「どんな公園を作ろうかなって考えるのはすごく楽しい。そしてやっぱり、現場に関われるのが好きですね。現場で『こうしたら面白いんじゃない?!』って、ほんの10cmの配置の違いにもこだわったりして......完璧主義な性格なんです。だからすごく時間がかかるんですけど、楽しいから全く疲れません。『どうやったら楽しんでくれるかな』って考えるのが楽しいんですよね。みんなに喜んでもらえるなら頑張ろうって思っちゃうから、仕事がどんどん増える(笑)」

そして農政部に異動し、さとらんどの担当になって3年目の今。公園からさとらんどにフィールドが変わっても「みんなに喜んでもらうために」仕事をすることは変わりません。

「自分が関わった仕事が形に残ることが、この仕事の醍醐味。しかも公園やさとらんどのようなレクリエーション施設はすごく自由度が高くって、自分がアイデアを出して頑張って完成させた場所で、人々が賑わい、子供達が喜んでいる姿を見ることができる。それがこの仕事の一番のやりがいだと思っています」

今が100%じゃない。みんなで育てるキッズコーナーに。

さとらんどのキッズコーナーでは、空間にもおもちゃにも木をつかうことにこだわった石堂さんですが、その分苦労も多かったそうです。

「苦労したのは、タイミングが悪かったこと。去年はウッドショック(世界的な木材価格の高騰と供給不足)の影響で、材料となる木の調達がかなり不透明。発注してみないと納品できるかどうかも、納期に間に合うかどうかも分からないという状況で、ずっとひやひやしていましたね」

satoland14.JPGこのテーブルとイスも特注です。

しかしそこでも、助けられたのは「仲間」でした。

「道産材を扱っている木材屋さんにも『こういうキッズコーナーをさとらんどに作りたいから、協力してほしい』と丁寧に説明するように心がけていました。そうするとやっぱりみんな『確かに札幌市にはこういう施設ないよね』『すごくいいね』と賛同してくれて。そのお陰か、木材屋さんもウッドショックですごく大変な中、材料をこちらの希望通りに確保してくれたり、本当にとても助けられました」

ただ仕事をこなすだけなら、業者にお金を払って納品してもらえさえすれば仕事は成立します。でも「せっかくなら業者さんにも楽しい仕事をした、と思って欲しい」と石堂さんは言います。さらに「仲間づくり」を大切にするのには、公務員という役所での仕事ならではの理由もありました。

「これは役所あるあるなんですが、完成したらそれで終了!作って完成した時がピーク!という仕事が残念ながらとても多くて。役所には異動がつきもので、担当者も数年ごとに変わるのが宿命。だから完成した時には良いものであっても、担当者が変わってしまうと当時の経緯や趣旨が曖昧になったり、作った人しか出来ない、分からない事がでてきたりして、それが維持できなくなってしまうことがとても多いんです」

確かに、立派な施設をつくって華々しくオープンしても、その勢いが持続しない......という事例は各地で多くみられます。

「普通とは違うキッズコーナーだからこそ、そうなってしまうリスクが高いんです。施設が完成した後もきちんと続いていく、もっと向上していくような仕組みを完成前から整えておくことがすごく大事だと私は考えていて。だから、キッズコーナーづくりに関わった業者さんたちに『仲間』になってもらうんです。創設した時の『仲間』がたくさんいれば、たとえ自分が担当から外れてしまっても、経緯を覚えてくれていたり、相談に乗ってもらえたり、建設的な方向に向かって行けるんじゃないかと思っています」

石堂さんが仕事を通して「喜んでほしい」相手は、利用者だけでなく、この施設をつくった人、管理する人、まさに「みんな」なのです。
そして「今が100%じゃ面白くないじゃないですか」と石堂さんは笑います。


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「このキッズコーナーにはまだ愛称が無いんです。それはこれから、利用者から公募してみんなの投票で決めるとか、1つのイベントにしちゃってもいいかなと思っています。名前が決まったら、その看板を寄付で募るのも面白いですよね。また、このキッズコーナーと絡めて、木工のワークショップなんかも開催されたらいいなと思っていて。その際は、創設時の『仲間』である障がい者支援施設の皆さんに講師として来てもらうのもありですし、木材屋さんに材料を提供してもらうのも可能かもしれません。こういった、キッズコーナー完成後のソフト事業の発展もある程度見据えて下地をつくってきたからこそ、利用者や仲間、そして札幌市が一緒になって楽しみながら、長く継続的にこの場所を育てていけるんじゃないかと思っています」

「みんなに喜んでもらいたい」という強い信念があったからこそ実現した、さとらんどのキッズコーナー。
この場所でこれからたくさんの笑顔が生まれ、たくさんの人たちに愛されながら新たな繋がりができる場所へと育っていくのが、楽しみでなりません。

10月にオープンしたこのキッズコーナーに加え、さとらんどにはさらに2023年の春、道内最大級の木製アスレチック広場もオープン予定です。
リニューアルした新しいさとらんどに、ぜひ遊びに行ってみてください。

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くらしごとの姉妹サイト「しゅふきたママLife」ではキッズコーナーの詳しい詳細を掲載しています!是非そちらも合わせてご覧下さい。

https://sk-mamalife.jp/column/open.php

サッポロさとらんど キッズコーナー
サッポロさとらんど キッズコーナー
住所

北海道札幌市東区丘珠町584番地2

電話

011-787-0223

URL

https://www.satoland.com/


みんなに喜ばれるキッズコーナーを。熱き市役所職員の想い

この記事は2022年8月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。