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士別市

木の良さを伝えたい!その「熱意」が会社を変える。20230907

木の良さを伝えたい!その「熱意」が会社を変える。

北海道北部の中央に位置する士別市。
高級食材としても使われるサフォーク羊を育てる「羊のまち」としても有名で、天塩岳をはじめとする山々や、北海道第2の大河・天塩川の源流域を有する、水と緑豊かな田園地帯です。
そんな士別市にある三津橋産業株式会社は、山に木を植えて育てるところから、伐採して収穫し、加工して販売するまで、木材の一連のサイクルに携わる木材会社です。
三津橋産業は、木材を無駄なく有効につかうことで北海道の山や自然を守ることを目標にしていますが、そのために近年特に力を入れているのが、木の良さや大切さを多くの人に伝える情報発信。
なかなか一般の人には知られることのない木の世界ですが、だからこそ、もっと多くの人に知ってほしい!そんな熱意を胸に奮闘する若き社員の活躍を、今回は取材します!

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三津橋産業だからできる、北海道の木の活かし方。

まずは三津橋産業がどんな会社なのか、詳しく伺っていきましょう。

「三津橋産業はグループ全体で、木を植えて育てて収穫する林業から、加工して販売する木材産業まで、木に関する一連のサイクルを網羅しています。ここ士別本社ではそのサイクルの中でも、製材(丸太を挽いて板に加工すること)とチップの製造及び販売を担います」

そう話してくれたのは、情報技術課の係長・中野百合華さんです。

士別の本社以外にも、道内各地から大阪・九州に支店や営業所をもつほか、林業を担う協同組合や二次加工を行う協同組合、建築や重機の整備を担う関連会社など、本社、1営業所、3支店、5工場、関連会社4社、2組合でMITSUHASHIグループを形成しています。
グループ全体で林業から木材産業までを網羅していることの強みは、木から発生したもの全てを無駄なく活用できることにあります。

mitsuhashi_5.JPGこちらが中野百合華さんです

「たとえば、製材の過程で出てくるバーク(木の皮)は、工場にあるバイオマスボイラーで燃料としてつかい、その熱で製材した木材を乾燥させます。製材の過程で発生するチップも集積して製紙会社へ販売しますし、チップよりさらに細かいのこ屑も、集積して牛舎の敷料や菌床を生産する会社に販売しています」

製材を経て最終的に製品になるのは、実は材料となる丸太の40%程度なのだそう。つまり残りの60%はチップやのこ屑などの副産物です。

「この40%をいかに上回れるかは技術の出しどころですし、さらに60%の副産物も廃棄せずに活用することで、木材の全てを使っているといえます。『無駄なところがない』という木材の良さを存分に発揮できるんです」

木を無駄なく使うことに加えて三津橋産業が自信をもっているのが、製品の品質の良さ。製品には社名を印字して三津橋産業で製造されたことがひと目でわかるようになっています。実はこれは珍しいこと。
「うちは品質管理に力を入れているので、『これは三津橋産業で製造された製品ですよ』と分かるように印字し、差別化しています。それだけ品質に自信をもって販売しているんです」と中野さんは胸を張ります。

mitsuhashi_26.JPGこちらがその社名が印字された製品です

さらに三津橋産業で取り扱う木材は、ほぼすべてが北海道の山からやってきた道産材。これまでは、外材(外国産の木材)に安さの面で勝てないことも多かったそうですが、最近では風向きが変わりつつあります。

「外材が日本に入らなくなったウッドショック中も、道産材を扱う当社は製品を遅延なくおさめることができました。これをきっかけに、道産材の良さを見直していただけたらと思っています」

再生可能な資源である木の良さを存分に活かし、全てを無駄なく有効につかうこと。そして、品質に自信をもって道産材を売り出していくこと。三津橋産業はこれらを通して、北海道の山と自然を守ることを目標に、木材会社としての役割を全うしようと誠実に木と向き合っているのです。

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新しいことにチャレンジしたい!飛び込んだ木の世界。

さて、ここまで三津橋産業のことをとても分かりやすく説明してくれた中野さん。
誰でも理解しやすい図とかわいらしいイラストが満載のパンフレットをつかって説明してくれたのですが、なんとびっくり。このパンフレットは中野さんがご自身で作成したのだそう!

「パンフレット作成は私が三津橋産業に入社して最初の仕事でした。今はグループ全体のパンフレットのリニューアルを任せてもらっています」

もともと絵を描くことが好きだった中野さんですが、パンフレット作成にあたっては、Illustrator(イラストレーター)というデザインソフトを一から勉強したのだそう。その熱心ぶりには脱帽です。

mitsuhashi_11.JPGイラストやデザインも全て中野さんが一から制作したパンフレット

中野さんはパンフレットの作成だけでなく、ホームページ作成、ブログやSNSの更新、木育イベントの企画運営など、三津橋産業の広報全般を担います。
手には木製の文房具、おしゃれな木製のアクセサリーを身につけ、「仕事に行き詰まったら構内にある工場のチップヤードに行って、トドマツの匂いに包まれながら深呼吸するんですよ。すごくいい匂いでリラックスできるんです」と話す彼女の笑顔からは、「木が大好き!」という愛情が溢れ出ていて、少しお話しただけでも、木をPRするお仕事がぴったりだなあと感じます。
そんな中野さんが、どうして木に関する仕事に就いたのか、どうして三津橋産業で働くことになったのか、詳しく伺っていきましょう。

mitsuhashi_20.JPGトドマツの良い香りが中野さんの疲れを癒やしてくれます

中野さんは室蘭市出身の28歳。地元の室蘭栄高校の理数科を卒業後、北海道大学農学部森林科学科に進学しました。三津橋産業には2021年4月に入社し、現在は3年目になります。

木が大好きな中野さんなので学生時代も木の研究をしていたのかと思いきや、学生時代は動物、中でも大好きなカエルが研究対象だったのだそう。

「小さい頃から両生類や爬虫類が大好きで、大学では森林生態系管理学研究室に配属し、カエルの研究をしていました。学生時代は木よりも動物の方に興味があったんですよね」

mitsuhashi_8.JPG中野さんのデスクには所狭しとカエルたちが!

ただ、大学院に進学したものの、果たして自分に向いているのは研究の道なのかという疑問が消えなかった中野さん。大学院1年目の時に休学し、ワーキングホリデー制度を活用して憧れのオーストラリアへ留学します。

「もともと英語が得意だったので、大学時代にアメリカへ短期留学に行ったこともありましたし、海外で暮らしてみたいという思いがずっとありました。自分の英語力を高めるため、経験と成長を求めて挑戦した感じです」

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そうしてオーストラリアで1年間を過ごした中野さんは、帰国後、大学院には戻らず日本で就職する道を選びました。海外経験も積み、次は学生に戻るのではなく日本の社会に出ようと考えたのです。

中野さんの就職活動はコロナ禍だったこともあり、オンラインがメイン。そんな中、偶然見つけたのが三津橋産業でした。
「場所は地元の北海道で、自分が学んできたことも活かしたいなと思い自然系の仕事を探していたところ、たまたま林業・木材産業に幅広く携わる三津橋産業を見つけました。木のことはそこまで知らなかったものの、森林科学科でしたし学んだことは活かせるかもしれないと思って」と中野さん。
そして、その時にリクルートを担当していたのが、現在中野さんの上司である情報技術課の次長・室崎英輝さんでした。

mitsuhashi_31.JPGこちらが室崎英輝さんです

室崎さんは、中野さんと出会った頃のことをこう振り返ります。

「2017年に発足した情報技術課は、グループ会社の電話やパソコンなどの管理、インターネットの設定や社内システムの作成など、情報インフラ整備による業務改善がメイン業務です。といっても新しい部署なので業務内容は固定されておらず、何をしてもよかった。だから僕としては、パンフレットはもちろん、ホームページやSNSでの情報発信もどんどん進めたかったんです」

前職で航空写真撮影を専門とする会社に勤めていた室崎さんは、システム関係が得意分野。それゆえ、ホームページやSNSといったWEBを介した情報発信の重要性も、いち早く感じていました。

「でも、僕みたいなおじさんだと堅苦しいものしか作れないうえに、そもそも人が足りないので更新もままなりませんでした。そんなもどかしい思いをしている中で、中野という光る人材に出会えたんです」

mitsuhashi_24.JPGここは針葉樹を扱う製材工場

一方で中野さんも、室崎さんと話すうちに三津橋産業に惹かれていったと言います。

「『色々なことにチャレンジできそう』と思いました。私は森林や木のことだけではなく、絵を描くのも好きですし、デザイン関係やWEB関係にも興味があったので、色々なことをしてみたかった。なので森林科学科で学んだことを活かしながらも、興味のあることや新しいことにもチャレンジして色々な能力を伸ばしていける環境は、私にとってとても魅力的だったんです」

学んだことを活かしながら色々なことにチャレンジしたい!という中野さんの思いと、情報発信や新しいことをどんどんやっていきたい!という室崎さんの思い。
この二つが偶然か必然か巡り合って化学反応を起こし、三津橋産業の変化が始まっていきました。

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木を愛する熱意がもたらした、会社の変化。

こうして三津橋産業に入社した中野さんは、まさに八面六臂の大活躍!まず取りかかったのが、先述した会社のパンフレット作成です。
「そもそも製材って何?」というような一般の人にも分かりやすく、図やイラストが満載のパンフレットは大好評。
「木の写真や文章がただ並んでるだけでは誰も読んでくれませんが、このパンフレットならあまり木に興味のない高校生でもちゃんと読んでくれるんです。よく『分かりやすい』と言ってもらえます」と、作成者の中野さん以上に自慢げな室崎さん(笑)。

さらに中野さんは、会社ホームページのリニューアルも担当しました。リニューアルにあたっては、会社での日常を綴るブログを開設することを提案。そこには中野さんならではの視点がありました。

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「就活時、ホームページで会社概要を見ても、その会社がどんな雰囲気なのかイメージが掴みづらいことがよくありました。だからこそ、木材の会社ってこんなことをしてますよ、こんな人が働いてますよ、という風に会社のことを具体的に発信することで、親しみを持ってもらえるページを作りたかったんです。ブログならSNSよりも長文を綴れるので、ぴったりな媒体だなと思って」

一方、SNSでの発信はインスタグラムを活用。こちらはブログよりもさらにフランクに、友達に教えてあげる感覚で発信しているのだそう。

「インスタグラムは僕が始めたのですが、なかなか更新できなくてフォロワーは数人しかいませんでした。ところが中野に更新を任せてからは、フォロワーが一気に数百人も増えたんですよ」と、またまた中野さん以上に誇らしげな室崎さんです(笑)。
今は部下であるはずの中野さんからフランクな文章を書く指導を受けながら、室崎さんも更新を頑張っているという、なんとも微笑ましいエピソードも教えてくれました。

mitsuhashi_33.JPGフォロワーもどんどん増えているインスタグラム

こうした中野さんの活躍で、充実した情報発信ができるようになっていった三津橋産業。その効果はいろんなところに見え始めています。

「実際にブログを見て求人に応募したという子もいます。また中野が入社して以降、女性社員も一気に増えました。去年は4名のうち2名、今年は2名のうち1名の新入社員が女性です。女性が増えたことで、社長が事務所に花を飾るようになったり、女子トイレを増やしたり。この部屋も、社員がくつろげるように綺麗に改装したんですよ。会社の雰囲気もどんどん明るく変わってきています」と室崎さん。

mitsuhashi_29.JPGここ数年で一気に増えた女性社員さんたち!

「工場に立ち寄ると、作業員さんたちが情報発信のネタを持ってきてくれることもあります。写真撮影にもポーズをとって気軽に対応してくれますし、会社の皆さんが情報発信に協力してくれるようになりましたね」と中野さんも嬉しそう。
事務所や工場で働く方々は、ほとんどが中野さんにとっては大先輩。そんな方々をも動かしてしまうのは、中野さんの仕事ぶりに説得力があるからこそ。

「中野はかなり努力もしているんですよ。休みの日も木を見に行ったり、森林や木材関連のイベントに参加したりしているようです。そういった中野の『木が好き』という熱意が伝わるから、『中野さんが言うなら...』と周りも動いてくれるんでしょうね」

mitsuhashi_17.JPG製材工場の工場長との一枚

このように室崎さんや周りからは大変な努力をしているように見える中野さんですが、当の本人は「好きなんですよね」と苦でもない様子。
「単に好きだから、お休みでも自ずと森に行ったり木を調べたりしてしまうし、木材系のイベントで丸太を眺めながら樹種を覚えるなんてことを延々としちゃいます(笑)。山に立っている木も、切られて丸太になった木も分かるようになりたくて、今は写真とデータを大量に集めて、図鑑を作ろうと思っているんです」と、とにかく楽しそうな中野さん。

「好きこそものの上手なれ」という言葉がありますが、それはまさに中野さんのこと。
「彼女は会社を変えてくれる大きな起爆剤なんです」と室崎さんが言うように、やりたいからやってみる、楽しいからやってみる、これをしたらもっと良くなりそうだからやってみる。そうやって突き抜けて楽しんでいる中野さんの姿が、周りも大きく巻き込んで会社に変化をもたらしている。そんな風に感じられました。

mitsuhashi_27.JPG室崎さんと中野さんが工場を案内してくださる中、工場の皆さん笑顔で迎えてくださいました

木の良さを、木に携わる仕事を、もっとたくさんの人に伝えたい。

さらに今、中野さんが新しく取り組んでいるチャレンジが「木育」です。
中野さんは去年の秋、北海道が木育を普及させる専門家として認定する「木育マイスター」の資格を取得。ブログやSNSでの情報発信とはまた違う形で、多くの人に木のことや林業・木材産業のことを知ってもらう活動を広げています。

「最近では上川総合振興局からの依頼で、名寄市の小学生を対象とした森林散策を担当しました。森の中で『手のひらみたいな葉っぱ』『赤い実』といったお題に沿うものを探すゲームを企画して、そのパンフレットも私と室崎で作成したんです。20名ほどが参加したのですが、みんな楽しんでくれました」

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ここでも、中野さんのアイデアと会社パンフレットを作成した手腕が存分に発揮されています。
今後も木育マイスターとしての活動は増えていく予定で、さらに活躍の場を広がりそうな中野さんですが、広がったのはそれだけではありませんでした。

「木育マイスターって、横のつながりがとても強いんです。マイスターになったことで、林業・木材産業の枠を超えた異業種の方々との交流も、大きく広がったように感じます」

中野さんが手にしていた木製のペンはなんと、三津橋産業の工場から出た端材を使って、木育マイスター仲間である木工作家の木村さんが作成したものだそう。

mitsuhashi_12.JPG道産ナラとカバの端材を使ったボールペン

「こんな風に木育マイスターのつながりを活かして色々な業種の人たちと連携すれば、可能性がもっと広がりそうですよね」と、新たな可能性にワクワクしている様子の中野さんでした。

パンフレットの作成、ホームページのリニューアルに、ブログやSNSでの情報発信、そして木育...。
「学んだことを活かしながら、色々なことにチャレンジしたい!」という思いをまさに実現させている中野さんは、「仕事を通してこれまでの人生の伏線回収をしているようだ」と話します。

「ホームページ作りにハマっていた中学生時代のHTMLの知識が、たまたま会社のホームページ作成の際に役立ちましたし、ずっと好きだった絵を描くことは、パンフレット作りなど仕事のあらゆる面で活かせています。最近では海外の木材会社との商談の通訳をする機会もあり、ここでも思いがけず、海外経験で得た英語力を活かすことができました。全く関係ないと思っていたことも仕事を通して繋がっていくような瞬間が多々あって、今までやってきたことって全て無駄ではなかったんだなと思えるんです」

中野さんの生き生きとした笑顔を見ていると、学んできたことや、好きなこと、得意なことを仕事に活かしたいという思いに妥協をしなかったからこそ、天職ともいえる仕事に巡り会えたのだろうと感じます。

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最後に、中野さんがこれからさらにチャレンジしていきたいことを聞くと、「三津橋産業という会社だけではなく、木を扱う林業・木材産業という世界を、一般の方にももっと知ってもらうような活動をしていきたい」と話してくれました。

「木を植えて育てて伐る『林業』は注目されるようになりましたが、その木を加工して販売する『木材産業』はまだあまり知られていません。ふだん三津橋産業で木材を加工することに携わっている私は、木材産業の立場だからこそできる木育活動や情報発信を通して、林業と木材産業をつなげ、木を扱う業界全体を盛り上げていきたいなと思っています」

「木が好き!」という熱意で、三津橋産業に大きな変化をもたらした中野さん。木育という新しい武器も手にし、持ち前の周りを巻き込む力を増しながら、木の良さをより多くの人に伝えていく様子が目に浮かぶようです。
これからも新しいチャレンジに挑み続ける彼女が、今度は会社だけでなく林業・木材産業の世界にもどんな変化をもたらしていくのか。期待に胸がふくらむ取材になりました。

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三津橋産業株式会社 情報技術課 中野百合華さん
三津橋産業株式会社 情報技術課 中野百合華さん
住所

北海道士別市西1条21丁目471番地(士別本社)

電話

0165-23-5271

URL

https://mlcmitsuhashi.co.jp/


木の良さを伝えたい!その「熱意」が会社を変える。

この記事は2023年7月4日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。