北海道の方なら知っている方も多いであろう「野口観光」。テレビCMなどでも流れてくるので、耳にしたことがある方も多いはず。家族連れに大人気の「森のソラニワ」を始め、「乃の風」「緑の風」「啄木亭」などなど...ほら、聞いたことある!となりませんでしたか?
こうした名だたる有名旅館・ホテルを運営しているのが、野口観光なのです。 そんな観光業の会社が温泉の地熱を利用した農園を営んでいると聞いて、くらしごと取材班は「のぐち北湯沢ファーム」という北海道伊達市大滝区にある農園にお邪魔しました。
取材日はあいにくの雨模様でしたが、現場はとっても明るい雰囲気が漂っていました!...とは言え、現在この農場にいるのは3名。14棟ものハウスが立ち並ぶ広大な敷地を3名でまわしているの!?なんてビックリもしましたが、それはこの記事の中で追々お話していきますね。
札幌から車で2時間40分...と聞くと遠いと思われるかもしれませんが、新千歳空港まで1時間かからないので、道外の往き来はしやすいエリアです。
温泉の地熱を使った栽培方法
「お客様のために、美味しいものを食べてもらいたい...そんな想いからこのファームを始めたんですよ」と話してくださったのは、野口観光常務の秦野さん。若い頃からずっと観光業に身を置く、生粋のその道のプロです。
真ん中が秦野さん。左は農場長佐藤さん、右はこの農場の社長橋本さんです。
今ではここで採れた野菜を使い、スープやジュースなどに加工して、野口観光の各ホテルなどに渡っています。そこで食べたお客様から「購入したい」というお問い合わせのお電話が直接ファームに届くこともあるそうです。
また、将来的にはここを、観光農園やBBQなども出来るような場所にしていきたいと、そんな構想も教えてくださいました。 順調そうに聞こえますが農場として軌道に乗ったのはここ2〜3年。それまでは紆余曲折な日々を送っていたと言います。
「土の質が良いわけではなく、ここで作る作物はない、7割は枯れるだろうと言われていました」と社長の橋本さん。
そんな中で見つけた「地熱」を利用した栽培方法。 温泉地でもあるこの地の特性を利用した温熱排水、地熱を利用して、ミニトマトの栽培を始めたのでした。 北海道の農家は冬は雪に包まれ、農業のお仕事はお休み...というところも多い中で、この手法であれば暖房等の費用もかからずに冬でも栽培を続けることができるのです。
さらには、冬といえば虫もいなくなる時期。虫のいない時期に農薬を使わずに栽培できる...この手法、実はすごいことなのではないでしょうか?
地熱栽培で、暖房費もかからず、SDGsにも繋がりますね。
また、冒頭でもお話した通りこの農場は現在社長の橋本さんと、農場長の佐藤さん、そして外国人研修生のベトナム人女性の3人だけ。 ぱっと農場を見る限り絶対に3人だけでは厳しいのですが、そこは野口観光グループ。収穫の時期ともなれば観光業に携わるグループ社員のヘルプが入ると言うのです。
それだけではありません。野口観光は、観光業に就く人向けの学校も作りました。そこに通う生徒さんが研修の一貫で訪れることも。こうして野口観光グループ総出で協力し合っているのです。
ここまで聞くと「やっぱり順調じゃないですか!どこが紆余曲折なんですか!」と思われるかもしれませんが、今日を迎えるまでは本当に大変だったのです。
突然社長に就任
現在ここのファームの社長を務める橋本さん。ここ、大滝の出身でその後は室蘭に出て札幌トヨタにて自動車整備士として働いていました。橋本さんにはもうひとつ猟師という顔もあり、この大滝というエリアから猟師の後継者がいなくなる...と聞いてUターンを決意したのでした。
社長の橋本さんです。
ご実家が農家だった橋本さんは、実家の農業を手伝いつつ猟師として働いていたのですが、ある日「この農場を手伝ってくれないか?」という声がかかります。野口観光グループとして、地元の人を採用したいという想いからでした。
こうしてこの農場でスタッフのひとりとして働いていたのですが、突然の人事変更によりこの農場の社長への道を提示されました。
実家が農家であれど、それまでは異業種にいた橋本さん。農業経験も浅いまま、引き継ぎもない状態で突然社長になってしまった...平成26年のことでした。
そんなてんやわんやな状態なので、それが作物の結果として表れてしまいます。
「野菜のデータなんて取ってなかった。どこを見ればいいのかさえも分からなかったんです」 そんな状況を立て直すべく、このまちの農業支援員の方が入ってくださったのがターニングポイントでした。この方にデータの取り方から、農業の基本から立て直しをしてもらい、その教えもあり橋本さん自身、今では作物の表情が分かるようになったと言います。
「こども育てるように、大事に大事に育てる必要があるんですよね。ちょっと元気ながないから、肥料をあげようとか。そうしたら、2、3日後にはその表情が変わるんですよ。その時に作物が欲してるものをあげる、これが大事だってことが分かるようになりました」
そしてもう一人、橋本さんと肩を並べてこの農場を切り盛りしているのが農場長の佐藤さん。
生まれは札幌ですが、ご両親の転勤で色んな場所を渡り歩きました。札幌の物流関係の仕事に就職後、保険営業などを経てここに到達するのですが...ここまで聞いていると、異業種の道を渡り歩いているようですが、どうして農家に最終着地したのでしょうか?
「保険屋の仕事は、カタチのない、在庫リスクのない商品を売っていたんですよね。その時お客さまの中に野菜の販売などをされている方がいて、カタチのあるものを売るということに興味を持ち始めたのがきっかけなんです」
そこから、農産物販売のお仕事に転職し多くの生産者との繋がりが深くなった佐藤さんは「どうせなら自分で作っちゃえ」と、農家の道へと進んだ...というわけでした。
ニッコリ笑う農場長佐藤さん。
橋本さんと佐藤さん、そしてベトナムからはるばるやって来た女性。
それぞれの道を歩んできたメンバーが集まって、奮闘する毎日。
佐藤さんは力強くこう言います。
「地熱を使ったこの地域産業は、本当にスタートしたばかりです。今が勝負どころであり、まだまだ学ばないといけない状況。我々、この業界への入り方がアマチュアだからこそ、逆に流通も見てきたし、消費者に対しての目線もあるし、異業種の経験を活かしたい」
大滝から感じる農業の可能性
「地熱」をキーワードにした農業。社長の橋本さんは、これを利用してもっとこの地の就農促進を図っていきたいと話してくださいました。そのためには、この農園の存在をもっと多くの人に知ってもらう必要があるとも。
「実際に、伊達市に来るのが決まっている福島県のイチゴ農家さんもあるんですよ。こうしてこの地に移り住み、農業を始め、作物をつくっていく方々と協同していきたい。例えばですが、他の農家さんが栽培したいちごを使って、いちごフェアをホテルでやったり。伊達野菜、北湯沢野菜として、この地の就農促進を果たしたいですね」
可能性しか見えないこの地での農業。お話を聞いているだけでこちらもなんだかワクワクしてしまいます。
とっても甘みのある自慢のとうもろこし
橋本さんも前職での転勤や、佐藤さんも色んな地域を経験し、その視点でこの伊達市大滝というエリアはどう見えているのでしょうか。住みやすいか?という質問に対しては頷くお二人。
いわゆる「THE田舎」なこのまちではあれど、佐藤さんからは「まわりを気にせずラッパが吹けて良い」と...ら、ラッパ!?
実は佐藤さん、ラッパを吹くのが趣味ということもあり、家と家との距離が離れているこのまちでは夜でも気にせずにお家の中で演奏することができるのだそう。田舎の良いところのひとつですね!
社長の橋本さんは、お休みの日に何をしていますか?と聞くと「作物が気になって畑に来ちゃうけど...」と、もう生粋の農家さんです。「気になって来ちゃうけれど、気晴らしをするならば山に行って鹿とか馬の顔見に行ってみたり、川釣りをしたりしていますね」
自然の遊びがたくさんが満喫できるのが良いですね。 自然もあるし、少し車を走らせれば空港もあるからどこへでも行ける... 地熱栽培といい、チャンスが落ちているアツイまち。 今後チャンスがたくさん眠っているまちかもしれない。 野口観光が魅せる、農業を軸としたもうひとつの歩み。これからもその動向に注目です。
- 株式会社のぐち北湯沢ファーム
- 住所
北海道伊達市大滝区円山町396-1
- 電話
0142-68-8020