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札幌市の小さな「発明企業」に、語学の道を見出した若者。20230807

札幌市の小さな「発明企業」に、語学の道を見出した若者。

札幌市は、いわずとしれた北海道の中核都市。このまちに転勤を命じられたビジネスパーソンは北国の暮らしが不安なことから引っ越し前に泣き、別の地に異動する辞令が下った際には離れがたくて涙を流す「札幌の二度泣き」という逸話があるほどです。中心部では都市生活が楽しめ、少しクルマを走らせるだけで大自然を堪能できる...この立地は移住者にとってメリットもたっぷり。今回は、京都外国語大学を卒業後、札幌市で農業に貢献する小さな「発明家集団」である株式会社エース・システムに就職した、新卒2年目の中川遥太さんにスポットを当てます。

保育園児にして国際交流にあこがれを抱いていた幼少期。

中川さんは大阪府吹田市のご出身。幼いころは2年に一度は「北海道」か「沖縄」に家族旅行に出かけるという家庭で育ち、道東や道北の大自然を何度も観光したことがあると振り返ります。

「4年に一度は北海道旅行を楽しんでいたワケです。例えば、釧路に出かけた際にはマチナカに濃い霧がかかる幻想的な風景に感動したり、網走では流氷を砕きながら進む船に乗ったり、北海道でしか味わえない経験を堪能しました...とはいえ、当時は釣りやシーカヤックが手軽にできる沖縄も同じくらい好きでしたが(笑)」

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子どものころの中川さんは旅行を楽しむ一方、保育園時代から外国人との交流にあこがれを抱いていたのだとか。友人のお母さんが英会話教室の講師だったことに影響を受け、英語に興味津々だったと笑います。

「英語で話せる人が純粋にカッコいいと思いましたし、海外の文化や価値観にふれられるのって楽しいですよね。語学に関してはライフワークといえるほどブレずに好きだったことから、京都外国語大学に併設された高校に進み、外国語を学べるコースを選択しました」

sapporo_acesystem_3.jpg中川さんが高校、大学時代に通っていた京都市の町並み。

中川さんは高校ではアメフト部に所属し、部活動のかたわら京都外国語大学のネイティブと交流が楽しめるラウンジに顔を出す日々を過ごします。在学中にはカナダへの短期留学も経験し、「将来は語学が使える仕事に就きたい」という思いが日に日に強くなっていきました。

コロナ禍に苦しめられた就活に、一筋の光が差し込んで。

中川さんは高校卒業後、京都外国語大学に進学。世界三大言語ともいわれていることから、より多くの国の人と交流するためにスペイン語を専攻しました。

「大学時代には日本の旅行会社が展開するスペインの支社で1カ月ほどのインターンも経験しました。業務自体は予約確認や電話対応といった難しくないものでしたが、日々の生活で文化の違いを目の当たりにすることも多かったです。例えば、スペインではシエスタ(お昼寝タイム)を挟み、仕事が19時くらいに終わるケースが大半。その後、バルやレストランでお酒を楽しむのですが...繁華街ではなくても夜遅くまで外でワイワイと騒ぐので、正直うるさかったのも良い思い出です(笑)」

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京都外国語大学に通う学生の就職先は、「航空」「旅行」「ホテル」の3分野が主流なのだそうです。ところが、中川さんが就職活動を始めた時期は、折しもコロナ禍の真っ只中。大手旅行代理店を筆頭に志望する業界の多くの企業が新卒採用を控えるなど、語学を生かせる就職先が途端に狭き門になってしまったと表情を曇らせます。

「僕の場合、航空業界にはあまり興味がなかったため、ホテル業界に絞り込んで就活を進めていました。けれど、10社...いえ、20社受けても内定をいただくことができず...。そんな時、京都外国語大学の学生だけが使える学内求人サイトで、スペイン語と英語が使える職場を検索したところ、たまたまヒットしたのが株式会社エース・システムです。勤務地を見ると、子どものころに旅行を楽しんだ北海道の札幌市。何やらスペインの取引先も多いようだったので、一筋の光が差した気がしました」

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真摯な姿勢と熱意に背中を押され、札幌市の企業にIターン就職。

小さなころに旅行を楽しんだとはいえ、北海道の暮らしは未知数。けれど、中川さんの胸中には、関西以外の地で生活するのも良い経験になるだろうというワクワクした気持ちが湧き上がってきました。

「さっそく、エース・システムにメールを送ってみたところ、就職という人生の大きな選択は実際に会社の雰囲気を見て決めてほしいというメッセージが返ってきました。当時はオンライン面接が主流でしたが、交通費や宿泊代まで負担してくれるとのこと。会社の真摯な姿勢と熱意が伝わってきました」

sapporo_acesystem_6.jpg株式会社エース・システムの代表を務める菅原康輝さんと笑顔で談笑。中川さんの勤務初日にはお寿司をご馳走してくれたとか。

株式会社エース・システムは、優れた商品を世界中から調達する「商社」と、独自のアイデアでオリジナル商品を製造する「メーカー」という2つの顔で、北海道の農業を支える企業。特に油圧や電機を組み合わせた農業機械の制御を得意としています。

「僕は農業にも、油圧にも、電機にもまったくふれたことがありません。けれど、面接時には農業機械のディーラーや農家さんと密接に関わることができると聞き、自分にとって新鮮な経験が積めると感じました。もちろん、海外の取引先も多いため、語学力を生かせる機会があることも魅力に映り、お世話になることを決めたんです」

sapporo_acesystem_7.jpg株式会社エース・システムはイタリアを中心にヨーロッパの会社と数多く取り引きしています。

移住にあたっては同社の社長からオススメの居住エリアを教えてもらったとか。中川さんはご両親と一緒に住む場所を探し、地下鉄徒歩圏内のアパートに暮らすことを決めました。

「僕の住まいは地下鉄から徒歩約5分。これだけの好立地に加え、大阪や東京と比べて部屋が広い...のに家賃は格安です。体感的に住居のコストが3〜4万円抑えられ、それだけでも金銭的メリットは大きいもの。現在はプライベートも楽しみながら、コツコツと貯金もできる程度にはゆとりがあります。僕の場合は単身者ですが、職場の家庭を持つ先輩の中にもマイホームを購入した方がおり、やはり首都圏や関西と比べてゆったりと暮らしているイメージです」

大手にはない「現地と現場のリアル」を見られる面白さ。

株式会社エース・システムにとって、中川さんは初めての新卒社員。昨年4月の入社後は営業部に配属されましたが、まずは会社全体のことを知ってもらうべく、2〜3カ月は出荷作業や製品の梱包を通し、商品ラインアップ・用途を覚えていきました。

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「当社の主力製品は、農作業時にトラクターや作業機の姿勢を保つ制御装置。なかなかイメージしにくいかもしれませんが、この装置を使うことで農作業の効率が大きく高まり、北海道外からも多くの引き合いがあります。こうした製品をトラクターのディーラーに販売したり、店内展示会を開いて農家さんに説明してもらったりするのが営業の仕事です」

sapporo_acesystem_9.jpg工場で製造中のトラクターや作業機の姿勢を保つ「レベリングキット」。同社の売れ筋です。

この7月には念願だった語学力を生かせる機会にも恵まれたとか。帯広市で開かれた「第35回国際農業機械展」では、海外の取引先に輸入製品の売れ行きを説明したり、同社の商品ラインアップを紹介したり、得意分野を存分に発揮したと笑います。

「当社は規模だけで見ると札幌市の小さな企業。けれど、海外とやり取りするダイナミックなビジネスの手応えを感じますし、電子制御部や製造部といったメーカーとしての部門では、世の中にないものを『発明』する仕事にもあたっています。一人ひとりがチャレンジングな姿勢と創意工夫で人に役立つものを生み出すスタンスは、むしろ分業化が進んでいる大手企業にはない魅力ではないでしょうか」

sapporo_acesystem_10.jpg「第35回国際農業機械展」に出店した際のブース。

事実、中川さんは電子制御部の先輩と農薬を撒く機械のシステム制御の調査で圃場に足を運び、現場を自分たちの目で確かめました。営業は売ったら売りっぱなしではなく、エンジニアにしても机上のプログラミングだけで仕事を進めるのではないスタイル。現地のリアルな状況やユーザーの生の声を聞けるのも面白みだと表情を引き締めます。

「例えば、農家さんから『もっとこういう機能がほしい』や『この穴を少しだけ大きくしたい』といった要望を聞き、農業に役立つものを届けられるのは当社ならではだと思います」

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都市生活と大自然をどちらも楽しめる札幌暮らし。

中川さんは入社から2年目。まだまだ農業についても、油圧や電機の知識についても先輩方に及びもつかないと冷静に自己分析します。

「ただ、当社は農業の世界がより便利になるものづくりを念頭に、次々と新しい製品をリリースしたり、チャレンジングな開発に取り組んだりしています。それに、産学によるプロジェクトにも積極的に乗り出すなど、研究開発の視点からも面白みのある仕事が生まれているところ。第35回国際農業機械展に出展した際はラジオ番組でも取り上げられ、少しずつでも確実に当社の名が広がっていることを実感しています。だからこそ、もっと成長したいと思えるんです」

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これまでは仕事を覚えるのに必死だったそうですが、最近はようやくプライベートにもゆとりが生まれてきた中川さん。インターネットの掲示板で見つけた草野球チームに加入して体を動かしたり、ソロキャンプを楽しんだり、北海道ライフも満喫しています。

「ご存知の通り、札幌は都市機能が充実しているので、生活面で困ることは何もありません。これは単身者だけではなく、ご家庭を持つ方も同じはずです。一方、観光地へのアクセスが良いので、金曜日の仕事終わりにクルマを走らせ、洞爺湖に出かけたり、時には函館に遊びに行ったりしています。当社のベテランエンジニアも残業が少なくて、家族との時間を多く取れると大満足の様子です」

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中川さんが株式会社エース・システムに就職したのは、「語学が生かせる」が大きな要因だったのは正直なところ。けれど、現在はチャレンジングなものづくりで農業に貢献し、北海道の暮らしも堪能できる日々に心から張り合いを持っていることが、その笑顔から、語り口からヒシヒシと伝わってきました。

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株式会社エース・システム
株式会社エース・システム
住所

北海道札幌市白石区米里5条2丁目5-30

電話

011-873-7660

URL

http://www.ace-s.co.jp/


札幌市の小さな「発明企業」に、語学の道を見出した若者。

この記事は2023年7月21日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。