札幌から車で約50分の場所にある新篠津村。農業が盛んで、米どころとしても知られていますが、「田園福祉の村」とも呼ばれています。福祉施設が市街地にコンパクトにまとまっているほか、これらの施設で多くの地元の人たちが働いており、互いに支え合って暮らすという意識が自然と生まれているとも言われます。
今回は、そんな新篠津村の社会福祉を支えている新篠津村社会福祉協議会に勤務する戸賀澤大輔さんに、仕事のことや村での暮らしについてお話を伺いました。
興味のあった福祉の世界へ飛び込み、高齢者福祉に携わる
新篠津村の役場のすぐそばにある村の社会福祉協議会。ここで庶務係長として日々忙しく業務にあたっているのが2007年に村へ移住した戸賀澤大輔さんです。
現在48歳の戸賀澤さんは、生まれも育ちも札幌。高校卒業後、工業系の企業に勤務していましたが、20歳のときに福祉系へ転職しました。
「10代のころから、お年寄りの方と話をするのが好きだったんです。学ぶことが多く、接していて実りがあるというか...。ずっと福祉業界に関心はあったのですが、自分にできるかなぁという感じもあって、違う方向に進んだんですが、最初に務めた会社の先輩が福祉業界に転職して、いろいろ話を聞いているうちに、やっぱり自分も福祉に携わりたいと思ったんですよね」
こちらが、戸賀澤大輔さん。
思い切って転職することに決めた戸賀澤さんは、札幌市内の高齢者向けの療養型病院に勤務します。4年近く現場で経験を積んだあと、在宅介護に関心が芽生え、同じ法人内の在宅介護支援センターへ異動。病気を抱える高齢者の人たちを支えるだけでなく、地域で暮らす高齢者の人たちの暮らしを支えることに関しても知見を広げ、実績を重ねていきます。
30代に入り、石狩にある医療法人に転職。病院のほか、介護やリハビリなどの部門を抱えるその法人で、ケアマネジャーとして在宅支援事業に携わり、地域包括センターにも3年半勤務します。
「石狩に勤務していた2007年に新篠津村に家を建てて移住しました。7年近く、新篠津村から石狩に通勤していました」
戸賀澤さんが憧れていた「ドームハウス」
キャンプ好きが高じて、田舎で暮らしたいという夢を抱き新篠津村へ
戸賀澤さんの趣味はキャンプ。アウトドア好きなお父さんの影響もあり、20代から休みになるとキャンプに出かけていました。それもあり、いつか田舎にログハウスを建てて暮らしたいという夢を抱いていたそう。
「2000年に結婚したんですが、結婚前からいつか田舎に暮らしたいという話を妻にはしていたので、移住したいと言っても特に反対もなく...。仕事に関しても、福祉の仕事はどこに行ってもできるだろうというのもあり、自分の暮らしたいと思える場所に好きな家を建てたいと思っていました」
湖畔の静けさと焚き火の温もりを楽しむ戸賀澤さん。自然と共に過ごすひとときが、心を解きほぐします。
理想のログハウス探しをはじめたある日、奥さまと一緒にログハウスの展示場へ行くと、そこでたまたま見たドーム状の家に一目ぼれします。その家を建てるには、想定した以上の広い敷地が必要と分かり、広さを意識しながら移住先探しもスタート。
「そのドームの家を建てたくて、1年近くかけて田舎で土地探しをしました。そんな中出合ったのが、新篠津村。札幌からも近いし、当時働いていた石狩の職場にも通える範囲でしたし、いいかもしれないと思いました」
新篠津村にした決め手はいくつかあり、「地元で採れた野菜がおいしかったんです」とニッコリ。当時、たっぷの湯の敷地内で販売していた野菜が、新鮮で、甘くて、おいしかったそう(今は道の駅に産直市場があります)。
「うちは3人子どもがいるのですが、その頃、長女が年少だったんです。役場に移住相談で訪れた際、村の保育所に連れて行ってもらったら、長女がすぐにみんなと溶け込んで楽しそうにしていたんです。保育所の子どもたちもみんな人懐っこくて、素直で、子育ての環境もいいなと思いました」
食べ物のおいしさ、子育ての環境の良さ、そして、村が販売していた定住促進団地「みのり団地」もポイントになったそう。
「いろいろな優遇措置もあったんですけど、ドームの家を建てられる広さが購入できるのもよかったんです。うちが家を建てたころは、まだ団地内には10軒くらいしか家がなかったんですが、みんな仲良くて、子どもたちが小さい頃はよく団地内で焼肉をやったりしましたね」
戸賀澤さん一家が笑顔いっぱいで娘さんの誕生日パーティーをお祝い。家族の温かさが伝わるひとときです。
おいしい農産物や豊かな自然に恵まれ、薪ストーブのある憧れの暮らしを実現
140坪の敷地に念願のドーム型の家を建てた戸賀澤さん。1階部分はワンフロアで、立派な薪ストーブがついています。住宅系の雑誌で取材を受けたこともあるそう。
「家を建てるときから薪ストーブをつけることは決めていました。薪は、知り合いの農家さんからいただいたり、村の防風林で伐採したものを分けてもらったりしています。家の中で炎を見ながらゆっくり過ごす冬の時間も贅沢だなと思いますよ」
夏には満天の星空が広がり、天然のプラネタリウムが楽しめ、月が出ている夜は月明かりの中を散歩することもあるそう。聞いているだけで、うらやましくなります。
戸賀澤さんこだわりの薪ストーブ。
「暮らしそのものはまったく不便を感じていません。日々の生活に最低限必要なものは村でも揃うし、札幌や岩見沢など周りに大きな町がたくさんあるので、車でちょっと行けば何でも手に入りますしね。村に高校はありませんが、上幌向駅からJRに乗れば札幌や江別の高校に通えますし、新篠津はちょうどいい場所だと思います」
また、子育てを通じて村の人たちとも交流を深めていき、「ほとんどの子どもが保育所から中学まで一緒に育つので、子どもたちはもちろん、親同士も絆が生まれるんですよね。都会ではあまりないかもしれませんが、昔ながらのご近所付き合い的な交流があるのがいいなと思います」と話します。自治会の役員などを務めたりもしているそう。
移住時の決め手の一つとなった野菜のおいしさも変わらないと話し、「一時期、自分で家庭菜園もやったんですけど、やっぱりプロの作る野菜のほうがおいしいのでやめました」と笑います。お米も知り合いの村の農家さんから直接購入し、「新篠津のお米は絶対的においしいです!」とキッパリ。そう嬉しそうに断言する様子から、それはぜひ食べてみたいとこちらも気になってしまいます。
自分たち家族を温かく迎えてくれた村の社会福祉をより充実させたい
移住後、戸賀澤さんは新篠津から石狩の職場へ通っていましたが、いつか村の福祉にも関われたらと考えていました。
「石狩管内の社会福祉関係者とは会合で会うことも多かったですし、村の福祉関係者とも繋がりはあったので、いつか自分が村の福祉で役に立てる場所があればと思っていました。ちょうど2014年に村の社会福祉協議会で人を募集すると教えてもらい、転職を決めました」
社会福祉協議会では、老人クラブの運営や高齢者サロンのレクリエーションなどに携わっているほか、共同募金のことなども担当しています。隣接する当別町の社会福祉協議会と共に生活困窮者や引きこもりの人への支援も行っています。
「単体で何でもできる札幌のような大きな都市とは違うので、近隣の町と協力体制を取ることもよくあります。特に月形町や当別町とは連携しながら行うものがよくありますね」
戸賀澤さんの名刺の表には、新篠津村社会福祉協議会と書かれており、役職名と持っている資格名(社会福祉士、介護福祉士、介護支援専門員)が載っていますが、裏を見ると、「人権擁護委員」「月新障がい認定審査会委員長」「新しのつ小中一貫学校運営協議会会長」とも書かれています。
「仕事にも繋がっていることなので、頼まれたら断れないというか...(笑)。人権擁護委員というのは、法務省の管轄で、地域の方から人権に関しての相談を受けたりする役割を担うもの。新篠津村では、小学校や中学校で人権についての授業や活動を行い、啓発活動を行っています」
月新障がい認定審査会は、月形町と新篠津村から3人ずつメンバーが集まり、障がいの認定を行うための審査会なのだそう。一方、新しのつ小中一貫学校運営協議会というのは、村に一つずつの小学校と中学校の運営に関して関係者や村民らが年に1回協議をする場とのこと。過去にPTA会長をやっていたという経緯もあり、依頼されていると戸賀澤さん。
さらに自治会の役員を任されることもあるなど、大変そうに見えますが、「村のことがよく知れるという点ではいいのかなと前向きに考えています。確かに大変なときもありますけど、仕事を通じて村に暮らす幅広い層の方たちと話ができる機会があるのは、社会福祉に携わる人間としてはむしろ大事に思っています」と話します。
「移住してきて思うのは、新篠津村の人たちって温かい人が多い。こちらから飛び込んでいけば、受け入れてくれるんですよね。移住者の受け入れに関しても、村全体の懐が深いという印象です。それもあって、違和感なく村に溶け込みやすいというのも特徴かなと感じています」
村に移住して、気付けば17年。年少だった長女も大学生になり、移住してから生まれた下の2人も高校生、中学生とすくすく成長しました。
「子育ても含め、村や村の人たちには本当にお世話になってきたと感じています。自分が村に生かされているというような感覚もあります。だから、これから先は仕事を通じて村にもっと恩返しをしていければと考えています。時代に合った村の福祉を、まわりのみなさんと力を合わせながら村の福祉をもっと充実させたものにしていければと思いますね」
最後にそう話してくれた戸賀澤さん。「いろいろ頼まれるのは、村に人が少ないというのもあるから」と笑いますが、村の福祉を支えたいという思いがその親しみやすい雰囲気からも溢れていて、ついお願いしたくなるのも分かる気がします。移住して地域に根差し、暮らしも仕事も充実させている様子は、新篠津村へ移住を検討している方たちの参考になりそうですね。
- 社会福祉法人 新篠津村社会福祉協議会
- 住所
北海道石狩郡新篠津村第47線北13番地
- 電話
0126-58-3335
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