7町村ある日高管内の町のひとつ・新ひだか町。日高山脈と太平洋という豊かな自然に囲まれた町でありながら、静内地区(旧静内町)は大型商業施設などがそろう日高管内随一の商業地区でもあります。その静内地区にある認知症対応型通所介護「あすなろ」。運営しているのは、町内でいくつかの高齢者施設を抱えている静内ケアセンターです。今回は、この「あすなろ」で生活相談員として活躍している中川ひとみさんにインタビュー。介護の仕事に携わるきっかけや、このエリアやこの施設で働くことの魅力、仕事のやりがいなどを伺いました。
アットホームな雰囲気に包まれている認知症デイサービスの「あすなろ」
教えてもらった住所を検索して向かうと、敷地内に普通の一軒家のような建物などが向かい合って立っています。外には洗濯物が干してあったり、手入れされた花の鉢が置いてあったり、ちょっとした住宅街の一角のような感じです。その中の戸建のひとつが、今回取材させていただく中川さんが勤務する認知症対応型通所介護「あすなろ」。
敷地内には、あすなろの他にも、グループホームが数件。どれもかわいらしい戸建てです。
認知症対応型通所介護は、通称「認知症デイサービス」と呼ばれる福祉サービスのこと。文字通り、認知症になった方たちが対象となります。送迎、健康チェック、食事や入浴の介助、レクリエーションと、一般的なデイサービスとほぼ同様のサービスを提供するほか、認知症の方に合った運動や機能訓練も行っています。
「あすなろ」の中に入ると、職員の方たちが「こんにちは」と元気よく迎えてくれました。利用者の皆さんの中には、丁寧に挨拶をしてくれる方もいれば、「誰が来たの?」と取材スタッフのほうを興味津々な様子で覗いている方も。「ここは普段からいろいろな人が気軽に出入りするんですけど、きっと初めて見る方ばかりだから気になるんでしょうね」と、中川さんが笑顔で教えてくれます。大きな窓から日が差し込み、部屋の中が明るく見えるからか、室内が一般的なおうちの中のようだからか、全体の雰囲気がアットホームで、いい意味で「施設」という感じがしません。利用者の方たちも心なしか表情が豊かに見えます。
うかがったのはお昼過ぎ。明るい部屋の中で、皆さんおもいおもいにくつろぎ中。
普段、中川さんは利用者さんの送迎やお世話もしますが、相談員としての事務仕事もこなします。書類作成などの作業で使っているという部屋に案内してもらい、早速仕事のこと、職場のことなどを伺うことにしました。
医療、看護の世界から、高齢者と接する介護業界へ転身。訪問介護に従事
中川さんは、新ひだか町の三石エリア出身。隣町の浦河高校を出たあと、母親が看護師だったこともあり、伊達にあった看護専門学校へ進学しますが、体調を崩してしまい実家へ戻ってきます。そのあとは、調剤薬局の事務、クリニックの看護助手として勤務。ところが交通事故に遭い、仕事を辞めて治療に専念していました。そんな中、たまたま静内で「介護職員初任者研修」が行われるというチラシを目にします。
こちらが、生活相談員として活躍する中川ひとみさん
「ずっと医療や看護に関係するところで働いていましたが、次に仕事をするなら高齢者に関わる介護の仕事もいいかなと思っていました。もともと実家で祖母と一緒に暮らしていて、高齢者の人と接するのも好きだったので、ひとまず研修を受けてみることにしました」
実際に研修を受け、現場の話などを聞くうちに、中川さんは訪問介護の仕事に興味を持つように。研修が終わると、静内ケアセンターの訪問介護の部署に再就職をします。
「介護に関してはまったくの初心者。最初は先輩について利用者さんのお宅に伺い、仕事の流れを覚えていきました。独り立ちして、最初はとても緊張しましたけど、利用者の皆さんが結構すんなり受け入れてくださったので嬉しかったです」
とはいえ、中にはインターホンを鳴らしても出てこなくて不安になったことや、家の鍵があいていて中に入ってみると利用者さんが横たわっていて、息をしているかどうかドキドキしながら確認したこともあったと振り返ります。
新ひだか町や隣の新冠町の利用者さんの家を1日に3~4軒回る訪問介護の仕事。時間の使い方も含め中川さんに合っていたそうで、「楽しく仕事をさせてもらっていました」と話します。また、勉強するのが好きという中川さんは、2019年には介護福祉士の資格も取得します。
デイサービスの生活相談員に。周りに支えられながら手探りでのスタート
2020年、ちょうどコロナの感染が広がり始めたころ、「あすなろ」のベテラン生活相談員が退職することになり、「後任を探しているけれど、中川さんどう?」と声をかけられます。
「介護の仕事をはじめてから、訪問介護しか経験してこなかったので、デイサービスの生活相談員の仕事内容も全然知らなくて...。事務と現場を両方やる感じだよと聞き、自分にできるか不安でしたが、家族に相談したら、『協力するからやってみたら?』と背中を押してくれたので挑戦することにしました」
訪問介護の仕事をしながら、2カ月かけて前任者から仕事を引き継ぎます。「このときは本当にバタバタで必死でした」と話し、「手探りでしたが、とにかく周りの人たちに助けてもらいながらなんとか...。みんなに相談員に育ててもらったような感じです」と続けます。
具体的に生活相談員としてどのような仕事をしているのでしょうか。デイサービスの1日の流れと合わせて伺うと次のように細かく教えてくれました。
「あすなろ」は、職員が朝に各家庭へ迎えに行き、ここへ来たら健康チェックをし、そのあとは11時まで自由時間。脳トレのパズルやぬりえをするなど、好きに過ごすほか、入浴を希望する人は10時から順にお手伝いをしてもらいながら入浴するそう。11時になるとみんなで洗濯物を畳み、11時30分からはリハビリ体操を行います。12時30分からはお昼ご飯。そのあとは歯磨きをして、職員が口腔チェックも行います。
13時30分からはコーヒータイムとバイタルチェック。その間、入浴時に使ったタオルなど洗濯したものを干す前にしわ伸ばしをみんなで行います。14時からは室内を歩いて運動したり、トランプで遊んだり、レクリエーションタイム。15時におやつを食べたあとは、レクリエーションの続きをすることもあれば、休憩を取るなど、各自の様子を見ながら対応。15時30分には帰る準備をし、16時には利用者さんたちを送っていきます。そのあと、こちらへ戻ってきたら、記録を付けるなど事務仕事を行います。
「私は現場の人手が足りないところに入るという感じで、空いている時間に新たな利用者さんの契約関係の書類作成やサービス提供票の点数の計算などの仕事をします。サービス担当者の会議に出席することや利用者さんのご家族と話をすることもあれば、月に1回はケアプランができているかチェックするモニタリングもしています」
利用者さん本人はもちろん、スタッフさんや、利用者さんのご家族など関わる人みんなとコミュニケーションをとるのがとても大事
生活相談員として、利用者さんはもちろん、その家族とも直接話をする機会が多い中川さん。書面だけでは分からない部分を中川さんがカバーし、ケアマネージャーに伝えることも多いそう。
「これは私の解釈なのですが、生活相談員というのは、利用者さんとその家族とケアマネージャーを繋ぐような存在なのかなと考えています。それぞれの立場や想いのすり合わせをしていくのが自分の役割だと思っています」
調整役、つなぎ役というのは気苦労や難しいことも多い気がしますが、中川さんはそれほど大変と感じていないそう。「ほかのエリアのことは分かりませんが、新ひだか町のケアマネージャーさんたちとは距離が近くて、相談もしやすいし、連携が取りやすいんです。そして、私はもともとしゃべるのも好きだし、人の話に耳を傾けるのも好きなので、この役割が向いているのかも」とニッコリ。
介護はチームで行うもの。職員のチームワークの良さ、そして働く環境も◎
連携という点でいえば、ケアマネージャーだけでなく、地域の医療機関との連携もしっかりしているそう。取材中、誰かが楽しげにおしゃべりしながら建物に入ってきたなと思っていると、地元のクリニックの先生や看護師さんたちでした。職員や利用者さんと気さくに笑顔で話している様子を見ているだけで、地域ぐるみで利用者さんを見守っているのが伝わってきます。
「うちの事業所で運営している支援ハウスからほかのデイへ通っている人もいますし、他の町内の事業者さんとも大事なことは情報共有するなど、しっかり連携しています」
取材陣が、お医者さんだと気づかなかったくらい、自然に入って来て健康チェックをされていました。
そして、取材をしながら感じたのが、「あすなろ」の職員の皆さんがとても仲良しという点。チームワークがいいのはもちろん、利用者さんたちに接している様子からも利用者さんに対する温かな思いが一緒なのだなと感じ取れます。
「うちは規模が大きくない分、手厚く、柔軟にいろいろ対応できるのが利点。自由度はとても高いと思います。それぞれの利用者さんの希望にできるだけ寄り添えるよう、職員みんなでしっかり話をして対応しています」
介護はチームでするもの!
中川さんが「介護はチームでやるものだ」と強く思ったのが、コロナ禍のある出来事でした。職員の多くがコロナに感染したため、あすなろを休みにし、支援ハウスも閉鎖。その際、唯一先にコロナにかかっていて免疫ができていた中川さんだけが動けるという状況でした。すべての利用者さんやその家族に連絡をしなければならず、その仕事量に「声も枯れて出なくなり、物理的に無理だ...」と痛感。精神的にも辛く、介護の仕事に就いて初めて泣いてしまったそう。「仕事量ももちろんですが、気持ち的にもみんながいることのありがたさをしみじみ感じました」と話します。
また、「あすなろは利用者さんに対しても柔軟ですが、職員の働き方も柔軟にいろいろ対応してくれるので働きやすいんです」と話します。小中学生3人の子どもがいる中川さんですが、「子育てしながらでも働きやすく、何かあれば子どもを職場に連れてきてもいいよと言ってくれるような大らかさがあります」と続けます。安心して働ける職場ということで、職員の離職率も低く、長く働いている人が多いそうです。
あすなろの管理者である橫田茂さん(左)いわく、「なぜか色々なところから取材されるんです」とのこと。この明るい雰囲気を見ればその理由もわかります。
やりがいを感じるのは、利用者さんの楽しそうな姿を見るとき
現在、あすなろの利用者さんは約30名。生活相談員として、中川さんは全利用者さんのこと、そしてその家族のことも把握し、日々皆さんと接しています。仕事をしていてやりがいや喜びを感じるのはどのようなときなのでしょうか。
「利用者さんが楽しそうにしているのを見ると、やっぱりうれしいなぁって思いますね。特にドライブに出かけたときや、ハロウィン、クリスマス会などを催したときなど、準備は大変ですが、喜んでもらえるとやって良かったって思います。あと、利用者さんのご家族に『助かります』と言われるときも、人の役に立てているのがうれしいなって思います」
利用者さんの作品が家の中を彩ります
壁には、想い出の写真がびっしり
働き者のお母さんたち
撮影中、「うちのお母さんたち、働き者なんですよ!」と、利用者の女性たちと一緒に洗濯物のしわ伸ばしをしていた笑顔の中川さん。利用者さんたちに温かいまなざしを向け、明るく話しかけている姿から、この仕事が本当に好きなのだなと感じました。
- 認知症対応型通所介護 あすなろ
- 住所
北海道日高郡新ひだか町静内ときわ町3丁目12-23
- 電話
0146-42-3255