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まちおこしレポート
上士幌町

まちに稼ぐ力をもらたらす観光地域商社、㈱karch20210524

まちに稼ぐ力をもらたらす観光地域商社、㈱karch

十勝北部に位置し、酪農・農業・林業といった一次産業や、ぬかびら源泉郷、北海道遺産旧国鉄士幌線コンクリートアーチ橋梁群などを中心とした観光業も盛んなまち、上士幌町。
北海道の多くの市町村がそうであるように、産業の推移と共に、札幌圏・首都圏への人口流出が続き、ピーク時は13,000人だった人口は2015年には4,886人と半分以下に減少しました。しかし、ここからの巻き返しがすごいのが上士幌町。こうした人口減少に歯止めをかけるべく、認定こども園の利用料の無料化をはじめとした子育て・教育の充実化、移住・定住に関する専門窓口の設置や住宅に関するサポートなど、さまざまな地域活性に力を入れた結果、人口減少の歯止め、そして人口増加の結果に繋がり、2018年には人口5,000人に回復しました。

こうしたなか、2019年6月には日本一広い公共牧場・ナイタイ高原牧場の頂上に「ナイタイテラス」がオープン、さらに2020年6月には「道の駅かみしほろ」がオープンと、ここ数年で観光拠点の整備も急速に充実しているこのまちの、これら2つの拠点施設の運営を担うのが、「株式会社karch(カーチ)」(以下、カーチ)という名の観光地域商社です。

観光だけにとどまらず、「地域に稼ぐ力」をもたらすというミッションを担うため2018年に設立された第三セクター(地方公共団体と民間が合同で出資・経営する企業)であるカーチ。この地域観光商社の役割、そして気になるキーワードである「稼ぐ力」について、事業統括部長である中田将雅さんにお話を伺いました。

自分たちで運営し自分たちで売り込んでいく

中田さんは帯広市出身。神奈川県にある横浜商科大学に進学するも、横浜に住み続けることは考えられず十勝で就職活動をしていました。そうして十勝の民間企業への内定が決まっていたさなか、ご縁があって一転、上士幌町役場へ新卒入社することに。役場では教育委員会や税務課、企画課などさまざまな課を経験し商工観光課へ配属となったことをきっかけに観光拠点=道の駅の計画づくりに携わることとなります。

karch_0917_7.jpg大学時代は、税理士や会計事務所に入ってやるような数字ばかり追いかけることが多かったんだそう。

「2015年10月、元々ナイタイテラスの場所にあった施設が強風により全壊してしまいまして。この頃から、ナイタイテラスや道の駅の構想が議論され始めたのですが、一方でふるさと納税や子育て、ICTといった取り組みが軌道に乗ってきたことも重なって、国土交通省の『重点道の駅候補』に選定されたのをきっかけに、一気に構想から現実化へと向かったんです。そのときに新たな議論として挙がったのが『まちの思いを反映する運営』をしていくためにはどうしたらいいのか?ということでした」

せっかく新しく道の駅をつくるのに、知らない民間の企業に運営を任せていては「まちの思いを反映する運営」はできない。そう感じた中田さんは、自分たちで運営し売り込んでいくためにも、「株式会社」という立ち位置が必要だと判断し観光地域商社「株式会社karch(カーチ)」設立へと動き出しますが、その背景にはもうひとつ、苦い経験がありました。

「商工観光課に在籍していたときに、『ひがし大雪自然館』ができたのですが、ここを博物館ではなく観光インフォメーションセンターにするということと共に、観光協会を法人化するというミッションを与えられたんです。それを遂行させるために3年間、糠平で法人化を目指しましたが結局できなかったんです」

この挫折を味わった過去の経験から中途半端な法人化はムリだと確信していた中田さんは、本気で道の駅をやろうと、町民を引き連れて全国の道の駅を廻ったり、上士幌町や十勝全体の道の駅の状況を調べ、まちの思いを反映することはさることながら「稼げる道の駅」を目指し奮闘します。

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「長野県で魅力的なオリジナル商品を数々と生み出している企業の社長さんから地元の特産を活かした商品開発の仕方を学んだり、視察で訪れた高知県四万十の道の駅では、道の駅を拠点としながらも特産の栗を使ったケーキなどを高島屋や銀座で販売したりと日本中に積極的に売り込んでいく営業姿勢を学ばせてもらいながら、上士幌町の道の駅としてどう稼げるかということの構想を練りました」

上士幌町でしかできない体験を

道の駅というと、「産直の野菜」がイメージ。それで地域活性化がなされているいくつかの事例もありますが、農協を通せばそれなりの収入になる十勝地域では道の駅でわざわざ小売をしたがる農家さんたちは数少ないんだそう。

そうとなれば、上士幌町で野菜を売るだけの道の駅はなかなか難しいと思った中田さんは、「ここが旅の目的地」をコンセプトに、上士幌町の自然を満喫できるレンタサイクルや熱気球搭乗をはじめ、某有名レストランやホテルで料理長やシニアソムリエなどを経験してきた方にきてもらい、特別な日に利用してもらえるようなレストランを併設。駅内のショップでは贈答品としてもつかえるような魅力的なスイーツや、パッケージにも拘った商品を展開しながらも、同時に町民の方にも日常づかいしてもらえるような美味しいパンや牛乳なども取り揃え、訪れた人にも地元の人にも楽しんでもらいながら、ここ、上士幌町でしかできない体験を提供する道の駅を創り出すことにしました。

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一方、カーチが運営するもうひとつの観光拠点ナイタイテラスは、日本一広い公共牧場の頂上に建つというロケーションを主役にするため、施設内は床材から天井までダークトーンで統一。並べられたカウンター席に座ると、まるでシアタールームにいるような雰囲気の中で十勝平野の壮大な景色を楽しむことができます。外でピクニック気分を味わえるようなメニューも取り揃え、上士幌町の風や空、匂いを全身で満喫することができる拠点として創り上げられました。

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地域と協働する観光地域商社としての組織づくり

さて、ここでカーチで活躍するもう一人の人物、平野健太郎さんにもお話を聞いてみましょう。

高校まで上士幌町に住んでいた平野さんは室蘭の工業大学へ進学後、愛知県にある自動車部品製造会社へ就職し生産技術職として7年間勤務。その後苫小牧にある工場に転籍し、生産技術業務と併行して、社内ISOの事務局員として会社の仕組みづくりに携わってきました。ISOとは簡単にいうと「うまく事業が成り立つ仕組みづくり」をするということ。

ISOを取得するにはさまざまなルールがありますが、平野さんは強引にそのしくみをねじ込むのではなく、「まじめに会社の運営をしていれば、自然とISOの基準に沿うようになり、取得も維持も難しいことではなくなる」をモットーに、それらを持続させていくためにも普段使っている会社のルールとISOを紐付けながら、そのまま使える仕組みづくりを意識してやってきました。そんな中、かねてから北海道や地元の上士幌町に貢献したいという思いをもっていた平野さんは、その強い思いを断ち切れず転職を考えはじめます。

karch_0917_8.jpg戻るなら、生まれ育ったここだろうと思っていたと言う平野さん。

「どういうカタチであれ、次は直接お客さんと触れ合える仕事がいいなと考えていたんです。その上で北海道は特に『観光』に力を入れていますから、観光に携わるのであれはニセコや洞爺エリアでの就職も考えました。しかしやっぱり思い入れの強い地元に貢献したかったのと上士幌町なら自分の考えや思いを直接伝えられる環境かもしれないと思っていたところカーチを見つけたんです。『地域観光商社』として上士幌町内のさまざまな観光に係わる組織の橋渡しをしていくという立ち位置や、国内版DMO(地域と協同して観光地域作りを行う法人のこと)の取得を通して観光業を成立させるための『仕組み』に力を入れていこうとしている会社だと知って、前職でISO事務局に身を置いていた立場としては、経験を活かせるのではないかと思い、異業種への転職ではありましたが思い切って飛び込んでみることにしました」

そうして上士幌町の地域おこし協力隊としてカーチへ派遣された平野さんは現在、道の駅のインフォーメーションで観光案内や施設管理、レンタサイクルや宅配便、グッズ販売などの道の駅内でのサービスの提供から、2019年2月にスタートした町内のバイオマス発電で生まれた電力を町民に提供する「かみしほろ電力」の運営や営業、顧客サポートや管理をしながら、国内版DMOとしての組織づくりとSDGsへの取り組みを任されています。

「もともと上士幌町には観光協会もありますし、糠平温泉組合さんや、酪農事業から6次化まで展開するドリームヒルさんをはじめとするたくさんの農家さんがいますから、僕たちが積極的に新しいものをつくるというより、それぞれのやっていることの橋渡しをして、本来バラバラになっているものを繋げてうまくコラボ(橋渡し)させることがDMO法人としてのひとつの役割だと思っています」

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平野さんによると、DMOの仕組みはKPI(目標を達成する上で、その達成度合いを計測・監視するための定量的な指標)の設定ができるようになったり、PDCAサイクル(生産管理や品質管理などの管理業務を継続的に改善していく手法)をつなぐことができるような内容になっているとのこと。言葉だけ聞くととても難しいようですが、ISOのお話と一緒で、DMO法人としての役割を果たしていけば、おのずと観光として稼げる仕組みができあがっていくということなんだそう。

カーチで働き始めてからは、ずっと思っていた「北海道にどう貢献できるだろう」という気持ちのひっかかりが徐々に取れていったという平野さん。ふるさとを大切に思う気持ちとともに今後も上士幌のまちの活性化に力を注いでいくことでしょう。

まちの観光地域商社「カーチ」としてのこれから

新型コロナ禍でのオープンとなった道の駅かみしほろではありましたが、道の駅としての入り込みの数字は想定以上の日もあったんだとか。そんな中

「こういったことを展開していくなかでは、やはりたくさんの人が訪れるほど今までよりもまちが騒がしくなったりと周辺の環境も変わってきます。ですから町民の方々に少しでも還元できればと新しい道の駅や熱気球搭乗を体験してもらいながら、ご理解いただけたらなと思っています」と中田さん。さらに今後のカーチのあり方について続けます。

「カーチは『商社』なので道の駅やナイタイテラス、かみしほろ電力だったり旅行業だったり、各部門が大きくなって、やがて会社として独立し、そこからまたそれぞれが新しいビジネスを受け入れていきながら育っていくようになれたらいいなと思いますね。さらに、地域の中での役割で言えば、まずは『地元の子どもたちが上士幌町で働く選択肢がない』という課題に対して、たとえ大学でこのまちを離れても、僕らがやっている会社に就職したいと思ってまちに戻ってきてもらえるような存在になりたいと思っています」

karch_0917_11.jpg道の駅の敷地内にはキャンピングカーサイトも。舗装されたエリアと静かに過ごせる芝生のエリアに分かれています。

「ナイタイテラス」と「道の駅かみしほろ」という拠点を軸に、他にはない観光地域商社をめざすカーチ。地域に稼ぐ力と今後はICT技術も活用しながら、まちに明るい未来をもたらすべく躍進を続けています。「人とビジネスの架け橋となる」をキーワードに、上士幌町ならではの価値をどのように展開していくのか、これからも目が離せません。

株式会社karch(カーチ)
株式会社karch(カーチ)
住所

北海道河東郡上士幌町字上士幌東3線227番1

電話

01564-7-7777

URL

https://karch.jp


まちに稼ぐ力をもらたらす観光地域商社、㈱karch

この記事は2020年9月17日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。