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札幌市

若い力が事業を守り育てる。二人三脚で歩む事業承継のお話20210316

この記事は2021年3月16日に公開した情報です。

若い力が事業を守り育てる。二人三脚で歩む事業承継のお話

※いずれのお写真も、撮影時のみマスクを外していただいています。

「株式会社環境セラピィ」という企業が、北海道札幌市の南区北ノ沢にあります。札幌市南区は、札幌市の面積の約6割を占め、定山渓温泉や様々な自然(山・川・多岐)からダムまでを内包する区です。北ノ沢は藻岩山や盤渓山の近くにある、自然溢れるエリアです。

この会社は代表の森若美代子さんが創業し、札幌市で25年。なんとたったおひとりで、「無農薬・無化学」にこだわった有機栽培用の肥料製造を行なってきました。微生物を用いて、環境を汚染している物質を無害なレベルまで分解し、浄化することを目的とし、低コストで持続性のある環境治療に取り組んでいるのです。

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長年精力的にご活躍されてきた森若さんも今年74歳になり、この事業を引き継ぎ継続してもらうために、北海道後継者人材バンクに登録をしたのが2020年のことでした。

そして、事業を引き継ぐ側になるべく人材バンクに登録した福島さんと運命的な出会いを果たし、本格的に事業承継への道が拓かれることに。北海道後継者人材バンク登録者で、実際に事業を引き継ぐ準備を始めた記念すべき第一号なのが、このおふたりなのです!2020年3月から開始されたこの機関で実際の事業承継が進んでいるということは、大変喜ばしいことです。

おふたりが事業の手を取り合うことになるまでの道のりや、それぞれの想いについてのお話をはじめたいと思います。

社長は、女性研究者の草分け的存在

生態学を専門とし、池や沼などの水質汚濁の程度を評価する研究に従事してきた森若さん。
1947年に生まれ、時代背景からみると女性の大学進学率は約4%ほどという時代に、北海道大学理学部卒、理学博士、中華民国環境庁技術顧問、旭硝子エンジニアリング株式会社主幹技師、株式会社環境レミディー代表取締役専務と、生涯にわたり生態学・理学分野で活躍されてきた華々しい経歴に、尊崇の念を感じざるをえません。

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技術指導のため台湾の環境庁に招聘され顧問をするまでの活躍をされていた森若さん。しかし、そこで目にしたのは、エビ王国台湾でのエビの大量餓死でした。

「数年のうちにエビ輸入国へ転落することを目のあたりにしたとき、環境を評価するだけではなく、エビが育つ環境を維持する技術を研究する必要を感じたんです。それから10年は、エビの養殖池の生態系と餓死の関係を研究し、『生態系制御』という独自の技術を開発しました。それが、環境を守るための現在のビジネスにつながったんです」

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自然と、ゆったり流れる時間を求め、北海道で開業

森若さんが、生態系制御の長年の研究をビジネスに繋げたのが、平成7年12月に千葉県で設立した「(株)環境セラピィ」。ベンチャー企業としてのはじまりでしたが、事業を続ける中で徐々に「生態系制御」という環境治療の方法が少しずつ認められるようになったのだといいます。その他にも、エコネットワークをつくり、エコライフのための情報提供や商品開発にも取り組んだのだといいます。

kankyo_t_03.JPG混合有機肥料。有効微生物が活性化することで植物に栄養を供給。植物の免疫力を活性化させ、連作障害にも負けない強い植物を育てる

その後、森若さんは50歳を過ぎたころに自然やゆっくりした環境を求めて、北海道へやってきます。最初は栗山町で。それから現在の札幌市南区北ノ沢に移転します。引き続きエコライフ情報を配信する一方、「生態系制御」技術を農業分野へ応用開発するに至ります。それが、現在環境セラピィの主要商品である植物活性剤へ繋がったのです。ちょっと変わったユニークなお名前の「土母(どうも)」、「土母虫君(ともむしくん)」など、光合成細菌という微生物を主成分とし、土中の有益な微生物をふやし、土の生態系のバランスがよくなり連作障害を改善する植物活性剤。

「実はこの商品は、開発から生産・パッケージ・広報・発送まで、全て私が一人でやっているもので、毎日やることがたくさん。あっという間に過ぎていきます(笑)」と話す森若さん。
これだけの業務を全て行われている大変さは、想像もできないほどです。これらの商品群は、環境にやさしく配慮できる製品として、多数のリピーターの個人・企業がいらっしゃるそうです。

kankyo_t_04.JPGこのようなリーフレットも全て森若さんが作成

後継者は春から大学院生の28歳!

それではここからは、この事業を引き継ぐ福島健太さんにお話を伺ってみたいと思います。
福島さんは、2021年2月に東京から札幌へ移住し、春からは北海道大学大学院に通う28歳。大学院に通う傍ら、ご自身で事業を行いたいと考えていましたが、0から事業を起こすよりも事業を引き継ぐことにメリットを感じ、北海道人材バンクに登録。(株)環境セラピィの森若さんと出会いました。

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神戸出身の福島さんは、京都大学農学部で農学と水産学について学びます。その後は専門的に農学・水産学のお仕事に就くのかというと、実はそうではなかったのだそうです。

「まずは、新卒で銀行に勤めました。その次はIT企業、大学職員での研究職。最後にブロックチェーン(ビットコインなど暗号資産(仮想通貨)を支える中核を担っている技術)のシンクタンク立ち上げ・経営をしていました」

と、大変色々な経歴をお持ちの福島さん。どれもが「高度経済成長、終身雇用の時代が終わった現代で、今の時代に合った自由な働き方をしたい」という福島さんの明確な意思を持った道でした。銀行では、お金の流れや経営を知るために法人営業職を。大学で少し触れていたプログラミングを活かしてIT企業でSEを。大学での研究職では、内閣府のデータ解析・分析等も行っていたそう。福島さんご自身が、理想に近い働き方をするための総合力を身につける経験を意識して重ねてきたことがわかります。

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ご自身で事業を起こすに至ったブロックチェーンのシンクタンクについて少し詳しく伺ってみると、「新卒入社の銀行の同期の方々と立ち上げました。すごく簡単に言うと、今までの銀行の仕組みを取っ払うことができる新たなアセットがビットコインで、その登場にとても可能性を感じていましたし、世の中的にも注目度が集まって来つつあったタイミング。大企業なども最終的には必ず研究するようになると思っていましたので、ビットコインとブロックチェーンを研究するための機関として自分達で会社を初めて作りました」と福島さん。

その後ブロックチェーンについての様々な研究を続ける中、株式上場している証券会社がこの事業に関心を持ち、一緒に事業を推進できるメンバーを探しているというお話がまいこみます。そこで会社ごと売却し、その会社の中で一緒に研究をしていくという形をとることに。2年ほど一緒に研究をした後、任期満了で退職したのだそうです。

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「小さな事業を残す」。それが人間社会を豊かにするという使命

福島さんはその後、毎年旅行に訪れ、離島から東西南北の岬までくまなく旅行もするくらい好きだったという北海道への移住を考え始めます。「本州にはない独自の文化があって、自然も残っていて。一番印象に残っているのは然別湖のアイスビレッジですね。かまくらで飲んだ、氷のコップのウィスキーが忘れられません!」と笑います。
元々京大農学部では8割の人が卒業後に大学院へ進んでいたそうですが、「専門的に農学部を学ぶことが必要か、今は判断できない。学びたいことができた機会にとっておいて、いつか改めて通おう」と考えていた大学院進学をこの機会に叶えるため、北海道大学大学院 国際情報メディア観光学部を受験し、無事入学を予定しています。国際情報メディア観光学部を選んだことは、これからのSNSが重要になっていく時代に、アカデミックな学びをしたいという思いからだったのだといいます。

福島さんはどうして、後継者人材バンクの登録企業の中から(株)環境セラピィを継ぐことに興味を持ったのでしょうか?という質問をぶつけてみると、熱い想いをお話してくださいました。

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「農学部だったので、できればそこに近い事業があればとは思っていました。そしてシンクタンクを経営していたときは知識が売り物で、もちろんコストもかからず効率も良いビジネスでしたが、モノという実体がないゆえに『事業をやっている感覚』があまりなかったんです。なので、商品を製造していて、専門的に学んだ農学がいかせるこの事業に、もちろん学びが必要ですがすごく興味を持ったんです」

また、森若さんのご自身のことや事業の行い方も、決め手の一つだったといいます。

「森若さんは誰もが認める生態学分野の第一人者。普通は研究者は、経営をするか、技術に集中するかどちらかという人が多い中、森若さんは両方の目線があり、お話ができるのがありがたいです。そして個人的には『おひとりで事業をしていらっしゃる』というところも決め手で、スタッフさんなどの雇用がなく、取引先やその他の協力関係などもクリアでシンプルだった面も、事業を引き継げそうと感じた点でした」

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その語り口からは、森若さんへの尊敬や、これから学べることへの期待が存分に伝わってきました。
また、「小さな個人事業を継ぐ」ことを選んだ想いについて、こうお話を続けます。

「僕は事業をする上で、売上をどんどん右肩上がりにするなどの目標を立てて成長を続けていく・・・そういった都会的な考え方に懐疑的でした。自分も含め、自分のビジネスに関わっている人が最大限幸せになれるようなビジネスをしたい、そんな風に思っています。銀行にもいましたので、小さな企業が廃業してしまう場面も見てきました。日本全体としては、小さな事業がひとつ消えても、経済的なインパクトはそんなにない、というのが実情だと思います。でも僕は小さな事業や個人店には、経済的な価値ではない豊かさがあると思っていて、チェーンの珈琲店よりもマスターが一人でやっている珈琲店のほうが、少し値段は高くても居心地良く感じたりします。そういう店は、チェーンじゃないから構造的には潰れる可能性が高いのは当然なのですが、でもそういう店がのこらないと、何のために生きてるかわからないじゃないですか。僕たちは珈琲を安く飲むために生きているのかな?とか、考えます。小さな事業を残すことは、精神的な損害を守ることに繋がっていて、そこを引き継ぐことに意味があると思っています」

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ふたりで手を取り合っていく、事業承継のカタチ

(株)環境セラピィの今後のビジョンについては、「これからも商品のオリジナリティを出しつつ、『北海道に根ざした』というところを前面に出していって、『北海道にこういう商品があるんだよ』というところを出していき、地域活性化にも力を添えたいです」そう力強く話します。現在は全て森若さんが事業をまわしていますが、これからは製造や販売のアウトソーシング・雇用など、最適な形を模索していくようです。

「まず『商品を使ってくださっている人の顔が見えるようにして、感想を聞けること』を直近のひとつの目標としてしていきたいですね」とも話します。今年の夏には、農家さんを回って、使用感をインタビューするということも、お二人で行っていくことを計画しているそうです。

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また、今度は逆に森若さんに、福島さんの印象は?という質問をなげかけてみました。「年代では祖母と孫くらいだと思うんですけど、同じ土俵で色々なことが話せていますね。事業についても一緒に色々なアイディアを出し合っていけるから、すごく心強いです。会社のホームページも元々なかったんだけどね、福島くんが作ってくれて素敵なものが先日完成しましたし、ブランディング・広報面でも色んな可能性を拡げてくれると思います」と話してくださいました。

kankyo_t_14.jpg福島さんが作成したホームページはこちら。https://therapy.hokkaido.jp/

お二人の言葉やお話からわかったことは、事業承継は決して「手放す」「受け取る」という単純なカタチだけではないということ。
事業を引き継ぐ後継者側にとっては、「一人で頑張らなくても、学び相談しながら事業承継の準備ができる」
事業を手放す事業者側にとっては、「今後の方向性を一緒に考えてくれる存在」

今回の環境セラピィさんのケースは、一時期はパートナーとして、新たな後継者の力を借りて会社の芽をさらに伸ばし育てていく。そして、徐々に後継者のもとで事業がひとり立ちしていく。そんなイメージやビジョンが眼前に浮かぶようでした。
人と人の化学反応で、きっと事業がいかようにも変化していく。そんな事業承継の奥深さを目の当たりにした気がします。

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経営経験がなくても大丈夫。事業引き継ぎに興味があればまずは第一歩を!

事業承継のカタチは、きっと、後継者と事業者の組み合わせの数だけ様々なケースが存在するのでしょう。
福島さんは実際に事業を経営したご経験がありましたが、以前取材をした北海道後継者人材バンクの大野さんのお言葉をお借りすると、「必ずしも経営の経験がなくても大丈夫。学び続ける意欲があれば事業は引き継げます」ということは変わりません。小さな事業を自分が引き継ぎ、続けていくことに興味がある方には、ぜひ北海道後継者人材バンクが出会いの場になること間違いないと思います。ぜひ、ご興味がある方はまずご登録をしてみていただけたらと思います。
https://www.sapporo-cci.or.jp/hikitsugi/kjb/

後継者側、事業者側それぞれにピッタリの事業承継のマッチングがこれからも進み、増えていきますように。北海道後継者人材バンクから、今後も多くの引き継ぎ事例が実現していくことを期待せずにはいられません。

(株)環境セラピィ
住所

北海道札幌市南区北ノ沢1746-39

URL

https://therapy.hokkaido.jp/

◇(株)環境セラピィさんに関するお問い合わせについては、公的機関の北海道後継者人材バンクさんが賜ります。北海道後継者人材バンク(北海道札幌市中央区北1条西2丁目 北海道経済センター5F)https://www.hokkaido-jigyoshokei.jp/bank/

※商品についてのお問い合わせは直接環境セラピィさんにご連絡ください。

◇北海道経済産業局からのプレスリリース情報はこちら。https://www.hkd.meti.go.jp/hokic/20210311/index.htm

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若い力が事業を守り育てる。二人三脚で歩む事業承継のお話

この記事は2021年2月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。