これまでくらしごとではNPOや協議会など、北海道で活動する様々な民間団体を取材させていただいてきました。そうした団体の多くは、北海道や地域のため、何より「まちを元気にしたい」という情熱を持って活動されていました。商品開発、観光資源の開拓、商店街の活性化、宿泊施設の設備など、ここでは挙げきれないほどですが、実は、そんな民間団体の活動を陰で支える組織がある、ということはあまり知られていないのではないでしょうか?
今回取材に伺ったのは、そうした民間団体の支援を行っている公益財団法人はまなす財団です。お話を聞かせてくださったのは、大関太一さんと眞田雄樹さんのお二人。平成生まれのお二人が、昭和という時代に設立された、このはまなす財団についての概要からまずは説明してくださいました。
左が大関太一さん、右が眞田雄樹さんです。
北海道経済の衰退を救うために
「昭和63年、エネルギー転換による石炭産業の衰退で低迷していた北海道の経済社会の活性化のために設立されました。当時は、財団法人北海道地域総合振興機構という名称だったのですが、英語で表記した際の頭文字を取り、当時から通称はまなす財団と呼ばれておりました。その後、平成18年の公益法人制度改革があり、平成23年に現在の公益財団法人はまなす財団として再出発いたしました」
このように設立についてお話をしてくださったのは、大関さんです。
石炭産業の衰退により離職を余儀なくされた労働者の数は著しいもので、それらが北海道経済に与える影響も容易に想像できます。そうした状況に対し、北海道の経済活性化を目的として歩んできた、はまなす財団。つづけて現在の主な活動についても教えてくださいました。
「平成25年にスタートした『地域づくり活動発掘・支援事業』という事業が私たちの活動の軸となっています。これまでにおよそ50団体ほどの支援を行って参りました」
この「地域づくり活動発掘・支援事業」こそが、冒頭でお伝えした民間団体の活動を陰で支える正体でした。この事業は、地域づくりを行う活動団体を広く公募し、審査委員会を経て、採択された団体に対し、はまなす財団から各種支援を行うという事業です。一言で支援といってもその内容は様々で、活動計画に対するアドバイス、専門家の紹介・派遣、他の支援制度や助成金などの紹介、活動資金(上限100万円)の提供など、とても充実した内容となっています。さらにこの事業は、期間が年度毎の1年単位ではなく、3~5年間という中長期に渡っており、年度に縛られることがないというのが、成果へ結びつけやすい大事なポイントになっています。
左にいらっしゃるのは、部長の小倉龍生さん。小倉さんもこれまで数々のプロジェクトを支えてきたお一人です。
こんなにたくさんの支援を受けられるとあっては、応募はものすごい数になるのではないでしょうか?
「年に1回、公募を実施しているのですが、開始した当初は50件以上の応募があったそうです。現在ではおよそ20件程の応募をいただきます。その中から、年によって変動するのですが、毎年5~10件が採択となっております」と、このように教えてくれたのは、眞田さんです。
もう一つ気になるのは、採択におけるポイントです。何か選定の基準などはあるのか、引き続き、眞田さんに聞いてみました。
「私たちが大切にしているポイントは『その地域のためになるか』『自走・持続性があるか』という点です。ご応募いただいた団体が活動している地域へ実際に伺ってヒアリングを行い、こうしたポイントと照らし合わせて選考させていただいております」
年度をまたいでの支援、さらに自走・持続性といったポイント、これらは地域が元気になり、活性化の道を歩むとても大事な要素ではないでしょうか。
それでは次に、実際のこの制度による支援プロジェクトについて、例を挙げて教えていただきたいと思います。
現在は理事長を含め7名で活動されている、はまなす財団です。
支援プロジェクトをご紹介します
●利尻町/NPO法人利尻ふる里・島づくりセンター
<団体概要>
NPO法人利尻ふる里・島づくりセンターは、2007年から活動しており、地域の資源を発掘し、文化芸術・海産物・観光資源の高付加価値化、地域経済の活性化、また、地域住民との連携や新たな産業創出により雇用の増大を図っています。
利尻ふる里・島づくりセンターを担当しているのは大関さんです。
「ご存じの方も多いかと思いますが、利尻町は北海道の北に位置する利尻島にあります。利尻島ではこれまで家庭菜園レベルでしか農業生産を行っておらず、さらに離島という環境故に全てフェリーで運ばれた島外産の野菜を購入しており、漁業で稼いだお金が地域外に流出していました。そこで、利尻ふる里・島づくりセンターでは、耕作放棄地で野菜を生産し、島内で新鮮な野菜を販売することを計画しています」
これがうまくいけば、新鮮で安価な野菜を島民の方に届けられることはもちろん、島外へのお金の流出も防ぐことができるのです。ただ、もちろんそう簡単にはいかない、乗り越えるべき壁も存在します。それは、新しいことに取り組むためには必要となる「人」と「お金」です。
「この事業を担う労働力(人)、賃金(お金)の確保が非常に難しいという課題があります。そこで私たちにご相談をいただき、アドバイスなどのサポートをさせていただいています。まだ決まっている訳ではありませんが、地域おこし企業人(※)の制度の活用などもご提案差し上げているところです」
(※)総務省が地方圏への人の流れを創出することを目指して2014年度にスタート。地方自治体が民間企業などに勤める社員を、半年以上3年以内の期間、継続して受け入れることができる仕組み。
利尻町沓形市街にある「利尻 島の駅」。ここが利尻ふる里・島づくりセンターの拠点です。●えりも町/えりも観光協会
<団体概要>
1964年、えりも町内の事業者が観光客の増加を受けて設立。近年、観光振興の機運が高まり、多様化する観光客のニーズに応えるとともに、観光によるまちづくりを目指した活動を展開しています。
えりも観光協会を担当しているのは眞田さんです。
「えりも町は、歌でも有名な『襟裳岬』がある、日高管内の南に位置する町です。えりも観光協会は、これまで関係機関と連携しながら観光によるまちづくりを目指して様々な活動を展開しており、2018年には地元の漁協や漁業者などと協力して、襟裳岬の周辺の海をコンブ漁船で周遊する『コンブボート・クルーズ』をスタートし、好評を得ているところです。そこでさらなる観光資源の磨き上げや、環境を意識した観光地域づくりへの取り組みをサポートさせていただいております」
こちらは先ほどの利尻町のプロジェクトとは異なり、既にある資源のさらなるステップアップ事業です。実はコンブボート・クルーズは観光客からコンブ漁船に乗ってみたいという声から生まれ、えりも町のコンブ漁師さんが自前のコンブ漁船を使って運航しています。クルーズでは、襟裳岬周辺に生息するアザラシやオオワシが間近に見られるのも魅力の一つなんだそうです。
「世界的な問題としても取り上げられますが、プラスチックをはじめとした海洋ゴミはえりも町の海岸ですら確認することができます。こうしたゴミの回収への取り組みや世界的な環境問題を「観光」というツールを使って多くの方に伝えたいと考えています。その取り組みは、観光の磨き上げの可能性もあり、そのためのPRや機材整備、観光協会の事業計画の策定についてもサポートをさせていただいているところです」
沖から眺める襟裳岬は観光客にも大評判です。このように2つのプロジェクトを例に挙げ、はまなす財団の「地域づくり活動発掘・支援事業」を具体的に教えてくださいました。この事業として、これまでもたくさんの団体のサポートを行ってきていますが、観光協会やNPO団体からのご相談は多いのだそうです。これまでのノウハウも活かしながら、資金面だけはなく、多岐に渡るサポートを行うはまなす財団はプロジェクトのコーディネーターでもあるのですね。
それぞれの歩みの先で繋がった縁
こうしてプロジェクトを陰で支える大関さんと眞田さん。実はご紹介したそれぞれ2つのプロジェクトとは、ある縁で繋がっていました。お二人のこれまでの歩みとその繋がりについてもご紹介いたします。
まず大関さんは千葉県のご出身で、地元の銀行で勤めた後、利尻町の地域おこし協力隊として活躍されていたそうです。
「バイク旅行で北海道へよく来ていたこともあって、北海道で働きたいなと考え始めていた時、利尻町の地域おこし協力隊の募集を見つけたんです。それで移住を決めて、2年間ほど勤務した後、先ほども話にありました『NPO法人利尻ふる里・島づくりセンター』で勤務することになりました。実はその時には、はまなす財団に支援してもらう側だったんです(笑)」
その後は、離島の情報発信の拠点として、飲食店型の「離島百貨店」「離島キッチン」の運営をしている株式会社離島キッチンが札幌に店舗をオープンするタイミングで、札幌店の店長として出向という形で勤務した後、なんとこの株式会社離島キッチンの雇われ社長として従事されていたそうです。なんとも濃い20代を過ごされていたことでしょう!元々、はまなす財団と接点があったこともあり、現在は支援をする側としてご活躍されているのでした。
大関さんは現在、中小企業診断士の資格取得に向けて励んでいるそうです!
次に眞田さんは、札幌市のご出身で、大学では情報工学を専攻していたそうです。その流れでIT系企業へ就職かと思いきや、大手スーパーに就職。そこでは魚を捌く毎日だったんだとか。
「結局、1年ほど勤務した後、やっぱりIT系がいいなって思って、SEになり直したんですけどね(笑)。それからは札幌でネットワークやサーバーといったソリューション系の業界で約6年従事した後、実は10日前にはまなす財団へ転職したんです」
10日前とは驚きました!でも、どうしてIT系とはまた全然異なる業界への転職をされたのでしょうか?
「偶然ですが、私もバイク乗りでして、いろんなところに出かけては、その土地ならではのお店などを巡るのが好きだったんです。ある時、えりも観光協会のTwitterで、はまなす財団が求人を出していることを知って、そこで思い切って応募してみたんです。自分でもびっくりなんですが採用となりました」
この時、まさかご自身がえりも観光協会の支援をする立場になるとは思ってもみなかったことでしょう。まだスタートしたばかりなのにも関わらず、もうすっかり、はまなす財団の一員としてご活躍されている様子です。
このように縁とは不思議なもので、お二人ともそれぞれの地域と繋がっていったのでした。
これまでのITの経験も活かせるように頑張りたいと眞田さんは言います。
大事なことは、そこで取り組む人たち
はまなす財団では、今回ご紹介したプロジェクト以外も、北海道の各地でたくさんの支援プロジェクトがあります。(はまなす財団HPで支援先をご覧いただけます)また、こうした支援活動をさらに発展させるために、国や地方公共団体の事業の活用も行っています。
「JICA(国際協力機構/ジャイカ)研修、地域ブランド創出支援事業などといった、受託事業も行っています。ただこうした受託事業は、私たちの軸となる『地域づくり活動発掘・支援事業』の支援に結びつけられるような事業をピックアップするように心がけています」と話すのは大関さんです。
今回の取材では「北海道の活性化」それを支えるはまなす財団は、自身の活動をハブとして、点ではない北海道を面で支える団体であることが分かりました。
最後に、大関さん、眞田さんは口を揃えてこう言います。
「あくまでも私たちは支援をしている組織なんです。北海道各地でその地域のため、人のために、何かしなくてはと、取り組まれている方たちがいらっしゃるということ。大事なのは、その方たちの情熱と活動、そのものなんです」
- 公益財団法人はまなす財団
- 住所
北海道札幌市中央区北5条西6丁目2-2 札幌センタービル15階
- 電話
011-205-5011
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