函館と言えば!夜景? 朝市? 五稜郭? 魅力的なコンテンツがいっぱいですね。
しかし!忘れてならないのが海の幸。とりわけ、イカは、函館の代名詞的存在です。
ところが近年、海洋環境の変化などにより、函館近海で獲れるスルメイカは激減の一途。
観光とともに水産を基幹産業とする函館地域に、大きな影響をもたらしています。
一方で、近年獲れだしているのがブリ。
何と、今では全国で1位2位を争うくらいの水揚げ量なのです。
この、魚種の変化に対応し、地域の水産業を守るべく取り組みを始めたのが渡島振興局水産課の皆さんです。
現在その任務を引き継ぎ、取り組みを続ける、水産課漁政係の石毛友里絵さんと、高谷則幸課長にお話を伺いました。
札幌出身の石毛さんは、函館に来て3年目。着任と同時にこの仕事を担当することになりました。
「小さい頃から水族館や動物園が好きでした。そこから環境問題にも感心を持ち、大学進学時に農業か水産業か迷いましたが、家に金魚とかエビとかカニとかが繁殖して何代もいたので(笑)、なじみがあるかなとおもって水産を選びました」
笑顔がとっても素敵な石毛さん
函館がじもとだという高谷課長にも、この仕事を選んだ理由をうかがうと
「自分は、、、やっぱり魚が好きだから、ですね。小さいときから海や釣りは身近でしたから」
やはり、魚好き、海好きが集まるのは必定のようです。
さて、それでは、本題のブリに関する取り組みについてうかがっていきましょう。
実は、石毛さんの手元には資料がびっしり!もちろん取材陣にも資料が配られ、お話を聞く前から、そのアツイ想いが伝わってきます。
なぜ、今、ブリなのか?
まずは、改めてこの取り組みの背景を説明してもらいましょう。
「スルメイカが獲れなくなってくると、水産加工業者さんが原料を確保できない、という問題が出て来ます。もちろん漁業者さんもニーズのあるイカが獲れないのは死活問題です。では、たくさんいるブリを獲って加工すればいいかと言うと、そこも簡単にはいきません。なぜなら、実は北海道で獲れるブリの多くはサイズが小さく、値段が極端に付かないんです。歩留まりが悪く加工にも向きません」と高谷課長。
なるほど。これは一朝一夕では解決できそうもない難問です。
考えつくした結果皆さんの出した答えは、『ブリの付加価値をあげて、どんどんブリを食べる!』という真っ正面からの正攻法でした。
趣味は釣りです!高谷さん
そもそも、北海道ではブリになじみがありません。
実際、都市別のブリ消費量データによると、1位の富山市に比べて、札幌市は1/5、全国平均と比べてもその半分しかブリを食べていないそうです。
「飲食店や、市販のお弁当などで出れば食べるし、美味しいことも知ってるんです。が、食べ慣れていないので、料理方法もあまりわからないから、積極的に食べないですよね。要するに食べる文化がないのです」
文化が無い。確かに。と、いうことは、、、。
皆さんが取り組んでいるのは、単にブリを食べようという取り組みではなく、イカの街にブリ文化を根付かせようという壮大な取り組みなのでした!
取り組みの内容について
平成30年に始まった取り組みですが、具体的な内容をお二人に説明してもらいます。
「最初は、官民連携の『はこだて・ブリ消費拡大推進協議会』を立ち上げ、どういう活動をしていくか方向性を協議しました。
そして最初の2年くらいは、イベントに出て調理したブリを販売したり、加工業者さんに原料やレシピを提供して商品開発を後押ししたりが中心でしたが、令和2年度から、日本財団の『海と日本プロジェクト』と連携し、『ブリフェス』を開催するなど、活動の幅が広がってきています」
連携、というのがひとつキーワードのようですが、それぞれの連携について詳しく聞いてみました。
教育機関との連携
函館水産高校とはR2年度に缶詰を作成。もともとマグロのオイル漬けをつくっていて、レシピがあったので、ブリでもやってみることになったそう。
「味付けに塩と油しか使っていないので、癖もなくとても食べやすいんです。加熱によって臭みも消えるし、小型のブリなので多少足りない脂も補われます」。
ただし、残念ながら現段階では「この缶詰は、商品にはなっていなくて、あくまで試作品」とのことで、
「いろいろなイベントでブリPRのツールとして使っています。これを加工業者さんが製造したり、アレンジしたりして商品として世に出てくれれば」
と、石毛さんたちは期待を寄せます。
実際に、真空パックでやってみたいという加工業者さんや、ネタに使いたいというお寿司やさんからの問い合わせなど、動きが出て来ているのだそう。
石毛さんは
「商売面だけではなく、ブリがいま函館でとれてるよ、なんでとれてるのかな?っていう学びになるので、教育にもつながると思っています」
と続けました。
令和3年度は、七飯町にある酒蔵、箱館醸蔵×水産高校の取り組みも始まりました。
箱館醸蔵さんは、道南に35年ぶりにできた酒蔵で、酒造りの過程でできる酒粕を、地域での商材として活用できないだろうかと考えていました。
積極的に地域に配布してくれていたので、ブリと何かコラボできるのでは?と石毛さんたちが考えたのがきっかけだそう。
水産高校の生徒さんの発想により、できあがったのが酒粕入りブリのフレークでした。
酒粕とブリは相性が良く、どちらの味も癖が残らず、良い感じに調和したそうで、試食報告会でも大好評。
ちなみに、酒粕の入らないプレーンも試作されましたが、酒粕入りの方が味が引き立つと人気を集めました。
石毛さんいわく、
「すでに商品化に前向きな加工業者もあり、これが最も販売に近い商品かもしれません」
期待して待つことにしましょう!
さらに、じもとの調理専門学校とも積極的に連携。
調理実習用にブリを提供するのもそのひとつです。
驚くことに、ブリを提供するだけでなく、何と石毛さんはブリについての授業も担当!
どうして獲れているのか、どれだけ獲れているのか、どう活用できるのか、などを直接生徒さんに伝えているのだそう。
「料理人の卵である生徒さんが、卒業して函館を出て行ったとしても、函館のブリを食材として使って欲しいなと思っています」
高校生の発想による「函館産天然ブリのオイル漬ほぐし身」と酒粕ブリフレーク「故郷の宝」
小学校には「はこだて海の教室実行委員会」との連携で生まれた『ブリたれカツ』を給食として提供も。
もちろん、給食の前には、石毛先生によるブリの学びの時間が設けられます。こども向けに、紙芝居を持って臨むそうです。
ブリについて楽しく学んで、おいしいブリたれカツを食べた子どもたちからは、
「ブリって食べたことなかった!」
「カツにしたらこんなに美味しいんだ!」
という嬉しい声が聞こえたそう。
「こどもがコレを食べたい!っていうときっと家庭でも出してもらえるはずだし、魚を好きになって貰えるきっかけになればいいですね」
石毛さんのブリ愛と熱量に、取材陣もすっかり脱帽です。
「函館ブリリアントアクション提供」
地域団体との連携
海をテーマに活動している「はこだて海の教室実行委員会」とは、『ブリフェス』の共催で連携。この『ブリフェス』とは、「函館エリアにブリのムーブメントを!」を合い言葉に開催されたグルメイベントです。
新ご当地メニューとして考案された「ブリたれカツ」を、参加飲食店がメニューとして提供。道南産のブリを使用することやオリジナルのたれを開発することなど、いくつかの共通ルールのもと、各店ごとの工夫をこらします。
ブリフェスでは、ブリたれカツバーガーも大人気
2年連続で開催されましたが、2年目には参加店が倍増し、お店を訪れる人にも大好評。
飲食店だけではなくスーパーの惣菜コーナーにもブリメニューが並ぶようになったのだそう。
「フェスの期間が終わってもメニューとして定番化したり、食材として一段認知度が上がったのかなと思っています」
と石毛さんも充実の笑顔です。
「函館ブリリアントアクション提供」
「同じような取り組みを、今度は道がイワシをテーマに行っていましたね。こうして取り組みが広がると嬉しいし、同時に、函館のブリフェスが先駆けだったという自負もあります(笑)」。
と、笑顔だった高谷課長ですが、真顔になってこう続けました。
「私たちは、あくまで支援やバックアップする立場なので、こうしたイベントや企画で後押しをすることはできるが、ここから先は各飲食店が独自で行うことになります。例えば、フィレ(切り身)など、使い方に応じた状態のブリを仕入れたいお店に対して、そのニーズに応えられる加工会社が不足しているなど、供給ルートの課題などがあります。こうゆうところも同時に支援していくのが大事だと思っています」
「函館ブリリアントアクション提供」
その他にも、民間企業や行政・試験機関とも数多く連携しながら、コツコツと活動を続けた結果、今では行政の手を離れた独自のブリイベントが開かれたり、ブリメニューが定着するなど、徐々にブリが浸透してきています。
取り組む石毛さんの想い
取り組みについて一生懸命説明してくれる石毛さんに、個人の想いも聞いてみたくて、なにか印象に残っている出来事はありますか?と聞いてみました。すると、「親子地ブリツアーです!」との答えがかえってきました。
地ブリツアー? 聞けば、実際に港に出向き、ブリを獲るところを見たり、ブリをさわったり、味わったりするツアーだそう。
何とも楽しそうで、これ以上ない食育だと思いますが、実施にはきっとたくさんのハードルがあったはず。
「準備期間は半年くらいかけました。実際に触って貰うために、生きたブリを用意しなければならないんですが、シケなどで当日獲れなかったときはどうするのか?とか、コロナのことや天気のこと、、考えなきゃならないことがたくさんありました」
地ブリツアーに参加した子どもたち
でも、そんな苦労も吹き飛ぶ出来事が。
「初日には、紙芝居をつかって、ブリは出世魚なんだよって話をしていたんです。そして次の日に実際にブリをさわってフィールドワークしているときに『あ、昨日紙芝居で聞いた、フクラギサイズだね』って言った子がいたんです。ちゃんと子どもに伝わっている!!伝えるのって大事だし、伝わるのって嬉しいなっていう経験でしたね」
さらに、協力してくれるお魚屋さんさんからは、仕入れて何日か生け簀にいれておくから、もし当日獲れなかったら言ってねって声をかけて頂いたりしたそう。
「大変なこともあるけど、こうした横の繋がりに助けられることも多く、ほんとにありがたいですね」
石毛さん作。「ブリのおはなし」
最後に、スーパーでブリやイナダを見ると、買わずにいられなくなったという石毛さんに、今後やってみたいことを聞いてみました。すると、「網おこし見学会!」という答えが。
網おこしとは、定置網などの魚のかかった網をひきあげることですが、それを専門学生が海上の別の船から見学し、ブリへの思いを深めてもらう、というアイディアだそう。
さらには、「ブリのキャラクターをつくる!」との野望も飛び出しました。
「まずはイラストで作成し、ゆくゆくは着ぐるみもつくりたいですね!」
すかさず高谷課長からは
「着ぐるみ、高いんでない!?」
との突っ込みも入りますが。ブリの着ぐるみが函館の街を歩くところを是非見たいものです。
「ブリを食べる文化が根付くには、やっぱりすぐには無理で、地道にやっていくのが大事なのだと思っています。でもこれができれば、獲れる魚が変わろうとも、『ブリの例があるよね』ってなると思うんです」と高谷課長。
お二人をはじめ皆さんが目指すのは、ブリを通した、環境変化への対応なのかもしれません。
みなさんの住む地域でも、地元の食材に変化があったりしないでしょうか?
食を通して、身近な環境の変化を考えてみる。そんなことも意識させて頂いた取材でした。
- 北海道渡島総合振興局 水産課/高谷則幸さん 石毛友里絵さん
- 住所
北海道函館市美原4丁目6番16号
- 電話
0138-47-9481
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