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教育と起業が両方叶う安平町へ移住!地元素材で地ビールを創る20240828

教育と起業が両方叶う安平町へ移住!地元素材で地ビールを創る

2024年4月、安平町の早来地区にオリジナルの地ビールを提供するスポーツバーがオープンしました。安平発のクラフトビールです。ビールの開発から販売まで新事業を手掛けるのは、東京での仕事を脱サラして安平町の地域おこし協力隊として早来地区に移住をした坪松賢太さんです。
なぜ安平町へ移住をしたのか、なぜビールなのかなど、坪松さんの想いや感じたこと、今後の展望などじっくりお話を伺ってみました。

不満も不自由もなかった生活から飛び出したくて

坪松さんは安平町の近隣にある恵庭市出身で、大学進学とともに北海道を離れ神奈川県と東京都で合わせて約9年暮らしました。大学では化学を専攻して大学院へ進み、卒業後は都内にある機械系専門商社へ就職しました。


「自分なりに頑張り、成績も認められていたんです。待遇も悪くなかったし、人間関係も良好。恵まれていて不満も一切なくて、そのまま定年までいるんだろうなって漠然と思っていました」と坪松さん。

不満も不自由なこともなく、パートナーとも結婚をして子どもも授かり順風満帆な生活を送っていたのに、なぜ移住を決断したのでしょう。

きっかけは、コロナ渦です。

坪松さん一家は、コロナ渦で緊急事態宣言が出されていた頃、両親が所有する洞爺湖町の海に近い別荘に身を寄せていました。日本中で「外出を控えよう」「マスクをしよう」と呼びかけられていましたが、ここでは海に行くと自分たち家族しかいない環境。ここで気持ちの変化が起きました。

それまでの仕事や暮らしに不満がないとはいえ、出張が多く残業も多かったため家のことは奥さまに任せきりという状態。当時はそれがあたり前と思っていたものの、コロナ渦になり出張がなくなり、リモートワークが増えて必然と家族で過ごす時間が長くなりました。出張がなくなってリモートワークになっても社会が回る状況を目の当たりにし、「自分は何のためにここまで命を削って頑張ってきたんだろう」と感じるようになったそうです。

「コロナ禍とか有事の時は都市機能が麻痺してしまっても、自然は変わらないんですよね。ただ自然が広がっている世界、北海道の大自然ってすごい価値があるんだなって感じたんですよね。もう、首都圏に自分がいる意味を見いだせなくなって、思いきって仕事辞めて恵庭に戻ってきたんです」

不満はなかったとはいえ、知らず知らずのうちに心身ともに疲弊をしていた自分たちの姿に気づいてしまったのです。「いつまで社会の歯車になって生きていくのだろうって思っちゃったんです」と坪松さん。会社を辞めて生まれ育った恵庭市に戻ってきて、前職の業務の一部を個人事業主として手伝うスタイルでしばらく生活をしていました。

教育環境の良さに惹かれ、安平町で起業することに

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恵庭市は坪松さんにとっては出身地ですが、奥さまは神奈川県横浜市出身なので縁もゆかりもない土地。それでも、まずは3年くらい試してみてもいいのではと納得されたそうです。
一番気がかりだったのは2人の子どもたち。いい環境で教育を受けさせたいと考えていたところ、教育に力を入れる安平町が設立した小中一貫の義務教育学校「早来学園」の存在を知りました。

「早来学園に興味を持って安平町役場を訪れてみたことが移住するきっかけですね。2022年度のFanfare(ファンファーレ)に参加をして、ビール事業を思いついてプレゼンしたら採択されて、今に至るんです」と坪松さんは移住のきっかけを端的に教えてくれました。

安平町に住めば子どもたちは早来学園に通えるようになるということと、「Fanfareあびら起業家カレッジ」という起業創業と移住を連動させた取り組みや資金の補助があることも知りました。この制度は、約半年間のオンラインやオフラインでのイベントや合宿などを経て事業を町にプレゼンし、採択されると3年間地域おこし協力隊として身分や収入があった上で、創業の補助金や事業家のサポートを得ながら新事業を立ち上げていくことが出来る制度です。
元々は子どもの教育環境のための移住希望だったこともあり、Fanfareに加わった当初はビール事業を想定していなかったそうです。この町で何ができるかを考えるところからスタートしたという坪松さん、なぜビール事業を選んだのでしょうか。理由を大きく2つ語ってくれました。

「プログラムに参加した時、参加していたみんなが町の課題を自分ごとのように考えて、自分も町おこしのようなことを考えるようになりました。今までの自分の経験から何ができるのかと。元々化学を専攻していたということとクラフトビールが好きでよく飲んでいたので、安平町の農産物を生かしたビールをパッと思いついたんです」

その当時はちょうど日本各地でクラフトビールのブームが再燃していた時期。ここにチャンスがあるのではないかと思い、クラフトビール業界を調べていくうちに成功を確信。事業案が採択される前に、札幌市にあるクラフトビールメーカーへ研修に行き、基本的な製法などをマスターしたそうです。なかなかのチャレンジ精神と行動力の持ち主です。

「あともう一点は、自分が製造業で働いていたこともあって、食品製造業で北海道の良さを伝えられる事業ができたらいいなという考えもありました。北海道の自然はすごく魅力があって、だからこそ農業など一次産業も盛んで価値があることだと思っています」

プレゼンでは、若年層や子育て世代をターゲットとした人口減少対策と、商業の活性化という安平町の課題に対して、地元の農産物を利用したクラフトビール造りで解決すると提案。見事採択され、2023年4月から安平町の地域おこし協力隊としてクラフトビール事業を立ち上げることになりました。

安平町のオーツ麦を生かしたクラフトビールを製造

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クラフトビールのブランド名は「NORTHERN BREW(ノーザンブリュー)」と命名。はじめは自前の工場やお店があるわけではないので、ゼロからのスタートです。工場が完成するのは2024年度の後半の見込みのため、初年度の2023年は道内各地のクラフトビール会社へ自ら原材料を持ち込み、製造委託をして進めてきました。
記念すべき第一作が誕生したのは創業間もない2023年7月。安平町内の生産者が作ったオーツ麦で作ったクラフトビールです。オーツ麦とは一般的にオートミールとして知られている麦で、クラフトビールの原料としても利用される品種です。

ただ、坪松さんによると「国内でオーツ麦を生産している農家は日本でも非常に珍しいみたいで、国内でも安平町のこの農家さんが唯一かも」という状況のようです。クラフトビール作りで利用される品種が輸入品ではなく安平町内で手に入るとは、まさにここで地ビールを生産する意義や必然性が感じられます。
もちろん、希少だから原材料を売ってほしいと言って誰でも譲ってもらえるわけではないでしょう。Fanfareに加わっていた時から地域のことを学び、生産者をはじめ町内の人たちとの関係性を築いてきたことが今につながっているようです。

キッチンカーとチャレンジショップで販売スタート

「NORTHERN BREW」の看板商品は、安平町産のオーツ麦を使った「ABIRA OATAS IPA」。一般的に苦めな味わいが多いと言われているIPAながらも苦さは控え目で、フルーティーでジューシーな味わいが特徴です。
自前の工場は建設中とはいえ、商品は開発して委託製造ながらも完成しました。問題は売り先です。「当面の売り上げ確保という意味でも飲食店を開きたいと思っていました。でも、早来って物件がないんですよ」と困っていたそうです。

そこで、まずは2023年12月にキッチンカーを導入。自慢のクラフトビールとともに、ハンバーガーや丼飯を提供する移動販売車で土日を中心に各地へ出店しました。冬は隣町の苫小牧市が拠点のアイスホッケーチーム「レッドイーグルス北海道」の試合会場へ訪れ、2024年の春は安平町内の菜の花畑の鑑賞スポットにも出店しました。

tsubomatsu_smartphone_077.jpg人気メニューのプルドポーク丼。長時間じっくりと燻製して旨味を閉じ込めた豚肉がたまらない!

キッチンカーを導入後、ほどなくしてチャンスが訪れます。早来地区にある町有のチャレンジショップを利用していた方が退店することになり、物件が空くと知ったのです。
チャレンジショップは、北海道胆振東部地震による一時的な仮住まいとして建てた仮設住宅の建物を生かした町有の物件で、今は新たな事業を立ち上げる町民に対して貸し出しています。「公募がかかって、いいタイミングだからやろう」と思い応募をし、2024年4月にオリジナルのクラフトビールを提供するスポーツ&ビアバー「NORTHERN BREW Sports & Beer Bar」を開店しました。当面の間は、キッチンカーも動かしつつお店も運営していく2拠点体制です。
お店で提供するビールは全部で8タップ。看板商品の「ABIRA OATAS IPA」はもちろん、安平町産の農産物を生かしたクラフトビールの数々。銘柄は農産物の収穫時期や醸造のタイミングなどにより変わります。その他にも海外のクラフトビールを各種取り揃えています。

スポーツ&ビアバー。早来地区で期待の新店

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くらしごと編集部が訪れた時は、「ABIRA OATAS IPA」のほか、町内産のオーツ麦とカボチャを使ったスタウト(黒ビール)に乳糖を加えたミルクっぽい「Milk Stout」と、町内産の小麦とオーツ麦に菜の花酵母を使った「ABIRA NANOHANA IPA」がありました。
どちらも地元の農産物や特産品を生かした独創的なビール。ここでしか飲めないオリジナリティーのある品々です。どれも飲みたい気持ちでいっぱいでしたが、車だと残念ながら飲めません。
お店の集客面での課題は、早来地区に宿泊施設がないということと、近くにJR室蘭本線の早来駅があるものの列車の本数が少ないこと。どちらの課題も一個人ではなかなか解決できない問題です。どなたか早来地区で宿を開いてくれれば...

ただ、早来地区の方々にとっては期待の新店。夜に飲みに行けるお店が少なく、一人でも気軽に入れるところも少ないのが早来地区の現状。若い世代の人たちが集まれるお店もありませんでした。
近年安平町は、坪松さん同様に早来学園に子どもを入れるために移住をする子育て世代が増えてきて、国内の市町村では数少ない人口が社会増加した町です。スポーツ&ビアバーのようなお店は、子育て世代の人たちのニーズがあるはずだと想像もできます。オープンしてまだ間もないとはいえ、新聞記事などメディアにも取り上げられるほど話題のお店になっています。

教育と移住と起業の夢を叶えられる町

順調に進んでいるクラフトビール事業ですが、坪松さん自身の生活面ではまだまだ不完全な状態です。というのも、奥さまと2人のお子さんは、奥さまの仕事の兼ね合いで安平町ではなく横浜市に戻って暮らしているのです。
「いやー、ほんと寂しいですね。でも、今は仕方がないです。自分一人しかいない今のうちに事業をしっかり軌道に乗せます」と前向きな坪松さん。元々安平町へ移住をしたいと考えたきっかけが子どもの教育環境だったこともあり、近い将来は家族4人で安平町に住むことは奥さまもおこさんも納得の上で決めているそうです。
プライベートの目標は家族で安平町に住み、子どもたちが早来学園へ通うこと。仕事面の目標は何でしょうか。壮大な夢を語っていただきました。


「短期的な目標としては、2024年度中に工場を立ち上げて自分で生産したいです。町の特産品にしたいですし、ふるさと納税の返礼品にもなればいいなと思っています。最終的には、地元のさまざまな農産物を生かしたクラフトビールを通じて世界に北海道の大自然の魅力を発信していきたいです」

安平町は教育と移住と起業が叶う町。もちろん誰でも気軽に叶えられるわけではなく、信念や熱意とともに、何かを生かせる知識や技術のほか、地元の方々との交流を重ねて関係性を築けるコミュニケーション能力や課題を発見する着眼力など、さまざまなスキルやセンスが求められるでしょう。我こそはと思う方は安平町の門を叩いてみてはいかがですか?もし移住するとなったら、その時は坪松さんが製造したビールで祝杯をあげてくださいね。
「NORTHERN BREW」は、安平町で期待の地ビールです。坪松さんのビールが、人口減少社会と地域産業の活性化を解決すると言っても大袈裟ではありません。これからの安平町がより楽しみです。

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NORTHERN BREW(ノーザンブリュー)
住所

北海道勇払郡安平町早来大町68

URL

https://www.instagram.com/northernbrew_jp/

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教育と起業が両方叶う安平町へ移住!地元素材で地ビールを創る

この記事は2024年6月4日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。