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元国税マンが、北海道の鶴居村役場職員に異色の転身!20190318

この記事は2019年3月18日に公開した情報です。

元国税マンが、北海道の鶴居村役場職員に異色の転身!

釧路市から車で北へ約30分。走っていると、タンチョウの一家が飛ぶ姿が見えます。特別天然記念物であるタンチョウの生息・繁殖地で、「日本で最も美しい村連合」にも加盟している鶴居村。人口は約2,500人で総務省から過疎地域に指定された自治体であるが、高校生までの医療費は無料で福祉が充実した村でもあります。近年は、本州方面からの移住者も増えているという鶴居村役場に、移住組のスゴイ職員がいるという噂を聞き、訪問してみました。

第一線の国家公務員から、人生を見つめ直し転職へ

その人は、林政係と商工観光係を兼務する和田彰さん。屈託のない笑顔と話しやすそうな雰囲気の好青年です。「林政係では鳥獣被害対策事業として、エゾシカ用の囲い罠を仕掛けてます」という和田さんの前職は、東京国税局の職員。東京出身で茨城育ち。大学院修士課程を修了して入局した東京国税局では、企業の税務調査などを担当していたそう。

順風満帆な国家公務員の仕事を辞めて、なぜ縁もゆかりもない鶴居村へ?

「国税時代は、業務が多忙であったなどの理由から、家族との時間をあまり確保することができませんでした。そんな中、妻が二人目の子を妊娠している時に体調が思わしくなく、私が上の子を保育園に連れて行ったりすることが増える中で、『人生このままでいいのかな?』と考えるきっかけになりました。そこで、妻と話し合う中で、転職しようか? という話になったんです」

wada_02.jpg人生の大きな決断をし鶴居村に移住した和田彰さん。

子どもの頃に訪れた大好きな北海道へ移住を決意!

北海道への憧れも強かったという和田さん。北海道にはたびたび旅行に訪れており、結婚式と新婚旅行も北海道という、相当な北海道フリーク。

「小学生の時に、普段は忙しくて一緒に遊ぶこともできなかった父が、10日くらい休みを取ってくれて、私と二人で北海道一周旅行に連れて行ってくれたんです。その思い出が強く印象に残り、それ以来北海道が大好きになり、いつか移住したいと夢を抱いていました」

そして「大学院では地方自治の研究をしていたので、市町村職員として働きたいという思いもありました。ずっと東京で働いてきたので、どうせ北海道に移住するのなら都市部より田舎がいいと思ったというのもあります」と和田さんは続けます。道内の役場の社会人採用枠は限られていますが、ちょうど鶴居村で募集があり、調べてみると「いいところじゃん!」と思い、試験を受けて採用に。

2017年4月、和田さんが31歳の時に鶴居村での生活がスタートしました。

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林道に魅せられ、観光資源に結びつけた新提案を

担当になった林政係の仕事は全く初めての分野で、テキストを読み込みながらのスタートでした。しかし、それまで毎日満員電車に揺られていたのが、通勤は徒歩に。しかも釧路市街地にも気軽に出られるという好立地で、快適な生活を送れていると和田さん。そしてさらに和田さんを感動させたのが、仕事中に訪れる林道の景色でした。

「市街地のすぐ近くに山があり、村の至るところに林道が張り巡らされています。その林道の景色が、私にはとても魅力的に映りました。森林の中を歩くのが心地よく、砂利道というのも新鮮でした。すっかり林道が気に入り、休日には自分の子どもを歩かせたり、両親が遊びに来た時も案内していました」

wada_13.JPGこちらが和田さんの心を動かした林道の景色です。

そんな林道ですが、観光客にとってはどこにあるのか、入ってもよいのかもわからない場所。和田さんは「きちんと案内すれば、観光資源として活かせるんじゃないか?」と思うようになります。そこで早速上司に提案。「えっ、林道を観光に?」と最初は半信半疑だったという上司。

「もちろん、根拠のない提案は認められませんが、しっかり理由を話せば耳を傾けてもらえるのがうちの役場の良いところ。観光客視点で、林道のここが素晴らしい、こういう使い方ができるという提案をさせてもらいました」

wada_04.jpg職員同士いろんな意見を言い合える環境とのこと。

観光協会の事務局長の賛同も得られ、2018年10月に「林道探検モニターツアー」が実現しました。主催は鶴居村農泊推進協議会。村では農家に泊まり農業体験などを通してゆったり過ごす農泊を進めており、その一環としてのツアーに。発案者である和田さんも、森林組合の職員や道職員の協力を得ながら、ガイドとして携わりました。

当日は、村内や周辺地域、そして道外からも合わせて約30名が参加。近隣に住む人で、林道に馴染みのある人からは「こんな使い方もあるんだ」と感心した声が。一方、近くに住んでいても初めて林道を歩いたという人も多く、「こんなところもあるんだ、来てよかった」と評判も上々でした。

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「村を良くしたい」という思いを受け止めてくれる職場

和田さんの携わる業務は、森林整備の推進や林道の整備、鳥獣の農林業被害対策、商工観光業務など、小さな役場ゆえに多様な仕事をこなしています。

「鶴居はとても良い村ですが、こうなったらいいなと思うところがまだまだあります。新しいアイデアを思いついたら、どんどん提案しています」と和田さんは無邪気な少年のような瞳で語ってくれます。

例えば、これまで毎年開催してきた植樹祭において桜を植えていたものの、その後の管理が十分に行き届かず、木が育つ環境としては限界がありました。そこで、植えた桜を移植することによって桜通りを作ったり、病気の治療や剪定、施肥などを行い、大きくなるまで育樹する計画を提案し、2018年度から採用。

wada_08.jpg鶴居村という村名は国の特別天然記念物タンチョウの生息・繁殖地であることから名付けられています。

割り振られた仕事だけでも多岐にわたるのに、新しい提案まで。そのモチベーションはどこから来るのでしょうか?

「大学院時代、地方がもっと良くなるといいなという思いで研究をしていました。鶴居村を受ける面接の時も、『外との交流を増やし、多くの人が出入りすることで活気のある村にしたい』と話しましたし、実際にそんな仕事に携わりたいと今も思っています。やるべきことをやり、その上で新しいことを見つけ、提案していきたいですね」

そして、その提案を受け止めてくれる役場組織にも感謝しているといいます。

「大きな組織ならこうはいかないですよね。本当に、鶴居村の懐の深さを感じます」

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住民の懐に入り込み、鶴居ライフを満喫!

そんな中、役場の中だけでなく、森林組合や道の職員、農家の人とも親しくなり、交流も楽しんでいるといいます。その人脈づくりのうまさはもともと?

「確かに飲みに行くのは好きで、『飲みますか!』と気軽に人を誘いますね。鶴居では、職場の同僚をはじめ周囲の方が優しく接してくれたので、来て早々に生活環境に馴染むことができました」

鶴居に来て驚いたのは、バーベキューを頻繁にすることだったとか。

「東京にいた時は、せいぜい年に1回くらい。それがこっちに来て、年に20回くらいは誘ってもらいましたね。そして、バーナーで炭を起こしているのも見てびっくりしました。東京では、業者が用意したものを使っていましたから」と、カルチャーショックを受けつつ、鶴居ライフを楽しんでいるようです。

wada_07.jpgポーズのリクエストにもみなさん笑顔で応えてくれました!

経験を生かしながら、村の困りごとを解決していく

和田さんをよく知る鶴居村森林組合の門間孝厳さん曰く、和田さんは「良い意味で人たらし。積極的に話して関わりを楽しみながら、仕事の面でも良い方向に向かわせる能力がある人です」と一目置いています。

「どうすれば村が良くなるかをいつも考えていますね。森林組合が管理しているおが粉製造工場が劣化しているのを知った時も該当する事業を探してきて、補修してくれました。こちらからお願いする前に提案してくれる、いわゆる公務員っぽくないタイプですね」

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そんな和田さんから見て、今取り組むべき課題はどんなことでしょうか? 尋ねてみると、元国税マンらしい答えが返ってきました。

「これまでの地方公共団体における会計は、単式簿記による現金主義会計を採用しており、民間の複式簿記による発生主義会計と違い、資産や負債の実態がつかみにくい状況でした。そのため、今後は、将来的にかかるコストや問題点など、企業会計の考え方を持ちながら業務に携わっていきたいと思います」

他の役場職員にない異色の経験を生かして、臆せずに前例のないことも次々に提案する。ひいてはこれまでにない視点で、将来ビジョンも展開。ともすれば、「出る杭は打たれる」のでは、と思ってしまいますが、和田さんの場合は、頭が出るのではなく、どんどん懐に入り込むスタイル。また、それを支えてくれる鶴居村の人達がいるからこそ、伸び伸びと仕事も生活も楽しんでいるのでしょう。

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鶴居村役場
住所

北海道阿寒郡鶴居村鶴居西1-1

電話

0154-64-2114

URL

http://www.vill.tsurui.lg.jp


元国税マンが、北海道の鶴居村役場職員に異色の転身!

この記事は2019年1月30日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。