瞬間通過型の観光地からの脱却。えりも町が将来に託した熱い想い。
北海道日高地方の最南端に位置する「えりも町」。主な町の産業は漁業。コンブをはじめ、ウニ・ツブといった魚介類が多く獲れます。風のまちとも知られ、有名な歌の題材として広く知られたことで日本中だけでなく、アジア圏全体にまで届くほど知名度が高まった「襟裳岬」はあまりにも有名な場所です。
太平洋全体を見渡せ、日の出から夕日、日の入りまでの景色が見られる絶景スポットで、25メートルまでの風速を体感できる施設を備えた風の館や、ゼニガタアザラシが日向ぼっこをする様は子どもたちにも大人気。えりも町の特産品も買え、旬の海の幸を存分に味わえる「えりも岬観光センター」で、最高なひとときを満喫することができます。
取材陣が滞在する間も、ひっきりなしに観光バスが到着し、多くの観光客が降りてきます。そう聞くと多くの市町村や町おこしに関わるみなさんであれば、「うらやましい!」そう思うかも知れません。しかし、実際にお話を聞いてみると、えりも町で考えているのは襟裳岬の観光開発は、通過点に過ぎないことがよくわかりました。
襟裳岬が有名なえりも町。でも襟裳岬しか観光資源がないという課題。
お話を聞かせていただいたのは、えりも町役場産業振興課の石川 慎也課長。「全長150キロにもおよぶ日高山脈の最南端である襟裳岬。昭和時代の中盤くらいまでは、切り開かれておらず、海は泥に汚れており、荒れた地でした。そこを先人の町民が並々ならぬ努力で緑化と環境整備を行い、えりも町の名所となるべく整えていったんです。その成果もあり、今では観光地として多くの方に知られることとなりました。その一方で、新たな課題も見えてきました。襟裳岬としてはどうしても瞬間的な観光スポットとしての位置づけで、岬を見られた観光客のみなさんは、すぐに移動してしまうという課題です。何とかもう少し長い間、町に滞在してもらうことはできないだろうか、長い時間滞在いただくことで、町への経済効果がもっと生まれるのではないか...と考えていたんです。」
とはいえ、そう簡単に新しいチャレンジが次々とでてくるわけではなかったそうです。「温泉地もない、雪が少ないので生活するには過ごしやすい反面、北海道らしさも出せず、ウインタースポーツにも向かない、町の人口が5,000人を切り、観光客を向かい入れるにしても人員を多くは割くことはできない...。」外国人観光客も受け入れていくことも想定し、町の資源を棚卸し。そうして、北海道を代表する観光お菓子、石屋製菓の白い恋人のCMとして有名になった「ハート形の湖 豊似湖」の観光資源化に、大手旅行代理店とタッグを組み、チャレンジしてみようということになったそうです。
自然にできた湖が天の恵み。自然になるべく手をかけることなく観光資源に。
豊似湖は、元々町のみなさんから、馬の蹄に似た形をしているということから「馬蹄湖」と呼ばれる自然湖。原生林に囲まれ、周囲1キロ・水深は最大18メートル。アメマスやワカサギ、トゲウオなどが生息する湖の周辺にはエゾナキウサギも生息し、かわいらしい鳴き声も時折聞こえてくるそうです。ただ、その湖に向かうには未舗装の道路であり、観光バスが楽に行き来できる程の道幅もありません。そして何よりも下からではハート形に見ることが残念ながらできないのです。やはりハート形に見える、見てもらえるということが、観光のポイントになるだろうと考え、ヘリコプターで上空から見てもらうツアーとして計画したそうです。
「2015年にトライアル企画として始めました。事前準備の段階では、天候不順でなかなかフライトできないことも多かったり、ヘリコプターにはパイロット以外に3人までという乗員制限もあり、フライト待ちの時間をどうするかなどの課題も見えました。天候が安定し、新緑の時期と紅葉に変わっていく時期の両方を楽しんでいただけるように、9~10月の間の限定ツアーとして設定しました。また、廃校になった小中学校の校舎を、みなさんがくつろいでいただけるような待合所として活用。そこに併設して地元のものを味わっていただけるような簡易食堂の設置や、物販などを展開していけないかも模索しています。さらに、豊似湖の周辺には、江戸幕府が作った蝦夷地最初の山道、猿留山道(さるるさんどう)が当時のまま残っており、国の史跡認定も受ける予定ですので、それも観光資源のひとつに成長してもらえたらという考えもあります。」
新しいチャレンジの2年目にして、多くの課題を解決し、本格的な運用に向けて準備が整ってきていることからも、えりも町の本気度を感じずにはいられません。
ハート形の湖は、世界的に有名になれば、えりも町だけでなく、日本の、北海道の、観光資源になる可能性を秘めています。
実際にヘリコプターでフライトさせていただき、豊似湖を上空から眺めさせてもらいました。
そもそも取材陣はヘリコプターに乗ること自体も初めて。ドキドキする私たちを安心させてくれたのは、ヘリコプターの離発着を安全に快適に運行してくれるスタッフのみなさんでした。上空にあがり、およそ3分ほど飛んだ後、新緑に深まった山間を抜けると、ありました。豊似湖。本当にハート形です。湖のまわりが開発されてないからこそ、突然現れるハート形の湖は、その湖が見えるまでの過程をセットで見ていかなければ、その感動は得られないと感じます。エメラルドグリーンで、大空を映し出す幻想的な湖面に私たちは釘付けになりました。画像で見るのとは全く違うその体験は、多くの方々の一生の思い出になるものではないかと確信しました。
あっという間のフライトではありましたが、その余韻やこれを体験した方々の一生の話のネタとして、えりも町のことと共に語り継がれていくものだと感じる経験でした。「今回ご覧いただいたのは、豊似湖を見るフライトでしたが、それ以外にも、襟裳岬とセットで上空からご覧いただける長めのフライトプランもご用意しています。」と石川さん。襟裳岬に立って外を眺めるのではなく、襟裳岬自体を見ることも観光資源のひとつに取り入れるというのも新しい視点でした。
運営に関わる人だけでなく、町民みなさんと、支えてくれる人々と、一緒になって大切に育てていくスタンス。
副町長の大西 正紀さんからは、こう説明がありました。
「年間70万人とも80万人とも言われていた観光客数は年々減少。今では20~30万人にまで減少してきています。このままではいけない、待っててはいけないと考えての事業なんです。私たちはこの街に住み、長らく生活していますので、朝日も夕日もキレイと言われることも、私たちにとっては当たり前のこと。北海道で一番長い5キロ弱のトンネルがある、全道1位の出生率など、話題性の高いこともたくさんあるのですが、自分たちの力だけで発信していくことは、なかなかできないことなんです。ぜひ外からの目を通じて、この街の魅力発見のお手伝いをいただきたいと思っています」と。
メディア関係者向けのお話ではありましたが、なかなかそう自らの弱さを語り、町内・町外の方々と一緒になって町おこしをしていく考えに至ることは難しいことではないかと思います。裏を返すと、そういった考え方だからこそ、新しいことにチャレンジしていける町の風土が培われているのではないかと感じました。
ヘリコプターに想いも乗せていく
石川さんは最後にこう締めくくりました。
「将来的には、この事業を通じて新たな雇用の創出や、人材の育成ににつながっていくことが本当の財産になるのではないかと考えています。そして、浦河町・様似町・広尾町と一緒に推進している振興局区分を超えた4町広域連携事業も展開中です。私たちのまちだけ良ければいいという考えではなく、この豊似湖の事業を通じて、近隣市町村にも波及効果・経済効果が産まれることにつながっていけるように努力していきたいと思っています。」
えりも町のみなさんの想いは、ヘリコプターに乗せて、豊似湖だけでなく、もっと広い地域を考えながら広がっているようです。
- えりも町役場 産業振興課
- 住所
北海道幌泉群えりも町字本町206番地
- 電話
01466-2-4626
- URL
えりも町 豊似湖ヘリコプター遊覧飛行に関わる最新の情報はこちらをご覧下さい。
風のまち「えりも」観光ナビ
http://www.town.erimo.lg.jp/kankou/