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まちおこしレポート
占冠村

小さな薪に夢を灯す 小さな村の話。20161005

小さな薪に夢を灯す 小さな村の話。

占冠村の木質バイオマスの取り組み

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北海道のほぼ中央、アイヌの人々が「とても静かで平和な上流の場所」と名付けた山あいの里、占冠村。総面積は東京23区とほぼ同じ571.41平方キロメートル。その9割以上が深い森林でおおわれています。
今この郷村を舞台に、「木質バイオマス」を主軸とした村民と自然にやさしいエネルギーの物語が綴られています。

公共事業やリゾートへの依存の果てに

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開け放ったクルマのウィンドウ越しに、森からのさわやかな風が吹き込んできます。5月の占冠は、春まっさかり。沿道には可愛らしい花々も咲き誇ります。ただその風景がどこか寂しげに映るのは、道を行き交う人や車の数がことのほか少ないからかもしれません。
「札幌、千歳などの交通の要所と道東を結ぶ高速道路が全線開通してから、村内を通る車両はめっきり減りました」
そう話してくれるのは占冠村役場、林業振興室の鈴木智宏主幹。今回お話を伺う『木質バイオマス』の取り組みの中心人物のひとり。
「以前はこうした高速道路の整備などの公共事業が盛んでしたし、リゾート開発にも勢いがありました。訪れるビジネスマンや観光客も多く、村にも活気が満ちていたんです。しかし平成20年代を迎えた頃から公共事業は減少し、リゾート関連の経済効果も伸び悩みが続きました」
次第に衰えていく占冠村の産業。比例するように四千人オーバーだった人口も千二百人ほどに減少しました。高齢者の割合も高く、限界集落という不名誉なレッテルも占冠村にとっては遠い世界の話ではなくなり始めていたのです。

エネルギーの地産地消に村の活路を

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「このままでは村の存続さえ危うい。一日も早く対策を練らなければ」そう声を上げたのは役場の方々。平成25年3月、村内各区の区長や企業、NPO法人などに声をかけ集落対策を話し合います。とはいえ、長く続いた他力本願のしくみから抜け出し、村内の産業の自立を促すのは、容易なことではありません。加えて...
「予算もない。企業も少ない。なにせ本当に小さな村ですからね」と鈴木主幹。普通ならここで万事休すと、うつむいてしまうのかもしれません。でも占冠の人々は違いました。
「うちの村にはどこにも負けない豊富な資源があるじゃないか、その資源の活用を起爆剤にしていこうと話し合ったんです」
どこにも負けない資源。それは村を覆う「森林」そして「人材」のこと。村の基幹産業のひとつである林業・林産業の生産体制やしくみを見直し、村内に産業の好循環を生み出そうと考えたのです。
具体策として取り組んだのは、木質バイオマスの燃料としての活用。ちなみに木質バイオマスとは、木に由来する物質資源のこと。年間2000立方メートルも伐り出される占冠産の木材の中には、建材や資材に適さない未利用材が大量に含まれています。これまでただ捨てられていたこれらの資源を、村内の燃料として活用していこうという発想です。
「いうなればエネルギーの地産地消ですね。ただこの先の活動は行政だけでは無理。そこで村内の企業の方々にこの取り組みの推進母体となる組織を作った頂いたんです」

コストの削減と新しい雇用の場づくり

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こうして平成25年11月に「占冠村木質バイオマス生産組合」が誕生します。中心となったのは3社の地元企業。廃業した製材企業の跡地に小さな事務所を設け専任スタッフも雇用、新たな活動をスタートさせました。メンバーのひとり、村内で造園や植林などを手掛ける長瀬産業の長瀬社長はこういいます。
「自分たちも占冠村に育てられた人間ですからね、ここが陸の孤島化して寂れていくのは耐えられない。村の再建のためなら、村民が元気になるならなんだってやろうと」
そんな心意気と郷土愛を糧に、生産組合メンバーは木質バイオマスの活用の具体像を描きます。
「まず役場が間伐の現場で発生する未利用材を生産組合に提供します。組合はそれらを薪に加工し、村内施設や企業さらに家庭にまで販売していくという考えです。ちなみに原木の受け入れは無償、当然生産組合への提供も無料です」
原木をチップやペレットなどの燃料に加工するには専用の設備や費用がかかりますが、原木を薪にするのは人手があれば簡単な設備で行えます。またそこに新たな雇用が生まれることも、この取り組みの大きなメリットです。
「林業は雨天だと仕事は休みになってしまいます。薪の製造は天候に左右されないので、林業従事者の収入増にもつながるんです」

村内にエネルギーと経済の好循環を

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その一方、 林業振興室の鈴木主幹や生産組合のメンバーは、薪を燃焼させるボイラーや薪の供給先についての調査検討も手がけていました。
「ボイラーは機能性と美観を兼ね備えたノルティング社のものを仕入れることに。このボイラーを村内の様々な施設に設置し、そこに生産組合が定期的に薪を提供、将来的には村内に木質バイオマスを軸としたエネルギーの好循環を築いていけたらと」
最初に設置したのは村営の湯の沢温泉。この温泉ではそれまで老朽化した設備で重油を炊いていましたが、ボイラーと占冠村産の薪を導入としたことで、環境にもやさしいクリーンな温泉運営を実現することができました。もちろん燃料コストも大幅にダウン!
「それまでの重油の費用は村外に支払われていましたが、薪の経費は生産組合に入り、薪の製造などの人件費にあてがわれて行きます。村外に流失する経費は限りなくゼロになりました」
木質バイオマスは、エネルギーだけではなく村内を効率的に循環する経済の連携も生み出したのです。

一片の薪に宿る、村の可能性の灯火

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その後、占冠村役場や生産組合の尽力もあり、薪ボイラーは占冠中央スキー場のロッジ、ミナトマム(地域カフェ)など、設置箇所を拡大していきます。また占冠村東部に位置する北海道を代表するリゾート地、トマムの星野リゾートは、ロビーやアイスビレッジで使用する薪をすべて生産組合から一括購入するという体制にスイッチ。さらに村が費用の助成制度をスタートさせたこともあり2軒の家庭に薪ストーブが納入されたとか。まるで薪に灯った火種が次の薪に燃え広がるように、木質バイオマスへの取り組みに参加する村民や企業が少しずつ増えているのです。
始まりは一片の未利用材。それまで誰も見向きもしなかったその『眠れる資源』は、今、森から企業や家庭に続く自然エネルギーの循環をつくり、雇用の場を創出し、村内で完結する経済の連携を育み、さらに行政と民間の垣根を超えた村民のチームワークを生み出しました。そしてこのチームワークこそが次の占冠村を作り上げていく、文字通り『エネルギー』となるのでしょう。
しかし鈴木主幹はこういいます。「とはいえ、自分たちの取り組みは始まったばかり。 占冠の林業再建もまだまだ道半ばです。これから一つでも多くの会社や店に、ひとりでも多くの村民に、そして村外の方々にも、木質バイオマスに対する理解を深めていただかないと。勝負はこれからです」

重機を使って木材カット/占冠村木質バイオマス生産組合

占冠村役場
住所

北海道勇払郡占冠村字中央

電話

0167-56-2121

URL

http://www.vill.shimukappu.lg.jp


小さな薪に夢を灯す 小さな村の話。

この記事は2016年7月4日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。