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まちおこしレポート
豊富町

豊富温泉に惚れ込んで旅館の女将になった女性の物語20180226

豊富温泉に惚れ込んで旅館の女将になった女性の物語

湯治の聖地、油を含んだ温泉

豊富町は北海道でも道北に位置する人口4,000人弱のまちです。「豊富牛乳」という名前を聞いたことがあるという方もいるかもしれません。そんな酪農が盛んなまち、豊富町のもう一つの名物が温泉だということはご存知でしょうか?

豊富温泉は世界的にも珍しい、油を含んだ泉質の温泉。実際に温泉に入ると、独特の石油のような匂いが感じられ、お湯の表面には油分が浮いているのを見ることができます。豊富温泉は大正時代に発見されてからその独特の泉質が「火傷に効く」「皮膚病に効く」として長く湯治場として利用されてきました。今はアトピーなどの皮膚炎に効果があることが分かり、多くの方がこの豊富温泉に療養に訪れています。

kawashima_ryokan2.jpg今回のくらしごとの舞台、川島旅館の中。温泉へと向かう廊下です。

豊富温泉の温泉街の中でも最近注目を浴びている旅館があります。それが昭和2年に創業した歴史ある旅館、「川島旅館」。そして今回取材をさせていただいたのが、この旅館を切り盛りし料理長も務める川島旅館の三代目、松本康宏さんとその奥様であり、女将である美穂さんです。

kawashima_ryokan3.jpg松本康宏さん、美穗さんです。

若き三代目が作る「湯あがり温泉プリン」が注目を集め、2016年には古かった旅館を新築し、ますます多くの方が足を運ぶようになったこの川島旅館はとってもおしゃれでアットホームな雰囲気が広がっています。

kawashima_ryokan4.jpgこちらが話題の湯上がりプリン。様々な味があります。

さらに長期滞在に来るお客様にも嬉しい料金体系やお部屋のスタイル、そしてアトピー療養の方に配慮した添加物に気を配ったお料理は女性はもちろん、訪れるどんな方にも嬉しい心遣いがあふれた旅館です。
なんと女将の美穂さんは「この温泉が好きで毎日入りたくてお嫁に来た」と笑います。一体そこにはどんな物語があったのでしょう。

温泉旅館に嫁入りし、女将の道へ

女将である美穂さんは北海道出身。大学では環境デザインを学び、札幌で勤めた会社では公園の設計や観光・まちづくりに携わってきました。


美穂さんに転機が訪れたのは平成19年、豊富温泉活性化の担当になったことでした。当時の豊富温泉市街は超高齢化社会。まちはどんどん衰退していき毎年宿が廃業していっている状況。しかし美穂さんは豊富温泉のお湯のあまりの良さに感動し、多くの人を惹きつける温泉街になるはず!と奮闘します。

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そんなある日、温泉地活性化の先進地である東北に視察に行くことになりましたが、蓋を開けると視察へ向かう参加者はコンサルタントを行う美穂さん達と行政の職員さんばかりという状況。「まちの活性化のための事業なのに、まちの人が参加しないなんておかしい!」と訴えた美穂さんの声を聞き、重い腰を上げたのが川島旅館の三代目、康宏さんでした。

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康宏さんはもちろんこの豊富町で育ってきた一人。川島旅館の二代目だった祖母に「川島旅館の跡継ぎはあんただよ!」と言われて育ち、跡を継ぐことには何も疑問を持っていなかったと言います。

高校を卒業し料亭での修行を経験した後、24歳で豊富町へと戻り旅館の調理を手伝い始めた康宏さんでしたが、ある日「消費されずに余った牛乳が大量に廃棄」というニュースを目にし、豊富町の名物である牛乳に着目しました。地元の特産品が、せっかく生産しているにも関わらず誰も口にすることなく捨てられているなんてもったいない!と思った康宏さんはプリンの開発に着手します。

どうしてプリンだったのかと言うと「牛乳って苦手な人も多くて、飲んだらお腹が痛くなっちゃう人もいますよね。プリンだったら大丈夫だと思ったのと、自分がスイーツ好きだったので(笑)」と笑います。

こうして温泉地の視察で出会った二人はプリンの相談や豊富温泉の未来について語るうちに意気投合、翌年にはめでたく結婚に至りました。
結婚となると当然ですが豊富町へと引っ越し、さらに美穂さんは「女将」になるというわけです。それについて不安はなかったのか伺うと....

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「もともと地域と関わる仕事をしていたので、いわゆる『田舎』にはネガティブなイメージはありませんでした。それに何より、先代の女将が『お嫁に来たら、旅館のことは何でも自由にやっていいよ』って太鼓判を押してくれたんです。自分自身もやりたいことがたくさんあったのと、何より本当にこの温泉が大好きで、こんなにポテンシャルの高いまちで旅館の女将になれるなら!って思いました」と、なんとも力強い言葉。

先代の女将も「名物女将」として川島旅館を引っ張ってきた女性だったので、その女将に認めてもらえたことは美穂さんの自信に繋がり、女将の道へ背中を押してくれたようです。

川島旅館がリニューアルを迎えるまで

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結婚してから二人は二人三脚で旅館の仕事にあたります。美穂さんは先代の女将に教えてもらいながら女将の修行をし、康宏さんは旅館の板前をしながらようやく二人でずっと構想を練っていた「湯あがり温泉プリン」を開発成功。牛乳の風味を最大限に生かした白いとろけるようなプリンは、その美味しさで多くのファンを増やしていきます。そして、「寂しくなった温泉街を盛り上げようと、旅館の三代目がプリンを開発」というニュースは、世間の人にも目新しく、様々なメディアに取り上げられるようになり、気が付けば最初は2種類だったプリンの味も増えていきました。

そうして商品開発と修行を行う二人はついに次のステップに進む日がやって来たのです。
それが先代の女将の引退と、川島旅館のリニューアル。

古いながらに多くのお客様に愛されてきた旅館の建物は2015年、その歴史に一旦幕を下ろしました。
そして旅館と共に多くのお客様に愛されてきた先代女将が、その年90歳にして皆に惜しまれながらその生涯を終えたのです。この今まで川島旅館を守ってきた名物女将の想い、そして川島旅館を愛してくれる多くのお客様の想いを背負い、2016年に川島旅館はリニューアルオープンを迎えることになります。

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女将の仕事、旅館の仕事

川島旅館を訪れると笑顔で迎えてくれる女将、美穂さん。


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先代の女将がそうだったように、美穂さんもまたこの川島旅館の名物女将となりました。多くの方が豊富温泉の癒しの泉質、そして川島旅館のおもてなしにもう一度会いたくてこの旅館を訪れます。そんな女将の仕事はどんなものなのかを伺ってみました。

「『女将』というと旅館の看板と思われるかもしれませんが、実は仕事の多くは裏方の仕事なんです。まずはもちろん、お客様とコミュニケーションを取ること。チェックイン・チェックアウトなどの受付を行うフロント業務も、『川島旅館に来て良かった』『また来たい』と思っていただける居心地の良さを大事にしています」。

kawashima_ryokan16.jpg雪が降りしきる中、スタッフ一同お客様のお見送り。

「お客様だけではなく、スタッフとのコミュニケーションも大切にしていますね。川島旅館ではアトピーなどに悩んでいる方がこの豊富温泉に移住して療養しながら仕事ができるよう受け入れています。湯治のために訪れたお客様が、そのままスタッフになる場合も多くあるんです。そのスタッフ達のサポートや管理も女将の大切な仕事のひとつ」。

かつては超高齢化社会だったというこのまち。こうして川島旅館で、まちの外の方を雇用し始めてから少しずつ変わってきたのだとか。移住者が増え、まちの中にシェアハウスや賃貸住宅もできたそうです。まちの移住にも一役買っている川島旅館の女将、美穂さんのお仕事はまだまだあります。

kawashima_ryokan17.jpg「裏方、要は事務の仕事はほとんどやっています。宿泊プランを作ったり、融資のスケジュール管理を行ったり...。でもこういった仕事は前の仕事でOLをやっていた経験がかなり生きていると感じていますね」

そして一方で悩みも尽きず....
「やっぱり療養で来た方だと、症状が良くなるとまたこのまちを去って行ってしまうこともあるんです。もちろん本人にとっては症状が良くなるのは良いことなのですが、どうしたらこのまちに定住してもらえるんだろうって考えてしまいますよね」。

また、旅館という仕事上土日や長期休暇中などはもちろん、多くのお客様が訪れる時期には忙しくなります。お客様は宿泊をされるので当然、9時から5時まで、といったサラリーマンのような時間体系での仕事ではありません。そんな中でも美穂さんは少しでもスタッフのみんなが好きな時に休みを取れるように、時間に融通がきくようにと最大限に頑張っているそうです。それでも人手が足りなくなってしまう時には「どうやったらもっとこの仕事の良さを分かってもらえるのかなぁ...」と立ち止まってしまうこともあると言います。

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「この川島旅館は『昔ながらの旅館』とはちょっと違うんです。旅館業というものに縛られない、地域を活性化していけるような場だと思っています。ここ10年の間にもどんどん情報発信をインターネットで出来る時代になってきて、外からの取材を待つだけじゃなくて内側から発信していけるようになってきました。だからこそ、思ったことをやれる、やろうと思ったことをやめない、そんな旅館でありたいと思うんです」。

確かに川島旅館は、今や多くのメディアに取り上げられ、その名は今や全国に広がっています。

「もちろん大変か楽かって言うと大変な仕事だとは思います。でも『諦めなかったら失敗じゃない』って私は思っているんです。だから自分のやりたいことがある人に、自分の『これが好き!やりたい!』っていう強い気持ちを持った人と一緒に川島旅館もまちおこしもできたら理想だなって思っています」。

豊富温泉と、未来のこと

現在二人のお子さんのお母さんでもある美穂さんは、女将をしながら子育ての真っ最中でもあります。お二人は基本的に旅館に出ずっぱり。お子さんたちは旅館に繋がっているご自宅にいるか、旅館の方に出てきてお客様とお話をしたり、キッズスペースで遊んでいたりと、取材中もちらほらその姿を見掛けました。


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お子さんの通っている豊富保育園では1学年が約30人。ベテランの頼りになる保育士さんがいて、優しくも厳しくもお子さんのことを見ていてくれてとっても安心されているそうです。ここの保育園を卒園した園児が、今お母さんとなって子どもを預けながら働いていることが多く、地域の繋がりの強さからの安心もあります。また、お母さんへのケアも手厚く、保健師さんとの連携もできているため子育てをするお母さんがひとりぼっちにならない環境になっていると言います。

小学校に関しても、人数が少ないからこそいじめ等も無く、とても良い環境だと感じているという美穗さん。
美穂さんは「ここでは子どもたちはもちろん、地域の父兄もみんな一緒に育っていくんです」と地域柄の良さを語ってくれました。

kawashima_ryokan9.jpg旅館内のある一角。突如足がにょきっと出てきましたよ...?

kawashima_ryokan10.jpg実は旅館内にはキッズスペースがあり、子どもたちの遊び場が。松本さんご夫婦のお子さんたちもここで遊んでいるようです。

また温泉街ならではの良さもあり、こちらから全国に出向くのは大変な分、全国の人がこの温泉に集まってくるため常に「外の目線」に触れることができるのも魅力の1つなんだとか。

宿泊されるお客様は全国各地、様々なところからやって来ます。方言が違ったり、国籍が違ったり...その人たちが見せてくれる姿は、子どもたちにとっても刺激になっている様子。
「もっと広い世界に触れられる機会を私たちが作っていかなきゃいけない、そう思います」と美穗さんは語ります。

「そして子どもたちはもちろん、まちの人たちにももっと外を見てほしい。外からの目線をどんどんまちに入れたいと思っているんです。せっかく移住してきても、すぐにこのまちを出ていってしまう人がいるのも事実。でも、私たちは『ここに仕事がある』っていう状況を提供し続けたいと思うんです。雇用があれば、一度まちを出ていった子ども達の帰る場所を作ってあげられる。地元の雇用を増やしていければと思っています」。

そう語る美穂さんの視線の先には常に未来があります。

「今、私たち川島旅館ではやりたいことがたくさんあります。それを今は夫婦二人で『どれをどこまでいつやるか』を考えながらやっている段階です。
商品開発もプリンはありがたいことに『定番』となることができて、その後、賞味期限の短いプリンに代わる豊富牛乳をPRできる商品としてバターが生まれ、好評をいただいています。次は企業の方や学生さんなど地域の方と一緒に何か商品を開発できないかと考えているところなんです」と、にんまり笑顔を見せてくれた美穗さん。

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「旅館に関しては、私は本当にこの豊富温泉は唯一無二の泉質だと思っています。この温泉の良さをもっとたくさんの人に知ってもらうのが使命なんです。アトピーなどに苦しんでいる方に少しでもこの温泉の良さが届いてほしい。その症状のために今までライフプランを諦めてきた方が多くいることを知ってからは、苦しんでいる方を少しでも助けるお手伝いをしたい、そんな方の気持ちに寄り添っていける場になりたい、ここに来たら良くなるよって伝えたいという想いでいます」。

そうして少しずつ、ここの温泉の「湯治」の力の情報が広まっていきました。

「川島旅館の良さを今までは皮膚病の療養の方向にアピールしてきました。しかし今後はもっと客層を広げていくことができるのではと思っています。私自身が子育て世代なことからも、『お母さんのケア』を誰よりもできる旅館になれるんじゃないかなって思っているんです。やりたいことは、尽きませんね」。

旅館の女将に、子育てに、雇用に、まちおこしに...。今回美穂さんにお話をうかがって、そのパワフルさと未来志向の視線に豊富温泉と川島旅館の持つ魅力を存分に感じることができました。きっとこれからも川島旅館の三代目のお二人は、素敵な温泉と美味しいお料理、そして心のこもったおもてなしで、たくさんのお客様の笑顔をお迎えしてくれるに違いない、そう感じさせてくれました。

kawashima_ryokan6.jpg見つめ合うお二人。これからも二人三脚で豊富町を盛り上げていくことでしょう。

川島旅館
川島旅館
住所

北海道天塩郡豊富町字温泉

電話

0162-82-1248

URL

http://kawashimaryokan.co.jp/

川島旅館で製造販売しているバターについてはこちら

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豊富温泉に惚れ込んで旅館の女将になった女性の物語

この記事は2017年12月4日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。