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町の事業者すべてが、いい方向に舵を取れるよう伴走したい!20240328

町の事業者すべてが、いい方向に舵を取れるよう伴走したい!

自営業者にとって、とても心強い存在のひとつが商工会です。経営についての悩みごとや困りごとの相談に乗ってくれるだけでなく、地元でお祭りを主催するなどして事業者のPRにも一役買ってくれる。そんな、縁の下の力持ちなのです。

今回は、後志管内のニセコ町商工会におじゃまして、キャリアの違うふたりの職員にお話を伺いました。スキー場をはじめ、観光地として人気のニセコエリア。ビジネスチャンスも移住者も多いこの町では、商工会として、どのような苦悩ややりがいがあるのでしょうか。

商工会の役割は「経営支援」と「地域振興」

経営指導員の市橋貴之さんは、ニセコ町商工会に配属されて11年目。最初は出身地である上川町商工会に4年勤務し、北海道商工会連合会を経て、佐呂間町商工会に14年勤務しました。勤続30年以上の大ベテランです。

niseko_syoukoukai00027.jpg今回お話をうかがった、市橋貴之さん(左)と佐古刻弥さん(右)。一緒に町を盛り上げる観光協会の方とパチリ

「この仕事を始めたきっかけは、経営者って何を考えているのかな?という興味でした。商売するって、すごいことじゃないですか。特に小規模事業者は、少人数でモノや人を動かして成り立っている。どういう仕組みなんだろう?と」

いまはフリーランスだったり、起業したりと、働き方も多様ですが、数十年前は家業を継ぐ以外は企業に就職する人がほとんどでした。そのなかで、小規模でも自分で事業を成立させている人を見ては「すごいな」と感じていたのだそうです。

商工会の役割のひとつが、地域振興です。定期的に、お祭りや福引のような地域振興イベントを主催して、地域の事業者に出店してもらっています。これまで一切接点がなかった地域の人にも、そのお店がどんな事業をしているのか知ってもらうことができるいい機会です。

「もうひとつの柱が、経営支援です。少人数での経営は、時折限界を迎えることがあります。事業について、経営者が従業員に相談できるわけでもない。そんなとき、相談先のひとつの選択肢として、商工会が選ばれるといいなと思っているんです」

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たとえば資金調達のための借り入れのお手伝いや補助金の紹介などをしながら、一緒に計画を立てて、実現に向けて歩んでいく。全国の商工会が、この経営支援に力を入れています。

「私たちは、小規模事業者の応援をするというミッションのもと動いているので、仮に商工会員でない人が訪ねてきても、相談してくれたらサポートするようにしているんです。そこで『商工会は何をしてくれる組織なのかよくわからない』と思っていた人が『こんなふうにサポートしてくれるなら会員になろうかな』というふうに、考えを変えてくださるケースも結構あるんですよ」

事業者のサポートをしながら、学ぶことも多い

そのような甲斐あって、ニセコ町商工会の会員数は右肩上がりだそう。市橋さんがニセコ町に赴任した当初は160人程度だった会員数が、いまでは220人ほどに増えているのだとか。スキー場をはじめ、たくさんの観光資源を持つこのエリアに可能性を感じ、移住して事業を始める人が多いという理由もあります。

niseko_syoukoukai00001.jpgニセコのシンボル、羊蹄山

「ニセコ町の場合、空き店舗を活用した創業制度を早いうちから実施していたんです。さらに小樽商科大学と町がタッグを組んで、商工会がビジネススクールを主催したこともありました。『観光資源を使って、観光に特化したビジネスを興そう』というテーマで、多いときは近隣の町村から30人ほど参加者が集まったかな」

飲食店のほか、宿泊業やガイド業などを営む人が多いニセコ町。ひとりで事業をおこなう小規模事業者から、大規模にコンドミニアムを建てる資本力のある事業者まで、幅広く存在します。
「さまざまな事業が増えれば、観光客も増えて町が賑わいます。その様子を見て、地元にビジネスチャンスを感じた若者が家業を継ぐためにUターンするなど、いい循環も生まれているようです」と市橋さんは話します。

「しかしそのように事業者が増えていくと、私たちにもやりたいことが増えてくるのは悩ましいところです。地域の事業者共通の経営課題として大きい『人手不足』について、商工会が職業紹介事業を大々的にやろうとしても、こちらもマンパワーが足りない。やりたいことがやれていないというのは、歯がゆいですね」

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そのようななかでも、市橋さんがこの仕事をしていてよかったと思うのは、事業者から多くのことを学んだとき。いろいろなタイプの経営者と対話をする機会があるため、それぞれの考えを知ることができて勉強になるそうです。それを自分なりに解釈し、知識に変えていくことで、業務である経営支援に役立てることもできます。

「ある会社に尊敬する社長がいるのですが、その方から新しく大きな工場を建てて事業継承をしたい、という相談を受けてから、計画を一つひとつ一緒に実現させていったことがありました。補助金を探して申請したり、業務効率を上げるにはどうしたらいいか考えたりしながら、私もいろいろなことを学ばせていただいたんですね。本当に、この仕事をやってきてよかったと思いました」

町の事業者をもっと良くしたい、という思いで、各自治体の商工会職員は日々いろいろなことを考えています。市橋さんも、たとえば決算期に相談に来た人には、数字の計算の話だけでなく、来期はどうしていきたいのかといった話まで引き出すそうです。「決算の話も大事ですが、過去の整理だけでなく、そこから先の方が重要です。未来につながることを意識しなさい、と教えられながら育ったので、そこは大事にしていますね」と話してくれました。


niseko_syoukoukai00020.jpg撮影スポットを探して町内を移動中、協力してくれた本田珈琲店の方とパチリ。

縁のなかったニセコ町で、少しずつ人の温かさに触れる

そんな先輩の姿を見ながら、日々勉強中の3年目の職員がいます。佐古刻弥さんは旭川市出身で、大学時代、就職説明会で話を聞きにいったことがきっかけとなり、商工会の仕事を知りました。「こんな仕事があるんだ、いろいろな人と交流できるのは面白そうだ」と思い、就職先として選んだのだそうです。

「試験を受けて合格したあと、採用担当からニセコ町を勧められて配属されました。ニセコ町にはこれまで一度も行ったことがなく、札幌の大学を卒業したので『地元から逆方向だな』というくらいの印象しかなかったです。当時から外国人観光客が多くて、賑わっているリゾート地のイメージはありました」

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実際に訪れてみると町は落ち着いていて、「観光客が多い山の方とはちょっと違うんだなと思った」と話す佐古さん。徐々に町のことを理解しながら、現在は経営支援について経験を積みつつ、労働保険に関する相談や地域振興イベントの事務局、町の美化など、地域に根ざした活動に力を入れています。

「コロナ禍で、規模を縮小して行っていた花火大会を昨年は復活させ、事業者さんに露店などを出してもらって、大きな賑わいを見せました。
コロナ対策をしつつの運営は大変でしたが、役場や農協などの団体に協力してもらいながら開催し、子どもたちにも楽しんでもらえたのは嬉しかったですね」

いままで縁のなかった土地ということもあり、町についてわからないことも多く、最初は苦労することも多かったそうです。それでも仕事を通じて町の人とコミュニケーションを取りながら、自然と町にも仕事にも慣れてきました。

niseko_syoukoukai00010.jpg事務局長の大野幸一さんとも1枚

「今年から労働保険の担当になったのですが、最初は進め方も、計算の仕方も書き方もわからないままでした。数字が合わない、どうしよう...と焦ることもありましたが、いまは相談事に沿った必要書類について説明しながら指導できるようになったので、ちょっとずつでも仕事ができるようになってきたのかな、と思います」

仕事の流れで、商工会員さんから「このあと飲みに行く?」「今度ごはん行こうよ」といったお誘いを受けるようにもなりました。そんなとき、うれしさと同時に「自分も町になじんできたのかな」と実感するといいます。

商工会だけで解決できる問題は少ないから、連携が大事

そしてこのたび、佐古さんは市橋さんと同じ経営指導員の試験に合格。今後は経営支援にも積極的に関わっていく立場となり、知識を身につけながら、実践のなかで経験を積んでいくフェーズに入ります。

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「いろいろな人の相談事がとにかく集まる仕事です。専門的にアドバイスしたり解決したりしなければなりませんが、なかには『パソコンが動かない』『Wi-Fiが繋がらない』といった、専門外の相談も。それらも自分の経験になると思い、一生懸命調べることもあります。頼られるという意味では、すごくいい仕事だなと思いますね」

「ちょっとしたことでも疑問を持って調べたり、とにかく自分で気付けたりする力を身につけることが大事」という先輩のアドバイスを心に刻みながら、佐古さんは今日も仕事に励みます。

とはいえ、町が持つ課題は本当にそれぞれです。これまでさまざまな町を転々としてきた市橋さんも、身をもってそのことを実感しています。

「ニセコ町にもたくさん課題がありますが、商工会だけで解決できることはほぼないんです。町や観光協会、商工業者や町民と連携をとりながらやっていかなければいけないことばかり。でも、住んでいる人にとっても観光客にとっても『この町に来てよかったな』と思ってもらえるような場所を目指したいですね」

たとえばニセコエリアには観光客が多く、ハイシーズンには物価も上がり、地元の人が手を出せないような商品もあります。アルバイトの時給は全国ニュースで取り上げられるほど高額ですが、町には資本の大きな事業者だけがいるわけではありません。人手不足の昨今、労働力の奪い合いは消耗してしまいます。

「まだ答えは出ませんが、それらの溝を埋める方法があるのではないかと、ずっと考えています」と市橋さん。与えられた仕事だけをしていては、町の課題に気づくことはできません。商工会職員は今日も事業者と対話し、小さな町の変化を拾いながら、課題解決に向けて奔走し続けています。

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ニセコ町商工会  市橋貴之さん・佐古刻弥さん
ニセコ町商工会 市橋貴之さん・佐古刻弥さん
住所

北海道虻田郡ニセコ町字富士見95番地

電話

0136-44-2214

URL

https://niseko-shokokai.com/


町の事業者すべてが、いい方向に舵を取れるよう伴走したい!

この記事は2024年3月5日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。