こんにちは。くらしごと編集部です。皆さんは「ブルーカーボン」という言葉を知っていますでしょうか?ブルーカーボンとは、海洋や海岸の生態系において蓄積される炭素のことです。つまり海に関わる生物が吸収するCO2のことを指します。「CO2削減」や「脱炭素社会」を目指していく上で、注目されているキーワードです。
今回は、水産関連の課題を土木的な視点で研究・調査している「寒地土木研究所水産土木チーム」の方に、ブルーカーボンについて、いろいろと教えていただきました。
Vol.43〜磯焼け問題とブルーカーボンについてのハナシ〜
北海道は「2050年『ゼロカーボン北海道』実現」に向けて、脱炭素に向けたライフスタイル・ビジネススタイルの転換につながる様々な取組を行っています。私たち水産土木チームは、魚が棲む場所をつくる「漁場整備」に注目した研究や調査を行っていますが、北海道沿岸(特に日本海側)の「磯焼け」は、ブルーカーボンの観点からも大きな問題になっています。
水産庁HPより転載
磯焼けとは、海水温の上昇やウニなどの海洋生物の食害によって、コンブなどの海藻が衰退または消失してしまった状態のことで、2000年代には既に問題視されていました。特に北海道の主要水産物の一つであるコンブの生産量減少は深刻です。1980年代〜1990年代には3万トン前後あったものが、令和4年度には1.1万トンまで減少してしまいました。コンブは海水にとけた二酸化炭素(CO2)を吸収しますので、磯焼けによってコンブが減ってしまうことは、ブルーカーボンの観点からも非常に大きな課題なんです。
北海道内の多くの地域では、以前から地域の漁業者を中心に磯焼け対策を講じてきました。例えば日高昆布の生産で有名なえりも町では、コンブ漁場を守るための雑海藻駆除が実施されています。コンブが育ちやすくなるための雑草取りですね。このような取り組みのいくつかは、近年ブルーカーボンクレジットとして認定されています。
企業は自身のCO2排出量を削減するため、エネルギー効率の改善や再生可能エネルギーの導入などの取り組みを行いますが、自社の排出を完全に削減できない場合などに、他社や他団体が得たCO2削減量をカーボンクレジットとして購入します。企業等がカーボンクレジットを購入する形で、社会全体のCO2削減を支援しています。
漁場保全や磯焼け対策はこれまで、水産業に携わる方が中心となった活動でした。しかし、ブルーカーボンを切り口にして、これまで漁業とは縁遠かった企業や団体が活動を支援するような構図になってきているのです。
CO2排出削減と水産資源の維持回復。この複雑な課題を、多面的に捉えて連携して取り組んでいくことが必要です。そしてまずは現状を知ってもらうことが大切と考えます。知れば少し、意識が変わると思います。次に海岸を見るときには、ちょっとだけこんなお話を思い出していただければ嬉しいですね。
寒地土木研究所 寒地水圏研究グループ 水産土木チーム
平成5年に水産庁に入省し、漁港・漁場・漁村といった水産土木の施策に携わる。好きなサカナは、出身地・宮城県のプライドフィッシュであるホヤとカキ。手先が不器用なこともあり釣りはものにならず、食べる方が専門。