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まちおこしレポート
江別市

家族を大切にできる暮らし、まちの人の目線に立つ仕事。20211101

この記事は2021年11月1日に公開した情報です。

家族を大切にできる暮らし、まちの人の目線に立つ仕事。

江別市内の住宅街と田園地帯の間、遠くまで広がる景観と抜ける風が気持ちいい場所に、ログハウス専門の建築会社「BESS」のモデルハウス群があります。ここに、江別市の地域おこし協力隊の丹治和仁さんがいるとのこと。さっそく伺ってみました。

家族を大切にする働き方を模索

BESSさんと地域おこし協力隊の関係はさておき、丹治さんの現在に至る経緯を聞いてみました。2019年4月から江別市の地域おこし協力隊になった丹治さん。建築士として注文住宅の設計をする会社、イベントの設計をする会社を経て、現職に至ります。


江別市地域おこし協力隊に就任する前年は、ちょうど一人目の子どもがもうすぐ生まれるというタイミング。初めての出産に不安もあったため、奥さんの地元である江別や近郊で仕事を探すことにしました。前職では夫婦ともに昼夜逆転で、すれ違いの生活。ひどい時は週1回しか会えない時もあったといいます。

「建築業界は好きですが、これまで働いてきた中で、時間や収入面で厳しい側面もありました。子どもができた時にこれではいけないと、家族を大切にする働き方を模索しました」

副業としてインターネットのアフィリエイト広告でも収入を得ていた丹治さん。その頃の運営状況から起業も考えていたといいます。

「この時は、その後のことを決断したり準備する時間が欲しいと考えていたので、期限がある仕事がいいと思い、派遣社員や契約社員の仕事を探していました。すると、妻の母が地元の情報誌で、地域おこし協力隊の求人情報を見つけてくれたんです。3年の任期がある協力隊に応募してみることにしました」

tanji12.JPG丹治さんと、市役所の同じ部署の方々。左が坂さん、右が須藤さんです。

長年住んだまちに住み続けられるようサポート

その時、採用された3人のうち一人が丹治さんでした。担当は、建築士の経験も活かせると考え定住相談を選択。


「市内に住む高齢の方は、一人住まいになってしまうと暮らしに不安を感じ、デイサービスや老人ホームが充実している札幌に移ってしまいます。でも、本当は住み慣れた江別を離れたくはない人も多いんです。そこで例えば住居の改修などの方法を模索して不安を解消し、安心して住み続けられるようにサポートしています」

窓口に訪れた高齢者から話を聞き、市役所で解決できる課題については、担当の各部署につなぎます。そういった具体的な課題がある人だけでなく、一人になった不安をどうしていいか分からないという人も多いとか。窓口で聞く話の8割ほどは世間話だといいますが、丹治さんは根気強く向き合っています。

tanji2.JPG丹治さんの優しい雰囲気がまた相談しやすい状況をつくってくれているような気がします。

「このような仕事は初めてで、最初は不安でした。いろいろな人が来るので、どんな質問がくるかドキドキしていましたね。どの部署につなげばいいかわからない時は、常に上司に聞いていました。最初はそんな感じでしたが、同時に一生懸命に話を聞くと、『次の一歩が見つかった』と喜んでもらえることにホッとしました。自分も勇気をもらいましたね」

また、コロナ禍で移住希望者の説明会などが開けない今は、オンラインで全国の人から、移住に関する相談を受け付けています。

「江別ってどんなまち?北海道に来たら生活はどう変わるの?という質問から、補助金に関することまで答えています。江別で楽しめる場所や、子育ての実感は、役所の担当者としてというより、個人的に感じたことを率直に話しています」

自らの提案で、問題解決のための情報発信

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さらに、定住相談と問題解決から派生して、自ら提案して始めた業務もあります。発端は、初年度にお祭りの手伝いに行った時のこと。江別には大学が複数あるため、大学生がボランティアとして参加していました。

「学生と話すと、『江別には何もない』と口々に言うのです。私も以前はそう思っていましたが、地域おこし協力隊になっていろいろなところで話を聞くと、結構いろいろなところがあると分かりました。学生に情報が届いていないと痛切に感じ、届けられるものを作りたいと思ったのです」

丹治さんは後日大学生を集めて、江別にあるスポットについてプレゼン。その中から、学生が行ってみたい場所をピックアップしてもらい、打合せを重ねて取材に一緒に行き、パンフレットを作りました。

「友人と遊びに行くところ、勉強ができるところ、デートスポット、アクティブに楽しめるところ、エモい写真が撮れるところなどを選定しました。若者に流行っている『エモい』も知らなくてからかわれましたけどね(笑)」

定住担当は窓口対応が主体なので活動予算がなく、それでもどうしても作りたいと思った丹治さん。自分でイラストレータのソフトを持参して作成し、「何とかなる」と思いましたが、最後の壁は印刷費でした。「そこで上司が掛け合ってくれて、どうにか完成させることができました」

tanji3.JPGこちらがこれまで丹治さんが制作してきた冊子

新型コロナで苦境に立つ飲食店、建築業者を支援

完成したパンフレットの評判が良く、活動が認められ翌年からは晴れて予算が付けられました。ところが、新型コロナウイルスの流行が始まり、慎重に動かざるを得ない状況に。

「その時、市民の中で活動的な方が、テイクアウトができる飲食店をまとめたウェブサイトを作ってくれました。しかし、感染拡大が長期化すると、情報の更新が追いつかなくなっていました。そこが私の出番だと思い、その方々がやってくれたことを引き継ぎ、冊子にまとめようと思いました」

飲食店側も試行錯誤しながらテイクアウトに取り組んでいるため、価格等の情報が変わっていたところを再度聞き出し、情報のスピード感も大事に急ピッチで作成し、役所内で印刷まで進めました。
そこに掲載し切れなかったところなど、辛いものを提供する店を集めて「江別激辛倶楽部」のリーフレットも作成。コロナ禍で苦境に立つ飲食店を支えようと、SNSなどでもPRしました。

最終年度となる2021年度は、同じくコロナ禍で資材などが滞り苦心する建築業界にスポットを当てました。ここは、建築士として前職で活躍した丹治さんの腕の見せどころ。そして、同年に地域おこし協力隊に着任し、同じく前職は建築士の安達みゆきさんにも登場してもらい、市内で住宅を設計する事業者を紹介するリーフレットを作りました。

tanji6.JPG左が安達みゆきさんです。
各事業者の紹介と、建築士からの切り口で説得力のある形で魅力を紹介。さらに、家を建てる前に考えておくべきことを、「建築士が教えるポイント」として掲載しています。

tanji4.JPGこちらが制作中のその冊子。

「今回は、市内でアクティブにSNSで情報発信している事業者さんを紹介しました。ログハウス専門のBESSさんも、この仕事で仲良くなり今日の撮影場所を提供していただきました。リーフレットでお洒落な建物を紹介し、江別にもこんな会社があるんだと思ってもらえたらと。これから家を建てる方が後悔しないよう参考にしてもらうのはもちろん、もう建てた方にも、イベントなどに気軽に訪ねられるということを知ってもらいたいですね」

tanji10.JPGこちらがログハウスのBESSさん。子どもたちがわくわくするような仕掛けがたくさんあります。

暮らしやすく、働きやすい環境を模索

最終年度となれば、気になるのは卒業後のことです。奥さんが仕事で忙しくなった分は丹治さんが家事や育児を担当して回しているとか。現在は融通がきく働き方なのでそれができていますが、次の仕事によっては奥さんが働き方を変えて、どちらがどれだけ譲るかを話し合うといいます。「妻の地元でもありますし、子育てもしやすい環境。できれば江別に残りたいですね」


お子さんは、取材当時2歳半と8カ月。可愛くも手がかかる盛りです。そんな中、「江別は病院や保育所などの施設が多くとても充実しています。子どもを通わせている保育所もとても安心して預けられるところです」
市内に多数ある直売所で買う野菜もおいしく、子どもも喜んで食べてくれるといいます。

卒業前にしておきたいことの一つが、「次に入る人が活動しやすくすること」だと丹治さん。丹治さんたちは江別市の地域おこし協力隊の2代目で、役所内でもまだ試行錯誤が続いている途中でした。

「地域おこし協力隊も、行政の立場である以上、それ相応の行動と振る舞いを最低限守る必要があります。市内の業者さんなど外の人とつながったり、何かを企画することができますが、役所内でも理解を得られないといけません。そこに所属部署の上司なども尽力してくれ、できるだけ自由な活動ができるようにやり方を整理していきました。
その積み上げたものを引き継いで、活用して欲しいと思っています」

tanji9.JPG同じ部署で頑張る方々と和気あいあいとした一枚。

家族を大切にする自らのライフスタイルを確立しつつ、まちの人の声を大切にし、地域おこし協力隊でも独自の仕事を提案し切り拓いていった丹治さん。開けてくれた風穴は、今後も江別で爽やかな風を吹かせ続けてくれそうです。

tanji.JPGBESSさんにいる恐竜のモニュメントとともに爽やかな笑顔を見せてくれる丹治さんでした。

江別市 地域おこし協力隊 丹治和仁さん
住所

北海道江別市高砂町6番地

電話

011-381-1064


家族を大切にできる暮らし、まちの人の目線に立つ仕事。

この記事は2021年8月3日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。