北海道函館市の隣、函館駅から車で約1時間の場所にある鹿部町。昭和58年12月に「村」から北海道で156番目の「町」になり、現在は人口約3,800人、漁業を基幹産業とし、冬季のタラコの原料スケソウダラ漁と、ホタテの水揚げが主産業です。
雄大な駒ケ岳、洋々とした太平洋内浦湾を望むことができ、天気のよい日には、対岸の室蘭市や羊蹄山を眺望することができます。
観光スポットとして有名で、北海道遺産にも選ばれている「しかべ間歇泉(かんけつせん)」の隣には、2016年に開業した道の駅しかべ間歇泉公園があります。指定管理運営会社としてこの道の駅の運営を2019年から担っているのが、(株)シカベンチャーです。
シカベンチャー3人の出会い
(株)シカベンチャーを経営するのは、本州出身の3人。たらこ代表取締役の大関将広さん、たらこ取締役の金山宏樹さん、たらこ財務執行役員の岡澤有紘さん。
むむ、役職の前に「たらこ」?!と思った方も多いことでしょう。鹿部らしさを表す言葉を役職名にプラスする遊び心を感じさせるこの3人は、それぞれ別の事業を経営する社長でもあります。大関さんは宮城県石巻市に本社をおく「株式会社ビッグゲート」を、金山さんは兵庫県淡路島に本社をおく「株式会社シカケ」を、岡澤さんは東京都に本社をおく「株式会社オリザリア」を。
鹿部町長と知り合いだった大関さんは、「鹿部町の道の駅事業に手をあげてみては?」と声をかけていただいたのだといいます。
大関さんはふるさと納税の地域での仕組み作りの事業、金山さんは地域の道の駅を再生・支援する事業、岡澤さんは農林水産業および食品関連企業に特化したコンサルティング・財務管理と、各々違う専門分野のプロフェッショナル。この事業の始まりは、金山さんの道の駅再生についての講演に、大関さんが偶然見にいって出会ったことがきっかけなのだそう。大関さんはそこで道の駅の可能性と、ご自身のふるさと納税事業との相性の良さを感じたといいます。事業を仕掛けていく大関さん、アイディアを形にする金山さん、財務管理で成功率を上げる岡澤さん。この3人は皆、三角形のバランスを保つ欠かせない存在でもあります。
インタビュー当日は、大関さんと金山さんのおふたりにお話を聞きました。
道の駅はビジネスチャンス
大関さんは、地域活性化のプロフェッショナルとして、ふるさと納税の地元利益最大化のための事業スキームをつくり、地元に最大限の還元を行う宮城県石巻市のモデルが地方の活性化につながると考え、『地方創生型ふるさと納税』を提唱。一つでも多くの自治体、一人でも多くの寄附者に伝えるべく奔走されています。
道の駅再生のスペシャリストである金山さんは、淡路島の道の駅にパート入社し、功績が認められ役員になり、年商を4年間で約180%伸ばしたというすごい方です。現在は、全国で5〜6件の道の駅案件を動かしながら、道の駅を再生・持続的な成長に向け現場が自走する仕掛けづくりに関する講演で飛び回っているそう。
左から、たらこ代表取締役の大関さん、たらこ取締役の金山さん
「道の駅って地域で立ち上げるときに反対されやすい事業ですが、講演では、しっかり収益を確保することで地域のためになるんです!というお話を伝えます」と話す金山さん。
収益をあげる道の駅にするため、様々な企画を全国で行っています。ここ鹿部町では、例えば独自商品の開発を行いました。この取り組みは、地域で埋もれていた魅力の掘り起こしにも繋がっています。鹿部町でのキーワードは、「昆布」。北海道では日高昆布、利尻昆布、羅臼昆布などが有名ですが、ここ道南では真昆布が採れます。
「地元の方は、ここの昆布が一番だ、と自信と誇りを持って漁をしている一方で、表に出ているのはたらこやホタテという印象がありました。でも、僕はここの昆布が本当に美味しいものだと感じました。その美味しさを知ってもらいたくて開発したのが、『白口浜真昆布の根昆布だし』です」
今では、道の駅の入り口で看板商品としてズラリと並んでいます。
また、大関さんの専門分野である「ふるさと納税」も、道の駅で管理することにメリットがあるといいます。一つは、電話対応などの事務を東京の会社等に委託すると自治体に入ってくる寄付額はかなり少なくなりますが、その機能を道の駅が持てば大幅な手数料の削減に繋がり、結果市町村が潤うこと。もう一つは、返礼品の魅力的な商品を道の駅で発掘・磨き上げができること。道の駅にこのような機能を持たせて自治体の財源を確保することは、モデルケースとして活用できる部分もあるのではないでしょうか。
「鹿部のふるさと納税額は、2018年1.5億→2019年4.3億に上がりました。ここのように小規模な道の駅の特性上、販売で突如多くの利益率を上げることは中々難しいので、ふるさと納税でご支援いただいたお金を1,000万円以上道の駅のリニューアル費用に活用しました。ふるさと納税で、地域に再投資していくモデルもここで作って実現したいと思っています」
ここ鹿部町で、今後事業拡大するなら?という質問におふたりは、「鹿部で廃業してしまった温泉があるんですが、この施設を活用して何かできればと思っています。ハイシーズンだと日帰りで入浴できる施設がなくなるので、日帰り温泉施設にするのもいいですね。あと、鹿部の旬の海の幸を使いこだわりの料理を提供するレストランや、鹿部の豊かな自然の中でグランピングができる施設なども構想しています」というアイディアがあることを教えてくれました。
これが実現すれば、まさに道の駅の機能が生み出した収益が地域の価値が高める事例となりますね。
鹿部町の若い力!
道の駅しかべ間歇泉公園を語る上で欠かせない存在が、副店長の田中健太郎さんです。ほっと和んでしまうような優しい雰囲気の田中さんは、お客さんを楽しませるエンターテイナーでもあります。
実は田中さん、ここ鹿部町の出身で、「大寿司」というお寿司屋さんがご実家です。小さいときからご両親の姿見て、最初はお店を継ぎたい気持ちがあったそうですが、学生時代は函館高専の機械学科で学びます。CADも使えるという田中さんは、卒業後そのスキルをいかして東京の会社へ就職したのだそう。そこではプログラミングの管理や切削機械の修理などを担当していたそうですが、想像以上に人と接することがない環境に、もっと人と関わる仕事をしたいと思うようになったといいます。
その後、Uターンで鹿部町に戻り、2015年からしかべ間歇泉の案内・管理・清掃などを担当する仕事に就きます。2016年に道の駅ができてからは、店舗スタッフとして勤務することに。2019年に経営がシカベンチャーに変わると、「自分たちも楽しく働き、お客様にも楽しんでもらうことを目指す」という理念に影響を受けながら、自然にご自身の働き方も変わっていったといいます。
「お客さまの視点に立って、お店づくりを考える運営スタイルに引っ張られるように、自分自身の意識も変わっていったんだと思います。普通はお店を『売り場』と呼ぶと思いますが、ここではお客さんの視点に立って『お買い場』と呼んだりと、どこまでもお客さん目線。どうしたらお客さんが『来てよかった』『また来たい』と思ってくれるお店になるか?を考え、実践していくのも楽しいですし、やったことをしっかり評価してくれる環境だと思います」
自分からお客さんに話しかける機会が増え、喜んで帰ってもらえるようになったことが増えたことが一番の変化だったそう。『また来るね』と言ってもらえたり、次第に顔見知りのお客さんも増えたのだといいます。田中さんは、「大阪府の○○さん」「和歌山県の○○さん」と、顔も名前も覚えていて、しかもその方が何度も再訪してくれるといいますから驚いてしまいます。勤務帰りに温泉蒸し場(購入した魚介類などを温泉の熱で蒸して食べることができる場所)に居たお客さんから、こっちで一緒に飲もう!と誘われ、夜まで楽しく話こんでいたというほど慕われる田中さん。柔らかな笑顔からお客さんに愛される理由がうかがえます。
鹿部町出身なんだ!と言ってもらえる町に
鹿部町から出て、函館市や本州で過ごしていた田中さんは、自分の出身地を紹介するときに「鹿部町?」と言われることも数多く経験したのだそう。え!北海道以外ならわかりますが、隣の函館市でもそう言われるんですか?と驚く取材陣に「はい、そういうことも..」と少し切ない回答が。
「僕の夢は、出身地が鹿部町だと言ったら『ああ、あの鹿部町ね!』と反応してもらえる町にすることです。鹿部町といえばコレ、というものがなくても、なんか今盛り上がってるよね、活気があるよね、という印象を持ってもらえるような」
このお話に対しては、大関さんもこんな風に語ってくれました。「若者が集まって頑張っているよね!っていう活気をつくりたいですね。つまるところは、『人』なんだと思います。そういう求心力があれば、外から面白がってくれる人もどんどん集まってきてきてくれることが期待できます。田中くんのように、自ら考えて素直にチャレンジしてくれる人が集まってくれる場をつくって、新しいアイディアや挑戦を続けて、何ができるのかを実験をする場。この道の駅という場は、そんなイメージでもあります」
オンライン来店の取り組みが全国で話題に
新型コロナウィルスの影響で、お店を休まざるをえない期間がこの道の駅にももちろんありました。動けない期間にもお買い物を楽しんでもらいたい、というアイディアから生まれたのが、自宅にいながらまるで実際に買い物をしているかのような体験ができる「オンライン来店」。全国のテレビや新聞にも取り上げられ話題になりました。
流れとしては、まず来店予約をしてもらいます。予約日時になったら、web会議ツールなどを使って、スタッフさんとコミュニケーションをとりながら道の駅の中を見たり、気になる商品に関しての説明を受けられます。
スタッフさんは、お客さんに商品を紹介しながら、気になる商品を聞いたらそこへ向かいます。購入、となればスタッフさんが実際に商品をカゴへ入れてくれるので、本当に買い物している気分が味わえるのだそう。
自分のアバターが思い通りに動いてくれるようなイメージで、自分がここに行きたい、と思ったことが実現する、通販とはひと味違った楽しい体験ができると大変好評だったそうです!
若者が自分に投資できる場に
今後のビジョンについて、大関さん、金山さんはこう話してくれました。
「今は、どんな企業であっても、永久に存続する確証はありません。言われたことだけをやる、我慢して働き続けるような搾取される働き方から視点をかえ、自分に投資する働き方で自身を高めれば、どこへ行っても通用するサバイバル能力がつきます」
この会社だから通用する、というものではなく、自分で考えるスキルがあれば、どこへ行っても武器になる。スタッフさんには、そんな力をここでつけてほしいということなのだそう。
「例えば、僕が今コンビニエンスストアでアルバイトをするなら、この店にどう大行列を作ろうか?と考え実践します。そうしたらアルバイトの立場ではきっといられなくなりますね(笑)」と金山さんは話します。
道の駅にチャレンジしたい人材が集まると、そこから町の活気が生まれます。道の駅をそんな拠点にしたい、そんな壮大な夢をいだき、鹿部町はこれから必ず盛り上がる町ですよ!と確信に満ち、力強く話す(株)シカベンチャーの皆さん。これからの取り組みに、ぜひ注目してみてください!
- 道の駅しかべ間歇泉公園 株式会社シカベンチャー
- 電話
(01372)7-5655
- URL
◇道の駅しかべ間歇泉公園/北海道茅部郡鹿部町字鹿部18番地1
◇株式会社シカベンチャー/北海道茅部郡鹿部町字鹿部15番地5 たらこむBASE