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まちおこしレポート
札幌市

事業承継をサポートして、人とまちの未来を繋ぐ20210204

この記事は2021年2月4日に公開した情報です。

事業承継をサポートして、人とまちの未来を繋ぐ

突然ですが、今後10年間で、中小企業の約半数が世代交代の時期に入るのだそうです。
事業を継続させるためには、現経営者から後継者へ経営のバトンタッチを行う「事業承継」の必要がありますが、この後継者不足の問題は、都市部・地域の身近なところでたくさん起こっている、喫緊の課題になっています。

ちょっと難しそうなお話し?って思いましたか?

いえいえ、新しい生き方の提案のひとつになりえるお話し...なんです。転職を考えている方や、いつかは起業を!と考えている方。戻りたい故郷には働き先がないんだよなぁ〜なんて困っている方は、「後継者として事業を引き継ぐ」という選択肢もあるんだということを意識して欲しいなと思います。
「後継者」と聞くと「いやいや、自分の親は経営者なんかじゃないし...」と思われるかもしれませんが、これを読まれているごく普通のみなさんでも対象になるお話しなんです。

今回お話しをうかがったのは、後継者を探す人と事業を始めたい人を繋げて、事業承継を支援している「北海道事業承継・引継ぎ支援センター」と「後継者人材バンク」さん。
実は、この北海道事業承継・引継ぎ支援センターに勤める大野素良さんは、くらしごとで以前取材した滝川市のギャラリー陶居(とうきょ)& caféオルノさん(北海道に来たから僕ならではの磁器が生み出せた)のご子息だったという偶然のご縁もあったのです!

0からスタートする起業とはまた違った方法の一つである事業承継は、事業を始める方にとってもメリットがたくさんあります。事業者の存続を支援するため、事業承継のマッチングを通じて北海道の事業者や地域を支えるべく尽力している皆さんの取り組みを、ぜひ知って下さい。

後継者不在に悩む事業者を助ける機関

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「事業承継・引継ぎ支援センター」と「後継者人材バンク」は、どちらも事業を後継者に引き継いでもらう・・・というイメージがわくお名前です。今回お話してくださったのは、事業承継・引継ぎ支援センターと後継者人材バンクの職務につく、統括責任者の瓜田豊さん、統括責任者補佐の新宮隆太さん、統括責任者補佐の大野素良さんの3人です。
職員の皆さんは、基本的に全員フリーランスとして活動している、中小企業コンサルの専門家だといいます。ご自身でも個人事業主または会社を経営している、スペシャリストの皆さんです。

瓜田さんは、北海道の中小企業支援を30年以上している、まさに中小企業の経営を支えるプロフェッショナル。新宮さんは中小企業診断士とM&Aシニアエキスパートの資格を持つ専門家としてご活躍中です。大野さんは、中小企業診断士の資格を持ち、北海道中の企業のコンサルタントに奔走されています。

koukeisyabank15.JPG左から、統括責任者の瓜田豊さん、統括責任者補佐の大野素良さん、統括責任者補佐の新宮隆太さん

それぞれの歩みについて、大野さんがこのように話してくださいました。
「『事業承継・引継ぎ支援センター』は、北海道では2012年に設立されました。後継者不在で廃業してしまう会社が多く、廃業が進むと地方がどんどん衰退していくことに関する国の問題意識もあり、47都道府県全てに置かれている機関です。一方、『後継者人材バンク』は北海道では2020年3月に誕生したばかり。以前までは一部の県のみに設置されていましたが、昨年47都道府県に後継者人材バンクをおく方向に国が舵をきることになりました」

いずれの機関も、経済産業省の国の事業として北海道経済産業局が管轄し、札幌商工会議所が認定機関に指定されているという位置づけなのだそう。まずは事業承継・引継ぎ支援センターのほうから詳しくお話を伺ってみます。

「『事業承継・引継ぎ支援センター』は、企業が後継者不在で廃業してしまうのを防ぐために、民間企業に引き継いでもらうM&A(合併・買収)での事業承継の相談をメインとしています。そもそも売上が数十億円規模ある会社であれば、銀行やM&A専門の仲介会社が手数料ビジネスとして積極的に支援しています。そのように民間で全てカバーできていれば、『事業承継・引継ぎ支援センター』のような公的機関は必要はないのですが、民間に手数料を支払って支援を受けることが難しい企業もあり、そうした企業が廃業してしまうのを防ぐため、当センターが全国におかれることになりました」

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それでは次に「後継者人材バンク」についての説明もいただきます。

「私どもは会社の規模に関係なくご相談を承っているので、小さなまちの商店のように、ほかの民間企業に承継・買収してもらうことが難しい規模や業種の事業者からのご相談も入ることがありました。基本的に『事業承継・引継ぎ支援センター』は企業同士のM&A支援なので、こうした事業者を十分に支援できておりませんでした。そこで、個人の創業志願者を後継者候補として登録を促し、小規模な事業者でもマッチングに繋げられるようにと、2020年3月に『北海道後継者人材バンク』が誕生しました」

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民間のM&A仲介会社では取り扱いが難しい規模の事業者のM&Aを支援するのが「事業承継・引継ぎ支援センター」。さらに、M&Aで譲り受けてくれる会社を探すのが難しい事業者でも後継者を探すことができるのが「後継者人材バンク」という図式なのですね。小規模な事業者に対しては、事業承継・引継ぎ支援センターのスキームではなかなか支援することが難しいため、個人でこれから事業を始めたい人をつのるような別のスキームで動ける組織をつくる必要性があったのだといいます。

「当バンクをご利用いただくと必ず後継者が見つかるという保証はもちろんできないのですが、ある程度の会社規模・売上がないとそもそも相談できないというハードルは一旦下げる事が出来ていると思います」とも話してくださいました。

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これからご自身で事業を始めたいと考えている個人の方も、「後継者人材バンク」へ登録していれば、後継者を探している事業者を知ることができます。また、企業単位のM&Aができない規模の事業者側にとっても、相談ができずに廃業するしかない・・・という状況を回避できることが重要なのは明白です。「後継者人材バンク」の大きな意義がこの点にあるのだと実感します。

koukeisyabank16.JPG登録は書類の提出とオンラインでの面談で完了します

相談・支援で事業継承のマッチングを増やす

では、実際に企業から相談が入る経緯はどのようなものが多いのでしょうか?気になった取材陣は、質問を投げかけてみました。
相談が入る経緯で一番多いのが、後継者を募集したい企業から直接お問い合わせが入るケースだといいます。

「社長から相談が入るタイミングや、さし迫り具合は様々ですが、基本的には余裕を持って、大体2~3年先の事業承継を想定してくる人が多いです。65〜70歳くらいの年齢の経営者さんからのご相談が割合としては多いですが、若い社長で事業を誰かに引き継ぎたいという方もいます。特にコロナウィルスの影響で、資金が尽きる前に次世代へ承継を・・・というご相談が増えていますね。地域の信用金庫などの金融機関からのご紹介や、商工会の支援機関経由という方も多くいらっしゃいます。あとは、当センターで相談をしてM&Aがうまくいったという企業さんのお話を聞いてくる方や、センターのHPをたまたま見て、という方もいらっしゃいます」

企業の業種は幅広く、建設関連・卸・サービス業・飲食業など様々なのだとか。事業承継の相談に来て廃業を食いとめる理由としては、自社の従業員と取引先に与える影響の大きさが最大の要因なのだそうです。

koukeisyabank12.JPG経営者の事業への想いや理念も引き継いでもらうことが重要です

また、このような面白い事例も教えてくださいました。

「最近の事例ですが、札幌市でスナックを営んでいたママが、現在のお店を閉めて、カフェなど別の事業を行いたいと相談にいらっしゃいました。ちょうどママの故郷である道南方面で後継者を探しているカフェ事業者の登録があったのでご紹介したところ、大変興味を持ってくださり、先日当機構の職員も同行をして下見に行ってきたところです。まだ実際の成約には至っておりませんが、譲渡へ進む日もそう遠くはないかもしれません」

この事例の方は、新たにご自身でカフェを開業するのではなく、すでにあるカフェを引き継ぐということを選択肢に入れていました。このような事業承継の良さは、一体どのようなところにあるのでしょうか?

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「新規で事業をおこす際には、0からご自身で考えて事業にチャレンジできますが、準備する時間や経費がものすごく掛かります。一方、事業を引き続ぐ際には、取引先・事業に関するノウハウ・設備がすでに整っています」

なるほど。前経営者の想いや地域での役割を引き継ぐという事業承継ならではの必要な点もありますが、すでに様々な基盤が整っていることは大きな強みなのですね。

そのほか、飲食店で3年くらいかけて相手を探し、同じまちの同業者が引き継ぐことになった事例や、燃料小売店(ガソリンスタンドも運営)を経営している94歳の社長がM&Aで3回目のマッチング相手の企業と無事成約した事例などもあるといいます。

koukeisyabank21.JPG成約時に撮影した写真も事務所にならんでいます

「地域では、まちに飲食店やガソリンスタンドが数軒しかないというところも珍しくありません。1つの事業者の廃業が地域住民の生活に与える影響の大きさを考えると、廃業という選択をとることは、すでに事業者だけの事情ではなく、地域全体に関わる問題です。そのため、行政や金融機関も、できるかぎり廃業ではなく、事業を承継していくという選択肢をとってもらえるように尽力し、まちの方の暮らしを守っています」

後継者となるやりがいは、人々が慣れ親しみ地域で必要とされてきた事業を続けることで、安心の生活や思い出を守ることに貢献できる点にもあるのかもしれません。

koshimizu-honya_1-thumb-900xauto-5294.jpg以前くらしごとで取材した「さが井商店さん」も後継者を探している事業者のひとつです

支援を多くの方に知ってもらうための取り組み

皆さんが今後の課題と考えていることは、マッチングを経て成約となる成功事例を増やすことだといいます。

登録者の内訳は、現在北海道札幌市在住の方が70%、札幌市以外が18%、北海道外が12%(2020年11月30日)。7割が札幌市在住者のため、それ以外の地域で事業を引き継いだ場合は、移住が必要となる可能性があるなど、決してハードルが低くはないことが見てとれます。
年代では、20代が12%、30代が25%、40代が44%、50代が14%、60代が5%。30・40代が約7割を占めるボリュームゾーンです。現在の職業をみると、会社員が46%、自営・会社経営者が40%、その他が14%と、会社員から経営者への転身を考えている方が多いこともわかります。

ところで、事業を引き継ぐ側はどの程度のスキルを持っていれば経営を引き継げるのでしょうか?なかなか指標にしにくい事と思われるだけに気になります。その質問には、創業に関するセミナーでの講師経験も豊富な大野さんがこのように答えてくれました。

「事業を引き継ぐにあたっては、最初から必ず経営者としてのスキルをしっかりと持っていなければいけないというわけではありません。体系的に『創業塾』みたいな育成カリキュラムの用意はないのですが、研修等を通して学びたいなどの希望があればご紹介しています。いずれにしても、引き継いだあとも常に学び続けていく意欲があれば大丈夫だと思います」

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事業は全てが1点モノ。前オーナーから後継者としてのスキルを学んでいけるケースもあるなど、立地や業種だけでなく、さまざまな状況・条件からも検討できるそうです。「お互いに不幸なご縁になっては意味がありませんから、間に入る私たちも多くのことを包み隠さずお話しします!」と、大野さん。行政が進める事業である安心感も伝わります。

今後の展望

後継者人材バンクの皆さんは、今後の展望についてこう語ります。
「後継者を探している企業にも、後継者となりたいと考えている方にも、まずは多くの方に当センターを知っていただきたいと思っています。後継者の相談なら事業承継・引継ぎ支援センターに!という存在になりたいですね。必要としている人に必要な情報が届けられるように、情報発信にさらに力を入れていきたいと考えているところです」

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札幌や旭川といった大きな都市では、人口も多いのでマッチングもしやすいそうですが、競争が多いのも確か。固定経費も高めになるため、地方都市に目を向けるもひとつの戦略だそうです。

例えば、新宮さんはこのような経営の仕方もあると話します。
「現在はテレワークなどもしやすい環境が整ってきていますので、例えば本業をどこか別の場所(東京などでも可能だと思います)に持ち、テレワークで本業をする。副業的で商店を経営することは、生活にゆとりも生まれると思いますし、今後の時代にもマッチした経営方法ではないかと思います」

事業承継・引継ぎ支援センターや後継者人材バンクは行政が関わっている機関だからこそ、費用負担がなく国の費用でサポートを受けることができ、幅広い事業者さんに門戸が開かれていることが大きな特徴です。相談している途中で経営に関するアドバイスを受けたくなった際には、そのような支援をしている機関への紹介も行ってくれたりと、手厚いサポートを受けられます。「まずは相談してみる」という一歩を踏み出すと、今後の道が開けてくるかもしれません。

koukeisyabank20.JPG実際の相談は、オンラインがほとんどだといいます

「今は国が事業承継について後押ししているので、受けられる融資なども多種多様です。ご自身で0から創業するよりも援助が受けやすくなるというメリットも存在します。これから起業を考えている方には、事業を引き継ぐという起業の仕方も選択肢に入れて欲しいなと思います。また、転職を考えている方にも、そんな生き方もあるんだということを知ってもらえたら嬉しいですね。登録者さんの中には『今すぐ』ではなく、『いつか事業を引き継ぐことも考えたい』という方もいらっしゃいますので、将来への準備を一歩進めたい方はぜひ当センター、当バンクをお気軽にご活用ください」

事業がとても好調であるにも関わらず、後継者となる家族や人材がいないために事業をたたまないといけないという、もったいないことが実はたくさんあります。
そして、地域になくてはならない商売が1つまた1つと灯りを消してしまっている現状に、その経営者だけが考えてなんとかなる時代でもなくなってきています。多くの人々が地域の生活や経済・雇用を守っていくために取り組んでいかねばならない課題です。
先代がつくった事業のバトンを受け取り、新しい息吹を吹き込こんでくれる方が、北海道に続々と誕生することを期待せずにはいられません。

北海道後継者人材バンク/北海道事業承継・引継ぎ支援センター
北海道後継者人材バンク/北海道事業承継・引継ぎ支援センター
住所

北海道札幌市中央区北1条西2丁目 北海道経済センター5F

電話

011-222-3111

◎北海道後継者人材バンクhttps://www.hokkaido-jigyoshokei.jp/bank/
◎北海道事業承継・引継ぎ支援センターhttps://www.hokkaido-jigyoshokei.jp/


事業承継をサポートして、人とまちの未来を繋ぐ

この記事は2020年12月7日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。