「専門家ではない、一般の人たちが森を作っている」
「植樹会だけど、植える時間はわずか」
コープ未来(あした)の森づくり基金が開催する、そんなユニークな「コープの森植樹会」に、くらしごと編集部も同行させていただきました。
植えるだけでなく、森を学びながら育てる活動
今回植樹会が行われた場所は、当別町の「道民の森」の中にある「Fの森」というエリアです。6月の晴天の下に、約40名の参加者やスタッフが集まりました。多様な種類の木が混在して生えている場所、2メートルから3メートルの木がすくすくと育っている場所、イタドリが繁茂している場所、まだ木が植えられていない開けた場所など、さまざまなエリアがあります。
「植樹会」ですが、植えるのは全体の4分の1程度の時間。その他は、森に生えるイタドリの根の除去や、歩きながら森林の様子を確認するといった時間です。「森づくりコーディネーター」として活動をサポートするNPO法人もりねっと北海道の山本牧さんは、その意図についてこう話してくれました。
「企業が行う植樹活動は植えた本数が目標になっているところも多いと思いますが、この活動の目的は、植樹ではなく森を育てること。育てる体験を通して、森づくりがわかる市民を増やすことです。『ここにはなぜこの木をこの間隔で植えるのか、その後どのような世話をするのか』など、森について学びながら自分たちで計画を立てて進めているのです」
植樹後の雑草の刈り取りや枝払いなど、植樹を「育樹」「育林」までつなぐ活動も市民が自ら行い、継続的に森づくりに関わることが大きな意味を持っています。
「森づくりの基本として、『環境条件に逆らわない』、『自然の力を活用する』、『鳥や動物、昆虫も含めた多様性の高い森をめざす』、『人にとっても楽しい、四季の彩りや実のなる木を大事にする』ということも大切にしています。例えばですが、最初は折れて傷んだ枝に割り箸を添えてお世話をしていましたが、枝が伸びるのにエネルギーを取られてしまうので、切ってしまった方が幹が太く長く伸びるんです。植物なりの生き延び方があるということを、身をもって学んでいます」
NPO法人もりねっと北海道 代表の山本牧さん
雪印種苗株式会社の木村浩二さんも、このように教えてくれました。
「同じ樹種でも、生長に差があります。苗の質も違いますし、あと、鹿やウサギに食べられてしまう被害もありました。さまざまな木を植えた中で、キタコブシなど動物に食べられない樹種は、比較的大きくなりやすかったようです。最初に植えた年から、雪で折れてしまうのにはみんな苦労してきましたね。カツラなどはよく折れますが、折れては伸びるを繰り返し、何百年も生きる木に生長していきます。そのようなことを、参加者の皆さんが実際に見て考えながら、学んできています」
雪印種苗株式会社 環境緑化部 緑化事業課長の木村浩二さん
植樹のスタートは、コープさっぽろ組合員さんの活動から
このような植樹活動はどのようにして生まれ、進められてきたのでしょうか。日を改めて、コープ未来(あした)の森づくり基金の事務局長、酒井恭輔さんに話を聞きました。
地域のお店や宅配システムトドックで皆さんもおなじみのコープさっぽろは、一般の企業とは違い、消費者が組合員となって出資し成り立っている生活協同組合です。現在は、全道の70%の世帯が組合員となっています。いわば、一般市民がオーナーです。その中で、地域ごとに自分たちの生活を良くするために学んだり活動する組合員活動を行っている方たちがいます。組合員活動として関心が高いテーマ別に取り組まれる「組合員活動委員会」には環境、子育て、福祉、平和、くらしの5つの活動があり、環境問題にも現在のように注目される前から着目し、活動していました。
「植樹活動が始まったきっかけは、2003年から活発になった別海町の野付漁業協同組合さんとの産地交流事業でした。野付漁協女性部では、森と川とつながる生態系が海の魚を守ることから、『魚を殖やす植樹活動』を行っており、交流の一環で組合員が植樹に参加したことで、植樹の重要性を知ることとなったのです」
こちらが酒井恭輔さん。コープ未来(あした)の森づくり基金の思いをたくさんお話してくださいました
北海道との協定で、地域の森づくりの活動が可能に
その後、さらに植樹への機運が高まり、当別町の道民の森「青山地区」、富良野自然塾などでの植樹活動を行ってきました。そして、2007年に北海道と「ほっかいどう企業の森林づくり」の協定を締結。この事業は、北海道が各地で管理の手が足りなくて困っている森林所有者と企業を結ぶものです。
「普通は『植樹活動をしたい』と思っても、できる場所を探すことから始めなければなりませんが、この協定により全道の組合員さんが自分たちの住む地区に近い地域で植樹活動に参加できるようになりました。また、森を育てるには植えた後にも、周りの草を刈ったり、効率よく生長するように枝を払ったりと、木を守るための『育樹』にも携わっています」
組合員さんが育樹の活動を行う時以外は、多くは地元の森林組合などに委託しているといいます。
これらの活動を支えているのは、コープさっぽろが設立した「コープ未来(あした)の森づくり基金」です。設立されたのは、「ほっかいどう企業の森林づくり」の協定締結と前後する2008年。コープさっぽろの店舗でレジ袋を辞退すると1回につき0.5円が基金として積み立てられ、それを北海道の森づくりや環境活動に役立てようというものです。
現在までに組合員活動を行う11ブロックの地域で16カ所、約33ヘクタールの森林が「コープの森」になり、活動が行われています。これまで、10万本以上の木が植えられてきました。「コープの森」の他にも、森づくり団体助成や環境教育活動、広報誌の発行などを行っています。
トドックエコステーションにあるレジ袋を木に見立てたモニュメント
ワークショップメンバーが話し合って森をつくる
「コープの森」の中でも異色なのが、今回植樹会を見せていただいた「Fの森」です。他の地域の森林では、自治体の森林整備計画にある樹種や本数に従って植えていますが、ここでは参加者がワークショップを行い、自分たちで森づくりの計画から行っているのが最大の特徴です。
ワークショップのメンバーは組合員さんの有志20〜30名で構成され、さらに冒頭に登場したNPO法人もりねっと北海道の山本さんや、NPO法人北海道市民環境ネットワーク「きたネット」理事の宮本尚さんと、同じく「きたネット」理事で石狩川流域 湿地・水辺・海岸ネットワーク「しめっちネット」代表の鈴木玲さん、雪印種苗株式会社などの専門家がアドバイザーとして関わっています。
専門家から気軽に話を聞くことができるのもイベントの魅力の一つ
「Fの森」がある当別町の道民の森は、以前は牧草地として利用され、その後放棄地となった場所を北海道が買い取ったもの。初年度は木を植えず、植樹を予定している場所を歩きながら森について学ぶことから開始。周囲の自然の植生を考慮しながら植えたい樹種を決めたり、ヒバリが子育てをしているから「ヒバリーヒルズ」、クルミが自生しているから「クルミ平」など区域ごとに特徴を見つけて名前を付けたりと、森に愛着を持ちながら活動を続けてきました。「Fの森」と言う名前も、「復活、ファミリー、フォレスト、ファン(楽しむ)、フレンドリー」の「F」として、メンバーが話し合って付けました。
「木も、植え始めた当初はブロックごとに樹種を分けて植えていましたが、その後より自然の森に近い形にするため、ランダムに植える方式に変更しました。そのように試行錯誤しながら森づくりを進め、メンバーの思いも育ち『10年後にこの森の姿を見なければ』という意欲につながっています」
森と一緒に参加者も育つ森づくりが「Fの森」の特徴です
森を歩き木を植える楽しいイベントから、環境問題へ
ワークショップメンバーが継続的に関わり森づくりを進めるのと同時に、毎年「植樹祭」を行い、公募で集まった200名以上の一般の組合員さんが参加し、大規模な植樹イベントを行ってきました。
「こちらは、『子どもに植樹を体験させたい』などの思いを持った人たちが、誰でも気軽に参加できるイベントです。まず遠足感覚で、楽しみながら環境に興味を持っていただければ」と酒井さん。
しかし、コロナ禍で2020年以降は植樹祭が開催できなくなっていました。今回、私たちが同行させていただいたのは、2年ぶりの植樹イベント。ただ、大人数での開催は見送り、組合員活動委員会の地区委員とワークショップメンバー、事務局スタッフなど40名の小規模の開催となりました。
久しぶりの活動に自然に笑顔がこぼれていた参加した方々もこのように話します。
「これまでずっと参加していましたが、久しぶりに森を歩けてうれしい。当別にこんな場所があるのも参加する前は知らなかったですし、自分では来られない場所ですよね。そこを、専門家の方に先導してもらって歩けるのが楽しいですね」
「コープさっぽろの広報で、木が育たないと海が汚れるため植樹をしているという記事を見て、その後は機会があれば参加しています。自然に触れて体を動かすのも気持ちがいいです!」
まさに酒井さんが言うように、楽しみながら環境を学ぶサイクルができているようです。
イベント参加者のみなさん、とても楽しそうです!
地域の人や団体とつながり、未来の森をつくる活動に
植樹祭は、「Fの森」だけでなく11地区すべてのコープの森で開催してきました。また、全道の11地区では、森づくりに関する地元の施設や団体を訪問し交流する活動も行ってきました。
「植樹活動を10年以上にわたって行ってきましたが、活動が進み多くの地域ではもう植える場所がなくなってきました。次は、どのように森を育てていくかという段階に入ってきています。そういった流れもあり、各地域の団体の中で、組合員さんが共感できるところに参加させていただき、つながりを広げ始めました。地域の団体は高齢化が進み、担い手を探しているところも多く、私たちの活動が力になれればと考えています」
従来の国や市町村による森林計画は、木材の利用を主軸に考えられたもので、北海道でも針葉樹の単一の樹種で構成される人工林が多くなっています。その中で、地域ごとの森づくり団体では生物多様性を重視した自然に近い森を復活させる取組みが多く、組合員さんもそのような活動に共感して連携している傾向が強いと酒井さん。
「これまで組合員活動に取り組んできて、組織の運営力があるからこそ、各地でここまで継続して来られていると思います。森づくりは、50年、100年先のことを考えること。地域の団体とも連携して、継続していくことが大切なんです」
今回、酒井さんからお話を聞いた場所は「トドックエコステーション」という環境学習の拠点的な施設。
お店や宅配センターから排出されたダンボールや発泡スチロール、天ぷら油などの資源を再生させるための施設である「コープさっぽろエコセンター」に併設されています。2017年に、組合員さんや地域の人たちも断熱材を入れる作業に参加するなど協力して建物が作られました。そして、リサイクルや森づくりに関するパネル展示や資料、セミナールームなどの機能を備えて2019年にオープンしました。地区の組合員さんのほか、学校や企業などからも見学のオファーがあるとか。
こちらが江別市にある「トドックエコステーション」
北海道に本当の自然を取り戻すために
酒井さんご自身は、2020年からコープ未来(あした)の森づくり基金を担当しています。札幌出身ですが、大学進学から北海道を離れ、京都大学で電子物理工学を研究していました。以前から抱いていた北海道のために仕事をしたいという思いが実現し、2010年に北海道大学の助教に。そして、2011年に起こった東日本大震災と原発事故を契機にエネルギーに注目し、建物の省エネや木質バイオマスを利用する再エネの研究を進めてきました。
その思いを具体的な社会貢献として体現していくために思い切って方向転換し、2019年にコープさっぽろのエネルギー部門の関連会社である株式会社エネコープに入社。その後、コープ未来(あした)の森づくり基金の事務局長へと就任しました。さらに自身のビジネスとして、自治体などの脱炭素へ向けた計画策定のアドバイザー的な役割も果たしているとか。環境問題に向ける情熱と行動力が、他の人にはないキャリアへとつながり、ここに至っています。
「自然が豊かだと言われる北海道でも、現在は人に切られていない森林はごくわずかしかありません。鮭が戻って来られる川も減り、各地で鮭を呼び戻す活動が増えています。環境は財産。少しずつでも自然の環境を取り戻していかなくてはなりません。同じ思いを持つ人と協力して進めていきたいと思っています。『コープの森』の活動も、まずは組合員さんが楽しみながら森と触れ合い、自然の今の現実をメディアを通して知るのではなく、実際に見て歩いて体験して、気づくきっかけになってくれれば。そして、生き物が生きやすい自然が豊かな北海道をつくる活動になればと思っています」
- コープさっぽろ基金事務局
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