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北海道で暮らす人・暮らし方
音威子府村

人口はおよそ600人。生まれた村で林業へ挑戦する若者。20250210

人口はおよそ600人。生まれた村で林業へ挑戦する若者。

根雪になるのが早かった2024年の12月、北海道で一番小さな村と言われる音威子府村へおじゃましました。あたり一面真っ白な雪に覆われた市街地。雪が多い地域であることを実感します。今回は音威子府林産企業協同組合(通称・音林協)で林業に従事する若者に会うため、ここからさらに山へ向かいます。ころころと表情を変える冬の天候に一喜一憂しながら、取材班は山へ案内してもらうことに。さて、どんな若者に会えるのでしょうか。

onrinkyou_23.jpg鹿も一緒に案内をしてくれるような大自然の音威子府村。

音林協のレジェンドに連れられ、氷点下の山の現場へ

音威子府林産企業協同組合とは、北海道士別市に本社を構える林業・木材事業者 三津橋産業株式会社の関連組合。村の道有林や民有林の管理を行っています。音林協の事務所の隣には、三津橋産業が運営する木材チップ工場も併設されています。

取材陣を車に乗せて現場の山まで案内してくれたのは、音林協のレジェンドと呼ばれる西山弘幸さん。音威子府村で生まれ育ち、三津橋産業に勤務したのち、音林協へ。車の運転をしながら、音威子府には農業と林業の兼業をしている家が多かったことや、機械化が進む前はのこを使って木を伐り、馬で運び出していたことなど、昔の話をしてくれました。

onrinkyou_17.jpgこちらがレジェンドと呼ばれる西山弘幸さん。

つい数日前の12月12日は山の神の日だったそうで、「この日は山で仕事をしちゃいけないと言われていてね、山の中には入らず、山の神さまに感謝をしてお供えなどをするんですよ」と西山さん。車にはそのときに使ったという木製の祭具も積まれていました。「迷信なのかもしれないけれど、昔からずっと続けてきたことだし、やっぱり事故なく仕事ができているのは山の神さまに守られているからかもしれないから、そういうことはきちんとしておきたいよね」と話します。

道中、突風が吹きすさび、目の前が真っ白になるときもありましたが、「案外ね、山の中に入ったほうが、木々の密集しているところは風の影響が少なかったりもするんですよ」と西山さん。それでも、ひどい吹雪の日は自分の指先が見えないこともあるとか。「でも、今日は山の中のほうは大丈夫そうだよ」と空を見ながら呟きます。

くねくねと雪の山道を登って到着すると、西山さんの話していた通り、木々に囲まれた土場の辺りは風もほとんどなく、穏やか。見上げると木々の間に青空も顔を出しています。それでも気温は氷点下。車から降り立つと、吸い込む息の冷たさに思わず背筋がピンと伸びます。

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チップ工場から山の仕事を行う音林協に転籍。先輩たちの評価も上々

「よろしくお願いします」とにこやかに現れたのが、今回取材させてもらう藤原直樹さん。大きな体と目を細めて笑う柔和な表情が印象的です。音林協に入って3年という期待の若手です。

藤原さんは音威子府村出身の27歳。隣町にある美深高校を卒業後、建築会社を経て、三津橋産業の木材チップ工場に勤務します。ところが、工場内にどうしてもたまる微細な木片で喘息の発作が起きてしまい、長時間勤務が難しくなります。

onrinkyou_10.jpgこちらが今回の主人公、藤原直樹さん。

「仕事は嫌いではなかったのですが、アレルギーが出てしまって...。続けられないなと思っていたら、西山さんが『山の仕事、やってみないかい?』と声をかけてくれたんです。ちょうど6月くらいだったかな、士別で植え付けの作業があると言われ、その手伝いに行ったのが最初です」

お試しでと思って参加してみたものの、想像以上に大変だったと振り返ります。それもそのはず、林業の中でも植え付け作業は、特に大変な作業のひとつと言われており、さらにその日現場にいた人たちはベテラン揃い。「皆さん、手の動きが全然違って、とにかく早いんですよ。だから、もうついていくのに必死でした」と笑います。「それでも、皆さん優しくて、雰囲気も良かったんです」と藤原さん。

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「自分にできるかな」と思いつつ、「挑戦してみたら?」という周りからの後押しもあり、音林協に入ることを決めます。実は、音林協で現場代理人を務めている横井大樹さんは藤原さんの叔父で、後押ししたうちの一人だったそう。

その叔父でもある横井さんが現場で作業を教えることも多く、横井さん曰く「彼はとにかく一生懸命。素直で明るい子なんです。教えられることは全部教えようと思っています」と藤原さんについて話します。一方、藤原さんを最初にスカウトした西山さんも「そうそう、真面目でね、優しい子なんだよね」と評します。

onrinkyou_12.jpg西山さん(写真左)、横井さん(写真右)から指示を受ける藤原さん。

大変こともあれば、まだまだな部分も...。でも、達成感を得られるときもある

音林協に入って3年、仕事には慣れましたかと尋ねると、「少しは...。でもまだまだ勉強中ですし、経験が足りないと感じています。でも、この仕事をしていて良かったなと思うことも増えてきました」と話します。また、「西山さんが誘ってくれたとき、山は季節によってやる仕事が違うから面白いぞと言っていたんですが、本当に季節でやる作業が違うので飽きないですね」と続けます。

夏は、植えた木の苗の周りの草を刈る下刈をはじめ、山中の送電線下にある歩道の草刈りを行うことが多く、冬になると重機で山の中に道をつけ、森の中での伐倒作業が増えます。どちらかというと夏のほうが体力的にキツイことも多いそうで、「涼しいと言われる道北も温暖化の影響か30度以上になることもあって、熱中症対策をしながら作業しています。あと、ハチにも常に注意しています」と藤原さん。

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重機に乗ることもあり、ブルドーザーやショベルカーを動かすことも。これらを動かすのに必要な免許は、チップ工場にいたときにほとんどを取得。足りないものに関しては音林協に入ってから取得したそう。「実はブルが苦手で...。もっと操縦がうまくなりたいんですけどね」と言い、冬はブルドーザーでの除雪作業から始まるので、いつも緊張すると話します。

また、伐倒や枝払い、玉切りなどを一台で行える伐倒造材機械・ハーベスタは、現在、叔父の横井さんが操縦しているそう。「いつか乗ってもらうからなと叔父には言われていますが、今はまだ伐倒する木がパルプか一般材かを見極める勉強中なので、一つひとつ経験を積んでやっていく感じですね」と話します。

「一番好きな作業は伐倒なんですけど、これもまだまだ経験を積まなきゃと思っています」という藤原さん。はじめは先輩について伐倒の仕方を教えてもらい、そのあとは細い木で経験を繰り返し、割と早い段階で、一人で本格的に伐倒をするようになったと言います。

「最初のころは自分のほうへ倒れてきて、大慌てで逃げたこともありました(笑)。でも、木は1本1本違うので、木の周りをグルっと見て、生えている場所や重心など、あれこれ考えながら伐っていくのは面白いなと思います。あとは、伐ったあとの木口の厚さなど、やっぱり上手な先輩たちのようにきれいにいかないことが多いので、そこに近づけるように頑張りたいですね」

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先輩たちから厳しく指導をされることもまだたまにあるそうですが、「山の仕事は安全第一だから、現場では当然だと思っています。でも、仕事を離れたらみんな優しい人ばかりですよ」と話します。

仕事をしていて達成感を得られるのが、「うまく伐倒できたとき」と藤原さん。「あとは、草刈りをしたあとに全体を見てキレイになっていると、やったー!と思います。それから、植え付けが終わったあとにキレイに苗が並んでいるのを見ると、よしっ!と思いますね」と笑います。どんなに大変だったとしても、作業のあとに辺りが美しくなっている様子を目の当たりにすると、その苦労も一気に報われるようです。

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母体がしっかりしているので、十分な休みも取れるし、安心して働ける

3人兄弟の一番上という藤原さん。6つ下の末の弟が、藤原さんが音林協に入って林業に携わるようになってから、その姿に憧れ、林業従事者を育成する北森カレッジ(道立北の森づくり専門学院)に進学したそう。

「音林協に来るかなと少し期待していたら、太平洋側のむかわにある林業会社へ就職してしまいましたけど(笑)。でも、自分を見て林業に就きたいと思ってくれたのはうれしいですね」

美深に少しいたことはあるものの、ずっと音威子府村で暮らしている藤原さん。音威子府の好きなところを尋ねると、「もともと人がごちゃごちゃいるところが苦手なんです。だから、人が少ないところがいい(笑)。あとは、やっぱり子供のころから住んでいるので、知っている人が多いのも気が楽でいいなと思います」と話します。

onrinkyou_13.jpg大先輩のお二人とのスリーショット!ちょっと緊張気味(笑)

「そういう意味では、仕事もひとりで黙々と作業することが多く、自分のペースでできるのが向いているのかなと思います。あ、植え付けはみんなのスピードに合わせなければならないので自分のペースというわけにはいきませんが...(苦笑)」

音林協の働き方について尋ねると、「ほかの林業会社に比べるとしっかり休みが取れるのがいいと思います。しっかり休めるので疲れも取れますしね」と話します。音林協は、林業の世界ではまだまだ少ない完全週休日二日制(土・日・祝日が休み)をとっており、同業他社に比べると休みが多いほうなのだそう。藤原さんは、休みになると名寄にいる友達に会いに行ったり、札幌や旭川へ買い物に行ったり、家族でキャンプや温泉に出かけたりしてリフレッシュしています。

onrinkyou_22.jpg下山の際にもお見送りをしてくれました!

「母がキャンプ好きなので、家族も誘って一緒に行きます。自分の伐った薪を持って行くこともあります。車の運転が好きなので、とにかく休みはどこかに出かけていますね」

ちなみに音林協は月給制。日給制がまだ多いこの業界では珍しいそうです。休みも給与も安定していると、働くほうとしては安心して仕事に取り組めますね。

また、藤原さんのようにやむを得ず仕事を変えなければならなかった場合、三津橋産業のグループ会社や異なる部署への配置転換で対応が可能というのも魅力です。適性を見て異動もあるそう。それぞれが得意や特性を生かして働くことができるというのは、母体が安定しているからとも言えます。

最後にこれからのことを伺うと、「苦手なブルも含めて、どうせ乗るなら重機ももっとうまくなりたいし、伐倒も先輩のようにもっとうまくなりたいですね」とまだまだ成長したいと意気込みを語ってくれました。「あとは...、音林協の中で20代は自分だけなので、若い人がもう少し増えてくれたらうれしいかな」と笑いながら話してくれました。

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音威子府林産企業協同組合 
住所

北海道中川郡音威子府村字音威子府503番地2

電話

01656-5-3211

URL

https://www.mlcmitsuhashi.co.jp

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人口はおよそ600人。生まれた村で林業へ挑戦する若者。

この記事は2024年12月19日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。