HOME>まちおこしレポート>28才の大学3年生。小さい『できること』を続け、世界を広げた

まちおこしレポート
札幌市

28才の大学3年生。小さい『できること』を続け、世界を広げた20190408

28才の大学3年生。小さい『できること』を続け、世界を広げた

札幌駅からすぐ近く、とあるビルの地下に「穂と葉」という学生向けのコミュニティスペースがあります。「ほっとして、はっとする場所」というところから「穂と葉」という名がつけられたのだとか。

ここを運営しているのは、北海道大学に通う大学3年生の金井直樹さん。大学に入学するためにこの北海道の地に足を踏み入れて7年。...ですが、未だ3年生です。

hotoha2.jpg札幌駅からすぐ。ビルの入り口にあるこのマークが目印です。

何事も続かない大学生活

東京で生まれ育った金井さんは、都内の中高一貫の進学校に通っていました。そこから曲がりくねった道を辿りつつ、ようやく28才にして大学3年生になった金井さんの歩んできた道のりから少しお話させてください。


hotoha.jpgこちらが金井さんです。

進学校故に、90%以上は進学するような環境に身を置いていた金井さんですが、高校時代から将来的に起業したいという想いを抱えており、「大学は就職するために行く場所」と認識していました。
しかし、予備校や塾に行かずにどこまで行けるのか自分の力を確かめてみたいと自身に挑戦を課してみることに。せっかく目指すのであれば日本の最高峰とも名高い東京大学を目指そうとするのですが、結果は一歩及ばず...。

その後浪人をして、国際基督教大学(※以下ICU)に入学したものの、入部したバスケ部の活動が毎日楽しく、気付けば部活をするために大学へ行くような日常に。そんな中、就活シーズンともなると部活の先輩方の「内定が出た」「何社受けた」などという話を聞いていく中で、「自分は起業したいのだから、そのためには早く社会に出なければ」という想いが湧いてきたと言います。そこで、一度社会に出てみようと大学を休学。とある不動産会社でインターンシップとして働き始めました。

hotoha11.jpg

それが2011年1月頃。そこから2カ月経った、3月11日。東日本大震災がありました。

不動産会社ということもあり、この時多くの物件を失いました。海外のお客さまも多く、みな日本を離れ空き物件が増えていきました。一瞬で仕事がなくなるこの状況を目の当たりにしたことも大きく、さらに以前から胸に秘めていた「起業」をするのであれば自分自身に力をつけること、専門的なことを学ぶ必要があると考え、再び大学へ戻ることを決意。

専門性のある学び、ということでICUを退学し別の大学で「理系」を学ぼうと考えたのですが、この時すでにセンター試験の申し込みが過ぎていたため国立は一度諦め、1年間だけあえて理系以外の勉強をしてみようと早稲田大学に入学し、政治を学ぶ道を選びます。その後「理系」を目指すべくセンター試験を受け、北海道大学の工学部に入学が決まり北海道の地に足を踏み入れたというわけです。この時すでに23才になる年。まわりの同級生が、社会人になろうとしている時に、金井さんは未だ大学1年生でした。

北海道に来てからは音楽のサークルに入り楽器の演奏に夢中。バスケに夢中になっていた時と同様、次第に授業にも行かなくなりここで初めての留年。いつしか音楽の道へと進み、日本中をまわって生きてみたい...と夢を抱くも、その夢も長くは続きませんでした。

hotoha12.jpgライブの様子。

何もかも、なかなか続かない金井さん。

そんな時、ICU時代の友人から「札幌でゲストハウスをつくろうと思っている」と声をかけられ、少しだけお手伝いに足を運んでみると、同級生が頑張っている姿に胸を打たれました。それが金井さんの頑張る原動力となり、2年生になんとか進級。ここに来て人生初めての大学2年生です。しかし、この時ICUの同級生をはじめ、友人たちがどんどん社会で活躍していることに気がつきました。高校卒業後に浪人した友人もいましたが、そんな彼らももはや医学部を出て研修医として奮闘していたり、まわりがバリバリ活躍している姿を見て、自分だけが取り残されているような、そんな感覚に陥りました。

「25才になってもまだやりたいことが分からない自分に、病んでしまったんです。気付けば家に籠もるようになりました」


もう、金井さんの元気は底を突いていました。

一度落ちるところまで落ち込みましたが、それでも再び金井さんは立ち上がります。
「自分はやりたいことを見つけることができないんだ。もうやりたいことを探すのをやめよう」そう腹をくくり、目の前のことを頑張ってみようと、もう一度「大学生の自分」と向き合うことに決めました。もうこれ以上、中途半端になってはいけないと自分を戒めるように、授業中は一番前の席に座り、先生に積極的に質問をしました。授業のあとは図書館にも行き、金井さんが思い描く「勉強ができる奴」になりきったのです。そうすると学力も自然とついてきて、自信へと繋がっていきました。

こんな自分だからこそ出来ること

ある日「こんなにまわり道をしてきた人って、日本中にそんなにいないのでは?」とふと気がついた金井さん。同時に、「もしかしたら自分の経験が、誰かを救えるかもしれない」とも思いつきました。

こうして、2016年の年末に初めて「留年生が留年生を応援する学生団体」というものを発足。

hotoha8.jpg「留年生一緒に頑張ろうの会」と称してイベントを開催。

「そこで気づいたんです。みんな自分のことを話したいんだって。思えばサークルで毎日一緒にいた仲間ですら、何を考えているのかなんて知らなかったんです。将来何をしたいかなんて聞いたこともなかった」
そのうち、もっとこういう場所をつくっていきたいと思うようになりました。

ある日とあるイベントに参加し、池田親生(いけだ ちかお)さんという竹あかり演出家の方と出会った金井さん。肩書きだけ聞くと「芸術家っぽい人なのかな」と最初は想像したそうですが、話してみると「とってもうるさい人(笑)」と笑います。

「ただ、この人のスゴイところは、その場全体の雰囲気をワッと盛り上げちゃう人。しかも、そこにいる他の参加者の良さを引きだしてくれるんです。僕が『留年生を応援する活動をしている』って言うと『めちゃめちゃ面白いじゃん!』ってすごく応援してくれたんですよね。そう言ってもらえてすごく嬉しくて。こういう人になりたいって思いましたね」

この出会いが、金井さんに一気にエンジンをかけました。

人と人とを繋ぐ役目を担う

hotoha10.jpg


その後は年に50回程イベントを企画するようになりました。

最初は留年生向けのイベントを作っていましたが、留年生以外の学生も参加してくれるようになり、一般の学生・高 校生も参加できるイベントを始めたり、地域に関わるイベントや、教育関連のイベントなど、みんなの感心のあることを引きだして一緒にイベントをつくろうというスタイルで企画・実行してきました。

「あの子とあの子が出会えば、あんなことが生まれるんじゃないかとか、人と人とを繋げたいと思いました。イベントに行く勇気がない、でも頑張って来てくれたって人の気持ちも分かるからこそ、イベントの雰囲気づくりは真剣にしています」
いかにみんなの緊張をほぐせるか、いつも金井さんはそこを真剣に考えています。
「元気な子は、僕が何かしなくても大丈夫。そこまで何かを見つけられない子たちに届けたいんです。100人元気な人がより元気になるよりも、元気のない1人が元気になってくれた方が嬉しいんですよね」

簡単にごはんが食べられるところをつくってみよう

hotoha9.jpg


そして次第に「イベントじゃないことをしよう」と考え始めました。ごはんを食べたり、お酒を飲んだりの延長で何かきっかけをつくることは出来ないだろうか...「友達を連れて一緒にごはん食べに来てみたら面白い人がいたよ」それくらい軽い場所をつくろうと思ったのです。

場所も運良く札幌駅すぐの好立地を見つけました。さらには、以前にスナックだった場所ということもあって居抜きで入ることができました。こうして2018年2月に学生向けのコミュニティスペース「穂と葉」が誕生したのでした。

hotoha3.jpg営業許可書もばっちり。店内は白のしっくいを塗り、レンガの壁紙を自身で貼ったそう。

提供されるごはんに関しても、金井さんがキッチンのアルバイトをしていた経験からみんなのリクエストにあわせてつくっているのだとか。

「ただ、あんまりいい話じゃないところでいうと飲食店としてはうまくいってないんです」と本音もポロリ。
「飲食店をやりたかったわけでもないし、来る人にとって何の場所なの?ってところが決まり切らなかったんです。イベントに行きづらい子が来てほしいって環境をつくりたかったけど、まだそれを達成できていないのを感じています」

お店を畳もうかなと考えたこともあると言います。
「赤字ですし、うまくいかないし、何をしたらいいんだろう?って悩みました。学生がつくる〆パフェ屋として売り出したら、人が来るんじゃないかって考えたり(笑)。でも我に返ってこれがうまくったところでそれがやりたいことか?と問われると違うんですよね。誰のための、何のための価値を生み出したいのか?と改めて考えてみたんです」

もっとパワーアップした場所をつくる

hotoha6.jpgお店の中には色んな本もずらり。


「なんで人が来ないんだろうって思った時、この場に来た人たちに役割がないからだって仮説を立ててみたんです」。

そこで、ごはんを食べに来て、誰かの話を聞いて帰るのではなく「自分でごはんをつくって、話して、帰る」という、受け手とは違う立場に立ってもらいたいという答えに行き着きました。それはまさに、価値を受け取るのではなく、自分が価値をつくれるという喜びを経験してもらいたいという想い。

だからこそ、この穂と葉という場所は自分の持っているスキルや好きなことを発揮できる場にしようとしました。まだ自信がない子も、何か活動をしている子たちの手伝いをするところから始めてみたり、互いに育て合う環境をつくりたいのです。

穂と葉という場所は、誰もがチャレンジできる場所。

hotoha5.jpg札幌大通高校に通う女の子が描いてくれた金井さん。

赤字で、経営も厳しかった日々。

でも金井さんは「お金はなくなったけど、見えない資産は貯められた」と笑顔。今では札幌の多くの学生に頼りにされている様子です。「今後は学生だけじゃなくて色んな方に来てもらいたいなって思っています」と語ります。

特に、これからはさらにパワーアップを図っていく予定。そのため、2019年は内装のリニューアルの他、営業スタイルも見直しをかけました。
今後は平日夕方17:00〜19:00は高校生が運営するカフェタイムとして、高校生はなんとドリンク無料。この時間帯は高校生がメインでお店に立ち、高校生のドリンク代は、大学生以上の大人たちからの売上からまかないます。
その代わり、どんな高校生が来ているかとかが分かるように、ノートに高校生からメッセージを書いたり、写真を残したりして、大人たちが見られるようにする予定。

2019年2月で一周年。これからも二周年に向けてさらに多くの人たちを巻き込んでいくことでしょう。高校生、大学生とが集まり何かを生み出す素敵な場所。ここでの勢いある灯火が、若者たちの情熱によって燃え続けますように。

hotoha4.jpgバーカウンターの中に入って金井さんのニッコリ笑顔の一枚。

学生リビング 穂と葉ーほっとして、はっとする場所
住所

北海道札幌市中央区北5条西6丁目1-23北海道通信ビルB1F

URL

http://hotoha.com


28才の大学3年生。小さい『できること』を続け、世界を広げた

この記事は2019年1月22日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。