胆振管内に位置する、洞爺湖町と壮瞥町。両者の町のシンボル的存在になっているのが、洞爺湖です。このエリアは道内でも比較的温暖で、湖を中心に四季折々の景色が楽しめます。そして夏の間は湖から美しい花火が毎日あがり、外から来た人々を歓迎してくれるのです。
観光客が多いこの町には、ホテルや旅館もたくさんあります。そのうちのひとつが、鶴雅グループの『洞爺湖 鶴雅リゾート 洸の謌(ひかりのうた)』。2023年4月にオープンしたばかりの、新しいお宿です。ここで働く2名のスタッフと出会いました。
この町に来た理由も動機もそれぞれですが、ふたりとも、洞爺湖畔での暮らしと仕事を思う存分に楽しんでいます。
彫刻が印象的なフロントの様子。館内には至る所にアートが散りばめられています。
旅行が好きで、ホテル業界へ。お客さまとの会話が楽しい!
「最近は本当に、海外からお客さまがたくさんいらっしゃいますね。冬は洞爺湖周辺を拠点に、ニセコやルスツといったスキーリゾートに通われる方が多いんですよ」
そう話すのは、入社9年目になる藤島真由美さん。胸には、英語対応ができるスタッフであることを示す国旗のバッヂが付けられています。「英語の勉強は、仕事というより趣味」と笑う藤島さんのモチベーションは、お客さまとの楽しい会話。よりスムーズにコミュニケーションをはかりたい、という理由で、言語の習得にも力が入ります。
こちらが藤島真由美さん。お仕事終わりにお話をしてくれました
札幌市のご出身である藤島さんは、大学卒業後、鶴雅ホールディングスに入社。最初は、阿寒湖畔にあるホテルに配属されました。旅行が好きでホテルの仕事を選んだため、配属についてはどこでもいいという気持ちだったそう。阿寒にある複数の宿で主にフロント業務を8年間おこない、2024年4月に洸の謌がオープンするタイミングで、オープニングスタッフとして壮瞥町に移動しました。
「伊達市のように大きな町が近くにあり、バスやJRの駅も近いため札幌の実家にも帰りやすく、私にとってはとても生活しやすい町です。また、阿寒と同じように大きな湖もありますが、温暖な気候ゆえに、最初は湖が凍らないことに驚きましたね。そして昭和新山や有珠山のように、むき出しの火山がこれだけ近くに見えるのは本当にすごい。洞爺湖を挟んで羊蹄山がどのくらいきれいに見えるかで、その日の天候もわかるようになりました。自然とともに暮らしている実感がありながら、洞爺湖温泉街は非常に賑わっていて、さまざまな魅力がありますね」
洞爺湖を間近にのぞむ素晴らしいロケーション
町のことはもちろん、北海道のことも、きちんと知っておきたい
阿寒での経験を活かして、現在もフロント業務をメインにおこなう藤島さん。チェックイン・アウトの手続き、お客さまを受け入れるための準備、会計処理などをしつつ、お部屋での和食懐石の配膳や朝食ビュッフェのサポート、さらにカフェではドリンクやケーキなどの提供のほか、こちらも会計などの裏方もこなしているそうです。阿寒にいたころは、着物を着て宴会にも入っていたそうで、その業務の幅に驚かされます。
さらに現在は、スタッフの教育的な役割も担っています。洸の謌のオープニングに際しては他館のマニュアルを流用せず、これまでの経験から「この表現では、まだ経験の浅いスタッフにはわかりにくいかもしれない」と思うところを改定するなど、館の雰囲気に合わせた独自のマニュアルを作っていきました。その他にも、業務がスムーズに進むよう配慮している点がたくさんあります。
「たとえば一斉にチェックインがスタートしてしまうと、夕食時間の確認を取るのが大変なんです。お客さまがお部屋に入られてからご希望のお時間をお伺いすることが多いので、個別に伺っていると時間が重なってしまうことがあって。スタッフ同士はインカムでやり取りをしているのですが、電波状況が悪くて聞き取れないこともあるので、チェックインの前にあらかじめ、この時間帯に何件お夕食を入れよう、と確認をするようにしています」
その他、新人の教育に関しては「本人の意思を聞いて、実践できそうであれば、思い切ってやってみてもらう」ことを大事にしています。そこから開ける道があることを、実感できるエピソードも。
「最初はなかなか日本語がスムーズに出てこなかった外国人スタッフがいて、荷物持ちとして付いてきてもらっていたのですが、ある日『お客様のご案内できる?』と聞いたら『できそうです』と言ってくれて。やってもらったら、問題なくできたんですね。本人がすごく真面目で、そこからどんどん日本語がスムーズに出てくるようになり、日本人のお客さまのご案内だけでなく、レストラン対応でも褒めてもらえることが多くなりました」
そのスタッフからは逆に「『縫い物』と『つくろい物』って、どう違うんですか?」など、日本人でも答えるのが難しいような質問を積極的にされるので「私たちも勉強をしなければ」と話します。仕事と並行して、学ばなければならないことがとにかく多いのです。
「観光で来られるお客さまが多いので、地域のことはなんでも知っておかなければいけないという意識はあります。北海道の歴史や、アイヌ文化についての知識も更新していかなければなりません。あとは些細なことですが、『きれいなネイルですね』『めずらしい漢字のお名前ですね』など、お客さまと会話を楽しむことも忘れたくないですね」
中央に大きな暖炉を配したラウンジ。足もとの青は洞爺湖をイメージしています
お客さまに移動を寂しがられたことが、うれしかった
藤島さんがうれしかったエピソードがあります。それは、阿寒からこちらに移動するときのお客さまの反応。ホテルを気に入って何度も来てくださっていた常連さまから「あなた、異動しちゃうの?」と残念がってお声がけいただいたことが、いまでも心に残っています。それだけ藤島さんが、記憶に残る接客をしてきたということです。顔と名前を覚えていただけることは、フロントの名誉といっても過言ではありません。それが、この仕事の醍醐味でもあります。
「弊社はリピーターのお客さまが多いんです。洸の謌も、『鶴雅グループの新しい宿ができたから』という理由で宿泊してくださる方がたくさんいらっしゃいます」
グループとしての信頼感を損なわない接客が常に求められ、さぞかし気を張る場面も多いだろうと想像しますが、本人はいたって明るいものです。本来旅行好きなこともあり、フロントで見たことのないパスポートを目にすると、どこの国だろう!と、テンションが上がるそうです。
「ホテル業ではあるのですが、タイミングが合えばまとまった休みも取ることができるので、また旅行に行きたいですね」
希望休と有休を合わせて、一週間休みをもらって国内を周ったこともあるのだとか。接客業はなかなか長期の休みを取るのが難しいという印象ですが、当時は周りのスタッフがうまく連携してくれました。次に休みを取ったらどこに行こうかな、と考えることで、仕事にもハリが出ます。
「旅先でホテルに泊まったら泊まったで、いまはこんなイベントをやっているんだな、朝食会場ではこんなふうに配置するのか、など、ついチェックしてしまうんですけどね(笑)」
仕事柄やってしまうクセのようなものですが、それもまた楽しい時間といえるでしょう。
好きな作品の舞台となっていた洞爺湖を訪れ、この町に魅了された
一方で、不思議な縁に導かれて洞爺湖畔のこのホテルで働くことになったスタッフもいます。愛知県出身の、新原颯太さんです。
こちらが新原颯太さん。ここの景色に惹かれて移住しました。
「僕が好きなアニメ『天体(そら)のメソッド』が洞爺を舞台にしていて、それがきっかけでここを訪れたのが最初です。洞爺湖を中心に自然豊かな景色を見ていると、不思議と心が落ち着いてきて。もちろん愛知より寒いんですけど、過ごしやすさを感じたんですね。それで、この町に住みたいと強く思うようになりました」
愛知県では知多半島にて、魚をメインに扱う旅館で調理の仕事をしていた新原さん。移住先でも調理の仕事がしたいと思い、洸の謌のキッチンの求人を見つけました。
「地元では魚ばかり触ってきたので、肉や野菜など、これまであまり扱ったことのなかった素材についても修行させていただいているところです。魚も野菜も、本州では見たことのない種類を扱うことがあるので、最初は名前を覚えるのも大変でしたね」
繊細な和食ゆえに、仕込みから調理、盛り付けに至るまで、やるべきことがたくさんあります。「だし巻き卵は、特に大変です。銅のフライパンは重いし、巻く作業が結構難しいんです。唯一、針ネギといって、とても細く切るネギだけは、最初のころと比べて上手になってきた気がします」と新原さんは話します。
「また些細なことではありますが、夕食をお出しするとき、ごはんをおにぎりにしてほしいとおっしゃるお客さまが時々いらっしゃるんです。先日はそれがきれいに握れて、うれしかったですね」
料理長のもとで修行して、半年弱。少しずつではありますが、できることが増えてきています。
プライベートが充実しているからこそ、仕事も楽しい
朝は朝食に合わせて6時に出勤。ビュッフェの準備と夕食の仕込みが終わると一旦業務は終了し、16時ごろにまた出勤して夕食の準備をおこないます。忙しい毎日ですが、お休みの日は車で近所をドライブしたり、タブレットを使って趣味の絵を描いたりして、リフレッシュしているそうです。
自作のイラストを見せてくれました。背景は春の洞爺湖です
「食べ歩きも趣味です。パーラーふくださんというカフェの雰囲気が好きでよく行っていて、そこで絵を描くことも多いですね」
ドライブをしながら、新たに描きたい景色を見つけることも。好きなアニメに出てくるシーンは、もちろんチェックしています。そして何より、アニメについて語り合えるお友達がいるのもこの町の楽しいところ。実は新原さん以外にも、このアニメが好きで洞爺に移住してきた人がいるのです。
「洞爺湖畔が聖地であるということで、アニメのファンがたくさん訪れるのですが、僕と同じようにそれがきっかけで移住した人がふたりいます。僕より先にひとり移住して、僕のあとにもひとり移住しました。冷静に考えても、思い切ったなと思います。でも、心から移住してよかったです」
その笑顔から、充実した暮らしぶりが伝わってきました
今後、プライベートでは『洞爺マンガアニメフェスタ(TMAF)』に出品者として関わることが目標。まだ会ったことのないファンの人たちとも、交流を深めていきたいといいます。また、仕事では「包丁の使い方を極めて、手作業の速度をもう少し早めたい」とも。
「洸の謌では実践的に調理について学ぶことができ、調理師を本気で目指したい人にとってはとてもいい職場だと思います。僕もこれから試験を受けて、調理師を目指すつもりです」
休日に趣味をとことん楽しめる環境があるからこそ、オンタイムは仕事に情熱を注ぐことができる。その熱はしっかりとお客さまに伝わり、「またここに泊まりたい」と思える接客につながっていくのです。
- 洞爺湖 鶴雅リゾート 洸の謌(ひかりのうた)
- 住所
北海道有珠郡壮瞥町壮瞥温泉88-26
- 電話
0142-82-7165
- URL