老舗書店三代目がまちづくり会社を設立。
2月中旬、網走市内にあるふ頭。キシシ、キシシ、キシシ。耳を澄ますと流氷が静かにぶつかり合う不思議な音が聞こえてきました。自然が織りなす圧巻の風景に目も心も奪われボンヤリしていると、あっという間に取材時刻に。慌てて網走中央商店街にクルマを走らせ、待ち合わせ場所の「まちなか交流プラザ」の扉を開けました。「待ってましたよ」。声をかけてくれたのは田中雄一さん。網走中央商店街に100年近くの歴史を持つ「フジヤ書店」の三代目であり、商店街振興組合の理事長でもあります。何やら昨年11月には「株式会社まちなか網走」なるまちづくり会社も立ち上げたとか。
マチナカの空洞と空き店舗の活用が商店街の課題。
田中さんに商店街を案内してもらったところ、失礼ながら「意外とシャッターが下りていない」という印象。魚屋さんや肉屋さん、靴屋さんに洋服屋さんと、ふだん使いの買い物には困らないような気がします。
「そう見えますか?だけど、ほら、あそこに大きな空き地がありますよね。実は、もともと4階建ての大型スーパーがあったんですが、平成21年に撤退しちゃいまして。この商店街の賑わいを担う中心的な存在だったので、それから客足が徐々に離れ、ポツリポツリと空き店舗が出始めてきたんです」
マチのど真ん中に生まれてしまった空白の土地。徐々に目立ち始めた空き店舗。その活用方法を考え、かつての賑わいを取り戻すのが商店街振興組合の急務でした。
「スーパーの跡地は、全国の味覚が楽しめる『あばしり七福神まつり』や新鮮な野菜が集まる『朝市』を開くなど、イベントの強化に活かしてきました。市民や観光客の方もそれなりに集まってもらえるようになったんですが、空き店舗が目に入るとどうしても寂しく映ってしまいます」
田中さんが思い描いたのは、空き店舗で起業してくれる人を募るプラン。とはいえ、商店街のお店を一軒一軒訪ねて代表者の意見をうかがい、さらに総会を開いて意思決定を図るのではどうしてもスピード感に欠けてしまいます。
「最近は、各地でまちづくり会社が活躍しているという情報も耳にしていました。中心市街地の活性化を進める主体的な役割を果たすこのスタイルなら、モノゴトをスピーディに進められそうだと考え、昨年11月に『株式会社まちなか網走』を立ち上げたんです」
ふるさと納税は網走中央商店街のファンづくりに。
網走のまちはオホーツク振興局もあり、大手企業の支店も多いことから、転勤というカタチであれ、人が移住してくる要素が古くからありました。とはいえ、ここ最近はじわりじわりと人口減の波が押し寄せ、消費や納税額も下降気味だとか。田中さんも、移住者が増えてほしいという思いを胸中に抱いてはいるものの、その道のりは平坦ではないことも重々承知しています。
「僕は網走に住まずとも、このまちを応援してくれる人を増やすのが先決だと考えています。いわゆる関係人口の裾野を広げることで観光やショッピングに足を運んでくれる人が現れ、市が進める『おためし暮らし』にトライ。そうしてようやく移住につながるのかな...と。なので、今はファンづくりを進めるための情報発信に力を入れています」
網走中央商店街の「さかなの金川」代表と笑顔でおしゃべり中。
田中さんがファン獲得のツールとして目を付けたのがふるさと納税。地元のまちづくり会社がオススメする網走中央商店街の一品として、各店の水産加工品やお菓子、あばしりポークといった返礼品が手に入るWebサイト「アバマチ」をリリースしました。
「商店街も高齢化が進んでいるので、メールのやりとりや事業所登録といったPCを使った作業が難しいといわれました。だったら、僕が代行して各店舗の売上や市の納税に貢献しようと思ったんです。ふるさと納税のしくみだけでなく、商店街のPRになるよう直接購入も可能なサイト構成に仕上げました」
とはいえ、田中さん自身もITスキルに堪能というワケではないそう。「フェイスブックやインスタグラムを活用するくらいしかPR手法が思いつかないので、若い世代のアイデアを商店街の賑わいづくりに生かしてほしいなぁ」とつぶやきます。網走の地域おこし協力隊では、株式会社まちなか網走をサポートする人材を探しているとか。ご興味があれば、ぜひチェックしてみてください。
「アバマチ」内では「さかなの金川」の商品も買い求められます。
助け合っているから、生き残っていける。
一方で、田中さんは空き店舗の活用方法も模索中。今のところは商店街の空き店舗を見て回るツアーを手がけたり、札幌の人気カフェ店オーナーを招いた「まちなかカフェ講座」を開いたり、起業家を募るための取り組みに奔走しています。
「網走市でも、『網走市商店街空き店舗活用事業補助制度』として新規開業する人へのサポートを行っています。店舗改修費補助金(上限100万円)や1年間の家賃補助金(店舗賃借料2分の1以内)など、起業には手厚いまちではないでしょうか」
中には空き店舗でコミュニティカフェを開きたいと、経営相談に訪れる若者もいたのだとか。田中さんは1日にどれくらいの集客が見込め、いくら稼げば食べていけるといったリアルな数字を交えてアドバイスしました。商店街で起業したものの、思い描いていたビジネスプランにならない...そんなミスマッチを防ぎ、できる限り長く商売を続けてほしいとの思いから助言にも自ずと力が入ります。
「ココの商店街って助け合いの気持ちが強い...というよりも、助け合ってきたからこそ生き残ってこられたんです。僕も大学進学で上京し、父の『店を継いでくれ』という言葉から、どこか気楽にUターンしました。それでも食べていけたのは、商店街の絆や昔ながらのお客さん、人と人とのつながりがお店を支えてくれたからです」
「シューズプラザキタノ」の店主は商店街の中でも最年少!
だからこそ、外からの移住者や若い人が商店街で起業する時は、店舗オーナーとの家賃交渉を筆頭に全力でサポートしたいと語気を強めます。株式会社まちなか網走が立ち上がってからわずか3カ月。空き店舗でビジネスを始めたケースはまだありませんが、田中さんのこの温かく誠実な表情を見ていると、成功事例となる若き起業家が現れることを確信しました。
- 株式会社まちなか網走
- 住所
北海道網走市南4条西1丁目
- 電話
0152-44-5546
- URL