大人がするような家事や家族の世話、介護をしている子どもをヤングケアラーと言います。そんなヤングケアラーに寄り添っていこうとスタートした、AIR-G' FM北海道の「ひとりじゃないプロジェクト」。毎週金曜の18時から放送されている「IMAREAL」という番組内でも「ひとりじゃないプロジェクト」のコーナーが設けられています。このコーナーで、ヤングケアラーの実情を伝えたり、相談事に応じたりしているのが、今回お話を伺う加藤高一郎さんです。加藤さんは「北海道ケアラーズ」という団体の代表を務め、道から委託を受け、「北海道ヤングケアラー相談サポートセンター ヤンサポ」の運営も行っています。加藤さんがケアラーやヤングケアラーの抱える課題と関わるようになったきっかけ、現在の活動内容やこれからのことなどを伺いました。
福祉の専門学校を卒業後、いろいろな職業を経て、友人の強い勧めで社会福祉の道へ
加藤さんは浦河町出身ですが、教職員だった父親の転勤に伴い道内各地で暮らした経験があるそう。子どもが好きだったこともあり、保育や社会福祉に関われたらと恵庭市にある福祉の専門学校へ進学。しかし、卒業後は福祉の道とは離れたところで仕事をしていました。
「いわゆるフリーター的な感じですね。札幌のスポーツクラブでスイミングの先生のアルバイトをやって、社員になったんですけどケガしてやめて、そのあとは大手衣料販売店で働いていました。どうしてもこの仕事に就きたいとか、どうしてもこの業種じゃなきゃというのは特になくて、楽しく働けたらいいと思っていたんです」
こちらが加藤高一郎さん。ふわ〜っとした雰囲気に、相談されやすいというのも納得。
ところが、たまたま店を訪れ再会した専門学校時代の友達が、「どうしてアパレル業界にいるんだ。お前のいるところはここじゃない!」と言い、その後も「福祉系のほうがお前には絶対に合っている」と何度も説得に訪れたそう。「あまりにもそう言われると、じゃあちょっとやってみようかなって思って...」と、結局介護福祉の仕事に転職します。
「昔から自分は人に言われるがままというか、人のアドバイス通りに動いたほうがうまくいくタイプなんですよ。自分からこれがやりたいとかって動くと、自分では合っているつもりでも他の人から見るとまったく自分には合っていないということが多く...。要は、自分で自分のことが分かってないんですよね(笑)。だから、割と何でもすぐ人に相談します。周りの意見を聞いて総合的に判断して物事を進めるようにしています」
ケアラーズカフェは、休みの日に利用者家族の話を聞いてあげたのがきっかけ
人の意見を聞いてから動いたほうがうまくいくタイプというのは少し意外な気もしますが、ケアラーやヤングケラーの課題に関わるようになったのも、周りの人から「話を聞いてほしい」と言われたのがきっかけだったそう。
「当時、ケアマネとして江別の介護施設で働いていました。利用者さんの家族の方、つまり家でお世話をしている方と話をする機会があるのですが、ある家族の方からもっと話を聞いてほしいと言われたんです。仕事中は時間も限られているし、家で利用者さんが近くにいると話したくても話せない内容もあるというので、それなら、まぁ休みの日は暇だし、ファミレスでも行って話を聞きますよって言ったのが始まりです」
ファミレスでは、本当にただただ話を聞くだけだったそう。意見をするわけでも、アドバイスをするわけでもなく、約2時間、真剣に耳を傾けていたという加藤さん。
加藤さんによると、自分がケアラーだと認識していない当事者も多いのだそう。
「その方が、聞いてくれてありがとうって最後に泣いたんです。最初から問題を解決するつもりはないし、話を聞くことしかできないけどいい?って話して、本当にただ聞いていただけなのですが、聞くだけで人の役に立つなんてと驚きました。その方は気持ちを吐き出せたことでスッキリしたようです」
すると今度は、その人が違う人を連れてきて、次に話を聞いてもらった人がまた違う人を連れてきて...と、参加する人が増え始めます。
「4人になった時点でファミレスの席にまとまって座るのが難しいねってことになり、最終的に6人になったときにファミレスを卒業して、福祉センターなどの場所を借りて、『ケアラーズカフェ』というのを始めました」
この6人は家族の介護、世話をする当事者でありながら、スタッフとしてケアラーズカフェの運営に携わってくれたそう。すべてボランティア、手弁当で行っていました。多い時は月に3回ほど開催し、「やるからには続けたいと思っていたし、無理なく続けていけたらと思っています」と話し、現在も北海道ケアラーズとして月に1回ケアラーズカフェを続けています。
いきなり解決しようとはせず、ただ寄り添い、話を聞くだけでいい
「解決しようとするのではなく、ただ、寄り添い、大丈夫だよ、味方だよと話を聞くだけ」という姿勢は、現在ヤングケアラーの相談窓口として活動している「ヤンサポ」でも同じだと加藤さん。ヤンサポは30歳未満のヤングケアラーたちが相談する場所。相談者の大半が20代で、電話での相談がほとんどなのだそう。
「自分から『困った!』『話を聞いてほしい』と電話をかけてくる子は、相談者全体の1~2割。それ以外は、周りの大人や友達、先生らからの『こういう子がいるんだけど、どうしたらいい?』という相談ですね」
相談内容や緊急性のあるものによっては、さまざまな社会サービスを受けられる部署や団体などにつなぐこともありますが、「その前にヤングケアラーの子にまずは、どんなときも味方だよ、ひとりじゃないからねと言ってあげることが大事。そして、こちらが一方的に解決策を提示するのではなく、ケアラー本人がどうしたいかを聞くことが先」と話します。
「友達にケアラーの子がいるけど、どう声をかければいいのか、踏み込んでいいものなのか、どう付き合っていったらいいか分からないという子どもからの相談も多くあります。そんなときは、ごくごく普通に接してあげてと伝えています。決して、腫れ物に触るようなことはせず、普通に接して、そして『友達だよ』と言い続けてあげてほしいと伝えています」
大人のケアラーの方たちの話を聞くところからスタートした加藤さんの活動ですが、「大人のケアラーに対しても、ヤングケアラーに対しても、『あなたの味方だよ』というスタンスは同じだし、何よりそれが大事だと思う」と言います。
「ケアラー支援に関わりたいという方や何か人の役に立ちたいという方の多く、特にある程度社会経験を積んでいる年配の方などは、すぐに解決しようと無理にお節介を焼きたがる傾向にあります。でも、実際は介護をする相手がいる限り、解決なんてそう簡単にできるものではないんです」
ケアラーやヤングケアラーの話にとにかく耳を傾け、少しずつ距離を縮めていきながら、信用してもらうこと。それが相談を受ける側の基本姿勢だと加藤さん。ヤンサポで対応しているヤングケアラーの子どもたちの中には、自分の家のことを話したがらない子もいるそう。
「思春期ど真ん中の中学生や高校生は、家のことをそうべらべらとは話さないですね。だから、相談を受けるときは、家の中のことは簡単に話したがらないという前提でやりとりをはじめます。いきなり、大丈夫? 困っているの?とは聞かず、こんにちは、今何年生? 昨日は何していたの? と他愛もない雑談からはじめて、少しずつ距離を縮めて関係を構築し、子どもが話しやすい環境を作るようにしています」
ただ、最近の相談者は両極端な2つのタイプに分かれるそう。「家のことを話したくないという前提で、少しずつ信頼関係を構築していく従来のタイプと、逆に知らないから遠慮せずオープンに話すというタイプに分かれます」と話します。
ラジオ出演だけでなく、研修や出前授業なども通じて継続的に啓蒙活動を実施
ヤングケアラー本人からの相談は1~2割と前述しましたが、「ほんの少しですけど、年々本人からの相談が増えている傾向があります。やっと世間で周知されてきたからなのかなと感じています」と加藤さん。
加藤さんは、ラジオに出演するなどヤングケアラーの啓蒙活動も積極的に取り組んでいます。全道の学校を周り、先生たちを対象にした研修会を開催したり、生徒たちに向けた出前授業を行ったりもしています。
加藤さんも出演する、AIR-G'の番組「IMAREAL」のポスター。AIR-G'を運営するエフエム北海道では、ヤングケアラーを支援する「ひとりじゃないプロジェクト」を展開中です。
「生徒向けの授業のとき、この中で家族のお世話をしている人いる?って聞くと、割と小・中学生は恥ずかしがらずに手を挙げるんです。でも、高校生は手を挙げないんですよね。家で介護をしているということを恥ずかしいと思うようです」
大学生にもなるとケアラーの子は人にも頼ろうとするそうですが、高校生は自分がケアラーであることを認めず、隠そうとする傾向が強め。「そういうのを見ると、国や道で取ったアンケートの数字だけでは分かりにくい部分がたくさんあると感じています」と言います。
「研修に参加した学校の先生たちには、自分たちのクラスや近くにもヤングケラーの生徒がいるかもしれないというアンテナを常に張って、子どもたちの変化に気付けるように子どもたちを見てあげてほしいと伝えています。ただ、研修を受けた途端にヤングケアラー探しをする先生がいるんですけど、そんなことはしなくていいので、とにかく見守りながら変化があれば察知してほしいと思います。そして、学校内だけで解決しようとしないでとも言っています」
加藤さんは、よくニュースなどでも報じられるいじめ問題と同様に、ヤングケアラーの生徒がいるということもなぜか隠そうとする学校も多いと指摘。
「そういうところは学校内で無理に解決しようと頑張ってしまうんですけど、ケアラー問題は、介護を受ける人がいる以上、学校だけで解決するのは無理。行政をはじめ、福祉関連など外の専門職につないでほしいんです。だからこそ、ヤングケアラー支援に関してはいろいろなところと連携してほしいと思っています」
ヤングケアラーやケアラーについて知ってほしいと、パンフレットやカードを持って、とにかく自分の足で道内をかけまわっているそう。
今年もいろいろな自治体などで研修等を行ったそうですが、中でも恵庭市の小・中・高校すべての学校を回った際に大きな手応えを感じたと言います。ほかの自治体にも資料を作って研修や出前授業を行いませんかと提案を続け、令和7年度は苫小牧市、函館市、小樽市、稚内市の小・中・高校全部で出前授業や研修を開くことが決まっています。
「正直、出前授業の際の子どもたちの反応はさまざまです。まったくピンときていない子も多くいます。でも、いつか必要になったときに自分が話していたことを思い出してくれたらそれでいいと思っています。介護というものは、ある日突然急に始まるものだから、そのときに思い出してもらえたらいいなと思います。出前授業は、『安心の種まき』だと思っています」
大人の土俵に引っ張らず、「ほわ~」っと子どもの話に耳を傾けることが大事
ヤンサポの事務所は、江別のJR野幌駅から徒歩5分ほどのところにある複合商業施設「セリオ野幌」内にあります。現在、加藤さんのほかに、日中8時45分~17時30分は2人の相談員さんが電話の対応をしています。しかし、ヤンサポのカードには時間外も通話料はかかるけれど24時間365日対応している旨が書かれています。
加藤さんと相談員さん。何か聞いて欲しいことがあれば、いつでも連絡してみてくださいね
「昼間は仕事をしていたり、学校に行っていたりで、悩みについて考えることって少なくて、寝る前とか夜に悩みってモヤモヤ出てくることが多い。だから、寝る前にどうしても話したくなったとか、相談したくなったというケースのため、24時間対応にしています」
相談件数は、1年目は50件ほど、2年目は100件近く、そして今年度は前年度を超えそうとのこと。全道各地から電話がかかってくるそうで、「電話がきっかけで、あとから江別のこの場所に足を運んでくれた人もいましたよ」と加藤さん。
事務所はありますが、「会って話がしたい」という子には、「こっちにおいで」とは言わず、「どこで話をする?」と必ず問いかけているそうです。それは、呼びつけることで大人の土俵に子どもを引っ張り上げることになるため、「公園でも、ファストフードの店でも、子ども自身が話しやすい場所を選んでもらうようにしている」と話します。
「自分はケアマネや社会福祉士の資格を持っているのですが、本来福祉の専門職は感情に飲み込まれず、客観的にアドバイスをしなければなりません。でも、自分はどうしても心が動いてしまって、相談で話を聞きながらつい泣いたりしちゃうんです」
そんな加藤さんだからこそ、ケアラーもヤングケアラーも心を開きやすいのだろうなと思います。加藤さんの言葉を借りると、「ほわ~」っと話を聞いているだけとのこと。その「ほわ~」というのが、話を聞いてもらう側にとってはありがたいのかもしれません。
最後に、
「ヤングケアラーに関する啓蒙活動も、相談窓口として活動するのも、とにかく一過性のものにせず、続けていくことが大事だと思っています。だから、これからも地道に活動を進め、ヤングケアラーの子どもたちや若者を支援する人たちをさらに支援できるようになっていきたいと思います」と静かに、しかし、きっぱりと話してくれました。
- 北海道ヤングケアラー相談サポートセンター ヤンサポ
- 住所
北海道江別市東野幌本町7-5(セリオ野幌店内)
- 電話
0120-516-086 (24時間受付/17:30以降転送対応)
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