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まちおこしレポート
池田町

町の資源、天然林と炭焼き小屋を生かす小規模林業を。20200921

この記事は2020年9月21日に公開した情報です。

町の資源、天然林と炭焼き小屋を生かす小規模林業を。

ワインや酪農のイメージが強いですが、実は町の面積の6割を森林が占める池田町。その森林には人工林として植えられたカラマツなどの針葉樹と、自然に育ったミズナラやカシワ、シラカンバなどの広葉樹が共存して育っており、近年は天然林を生かす小規模林業(自伐型林業)を展開しようと動いています。
その立役者となっている、林業へのアツい想いがあふれる役場職員がいると聞き、役場を訪ねました。

「森林の現場に近いところで働きたい」

「お待ちしていました」と言って物腰柔らかに出迎えてくれたのが、池田町産業振興課林務係主任の山本健太さんです。

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大阪府出身の山本さんは、北海道大学農学部進学を機に北海道に住み、森林科学科を選択。修士課程修了後は製紙会社に勤め、原料となるチップの輸入に関わる部署にいました。森林の現場に近いところで働きたいと希望していましたが、叶わなかったため30歳を機に転職を決意。同級生や先輩から林業に関する仕事がないかと情報収集していたところ、池田町で林務担当職員の募集していることを耳にしました。一度も訪れたことがない町でしたが「これが次の道だ!」とピンときて応募したと当時を振り返ります。

山への入り口は、軽い気持ちから

今や池田町の林業といえば欠かせない人物となっている山本さん。きっと、大学進学前から森林への熱い想いを抱いていたのでは...と思って尋ねると、面白い回答が返ってきました。
「都会で生まれ育ったということもあり、中学生のころから環境問題や自然、農業には興味があり、憧れを抱いていました。現場に近いところで勉強したいと思い、親に相談してみたところ、単なるイメージで『それなら北大がええんちゃうか』と。それで行ってみようということになりました(笑)」と、何とも関西人らしいエピソードが。
そして、森林科学科を選んだのも意外な理由から。「高校、大学と陸上ホッケー部に入っていて、森林科学科は夏休みに4泊5日で山での実習があって普段の平日に休みがあるから、練習に励めるという理由でした」。

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真面目そうな山本さんからのカミングアウトに和んだ取材陣。俄然そこから森林への熱い想いが育まれたいきさつが気になる所です。
「もともと自然に憧れがあって、フィールドでの調査も楽しかったため、研究に没頭していきました。当時、平成14〜15年ころは林業の冬の時代と呼ばれていて、道内の森林は間伐(成長を妨げないように間引くこと)が行き届いていない、手入れをしたら赤字になると暗い話題しかなく、現場で何か役に立つようなことを研究テーマにしようと、林業試験場の方とも話して調査をしていました」。
森林の深い話に入ってくると、山本さんの語り口も熱を帯びてきます。
「特にカラマツの人工林に自然に生えている広葉樹に注目し、活用方法、育っている場所などを調査し、混交林(2種以上の木からなる森林)をコストをかけずに作る方法を提案しようと研究していました」。

しかし、現場に入らないとわからない部分が大きいと感じ、現場に近いところで働きたいと、林学を学んだ人の採用枠がある製紙会社に入社。当初は、国内の現場、海外植林、本社をローテーションで回る予定だったそうですが、なかなか本社から動くことがなかったため、山本さんは現場の近くで働きたい気持ちを抑えずに転職を決意したのです。

町の森林が転換期を迎える時期に入庁

2012年4月に池田町に入庁。長く勤めていた林務係の前任者が50代になり、管理職になる前に後継者をということで募集され、山本さんが採用されました。池田町でもかつては役場に現場作業班が在籍していたりと林業にも力が入っており、その時の募集にあたっては専門的な視点で現場作業員に指示を出せる管理者が必要とされており、山本さんは適任でした。

着任当初は、森林組合の製材工場が完成を迎えようとしていた時期。人工林のカラマツは植えて40年が経過し、利用期を迎えていました。そして伐採し、新たに植えて山の更新をしていくタイミングでした。
その後どのように木材生産を続けていくか、カラマツなどの針葉樹だけでは採算性が合わないから広葉樹を入れて生産性を上げていくか、と考えなければならない転換期だったのです。

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池田町の森林は、人工林のカラマツと自然林の広葉樹が混在していました。
「カラマツの人工林が育つ段階で間伐をしますが、その際に広葉樹が自然に生えていた場合は、カラマツの成長の邪魔になるので切りましょうというのが一般的です。ですが、池田町では自然に生えてくる木は残しましょうという考え方で進めていたんです。池田町には国有林や道有林がなく全て町有林か私有林なので、そのやり方が出来たのだと思います」と山本さんは語ります。
町内には(有)本郷林業などの炭焼き業者が、天然林からミズナラやイタヤカエデなどの広葉樹を材料として活用していたということも、人工林だけでなく広葉樹の木も残して森林を作ろうという背景にあったのでしょう。

50年先の森林更新計画を立案

森林の更新をする際、植えた木が利用期になるのは40年、50年先になるので、そこまでの計画を考えておく必要があります。池田町でも50年後まで、町有林のカラマツ人工林をどのように持続的に経営していくかが課題となっていました。そこで山本さんは50年間の町有林の更新計画を作りました。平成25年から75年までという壮大な計画です。
予算と照らし合わせ、作業面積を計算して、どれくらいの面積を伐採して造林していこうという計画を立てました。その際、当麻町、むかわ町などの先行して作っていた自治体から情報を得て作成していったと当時を振り返ります。

当初は、これまで通りカラマツの人工林を作っていくことを基本に考えていましたが、「計画を作る中でどれくらいのお金が動いているかを計算したら、カラマツで1haあたり十数万円しか動いていないことがわかり、これはどうなんだろう、本当に正しいのか、単純に疑問を抱きました」。
そのころ、(有)本郷林業さんなど炭焼き業者などから「材料を確保できない、町有林からミズナラやイタヤカエデの木材を使わせてほしい」と要請がありました。

池田町には林業の大きな事業体がなく、森林組合の下請けも町外の業者が担っている状況。町内には一人親方として運営している伐採業者しかおらず、町や森林組合から仕事を請ける条件も満たしていませんでした。
そのような伐採業者もカラマツを切った方が作業が効率的であり、コストパフォーマンスも良かったので天然林を切り出さなくなっていたのです。

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町の森林と炭屋さんを生かせるのは小規模林業(自伐型林業)

そこで山本さんは、町有林の経営を成り立たせるために広葉樹に目を向けようと考えました。
そして国内の他市町村でも木炭用の広葉樹に関して取り組んでいる事例がないかと聞き取りをしてみましたが、木炭用に広葉樹を伐採をしている業者はなく、市町村も特段製炭業者に支援しているところは見つからなかったのです。
では池田町が木炭用に安定して原木供給が出来る仕組みを作れば、まちの産業を守ることができ、かつ町有林の資源活用を円滑に進め、一歩先の町有林経営の事例になるかもしれない!という想いで調べていったところ、「小規模林業(自伐型林業)」というキーワードに行き着いたのです。

これまで森林所有者が施業を行うことは稀で、主流だったのは森林組合や業者が施業を請け負い、大規模に展開していく林業です。それに対し自伐型林業とは、40〜50年での皆伐(山の木を大規模に伐ること)をやめ、間伐で森林の成長と共に木材の質を高めることで少量の生産でも持続的に森林経営を行う林業の形です。大規模で行わないことで機械も小型のものが利用でき低コストなため、家族経営の事業者や山林所有者などが自ら経営・管理・施業も行えるのが特徴です。兼業や六次産業化とも相性が良く、環境保全の意味からも今注目されているスタイルです。
規模は小さくても、人が増えれば量が確保できて、炭焼き業者にも木材を提供できる。山本さんはそれを池田町の林業の生きる道として提案しました。

地元林業グループを巻き込み研修事業を行うも、求める手応えは得られず

池田町には40年以上も前から「林業」に関するグループが結成しており、時代の流れとともに林業事業体が減り参加者数は少なくなっていましたが、近年は地元の農業者で林業に関心のある人も参加する林業グループがありました。
まずはそのグループに声をかけ、一緒に小規模林業(自伐型林業)に向けたクラウドファンディングを行い、研修会を2年間にわたって行いました。
研修会では、チェーンソーの扱い方、間伐の際はどの木を切ってどの木を残すかの判断の方法、切った木を運ぶ方法など林業の基礎。また、厚真町で馬搬(馬を使って伐られた木材を運び出すやり方)をしている西埜さんや、奈良県で作業道を作っている岡橋さんなどの講師を呼んで応用編の研修も行いました。子どもたちに木や自然の素晴らしさを教える「木育」の活動、担い手の育成にも取り組みました。

この研修会は活発な活動にはなりましたが、求めていた手応えは得られなかったといいます。
「参加者は十勝管内、札幌などから60人ほどいて、皆さん意欲的に参加してくれましたが、担い手として定着した方はいませんでした。60代を超えている方が多く、その方たちが山を買うという流れにもならず、この取り組みは次のステップへと進めなければと思っていました」。

地域おこし協力隊の採用に新しい活路を

一方、役場には林業を活動内容とした地域おこし協力隊を入れてほしいと要望していました。
「そこまで頑張って活動をしているなら、これからやってみたら」と林業に特化した地域おこし協力隊の採用が決定し、2020年7月と8月に、川瀨千尋(かわせちひろ)さんと福家菜緒(ふけなお)さんがそれぞれ採用になりました。

ikedarinmuka5.JPG左が川瀬さん、中央が福家さん、右が山本さんです。

川瀨さんは、自伐型林業をやりたいという思いが池田町と一致。以前から従事していた不動産業も行いながら、林業をやる兼業スタイルで考えています。それぞれ片方なら経営として厳しくても、両輪としてやっていくならうまくいくという計画です。
福家さんは、林業に取り組みながら環境教育を実践し、事業として回していくことを目指しています。
このお二人について詳しくはこちらの記事をご覧ください→(9/24記事公開予定!)

さらに、地域おこし協力隊の卒業生を中心に組織を作ってほしいと、山本さんは構想しています。
契約期間30年で彼らが町有林を自由に使うことができ、得られた利益から何割かを町に入れるという分収林という仕組みを作ろうという考えです。
大規模な伐採を中心とする森林組合ではできないような、小さな間伐の発注をこの方法なら受け入れることができます。そして徐々に町有林から自分たちの所有する森林での収入にシフトしていければと考えています。
また、伐採した木材を売るだけで無く、樹皮にも需要があることに着目しています。今年度からクラフトに活用できる白樺の樹皮を販売するなど、拡がりをみせています。

小規模林業(自伐型林業)で永く続いていく仕組みを

山本さんに、今後の展開に対する考えを聞いてみました。「役場職員としては、異動もあるかもしれないので、自分がいなくなっても仕事が流れていくという状況を早く作らないといけません。今後は地域おこし協力隊の方に知識やノウハウを伝えて、全てを渡していきたいと考えています」。

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池田町でのワークもライフも、快適に楽しんでいる山本さん。「製紙会社にいた時より、現場に行ける今の方が生き生きしていますし、天職だと思っています。東京は1時間くらいの通勤時間でしたが、今は通勤も5分です。子どもが保育園の年長で、若い世代が少ない地区なので道行く人に声を掛けてもらい、可愛がってもらっています。休みの日は子どもと遊んでいます」。

庁舎での取材後に山で撮影をさせていただくため、作業着に着替えた時の表情が一段と輝き、現場への愛がうかがえる山本さんでしたが、意外な一面も。「山についてこんなに熱く語っていますが、実は完全なインドア派です(笑)。アウトドアの趣味はなく、キャンプもほとんどしたことないんです」。
山への愛は全て仕事で注いでいるという山本さん。池田町の林業の今後の展開がますます楽しみです。

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池田町 産業振興課 林務係
住所

北海道中川郡池田町字西1条7丁目11番地

電話

015-572-3111


町の資源、天然林と炭焼き小屋を生かす小規模林業を。

この記事は2020年8月6日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。