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キッチンカーと実店舗で全道へ。燻製と檸檬 Bitters20240516

キッチンカーと実店舗で全道へ。燻製と檸檬 Bitters

全道をキッチンカーで巡る「燻製と檸檬 Bitters(ビターズ)」。燻製したサバをパンで挟んだ「燻製サバサンド」や、甘くほろ苦い「レモネード」が人気です。「あれ?この檸檬のイラスト、江別市でも見たことがある」と思った方もいらっしゃるかもしれません。Bittersは、江別市野幌にお店も構えています。キッチンカーで開業したBittersが、店舗をオープンさせるまでの道のりや、ここでしか聞けない商品開発秘話などを志田夫妻に伺いました。

家族の笑顔が調理師への道を作ってくれた

「いらっしゃいませ!」と笑顔で出迎えてくれたのは、妻の志田真里さん。夫の明史(あきふみ)さんは、仕込み中の厨房からにこやかに挨拶してくれました。「まずはおふたりの経歴を伺いたいのですが...」と伝えたところ、「では、僕から」と明史さんが手を挙げてくれました。

志田明史さんは、余市町出身。中学まで余市町で過ごし、高校は小樽市の高校に進学しました。高校でもたくさんの友人に恵まれ、楽しい学生生活を送っていたそう。しかし、明史さんは自宅での「あること」を楽しみに、帰路についていました。

「得意料理はパスタで、家族からのリクエストや自分が興味を持った食材を使って、オリジナルのパスタを作るのが好きでした。家族が『美味しい!』と満面の笑みで喜んでくれる表情を見て、『料理人になろう』と決意。高校卒業後は、技術と知識を磨くために札幌市の経専調理製菓専門学校に進学しました」

bitters_39.jpg「燻製と檸檬Bitters」オーナーの志田明史さん。

専門学校は2年の修業年限で、和洋中の幅広い調理技術を取得する事ができます。明史さんは、楽しみながら腕を上げ続け、取得した技術で就職という次のステージに進みます。

「就職先は、割とすぐに決まりました。札幌市内に複数ある病院の調理師になったのですが、この病院は食事に力を入れていた事が決め手となりました。多くの病院では、栄養士さんが患者さんへ提供するメニューを考えるのですが、ここの病院は調理師もメニューを考える事ができたんです」

この病院ではDX化が進んでいたため、パソコンのシステムで栄養計算を行う事ができたそうです。このシステムを使えば、患者さんに必要なカロリーや栄養バランスがひと目でわかるため、調理師もメニューを考案できる体制になっていました。

bitters_49.jpg2021年5月に江別市に実店舗をオープンしました。

「カロリーや栄養バランスをシステムで計算し、レシピを起こし、試作を作って...調理長や栄養士のOKが出たら、それを作る...というのを、業務として行っていました。大変な作業でしたが、病院の方針である『治療が辛い患者さんに、できたての美味しい食事を楽しんでもらいたい』という理念に共感していたので、やりがいがありました」

明史さんのメニューはどれもアレンジが効いたものが多く、その根幹には高校生の時に家族が喜んでくれた経験があったと言います。

「家族の反応から、料理をアレンジする事で食べている人に驚きや発見を与え、喜びを生み出す事ができるのを学びました。そこで、患者さんたちに料理を食べている間だけでも、治療の不安や心の負担が少しでも軽くなるようにと、毎日一生懸命料理を作っていましたね」

bitters_44.jpg志田さんの趣味であるキャンプでの燻製調理から生まれた「サバの燻製」。

管理栄養士になれば、困っている人を助けられる

続いて、志田真里さんの経歴をお伺いします。真里さんは、名寄市出身。小中高まで名寄で過ごし、大学進学のため札幌へ引っ越しました。

「管理栄養士を目指して、天使大学看護栄養学部栄養学科に進学しました。名寄で過ごしていた時に、仲の良い友人が食物アレルギーを持っていて...その友人の母が管理栄養士でした。友人は、管理栄養士である母のサポートで、周りとほぼ同じように食事を楽しめていたんです。その姿を見て『管理栄養士ってすごい』と思い、私も同じように人を助けたいと思うようになりました」

bitters_17.jpg 志田オーナーを支えている妻・真里さん。

管理栄養士は、栄養バランスのとれた食事メニューを考えるイメージが強いですが、食事指導や、アレルギー対応の食品開発などにも関わることもあります。

「管理栄養士の資格取得後、就職先を探して様々な施設や病院を見学しました。その中で、患者さんに栄養指導を行いながら調理にも参加できる病院を見つけ、就職を決めました。栄養指導を通して患者さんの声に直接耳を傾け、その想いを反映した調理ができる事に魅力を感じたからです」

こちらの病院では、メニューは調理師と管理栄養士が協力して考える事になっており、管理栄養士はその他にも患者さんへの食事指導や調理を行うのが仕事でした。もちろん「こういう料理が食べたい」といった患者さんからのリクエストを直接厨房の中に届ける事もできるため、管理栄養士と調理師がチームになって動いているような職場だったといいます。

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しかし、どこかで聞いたことのある職場の話のような...。

「そのメニューを考案していた調理師の一人が、私の夫です。入職当初は私は系列の別病院に勤務していたのですが、異動があり夫と同じ職場になったんです。最初は仕事上の関係でしたが、会話を重ねるうちに食の好みが一致する事が多く、自然と交際へ発展しました」

「夢中になれるもの」を一緒に見つけよう

ふたりの交際は順調に進み、仕事も充実していましたが、真里さんは趣味で始めたパン作りに、徐々に夢中になっていきます。

「仕事以外で楽しめることを探していて、パン作りをはじめたら、その奥深さにどんどんハマっていきました。最初は友人や主人へパンを焼いて味見してもらう程度でしたが、次第に本格的にパン作りを学びたいと感じ始めたんですよね。チャレンジするなら早い方がいいと思い、札幌市厚別区にあるパン屋さんに転職しました」

こちらのパン屋は夫婦で経営しており、パンの技術もさることながら人柄もとても温かかったそうです。気持ちのこもった熱心な指導の元、真里さんはパンの製造を一から学びました。そして、パン作りに慣れたころに、明史さんと結婚。新しい命を授かります。

「妊娠がわかった瞬間、喜びと同時に、パン屋さんで仕事を続ける事への葛藤が生まれました。立ち仕事が多く、重たい粉袋を持つことも日常的なので、体調管理が難しくなることは明白でしたね。パン作りを続けたい気持ちはありましたが、我が子の健康と安全を第一に考え、パン屋を退職する事を決意しました」

その後、真里さんは無事出産。周りからの祝福を受け、志田家は3人の暮らしをスタートさせます。赤ちゃんがすくすくと成長するかたわら、真里さんは仕事復帰の意欲が湧いてきます。しかし、パン作りは早朝の勤務が必須。育児中の生活リズムとの兼ね合いを考えると、パン屋への復帰は断念せざるを得ませんでした。

「製粉所の事務職の募集に応募し、働き始めたのですが、育児をしながらもう一度夢中になれる何かを探す日々でもありました。そんな時、夫が私に『今の仕事を辞めて店を開業したい』という話を切り出します。お互い相談していたわけではありませんでしたが、すごいタイミングだなと思いました」

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この話の後、明史さんは仕事を辞め、真里さんも製粉所の事務を退職します。

それからふたりは、自分たちの店を持つために情報収集に力を入れていきます。しかし、開業には資金や場所問題の大きな壁が立ちはだかりました。そんな中、2019年秋頃、キッチンカーブームの兆しが。たまたま真里さんが見ていたテレビで、キッチンカーの特集を目にし、直感的に「キッチンカーなら私たちも挑戦できるかもしれない」と思ったそうです。

真里さんからキッチンカーの説明を受けた、明史さんも同じように感じたようで...。

bitters_43.jpg念願のキッチンカー。現在もオフィス街販売、フェスやイベントへ出店しています。

「キッチンカーならさまざまな問題もクリアできるし、開業できるかもしれないと思いました。もしうまくいかなくても調理師に戻れば生活はできるだろうと思っていたので、意外と不安やプレッシャーはなかったです」

真里さんも当時のことをこのように振り返ります。

「その時は、キッチンカーを始めるのに不安は全くなかったですね。厚別のパン屋さんを経営されていたのが、素敵なご夫婦だったので、そのおふたりのようになれたらいいなと思っていました。夫は料理の腕もあるし、この人なら大丈夫だと信じていましたし。今の方が、他の飲食店やキッチンカーの情報に敏感なので、怖くて挑戦できないかもしれません」

看板メニューが形になるまで

開業の形が決まり、明史さんと真里さんは家族でキッチンカーの見学に向かいます。実物を目の前にした瞬間、「ここにこれを置きたい」「ここからお客さまに商品をお渡しして...」と、アイディアが止まらなかったそう。そしてなんと、その見学当日にキッチンカーを契約し帰路につきました。しかし、肝心の販売する商品が決まっていません。真里さんに商品開発の経緯について聞いてみると...。

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「実はここだけの話、最初はクレープ屋さんを始めようと思っていたんです。花束のようなクレープがあったら可愛いなと思って。夫とクレープ生地を焼く鉄板を買って、ふたりで家で練習していたんですけど、全然うまく焼けない。それでも、なんとか生地を焼いて花束みたいに見えるように巻いてみたら、ゴテゴテで食べれない(笑)。『これは違うね』とお互いに笑って話していた気がします」

クレープの失敗から「好きこそものの上手なれ」ということわざにあるように、興味のあることを探求する方が良いのではないかとふたりは考えます。明史さんはアウトドア好きで燻製作りが得意。真里さんもご存知の通り、パン作りが大好きです。

そしてここで真里さんが、一言切り出します...

「燻製をパンで挟んでみたらどうだろう?」

bitters_45.jpg試行錯誤しながら完成した、看板メニューの「燻製サバサンド」

そうして作った試食をふたりで食べてみると「美味しい!」と自信作に。それからより美味しくするために火入れ加減を調整して、何度も試作を作り、友人たちに味の感想を聞きました。

オープンの約3ヵ月前に、現在店舗とキッチンカーで提供されている「燻製サバサンド」の形になり、「これならきっとお客さまに喜んでもらえる」と、ふたりで太鼓判を押したのでした。

ピンチがチャンスに変わって、今の形に

キッチンカーで燻製サバサンドを販売する事が決まり、いよいよ店名を付けることに。店名の由来については、真里さんが話してくれました。

「私は、燻製には檸檬が合うので『燻製と檸檬』をいれたいと話していました。夫は『燻製と檸檬っての組み合わせてって、ほろ苦いよね』とずっとつぶやいていたので、ほろ苦いを英語で表すと『Bitters』だよねと話をしていくうちに『燻製と檸檬 Bitters』になりました」

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その間にキッチンカーも納車になり、2020年5月に「燻製と檸檬 Bitters」が動き出します。しかし、世の中では不穏な動きが...新型コロナウィルスが蔓延し始め、最初に出店予定だった商業施設もコロナ禍のためキャンセルになってしまいます。その状況に明史さんは...。

「しょうがないと思いながらも、これから世の中はどうなっていくんだろうと思っていました。そんな中でも、2020年5月7日に恵庭市役所さまの前で出店することができ、無事オープンを迎えることができたんですよ。最初に来てくれたのは、市役所に用事があったおばあちゃんでしたね。その後もぞくぞくと札幌やその近郊からかけつけてくれて、初日は無事大盛況に終わりました」

以降も、全道の道の駅や商業施設にふたりで電話をかけて、出店先を見つけていきます。電話での出店交渉は難しそうですが、真里さんは笑顔で当時を振り返ります。

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「出店させていただきたいなという場所に電話すると、みなさん『面白いね』『Bittersってどんなお店?』と優しい反応が多かったです。コロナ禍だったので、テイクアウト需要が伸びていたのもあったかもしれないですが、あの頃の温かい声は今も忘れません」

出店先も増え始め、口コミでも美味しさが広がったことで、売り切れになる日も増えてきました。完売は嬉しいことですが、遠方での出店の場合、再訪できるのは数か月先ということも少なくはないです。この状況に明史さんは...。

「キッチンカーを始めた当初は、厨房が狭く、1日で作る事ができる量も限られていました。効率化させようと試行錯誤を重ねながら努力していましたが、次第に限界を感じてきて、十分な仕込みのスペースを確保できる実店舗を持つことを考え始めました」

bitters_02.jpgテイクアウト専門店。営業日はInstagramのカレンダーにてご確認ください。

そこでふたりで店舗の場所について話し合ったところ、すぐに江別市という候補が挙がりました。子育てがしやすいようにとすでに江別に住居を移していたため、家と店舗の距離は近い方が良いと考えたからです。さらに、キッチンカーに来てくれるお客さまも札幌に次いで、江別が多かったそう。

「2020年の秋頃には、江別市内で店舗探しを始めていたと思います。だけど空きテナントを見つけてもすぐに埋まってしまったり、条件が合わなかったりでなかなか決まらず...。今の場所はたまたま空いていて、条件もピッタリあったのですぐに契約しました」と、真里さん。

ふたりはキッチンカーでの営業の忙しい合間をぬって、店舗開店準備を進めました。そして、キッチンカーでオープンしてから1年後の2021年5月21日、ついに江別市野幌に実店舗の『燻製と檸檬 Bitters』がオープン。店内はたくさんの祝いの花で埋め尽くされ、開店を待ちわびていたお客さまが次々と訪れました。

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遠くの土地にも、「燻製サバサンド」を届けたい

実店舗を構えたことで、仕込みスペースも広くなり、週替わりで燻製サバや鴨ロースを乗せたスパイスカリーや期間限定で牡蠣、真たちなどの燻製商品を提供できるようになりました。最近では、肉を燻製しご飯に豪快に乗せたお弁当も不定期で提供しています。燻製されたジューシーな肉とご飯の組み合わせは、まさに至福のひとときです。

「食事系のメニューは、主に僕が考えて作っています。高校時代も病院での調理師時代もですが、やっぱりメニューを考えて作るのが好きですね。自分でお店を持つことができたので、ダイレクトにお客さまの反応を見れるのは幸せです」と明史さんは話します。

これに真里さんは「夫は『待っている人がいるから』と言って、お店の定休日も厨房にいることが多いんです。でもお店を続けるには健康が大事なので、あまり無理はしないでほしいですね」と気遣う姿も。素敵な夫婦関係を垣間見ることができます。

ところで、お子さんは両親の仕事に対して何か感じているのでしょうか。

「『大きくなったらBittersで働きたい』と言ってくれています。本人は燻製も檸檬も今のところ好きじゃないんですけどね(笑)。私たちが働いている姿を見て、このお店の一員として参加したいと思っているようです。今は『檸檬のケーキやアイスをつくるパティシエになる』と言ってくれていますが、私たちとしては、自分のやりたいことをやってくれるといいなと思います」と、真里さんがにこやかに教えてくれました。

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「燻製と檸檬 Bitters」の今後について

真里さんは少し考えてから、「直近であれば、インターネットでの商品販売を始めたいと思っています。遠方のお客さまから『次はいつくるの?』と声をかけてもらえるのですが、夫婦2人でやってるのでどうしても限界があります。なので、遠方の方にいつでもBittersの商品を届けることができるようにしたいです」

明史さんも同じ想いなようで、「僕もいろんなところにBittersの商品を届けたいと考えているので、道外に2店舗目とかもいいなと思っています。ただ子どもがまだ小さいので、10年後とかの話ですが...場所は、鎌倉みたいなところがいいかな。太陽が反射したキラキラした海を見ながら、レモネードとサバサンドを観光のお供にというのも憧れますね。そういう未来も見てみたいなと思っています」

穏やかという言葉がピッタリの志田夫妻。この人柄だからこそ、たくさんの人に愛される料理を作ることができるんだなと感じました。これから始まる北海道の短い夏。ドライブのお供に、レモネードとサバサンドはいかがでしょうか?

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燻製と檸檬Bitters
住所

北海道江別市東野幌本町38-9 M.BLD白樺1F

電話

011-375-9892

URL

https://www.bitters2020.com/


キッチンカーと実店舗で全道へ。燻製と檸檬 Bitters

この記事は2024年4月9日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。