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壮瞥町

思い描いた地方のまちづくり。40代で移住した壮瞥町で実現を20231109

思い描いた地方のまちづくり。40代で移住した壮瞥町で実現を

壮瞥町は、パワースポットとしても人気の高い神秘的な湖・洞爺湖、噴気がたなびく雄々しい火山・昭和新山を有する町。火山の恵みによる湯量豊富な温泉、温暖な気候と肥沃な土地を生かした果樹栽培など、ほかにも地域資源が豊富な町です。ただ、そんな素晴らしさをまだまだ生かしきれていないと、町の活性化、町の文化創造に取り組んでいるのが、同町の地域おこし協力隊・今井亮輔さんです。

今井さんは移住コンシェルジュとして、2022年夏にオープンした「地域のあそびば ミナミナ」の運営に関わっているほか、ミナミナと同じ建物内にある「ヨツカド商店」で自然派ワインの販売も担当しています。さらに北海道地域おこし協力隊ネットワークの代表幹事の1人としても活躍。今回は、今井さんが壮瞥町に来るまでのことやこれからのことなどを伺いました。

町の人とも交流できる拠点「地域のあそびば ミナミナ」

「農産直売所サムズ」も含む「道の駅そうべつ情報館i」の向かい側に建つ木造平屋の建物。そこが今回取材をさせていただく今井亮輔さんがいるミナミナとヨツカド商店です。建物を入って左がミナミナで、右がヨツカド商店となっています。まずはミナミナのフリースペースでお話を伺うことに。

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「ここを使って、不定期ですが頻繁にワークショップやイベントなどを行っています。この間は、ここの運営に携わっているほかの地域おこし協力隊のメンバーが企画した『熊』のイベントを開催したばかりです。木彫り熊の展示や実演などを行いました。ミナミナがオープンして約1年、町内外の出店者が集まるマルシェ的なものや音楽会、子ども向けのワークショップなど、いろいろ企画してきました。壮瞥の暮らしや遊びの拠点として、地元の人たちに気軽に利用してもらうため、ここを知ってもらうきっかけを作ることが大事と思ってやってきました」

その甲斐あって、イベントをきっかけにここを知った町民の人たちが、フラリと立ち寄ってくれることも増えました。隣のヨツカド商店でコーヒーを買って、こちらで地域おこし協力隊メンバーと話をしていったり、本棚の本をゆっくり読んでいったりしているそう。

「町の人たちとの距離がとても近くなった気がしています。農家の方が、野菜や果物のおすそわけを持ってきてくださるなど、ご近所さん的な交流が増えたと思います」

コロナを機にやりたかったことを思い出し、移住を決意

ハキハキと分かりやすく話す今井さん、言葉の選び方などスマートな印象を受けます。出身は横浜。東京工業大学・大学院に進み、2021年の秋まで東京の大手IT企業でバリバリ働いていたそうです。そんな今井さんが家族で壮瞥町に移住を決めたのはなぜだったのでしょうか。

「建築に興味があり、学生時代はまちづくりに関することを勉強していました。ちょうど大学院の1年生のとき、地方のまちづくりを学ぶため、鹿児島県の大口市(現・伊佐市)へインターンで行きました。そのときの面白さや刺激が、今の自分の中の原点になっています」

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地域の自然や人、文化に触れ、いかにまちを盛り上げるか。地方のまちづくりに初めて関わったときの感覚が忘れられなかったと話します。特産品など地域に眠る素晴らしい資源をどう生かし、都会と繋いでいくかを考えたとき、その手段としてこれからはITが重要になると考え、卒業後はIT業界へ。ところが、キャリアを重ねるうちに、最初に描いていたやりたかったこととは違う方向に進んでいると感じるようになります。

「世の中がコロナ禍になり、テレワークがはじまり、通勤時間がない分、自分と向き合う時間ができました。そんなとき、自分が本当にやりたかったことを思い出しました」

地域を活性化させる地方のまちづくりに携わりたい。そのことを思い出さなければ、そのまま会社で定年まで突っ走っていたと思うと話す今井さん。会社を辞めることを決意し、移住先を検討し始めます。

食が豊かな北海道。壮瞥を選んだ理由はまだまだある「可能性」

おいしいものが好きで漁港にまで魚を買いに出かける両親のもとで育った今井さんは、子どものころから素材の持つ本物の味に触れてきました。さらに妻の真希さんは、帯広畜産大学で学び、ナチュラルチーズの販売に携わってきた食のプロ。川崎市の武蔵新城で「mikoto」というチーズ屋さんを営んでいました。真希さんの出身地である青森の野菜を販売するマルシェや、レストランのシェフとイベントを開くなど、真希さんの周りには食に関するコミュニティができており、今井さんも自然と食に興味関心を持つようになっていました。

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「僕たち家族にとって食はとても重要。妻も北海道のナチュラルチーズを扱うことが増えていて、生産者の方たちの近くがいいと話していたので、移住先は食の豊かな北海道と決めていました。広い北海道の中でどこにするか、家族で旅行がてら訪れ、実際に町をいくつか見て、壮瞥に決めました」

真希さんは移住の話が出たとき、「ずっと川崎で暮らすイメージもなく、いつか別の場所に行くかもしれないと思っていましたし、また北海道で暮らせる!という感じでしたね」と振り返ります。

この移住先の視察を兼ねた北海道旅行を共にしたのが、現在一緒に壮瞥町の地域おこし協力隊として活動し、ヨツカド商店のコーヒーとおやつを担当している前橋史子さんとその夫でした。

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「川崎のMuiというコーヒーの店で働いていた前橋さんと妻が知り合いで、一緒にチーズとコーヒーの会を開くなど、親しくしていました。家族ぐるみで仲良くさせてもらっていて、僕たちが移住を考えはじめたとき、ちょうど前橋夫妻も移住を検討しているという話になって、それなら一緒に北海道に旅行しようかと(笑)」

候補にあがっていた町はいくつかありましたが、最終的に壮瞥にした理由は、「ほかの町はすでにまちの雰囲気ができあがっていて、そこに『文化』も根付き始めていました。単純に移住するならそのほうが暮らしやすいかもしれませんが、僕は地方でまちづくりがしたいと考えていたので、まだまだ未知の可能性がたくさん眠っていて、地域の人たちと一緒に新しい『文化』を築いていける壮瞥を選びました」と今井さん。移住を検討している最中に出会った地域の方々の雰囲気や、移住窓口の方の丁寧な対応も決め手になったそうです。

移住してもナチュラルチーズの仕事を続けようと考えていた真希さんは、「壮瞥を訪れたとき、自分たちがここで暮らし、店をやっているイメージが浮かびました」と話します。

一緒に壮瞥を訪れた前橋さんは、「小学校の修学旅行で訪れたときに見た昭和新山が好きで、自分としてはもともと壮瞥には親しみがあって...(笑)。あと、町の人たちの雰囲気や人柄もよかったし、何より居心地がいいと思った」と、移住先として申し分ない町だと感じたそう。また、キャンプなどアウトドアが好きなので身近に素晴らしいフィールドがあることなども決め手の一つだったと言います。

「協力隊の協力隊」として、町民たちも積極的にサポート

2021年、壮瞥町で地域おこし協力隊を募集すると知り、今井さんと前橋さんが同時に応募。今井さんは移住コンシェルジュとして、前橋さんは観光プロデューサーとして、採用が決定します。いつか食を中心に人が集まる場をつくりたいという夢を持っていた2組の夫妻は、移住に先立ち、オンラインショップの「ヨツカド商店」を立ち上げます。壮瞥のイイモノや自分たちがお勧めしたいものの販売は、地方と都会を繋ぐためにIT業界に進んだ今井さんが当初描いていたものに近い形でもありました。

さらに、11月に移住コンシェルジュとして着任した今井さんは、定住支援として移住者が町の人たちと気軽に繋がり合えるコミュニティの場が必要だと感じます。

「そういう場所を作るにも壮瞥町は利用可能な空き家やハコが少なく、この場所くらいしかなかったんです。でも、当時の大家さんと話を進めていたところで、様々な理由でその建物を取り壊すという話も出始めて...」

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そんなとき、今の大家さんでもある町内の建設会社の方が、自分が建物を買い取ると手を挙げてくれました。そのおかげで取り壊しは阻止することができ、さらに建物をリノベーション。町のコミュニティスペースとして活用しましょうと町に提案し、半分は町が携わるミナミナ、もう半分はヨツカド商店として利用させてもらえることになりました。

「ミナミナのオープン前に僕たちが掃除をしていたら、地域の方たちが集まってきて、『協力隊の協力隊だよ』と手伝ってくれたんです。その後も『協力隊の協力隊』の皆さんが、様々な面で力を貸してくれています。町の将来を考え、このままではいけないと感じていたけれど、何をすればいいのか分からなかったという方が集まってくれて...、とても嬉しく思っています。まちづくりには町をよく知っている地域の人たちの力が必要ですから」

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250種類ほどの自然派ワインなどが並ぶ「ヨツカド商店」

同じ建物内にあるヨツカド商店では、妻の真希さんがナチュラルチーズを、前橋さんがコーヒーとおやつを販売。チーズは道産がメインで、一部ヨーロッパのものもあります。おやつには地元で採れたフルーツをふんだんに使用。コーヒーは、注文すると前橋さんがハンドドリップで淹れてくれます。もちろん厳選したコーヒー豆の販売も行っています。

そして、店の壁側にはガラス張りのワインセラーが。ここには今井さんがセレクトした自然派ワインがズラリと並んでいます。

「妻の選んだチーズに合うワインを探すなどしているうちに、自然派ワインと出会い、そのおいしさにはまってしまいました。移住を決めたときに、店をやるなら自然派ワインを扱いたいと思って、移住する前から仕入れ先の方のイベントなどに行っては、移住して店が出来たら是非ワインを扱わせて欲しい、と話をしていました」

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いきなりボトルを1本購入することに抵抗ある人のために、量り売りもしています。

「今は約250種類、2000本近くのワインを用意しています。なかなか手に入りにくい自然派ワインもあるため、わざわざ札幌やほかの地域から足を運んでくれる方たちもいます」

このようにここを訪れた人たちに、その流れで町の魅力に触れていってほしいと今井さんは考えます。「そのためには地元の加工品を販売する店や飲食店など、もう少し立ち寄れる場所が必要」と話しますが、前述したように実は空き家が少なく、次の大きな課題の一つなのだそう。

将来的には、宿やレストランもやってみたいと考えている今井さん。訪れた人たちを壮瞥の豊かな食材を用いた料理でもてなし、壮瞥での時間をゆっくり過ごしてもらえるような場所が作れたらと考えています。その実現に向け、現在、狩猟免許を取得予定。自分が仕留めたエゾシカ肉でソーセージを作りたいと計画しているそうです。

忙しくても充実している毎日。子どもたちが愛着を持てる町にしたい

今井さんの話を聞いていると、2021年に移住してきたとは思えないような行動力とスピード感にあらためて驚きます。さらに、振興局単位で行っていたチャレンジピッチ(今は地域づくりチャレンジャーネットワーク)という地域での起業を後押しする事業に参加して発表をしたことで、道庁や道内企業の人たちとも繋がりができたそう。そうした繋がりがきっかけで、北海道地域おこし協力隊ネットワークの4人いる代表幹事の1人にも選ばれ、それによって道内の地域おこし協力隊のメンバーとの繋がりが大きく広がりました。周辺町村の地域おこし協力隊メンバーがミナミナに訪ねてきてくれることもあるそう。「僕が表に出ることで、壮瞥町の名前をいろいろな人にもっと知ってもらいたい」と言います。

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また、北海道で行っている食クラスター「地域フード塾」にも参加。ソーセージ作りをはじめ、地元のものを使った今後の加工品作りなどにも役立ちそうな情報を得たり、人脈ができたり、とてもありがたいと話します。

東京にいたときより忙しいくらいでは?という問いに、「すごく忙しいです(笑)。でも、自分がずっと思い描いていたことをやっているからかストレスは感じないです。すべてが日常の延長にある感じなので」と笑顔。とても充実している様子が伝わってきます。小学2年生、5年生の2人のお子さんのパパでもある今井さん。「町の子どもたちが、高校や大学で町外へ出たとしても、また戻ってきたいと思えるような町にしていきたい。子どもたちが愛と誇りを持てるような文化を作っていきたいですね」と話してくれました。今井さんが関わるヨツカド商店、ミナミナがどのように町を盛り上げていくのか楽しみです。

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ヨツカド商店 今井亮輔さん・今井真希さん・前橋史子さん
ヨツカド商店 今井亮輔さん・今井真希さん・前橋史子さん
住所

北海道有珠郡壮瞥町滝之町385-11

電話

0142-82-7043

URL

https://yotsukado-shouten.com/


思い描いた地方のまちづくり。40代で移住した壮瞥町で実現を

この記事は2023年9月21日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。