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鹿追町

「鹿追流ワーケーション」の挑戦。地域の課題も資源に!20220915

この記事は2022年9月15日に公開した情報です。

「鹿追流ワーケーション」の挑戦。地域の課題も資源に!

ワーケーションは「ワーク」と「バケーション」を合わせた造語。観光地やリゾート地で休暇を楽しみながら、合間やその前後にリモートで仕事もする新しい生活スタイル。休暇取得の促進や心身のリフレッシュによる効果など企業や社員に有益とされ、コロナ禍でテレワークが普及したこともあり、新しい働き方として注目されています。
 
北海道は2019年度から本格的なワーケーション普及・展開事業に着手。自然や食など多様な観光資源を活かして、参加者のあらゆるニーズにオーダーメイドで対応する「北海道型ワーケーション」を掲げ、現在66市町村と連携し、モデルプランを作ったり、首都圏でニーズ調査したりしてPRに努めています。2021年11月にはポータルサイトをリニューアル。地域の魅力を紹介し、希望者と市町村をつなぐワンストップの無料相談窓口としてすでにあったサイトに、目的や人数、働く環境といったさまざまな条件でモデルプランや地域を検索できる機能が追加されました。

北海道型ワーケーションのポータルサイトを運営する株式会社北海道二十一世紀総合研究所(札幌)の佐藤公一調査研究部次長・主任研究員は「ワーケーションと一口に言っても、さまざまな種類があります。有給休暇を使ってリゾート地や観光地でテレワークを行う『休暇型』がよくイメージされますが、バケーションを前面に出したワーケーションが展開できる地域は限られており、単に『wifi環境やワークスペースも整備しています。観光ポイントもあるので是非来てください』だけではうまくいかないと考えています。今後は地域の人たちとの交流を通して、地域課題の解決策をともに考える『地域課題解決型』や、企業の研修などを兼ねた『合宿型』、非日常環境で働くことで発想や視野を広げる『アイデア創出型』など参加型が主流になっていくと思います」と話します。

shikaoi_12.JPGこちらが北海道二十一世紀総合研究所の佐藤公一さんです

こうしたワーケーションの普及・展開において、観光資源だけでなく、地域課題をもワーケーションの資源としている市町村があります。それは、北海道十勝エリアにある鹿追町。非常に独自性の高いワーケーション事業を展開しており、道内外の自治体・企業から注目を集めています。地域参加型のモデルケースとしても『鹿追流』に期待が高まっている鹿追町のワーケーションにスポットを当ててみたいと思います!

鹿追町ってこんなところ!

大雪山国立公園の南麗で、十勝北西部に位置する鹿追町。然別火山群の噴火活動と然別湖の誕生と併せ、道内でも特に寒冷な気候が作り出した特異な地形と生態系があり、鹿追町全域を範囲とするこのエリアは「とかち鹿追ジオパーク」に認定されています。大雪山国立公園唯一の自然湖・然別湖は鹿追を代表する観光スポット。標高800メートルに位置し、新緑の季節はアウトドアスポーツを楽しむ人でにぎわい、秋の紅葉に加え、湖面が結氷する冬の「しかりべつ湖コタン」は十勝の冬の風物詩のひとつになっています。

また、鹿追町は2021年3月に「バイオガスプラントを核とした鹿追型ゼロカーボンシティ」に挑戦する旨の宣言を行いました。バイオガスプラントとは、家畜ふん尿や生ごみなどのバイオマスを発酵させ、発生するバイオガスを利用して電気や熱エネルギーを作り出す仕組みのことです。同町は酪農が盛んで飼育している乳牛の数は20,000頭にのぼり、以前から大量に排出されるふん尿処理が問題になっており、2007年から国内最大級のバイオガスプラントを稼働させて発電事業を開始していました。2016年には2カ所目のバイオガスプラントが稼働され、合わせて4,300頭の乳牛のふん尿から発電する体制を作り上げており、今では発電と同時に発生する熱を利用してマンゴーの栽培や高級食材のキャビアを生産するチョウザメの養殖も行っています。さらにバイオガスから水素を製造し、燃料電池自動車などに供給する、環境省の実証事業にも取り組み、2022年4月には民間事業者が運営主体となり「しかおい水素ファーム」がオープンしました。

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観光庁「新たな旅」モデル地域に採択

豊かな自然に恵まれ、地球環境の保全や循環型社会の構築を目指し、持続可能なまちづくりを進めてきた鹿追町。ワーケーションという言葉ができる以前、コロナ禍前より「パソコン一台あればどこでも働ける」「都会だけじゃなく地方とも関わりたい」というフリーランスなどが、オフィスを離れ自然豊かな場所で働くことでリフレッシュ効果を得ようと長期滞在することもあったそうですが、町が積極的にかかわる事業としてワーケーションに本格的に取り組み始めたのは2021年秋のこと。新型コロナウイルスなど感染症の拡大を抑制しながら旅行を楽しむため、休暇の取得・分散化を促進する観光庁の「新たな旅のスタイル」のモデル事業に、町と鹿島建設株式会社(東京)が採択されたのがきっかけでした。

町のワーケーション事業の責任者を務める鹿追町役場企画課企画係の迫田明巳さんは「鹿島建設さんとはそれまでも、エネルギー分野などで先端技術を未来のまちづくりに生かす『地域スマートソサエティ構想』の策定で連携するなど縁が深かったので、自然や環境、SDGsをテーマとして地域課題解決型のワーケーションプログラムをじっくり練り上げることができました」と話します。

shikaoi_4.JPGこちらが鹿追町役場企画課企画係の迫田明巳さんです

「鹿島建設の皆さんには滞在中、カヌーやトレッキングなど町の自然を生かしたレジャーを楽しんでもらいました。また、再生可能エネルギーの取り組みなどまちづくりを学んでもらい、然別湖に生息する特定外来生物であるウチダザリガニの駆除や担い手不足などが課題となっている「しかりべつ湖コタン」の製作なども体験してもらいました。町の魅力と課題の両面を知ってもらい、町内に住んではいないものの地域と深く関わり課題解決などに取り組む『関係人口』の創出・拡大も狙いの一つでした。分かりやすくいうと、ワーケーションで訪れた企業や人々が交流や活動を通じて地域のファンになってもらい、継続的な関係へとつなげていくことを目指しました」

ワーケーションでの交流が、地域課題の解決策となるかもしれない技術や知見を持ち合わせる企業にとってはビジネスチャンスとなり、受け入れ側の町にとっては企業誘致のきっかけとなる可能性があるわけです。

shikaoi_1.JPGこの日の然別湖はあいにくの曇り空でしたが、幻想的な風景が広がっていました

「この事業を通して鹿島建設さんとの関係性がより深まったことが何よりも大きかったですね。地域課題にとても真剣に、企業としてどう地域に貢献できるのか、私たちの町のことを考えてくれているその様子を見て、とてもうれしく、頼もしく感じました」

鹿島建設との3度の実証実験を通し、参加者の反応などから迫田さんはこのプログラムが広く受け入れられるという手応えを感じたといいます。同時に、1〜2拠点のみを軸とした限定的なエリアでの滞在では地域との接点が限られるため、町全体の魅力や課題を伝えられないなど、今後、来訪者が増えていった場合の受け入れ態勢についての問題点も数多く出てきたそうです。鹿追町らしいオリジナリティに富んだワーケーションプログラムにさらに磨きをかけるとともに、受け入れ主体をどこにするのかなど、協力してくれた民間事業者の中心メンバーと話し合いながら、町の多様な魅力やさまざまな地域課題に接触できる形などを模索し続けました。

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地域参加型の新たなモデル「かいけつーリズム」を考案

2022年度は、これまでの鹿追流ワーケーションをさらに発展させるべく「かいけつーリズム in 鹿追町」と銘打って、さらにプログラムをブラッシュアップ。民間企業を軸にワーケーションの受け入れ態勢を整える新たな実証実験に取り組んでいます。その第一弾として北海道を代表するIT企業 株式会社HBA(札幌)が2泊3日の日程で町内を訪れました。実証実験は道観光振興機構の事業として実施。町内で旅行ガイドを行う一般社団法人Enに委託し、町全体で取り組むゼロカーボンシティ宣言、ジオパーク、SDGs推進のまちづくりなどをテーマにHBAの社員7人と町、町関係者、民間事業者が視察や体験、交流を行いました。

shikaoi_10.JPGHBAの社員や関係者の皆さん

Enは受け入れやテーマ設定、顧客開拓などを担当。観光地を巡る従来の「旅行型」ではなく、環境や地域経済、過疎といった地域が抱える問題を話し合い解決する「参加型」のビジネスモデルの構築を目指しています。農業・カフェ・宿泊・グリーンツーリズムなど複数事業を展開しながら、Enの代表を務める正保縁さんは「ワーケーションの形は多様で、参加者や目的によって種類もアプローチもまったく変わってきます。この実証実験では、私たちコーディネーターが中心となって情報を集約し、企業のニーズをしっかり把握したうえで、PR活動やモデルルートなどの提案を行います」と説明。

shikaoi_14.JPGこちらがEnの代表、正保縁さんです

「ニーズに応えることはもちろん大切ですが、いわゆる自然や食、温泉といったどこの地域にもありそうな観光資源でワーケーションを打ち出しても、今までの観光資源でのお客さんの奪い合いとあまり変わらないと思います。観光名所や美味しい食べ物よりも、利用者を受け入れる地域コミニュティや、その場でしか味わえないオリジナルな体験を何よりも重視していきたい」と話す正保さん。

「企業がワーケーションを利用する場合、休暇中の特定日や場所を問わずに働くパターンは可能な職種が限られることから、チームビルディングや新規アイデアを創出するようなパターンの方が推進しやすいと思います。これらをここ鹿追でしかできない体験や地元のさまざまな人との交流も織り交ぜて、町と企業の双方にメリットある持続可能なワーケーションモデルを構築・実践していきたいですね」と力強く語ってくれました。

この日、編集部が同行したのは、然別湖に生息する特定外来生物ウチダザリガニの駆除見学・体験。ウチダザリガニは1930年代に食用として摩周湖に導入され、その後全道各地に分布が拡大。然別湖ではウチダザリガニがミヤベイワナ(オショロコマの亜種、その生息地は道天然記念物に指定)の卵や水草を食べることで、湖の生態系に大きな影響を与えていることが町の大きな課題となっています。毎年、町や民間ガイド、ダイバー、環境省とが連携し駆除活動を行っていますが、生息域の拡大を防ぎ切れていません。

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事前に仕掛けたかごを引き揚げると、捕獲されたウチダザリガニの多さと大きさに7人からは驚きの声が上がりました。その後、湖岸のテントで雌雄の判別や体の大きさの測定、抱卵の有無などを1匹ずつチェック。「大変な繁殖力だとよく分かりました。また、駆除がどれだけ大変な作業かも身にしみて分かりました。体験を通して実際に地域課題を目の当たりにし、危機感の共有が必要だと強く感じました」との声が聞かれました。
この日はまた、捕獲したウチダザリガニを塩茹でして試食しました。初めは恐るおそる手を伸ばしていましたが、実際に口にすると「エビのような、カニのような、、かなり美味しい」「手が止まらない」などと絶賛していました。

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2泊3日のプログラムを終え、HBAの本ワーケーション事業のリーダーを務めた石川真理さんは「参加した7人はそれぞれ所属部署が違うメンバー。社内ではほとんど交流がなかったので、チームビルディングにつなげたい目的があったのですが、普段の職場環境とは異なる場所、非日常の空間や体験の連続で、ワクワクやドキドキ、楽しさや感動をすぐ近くで共有できたので、初めて会ったり喋ったりするメンバー同士もすぐに打ち解けることができました。みんなすっかり仲良くなったので、大成功だと思います」と笑顔で語りました。

shikaoi_5.JPGこちらがHBAの石川真理さんです

「ウチダザリガニの駆除体験もそうですが、家畜ふん尿由来のバイオガス発電や水素で走る燃料電池車(FCV)の活用、SDGsと行政との関わりなど、実際に見学したり体験したり意見交換したり、机上の空論ではない生きた知識を実践的に学べたと思います。ワーケーションを終えて、SDGsが今までより身近な自分ごととして感じられるようになった気がします」

鹿追流ワーケーションのこれから

「実は、『ワーケーションといえば鹿追町』みたいにワーケーションの聖地として認知されたいとはまったく思っていないんです」と迫田さん。意外に聞こえますが、その言葉にはどんな思いが込められているのでしょうか?

「ひとまず言葉として流行っているからワーケーションをやろうという思いはみじんもありません。自分の町の独自性を認識して、ワーケーション推進の目的をしっかり設定した上で、これから5年、10年、20年と時間をかけて進めていく必要があると個人的には考えています。その10年後、20年後に、例えば『然別湖のウチダザリガニが半減』となったときに『そういえば、ワーケーションであの企業に来てもらったのがきっかけだったよね』ということになれば素晴らしいことだと思います。地域と企業がともに課題解決の入口に立つ事業と思っています。町も企業側も、それぞれの課題が何かを洗い出し、取り組みを定着させ、将来のまちづくりや地域活性化に結果を残せるワーケーション事業でありたい。もちろん企業側にもたくさんのメリットや価値のあるものでなくてはなりません。これは付け焼き刃でやっても難しいでしょう。だから時間をかけて、各所と連携しながらみんなで一緒に、『ゴール』ではなく『手段』としてのワーケーション事業を、ここ鹿追にしかないワーケーションの特色・利点を育てていきたいと思っています」

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デジタル化推進の機運もあり、国はワーケーション施設やサテライトオフィスの設置に補助金や臨時交付金を投入し、道内でも整備が進んでいますが、迫田さんは「補助金頼りでこのままいくと、潰れるとか、誰も使わないワーケーション施設などがかなり多くなる地域も出てくるかもしれない」と危惧しています。「ワーケーションは施設づくりではなく、最終的には人と人を結び付ける人材が成功の鍵を握ると思っています。Enの正保さんのような、町や地域をよく知るプロのコーディネーター、ファシリテーターの助けが必要。町の人と自由に交流してくださいとするだけでは先に進みません。地域のコンシェルジュ的機能とビジネスの観点も併せ持ったディレクター的な立ち位置の存在はとても重要」と力を込めます。

shikaoi_16.JPG今回、取材した2泊3日のプログラムの中では、こうしたワークショップも実施されました

「ワーケーション事業は行政だけで取り組んでも良い結果が生まれないケースが多いです。民間企業も巻き込んでいかなくてはならない。そうでないと国の補助を入れ続けないと維持できなくなってしまいます。民間企業が率先して施設運営や地元人材との交流といったワーケーション事業を展開し、行政がサポートしていくバランスが大切だと思います。スペースなどを整備しても、地元人材が使わなければ地域経済に循環していきません。民間企業・事業者とがっちりタッグを組んで、民間企業・事業者もしっかり経済的に潤うよう地域事業として取り組んでいく必要があります」

私たちは今、ワーケーションやリモートワークなどによって起きるさまざまな変化の入り口に立っています。副業を認める企業も増え、多様な働き方がさらに進んでいく中、情熱を持って鹿追流ワーケーションの構築・実践に取り組む迫田さん、正保さん、佐藤さんの話から、今後10年、20年をかけて続く挑戦が、北海道、そして日本の中で個人・地域・企業にそれぞれどのような影響を与え、花開くのか、引き続きその可能性から目が離せません。

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鹿追町役場 企画課企画係
住所

北海道河東郡鹿追町東町15-1

電話

0156-66-4032

URL

https://www.town.shikaoi.lg.jp/


「鹿追流ワーケーション」の挑戦。地域の課題も資源に!

この記事は2022年7月12日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。