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まちおこしレポート
深川市

深川の果樹の未来を見つめる、シードルの造り手。20181203

深川の果樹の未来を見つめる、シードルの造り手。

北海道でりんごの産地といえば? と尋ねられると、パッと思いつくのは余市町や壮瞥町、七飯町ではないでしょうか? けれど、実はココ深川市も明治時代から続く歴史のある果樹生産地で、りんごも特産品の一つです。この地域資源を活用しようと生まれたのが、りんごの発泡酒「ふかがわシードル」。平成19年から商品化に向けて試行錯誤を重ね、3年ほど前から「アップルランド山の駅おとえ」にて醸造を開始しました。その造り手の一人が上平啓太さん。数奇な巡り合わせの末、このまちで酒造りという天職を見つけた移住者です。

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地域おこし協力隊を目指して北海道に渡ったけれど...?

上平さんのご出身は神奈川県相模原市。大学時代は毎年のように北海道旅行に出かけるだけでなく、イベント会社のアルバイトスタッフとしても札幌で仕事をするほど「北海道フリーク」でした。一体どんなところがお気に入りだったのでしょう?

「空気が肌に合っていて、食べ物もおいしい...というのは普通ですが、冬こそ快適なところも魅力。関東に比べて住宅の断熱がシッカリしているので、全然寒いと感じないんです。ストーブを点ければ、冬でもTシャツに短パン姿でアイスが食べられますからね(笑)」

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まるで生粋の道産子のように冬の過ごし方を心得ていますね。そんな上平さんは、いつか北海道の田舎町で暮らしたいと漠然としたあこがれを抱きながらも、一歩を踏み出せずの状態でした。当時は地方に移住する道のりがきちんと整備されているとはいえず、まず仕事を決めてから暮らし始めなければならないという点が壁になっていたのです。

「僕は農業にも興味がありましたが、新規就農にはパートナーが欠かせなかったり、大きな資金も必要だったり、現実的にはなかなか厳しいものがありました。かといって、仕事がなければ食べていけないのも現実。北海道を旅行で訪れるたびに、コンビニで道内の求人誌『ジョブキタ』を買って眺めたりしていました(笑)」

appleland_4.jpg「アップルランド山の駅おとえ」に隣接する小高い丘。ここで育てられているブルーベリーは自由にもいで食べて良いのだとか。

ところが、6年ほど前に上平さんに転機が訪れます。たまたま目にした求人情報に「地域おこし協力隊」なる言葉が躍っていました。内容は道内のとあるまちに設置される道の駅の整備にあたり、3年間の研修の後に観光コンシェルジュとして働くというもの。上平さんは北海道への移住に具体的な道筋を見出し、さっそく応募することを決めました。

「でも、残念ながらその募集では採用に至りませんでした。別のまちの地域おこし協力隊として働けるかもしれないと聞き、2012年に思い切って札幌に出てきたんですが、すれ違いが起きたりもして思い通りにコトは運ばず。北海道に来たものの、どうしたら良いんだろう状態(笑)。しばらくは札幌で立ち止まっていました」

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思いがピッタリ重なった、深川の地域おこし協力隊。

田舎暮らしを求めて北海道に渡ってきたにも関わらず、現実は都会の札幌市に留まらざるを得ない状況。とはいえ、いつまでも立ち止まっているわけにいかず、まずは安定した収入と専門的なスキルの習得を目指して、プログラミングの職業訓練を受けることにしました。

「内地へ戻るつもりはまったくなかったので、まずは生活の基盤を札幌に作ろう...と。そして、いずれ道内の地方へ移住する機会が訪れた時に備えて、どこへ行っても食いっぱぐれないように、具体的な強みを身につけておこうと思いました。職業訓練は2014年9月までのコース。7月ごろから就活を進め、なんとか札幌のIT企業から内々定も出てほっとしていたところ、深川の地域おこし協力隊の求人募集を見つけたんです」

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そのミッションは、深川市特産のりんごを使ったシードル造りを「アップルランド山の駅おとえ」の醸造所で3年間学び、その後も同じ仕事を続けることでした。上平さんは、兼ねてから地域おこし協力隊として働くなら、その地域で替えの効かないような専門スキルを持った人材として、移住先に貢献できるような存在を目指したいと思っていたとか。まさに願ったり叶ったりの条件ですね。

「北海道での新規就農を考えていた時は、観光果樹園をやりたいと思っていたんです。その時は断念しましたが、まさか北海道で果樹に関われる地域おこし協力隊の仕事があるとは。今から思い返しても、タイミングといい、内容といい、これだけ自分のイメージとぴったり合致するなんて奇跡というほかありません」

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吟醸酒の醸造法を応用した、型破りなシードル造り。

無事に深川市の地域おこし協力隊として採用された上平さん。「アップルランド山の駅おとえ」の醸造所に勤務し、シードルづくりをイチから学びました。ところで、一体誰から教わったの?

「ウチの醸造責任者でもある師匠の西さん。道内で日本酒の杜氏(とうじ/日本酒造りの醸造責任者)として活躍したり、ワイン醸造家としても腕を振るったり、あの有名なしそ焼酎『鍛高譚(たんたかたん)』の開発も手がけたスゴい経歴の持ち主なんですよ。おいしい酒の造り方から、酒造りを事業として軌道に乗せるために大事なノウハウまで、すべてを教えていただいています」

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上平さんは地域おこし協力隊として3年間働いた後、「ふかがわシードル」の醸造元の深川振興公社に所属して引き続きシードルをつくっています。ココで気になるのはおいしさのヒミツ。商品の特徴は「スッキリとしていて香り高い味わい」とのことで、教科書通りの果実酒醸造とはひと味違った工夫を施しているそうです。それは師匠が得意とする日本酒の吟醸酒造りの手法。う〜ん...もう少しだけ具体的に教えて!

「酵母は生き物ですから、りんご果汁に含まれる糖分をアルコール発酵させることでエネルギーを得ています。けれど、厳しい環境に置かれると、アルコール発酵だけでは生きていくために必要なエネルギーを満たせなくなるんです。すると、酵母はふだん使わない別の経路を働かせてエネルギーを確保しようとし、その際に副産物としてフルーティーな香りの成分を生み出します。これが日本酒の吟醸酒で『吟醸香』と呼ばれている香り。ウチの酒では果実そのものの香りに加えて、この『吟醸香』を発酵中に閉じ込めようとしています。そのために、非常に低い温度で発酵させたり、香りを阻害するもととなる芯や種などを手作業で取り除いたりと、工夫を凝らして造っています」

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何とも手間ひまをかけて一本のシードルが仕込まれていることが分かります。年間の工程としては10月にりんごが収穫されると果汁を搾るところから始め、並行して醸造も進めていきます。密閉したタンクで数週間にわたり成分分析を重ねながら、精密な温度管理を行って低温でゆっくりと醸した後、発酵を終えた酵母を濾過して瓶詰めするのが一連の流れです。

appleland_10.jpg数量の少ないロットの場合はラベルを手で貼りつけることも。瓶詰めは手作業を交えながら半自動の機械を使っています。

深川を果樹産地のマチとして盛り上げるのも使命!

「ふかがわシードル」の売れ行きは好調。今までは深川市内のりんごを使った酒造りのみが認められる「ふかがわ果実酒特区」としての限定免許で醸造していましたが、厳しい基準をクリアしたことで、平成30年3月に晴れて制限なしの永久免許が交付されました。この8月にはさっそく深川の洋梨を使った果実酒をリリース。はた目には順調そうに見えますが、上平さんの胸の内にはこんな不安もありました。

「かつての深川は果樹産地としても栄えていたそうで、昭和20年代の記録によればりんご農家だけでも400軒以上、昭和40年の記録でもりんごの栽培面積は200ヘクタールに及んだと書かれていました。ところが、今はりんご農家は13軒ほどにまで減ってしまい、さらに少なくなってしまう見込みです。おいしい果実酒を造り続けるためには、高品質な原料の確保は絶対に必要。原料となるりんごの確保へ向けてシードル用の果樹園地を整備していますが、単に酒造りだけを目的にしてしまうと、『なぜ果樹農家の減り続ける深川でシードルを造らなければならないの?』という問いを向けられた時に、答えに窮するのではないかという懸念もあります。地元の特産品というからには、まちの知名度をアップさせることはもちろん、深川産のくだもののおいしさを広めたり、傷物を活用して果樹農家の方の収益を底上げしたり、果樹産地としての深川を守り継ぐことも使命の一つだと思うからです」

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上平さんは、移住を考え始めた当初は道北や道東の広大な大地にあこがれ、空知エリアは候補にすら挙がらなかったと本音を語ります。けれど、深川に暮らしてみることで考えがガラリと変わりました。ふだんの買い物は市内で済ませられ、旭川や札幌といった都会にも足を運びやすい立地でありながら、農業のマチののどかな雰囲気を味わえるところに心底惚れ込んでいると語気を強めます。

「僕としては、酒造りの仕事は創意工夫の機会に富んでいてとても楽しく、やりがいを感じています。できればこのまちにしっかりと根を張り、この仕事で生きていきたい。そのためには、事業としてきちんと成り立たせる必要もありますし、果樹産地としての深川をもっと盛り上げていかなければいけません。地元産のくだものを加工し、深川の地名を冠した名称の高品質の酒を丁寧に造り続けることが、果樹産地としてのブランドを高めることにつながると信じています」

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その言葉を後押しするように、8月末には「ふかがわシードル」が「第二回 フジ・シードル・チャレンジ 2018」で最高位の「トロフィー賞」のほか、「金賞」と「ベスト・ヴァリュー賞」まで受賞。1997年から続く国内最大規模のワインコンテスト「ジャパン・ワイン・チャレンジ」に併せて行われたシードルのコンテストで、今回はフランスやオーストラリアといった国内外の50の銘柄が出品されたそうです。その中からチャンピオンに輝くとは、深川の果樹が盛り上がっていく第一歩になりそうですね。

「温暖化による気候変動の影響で、北海道はこの先どんどん、りんごや醸造用ぶどうといった果実の栽培に適した環境になるといわれています。そんな中で『果樹産地としての深川』の名が知られていけば、いずれ新規就農者向けの果樹の研修ほ場や果実酒造りの醸造研修所を整え、担い手を増やすということも不可能ではないはず。単にシードルを造り続けるというだけでなく、この事業をいかに深川の未来へ活かしていくべきなのか、20年、30年後を見据えた長期ビジョンをマチとも共有していきたいですね」

株式会社深川振興公社 アップルランド山の駅おとえ
株式会社深川振興公社 アップルランド山の駅おとえ
住所

北海道深川市音江町字音江589番地28

電話

0164-25-1900

URL

https://www.city.fukagawa.lg.jp/kankou/pages2/avv74500000025hy.html


深川の果樹の未来を見つめる、シードルの造り手。

この記事は2018年8月8日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。