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まちおこしレポート
上士幌町

全国でもここだけ!デントコーン畑が見えるシェアオフィス20220131

この記事は2022年1月31日に公開した情報です。

全国でもここだけ!デントコーン畑が見えるシェアオフィス

見渡す限り畑・畑・畑。遠くの山には日本最大の高原牧場「ナイタイ高原牧場」が見え、有数の温泉地も抱える北海道上士幌町。航空公園という公園があり、熱気球の町としても全国的に知られていて、年に2回、全国から熱気球好きが集まるバルーンフェスティバルという大きなイベントも開催されています。

雄大な自然に囲まれて、THE北海道!!という景色が広がる中、本当にこんなところに、コワーキングスペースがあるのだろうか?とドキドキしながら、上士幌町内を車で進むこと10分程度。役場のほど近くにありました!「かみしほろシェアOFFICE」です。

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テレワークやリモートワークが進んだこと、そしてフリーランスの方々が増えたことによって、コワーキングスペースやテレワークスペースが全国に増え、旅行先やワーケーション先の選択肢が増えた!という方も多いのではないでしょうか。
「かみしほろシェアOFFICE」も、2020年7月にできたばかりの、上士幌町が管理運営する新しい施設です。

今回は、その新たな選択肢の1つに間違いなく入るであろう、北海道を感じられるとても素敵なコワーキングスペース「かみしほろシェアOFFICE」と、オフィス運営に携わるお二方をご紹介します。

都会と田舎をシェアする場所

「かみしほろシェアOFFICE」のコンセプトは「都会と田舎をシェアする」。近年、いろいろな働き方を選べる人が増えたことにより、「多拠点居住」や、「ワーケーション」など、場所にとらわれない暮らし方や働き方をする人が、以前に比べ全国的に増えてきました。

突然ですが、上士幌町では、「関係人口」という人の地域へ関わり方をとても大事にしているのは、皆さんご存知でしょうか?

「関係人口」とは、その地に定住している人たちや旅行に来る人たちではなく、地域や地域の人たちと交流や関係を持つ人たちのことを指します。ふるさと納税での関わりもそうですし、農業のお手伝いにその土地に何度も足を運ぶことや、仕事をしに繰り返し訪れることも「関係人口」と呼びます。

このスペースは、地域や住民と多様に関わる人である「関係人口」を増やすこと、そして関係人口創出につながる企業を、上士幌町以外から招くことを目的として、2018年から設立計画がスタートし、足掛け2年。2020年にオープンしました。

kamishihoroshare_19.jpgこちらは1Fにあるフリースペース。お好きな時にお好きな席でお仕事ができます

牛のご飯になる「デントコーン畑」が背景にあるコワーキングスペースは、全国探しても、「かみしほろシェアOFFICE」だけなのではないでしょうか。ワクワクしながら建物へお伺いすると、笑顔で出迎えて下さったのが、上士幌町の地域おこし協力隊として「シェアオフィス推進員」をされている、辻彩香さんです。辻さんはどうして地域おこし協力隊として、この地に来ることになったのでしょうか?そして、どのような仕事をされているのでしょうか?早速聞いてみました!

生まれ育った北海道に

辻さんは、札幌生まれ札幌育ち。子どもの頃からデザインが好きだったといいます。高校でもデザインの勉強をしたい!とデザインを学べる学科があった札幌国際情報高校に進みます。高校卒業後、「デザインといえばやっぱり東京でしょ!」と、流行の最先端地への強いあこがれを胸に上京。デザインの専門学校へ進学しました。在学中に学びを進める中で「デザインをして『モノ』を作る人ではなく、作られた『モノ』の中で『どんなことを行うのか』...ハード面よりもソフト面を考える人になりたい」という風に思うようになったといいます。

東京や専門学校でさらに自分の未来の方向性を見出し、学びを深めるため、武蔵野美術大学に3年次編入で入学。芸術文化学科で2年間、アートやデザインを社会に伝えていくためにはどういうことをしていくのかを勉強したといいます。社会にデザインを伝えること、社会でデザインを生かしていくことを考えていた彼女が、新卒でまちづくり会社に入社したのは、学生時代に見つけた夢を叶えた瞬間でもありました。

新卒で東京郊外のまちづくり会社に入社後は、行政と一緒に大学の中にカフェを作って運営したり、シェアオフィスやシェアキッチンを企画して運営するなど、街を盛り上げる仕組みを考え、実際の現場に入り込み、地域の人々との接点を大事にしながら、まちづくりの業務に関わられていたそうです。辻さんは東京での生活を「こんな世界があったんだ!ってぐらい楽しかった」と笑顔で振り返ります。

kamishihoroshare_23.JPG道の駅で販売されている、上士幌町産大豆ハヤヒカリ100%で表現したノンカフェイン珈琲

しかしながら、仕事を始めて3年目を過ぎたあたりに、「東京も好きだけど、生まれ育った北海道に戻ってまちづくりに関わりたい」とぼんやり思うようになったというのです。
何か大きなきっかけが特段あったわけでも、東京での仕事や生活に不満があったという訳では決してなく、自分のこれからの人生を考えた時に、どう生きていきたいんだろうか?と自問自答したそうです。「一度東京を離れ、実家がある札幌に帰ってゆっくり考えよう」と、仕事を辞め札幌に帰ってきたのは2020年のことです。

昨年は新型コロナウィルスの影響で、みなさんも多くのことが変わった1年だったと思います。働き方や、暮らし方も変化させざるを得ない状況だった中で、辻さんのように、自分のこれからの生き方や暮らし方について、考えられた方も多かったのではないでしょうか。

札幌に戻った後は、札幌はもちろん、北海道内全域にも目を向けて転職活動をされたそうです。ベンチャー企業がずらりと並ぶ、少しニッチな求人サイトをご覧になっていたそうですが、そこに掲載されていたのが「地域おこし協力隊」の求人。ちょっと異色な上士幌町の求人に目が留まり、「なんか、おもしろそう!」と、輝いて見えたそうです。そして、よくよく内容をチェックしてみると、その地域おこし協力隊の主な任務は、まさに探していた、地域施設を運営する仕事...「シェアオフィスの運営」という運命の出会いだったのでした。

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民間企業での転職も考え活動していましたが、2020年は新型コロナウィルスの先行きの見えない影響で採用を止める会社も多く、応募をしたとしても「いつもだったら採用したいけど、ちょっと今は」と断られることもあったそうでした。

そんな状況もあるなかでの上士幌町との出会い。「この仕事だったら前職の経験が活かせそうだし、まちづくりも今までは民間側から行政と一緒に行なっていたものが、逆の立場の行政側として民間企業と一緒に行えるようになることで、まちづくりについてより勉強ができるはず!」という思いで応募をし、無事合格。一念を発起して上士幌町に移住し、地域おこし協力隊員になったのは、2020年7月のことです。

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人が交わる拠点で生み出す価値

転職と共に移住してから1年経った今、「いろんな仕事に関わらせてもらっているんです」と辻さんは言います。主となるシェアオフィスの管理や予約の受付、問い合わせ対応などの日々のシェアオフィスの運営業務を担当しながら、シェアオフィスを起点とした他のプロジェクトにも多く関わるというのです。

「縁ハンスPROJECT」は辻さんが関わるプロジェクトの一つです。上士幌町の生産者と上士幌町ではない土地に住むビジネスパーソンの協働を生み出すことを目的としたプロジェクトで、彼女はコーディネーターとしての役割も果たしています。

ワーケーションや出張となると、自分の仕事をホテルやコワーキングスペースで行う人も多いのではないでしょうか。そうなると、なかなか地域の人とのつながりを作ることはできません。そこで、上士幌町が目をつけたのが地元事業者とビジネスパーソンとのビジネスマッチングとサポートでした。

これまでに5件の事業者から、応募があったという縁ハンスPROJECT。順調に行っているかのようにも見えますが、辻さんは課題もあると感じていると言います。

kamishihoroshare_7.JPG辻さんは現役隊員ですが、上士幌町では、地域おこし協力隊を任期終了後、多くの方が定住の道を選択しています。

「上士幌町の生産者さんは、牛乳にしろ農作物にしろ農協さんに持っていくことで、一定水準の所得を得ることができているんです。そのような現状ですので、6次産業化などの新たなチャレンジを始めませんか? とご提案しても、町の人たちに『そうだね!』と簡単に思ってもらえる状況ではありません。困っていないのですから、その通りですよね。ですので今後は、説明会をやってみたり、このプロジェクトに関連したイベントを多くやってみようと思ってるんです。ビジネスとか収入のためにだけじゃなくって『楽しさ』とか『みんなで』みたいなところを町の多くの人にも体感してもらいたいんです。そのために、まだまだやれることが沢山あると思っているんです」

辻さんは、縁ハンスPROJECT以外にも、ワーケーションに興味がある人たちの界隈でものすごく話題になった「無印良品の家によるワーケーション施設」の企画担当もしているそうで、「いつのまにか担当がいっぱいになっちゃいました」と笑顔で仕事について教えてくれました。

kamishihoroshare_1.jpg窓の外には一面のデントコーン畑

ICT担当として見据える未来。

さて、続いて町役場に移動してお話をうかがうのは「かみしほろシェアOFFICE」を運営している企画財政課ICT推進室主事の鈴木勇汰さん。なぜ、町役場のICT推進室がシェアオフィスの企画運営をされているのでしょうか?

鈴木さんは、芽室町出身。大学は札幌に進学しますが「やっぱり十勝が好きで、十勝で働きたい」という想いのもと、新卒で上士幌町の役場職員に入職されました。入職時は、ふるさと納税担当だったといいます。当時から、ドローンコンテストの企画運営や、自動運転の実証実験などICTに関連した事業を担当してきたそうです。町として「ICT関連事業」に腰を据えてしっかりと行っていこうという方針から、2020年にICT推進室設立と同時に担当に着任したそうです。

kamishihoroshare_8.JPGこちらが鈴木勇汰さん

ふるさと納税だけではなく、その他にも先進的な取り組みが多い上士幌町。無人トラクターの運行試験や、ドローンでの測量などのスマート農業にもいち早く着手しています。このようなICTを活用した事業も、今までは個別の課で企画し行っていたと言います。ICT推進室ができたことで、そのような町役場主体で行うICT関連事業の情報の取りまとめを行ったり、町民へ情報発信をしていくことで、町全体としてICT活用の場面を増やしていくことが、部門の役割として求められているといいます。

「各課から、『こういうことやりたいんだけど、いい方法があるかなぁ』という相談を受けたり、私たちから逆提案をすることもあります」

提案を待つだけではなく、ICTを活用してどんな事ができるかというアイディアの提供をしていくとなると、調整する力や新しい情報を常に収集する力が必要な部署。
昨年立ち上がった部門ではあるものの、すでに1つ町民課からのアイディアでアプリを作ったと事例を見せてくれました。それが「ごみ分別のアプリ」です。ごみの分別っていつ何を捨てればよいのか、どのように捨てるのが適切なのか、なかなか覚えていられないですよね。「ICTを活用して町民の生活をより便利にしていくということが、この部署のミッション」と鈴木さんはいいます。そんなICT推進室が、どうして、シェアオフィスの企画運営を行うことになったのでしょうか?理由を聞きました。

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「行政のICT推進室みたいな課が、シェアオフィスの担当を担っているところはあまりないかもしれないですね。私たちの部署では町外からの企業誘致の担当をしているので、誘致場所を設けるという趣旨でシェアオフィスの担当になっているんです」

企業を誘致しようにも、上士幌町にはオフィスが複数入居できるようなオフィスビルは建っていません。上士幌町へ支店やサテライトオフィスを出そうとしている企業に「土地を買ってビルを建てるところから始めてくださいね」とはなかなか言えないですよね。そういった意味でもシェアオフィスを町が持ち運営するというのは、とても大事なことなのかも知れません。

昨年度の会員企業は8社、今期、新しく3社増え、現在11社が年間契約しているといいます。年間の契約金額は10万円と、とてもお手頃価格。むしろ安すぎませんか・・・と言いたくなる金額です。実はこの料金設定にもこんな思いが込められていました。

「上士幌町と何らかの繋がりを持つことを目的に、会員となってくださる会社をターゲットにしている価格設定なんです。段階を踏んで最終的には企業そのものが上士幌町に来てくれたり、拠点が出来たりしたら良いと思っています」と、企業誘致への意欲をのぞかせました。

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豊かな自然だけ、働く場所だけ揃う場所は全国に数多くあるかも知れません。
しかしながら上士幌町のように、「人とつなげる」「地域をつなげる」というところまで、整備し、実際にサポートしている市町村はまだまだ少ないのではないでしょうか。「ワーケーション」という言葉は、ワークとバケーションの組み合わせからできていますが、上士幌町の場合は、「コミュニケーション」も一緒に入っているようです。観光にきてもらうだけでなく、町民に触れあって! 同じタイミングできている訪問者同士の横のつながりもつくって! そんな仕掛けが箱物にも運営をする人々の想いにも感じます。

上士幌町がこれから先、人と人との化学反応でどのような好作用を生み出していくのか。

先進的な取り組みをしている上士幌町でも、「ワーケーション」の定義がかっちりと定まっているわけではなく、まだまだニーズや時代に合わせてフレキシブルに利用者のみなさんとつくっていこうとしている状態。全国の企業や個人事業主のみなさん! テレワークができるみなさん! 「こんなこと実現できるかな?」という新しい仕事の仕方と遊び、そして北海道で体験してみたいことをぜひ問い合わせてみてください。きっと、旅行ツアーとは違ったことを、町のみなさんが喜んで一緒に考えてくれると思います。

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かみしほろシェアOFFICE
かみしほろシェアOFFICE
住所

北海道河東郡上士幌町字上士幌東3線247番地4

電話

01564-7-7550

URL

https://www.kamishihoro.work/

営業時間:9:00〜18:00(年末年始12月31日~1月5日は休館)


全国でもここだけ!デントコーン畑が見えるシェアオフィス

この記事は2021年9月15日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。