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魚を買いに行きたくなる!今どき「まちの鮮魚店」アツい店主座談会20230720

魚を買いに行きたくなる!今どき「まちの鮮魚店」アツい店主座談会

この数年、札幌市内に威勢のいい「まちの鮮魚店」「まちの魚屋さん」が開業しています。いずれも地域に根差した鮮魚店で、30代、40代の若き店主が奮闘しています。今回は、そんな鮮魚店の店主3人に集まっていただき、店をはじめた経緯やそこにある熱い想いなどについて語り合ってもらいました。

参加していただいたのは、「みなとや鮮魚店」の代表・青木鉄兵さん、「一和鮮魚店」の代表・木島和哉さん、「新沼鮮魚店」の代表・新沼豊盛さんの3人。実は前職が一緒で先輩後輩関係にあたるなど、とても仲が良いそう。旧知の仲であるが故、笑いの連続でしたが、でも「鮮魚店」に対する根っこはとても熱いものでした! 笑いあり、真面目な話ありの2時間、その内容をギュギュっと詰め込んだ記事を読んだら、「まちの鮮魚店」に行きたくなること間違いなしです。

大手の鮮魚店などで経験を積んだのち、それぞれ独立した3人

sakanaya_zadankai10.JPG左から「一和鮮魚店」の木島和哉さん、「みなとや鮮魚店」の青木鉄兵さん、「新沼鮮魚店」の新沼豊盛さん

まずは、それぞれがこの業界に入るきっかけから鮮魚店をオープンするまでの経緯を伺いました。先頭を切ってくれたのは、3人の中で一番お兄さんの「みなとや鮮魚店」の青木さん。

「2020年の9月に、北区の新琴似に開業しました。この業界に入ったのは、高校在学中。スーパーの中にある魚屋さんでバイトしていたのがきっかけで、そのままそこの社員になりました。仕事内容はハードでしたけど、就職氷河期で仕事を選べる感じでもなかったし、せっかく声をかけてもらったので就職したという感じでしたね」(青木さん)

merumaga_minatoya12.JPG「みなとや鮮魚店」は、札幌市北区新琴似にあります

青木さんが就職した大手鮮魚店は本社が関東だったので、就職して2年後くらいで東京へ転勤に。その後、キャリアを積むため別の鮮魚店に転職し、バイヤーとして築地に出入りできるようにまでなります。しかし、足をケガしてしまい歩行も難しく、やむなく札幌へ戻ってきました。足の状態を見ながら、鮮魚関連の会社で働いた後、何とか足も回復し、仕事にも自信がついたので独立することにしたそう。

続いて話してくれた木島さんは、年齢自体はこの中で二番目ですが、独立して開業したのは2019年で、3人の中では最初でした。

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「僕は高校を卒業してから、この業界に入りました。親の紹介もあって青木さんと同じ鮮魚店に入ったんですが、もともと魚釣りが大好きだったので、魚には抵抗ありませんでした。あとは、『給料いいから、いい車に乗れるよ』って言われて(笑)。札幌勤務の予定でしたが、入社したら、すぐに東京へ1年間研修に行くように言われ...。その頃に青木さんと知り合って、かわいがってもらいました。ただ、すごいホームシックになってしまって、半年で帰ってきたんです。ちょうど会社が札幌駅にできる百貨店にテナントで入ることが決まっていて、そのオープンに合わせて早く帰ることができたというのもあるんですが...」(木島さん)

それからは、札幌中心に各百貨店に入る店舗などで経験を積みます。その後、他の会社も見てみたいと、別の鮮魚店にも入り、再び最初の会社へ。そして、2019年10月、東区に「一和鮮魚店」を開業しました。

merumaga_itiwa9.JPG『一和鮮魚店』は、札幌市東区にあります

最後の新沼さんが独立したのはつい最近。今年の5月、西区の西野に「新沼鮮魚店」をオープンしました。

「僕は安平町出身で、苫小牧の高校に通っていたんですが、友達が苫小牧にあった百貨店内の魚屋にバイトの面接に行くとき、一緒について行ったら、なぜか自分もバイトすることになってしまって(笑)。それがきっかけでこの世界に入りました。高校を出たあと、1年間バイトのまま苫小牧で働き続け、そのあと社員になって、木島さんと一緒で札幌駅の百貨店に入るテナントオープンに合わせて札幌へ」(新沼さん)

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札幌市内の百貨店を順に回り、店長も経験したのち、2人に続いて独立。「青木さんと木島さんにはいろいろ相談に乗ってもらいました」と話します。

merumaga_niinuma2.JPG『新沼鮮魚店』は、札幌市西区西野に、今年(2023年)オープン!

丁寧な接客、誠実な対応。自分たちの求める鮮魚店の在り方を実現する

3人とも大きな鮮魚店に勤務し、キャリアも積んできたのに、なぜ独立しようと思ったのでしょうか。

「基本的に負けず嫌いなところがあるので、高校時代からいつか何かで独立したいという思いはありましたね」と話すのは青木さん。「最初は何で独立するか、自分の中で明確なものはなかったけれど、そもそも転職したのも自分のキャリアアップのためでした。魚屋でやっていこうと決めたのは、ちょうど築地に出入りさせてもらえるようになった、24、5歳くらいだったかな」と続けます。

merumaga_minatoya9.JPG青木さんは、奥様と二人で店を切り盛り。息もぴったり!

一方で、早い段階から魚屋として独立することを視野に入れていたのが木島さんです。就職して3年ほどで、自分のやりたいスタイルの販売や接客を行うため、いつか独立しようと心に決めていたと言います。

「本当にイイモノをちゃんとお客さんに伝えたいという想いがあって、正直に誠実にお客さんと接したかったんです。会社員時代もそうやってはきましたが、百貨店は少し価格が高めだったりするのも自分の中で引っかかっていて。立地とかブランド的なイメージとか、事情があるので仕方ないのも分かってはいたんですけど...。だから自分で店を出したら、お客さんに対して価格も品質も、誠実に、正直に伝えたかったんです。そして、自由に楽しく、お客さんとやり取りしたかったんですよね」(木島さん)

merumaga_itiwa2.JPGどんなに忙しくても笑顔! スタッフさんも笑顔

新沼さんは、自分の理想とする店づくり、自分が納得いく店の在り方を追求していくと結果として独立することに繋がったと話します。

「職人気質なのか、僕は人を使うのが上手じゃないんです(笑)。自分のやりたいようにできないことに対してすごくジレンマを感じてしまうタイプ。たとえば、うろこがキレイに取れていないのを見つけると、煮付けたらうろこが浮いてきてお客さんがおいしく食べられない...、自分だったらキレイに全部取るのに...とか。だから、買い付けして商品を並べるところから、お客さんとのやり取りまでの一連を、全部自分でやりたかったんです。目の前のお客さんのために一つひとつを丁寧に、納得いくようにやりたくて...」(新沼さん)

merumaga_niinuma7.JPGひとつひとつの作業を、丁寧に。納得いくものをお客さんに

木島さんと新沼さんは同じ時期に同じ会社で働いていたこともあり、「戦友みたいなものです」と木島さん。続けて、「新沼さんはこう見えて、会社員時代は部下から怖がられていたんですよ」と笑うと、「えーっ!そうだったの?」と苦笑する新沼さん。それぞれタイプは違えど、愚直に誠実に仕事と向き合ってきたのだろうなと想像できます。

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旬のイイモノを提供するのは当たり前。その上で対面だからこそできることをしたい

独立して鮮魚店をやるにあたってのポリシーやこだわりについて尋ねると、「もちろんイイモノを提供するというのは3人とも一緒だと思います。あとは、魚をおいしく食べてもらうためにいろいろな提案をしていくことが僕らの大切な役割じゃないかな。それが食育にも繋がっていくと考えています」と青木さん。

青木さんは、簡単でおいしい魚の食べ方を伝えていくことに力を入れており、多くの人が抱いている魚の食べ方の固定観念を打ち破りたいと考えているそう。例えば、鍋のイメージが強いアンコウなら、から揚げやトマト煮を勧めるなど、「これならうちでもできるかも」と思わせてくれる知識やヒントを与えてくれます。

「おいしい食べ方やレシピ、食べやすさ、魚に関する知識をお伝えするようにしています。肉にはない魚の楽しみ方を伝えたいと思っています。これは、スーパーではできないことで、対面販売の自分たちだからこそできることです」(青木さん)

また青木さんは、お客さんの好みや店をいつも訪れる時間などをしっかり頭の中にインプットしているそう。仕事帰りに寄ってくれるお客さんなら、帰ってすぐに簡単に調理できるものを勧めるなど、細かいところまで考えて接客を行っています。そういうちょっとした気遣いがお客としては嬉しいところです。

木島さんも、「旬の美味しいものを提供するのは大前提で、お客さんに対して誠実に接することをすごく大事にしています」と話します。

「うちのショップカードに描いてあるロゴ、人と人が魚を挟んで向き合っているんですが、対面販売の良さや大事なところって、人と人がきちんと向き合って話すことだと思うんです。僕も楽しく、そしてお客さんも楽しく買い物してもらえたらと思っています」(木島さん)


3人ともお店のSNSを効果的に活用していますが、中でも一和鮮魚店のインスタは常連客の間でも話題。店長イケメンと言ったら割引とか、腰が痛くてさばけないから助けてください!など、その楽しくて、正直なメッセージに、ついつい足を運んでしまうのも頷けます。「青木さんの投稿を盗んだりもするけどね(笑)」と木島さん。

merumaga_itiwa10.JPG一和鮮魚店の精鋭の皆さん。流れるような連携が見事

オープンしたばかりの新沼さんはいろいろなことが手探り中と話しますが、「どうやったら魚をもっと食べてもらえるかをいつも考えていますね。それから、僕は1回にいっぱい買ってもらうより、毎日少しでもいいから買い物に来てもらえるような店にしていきたいと思っています」と続けます。

merumaga_niinuma13.JPGとってもオシャレな新沼鮮魚店の店内。奥様とのお揃いの前掛けも素敵!

どうすれば毎日通いたくなるか、利用しやすいかをあれこれ試している最中で、大きめのアサリの一粒売りをやったりもしたそう。「その流れでシジミの一粒売りもやってみたけど、これはダメでしたね」と笑うと、青木さんが「そのチャレンジが大事だし、デパートやスーパーじゃそんなことできないから」とフォロー。「でもさ、シジミの一粒っていうのは、さすがにね...(苦笑)」と木島さん。そんな3人の掛け合いに場が和みます。

魚離れを止めるため、消費者との架け橋である自分たちが頑張らなければならない

20年近くのキャリアがある3人ですが、時代の変化とともにお客さんたちの魚に対するニーズや嗜好も変わっていると話します。

「僕がバイトしていた頃は、肉より魚のほうが価格も安くて、日常的に各家庭の食卓にのぼっている印象でした。肉は特別なときに食べる感じだったのが、今は逆転していますよね。そして、昔は魚1本まんまでも売れたけれど、今はゴミ問題などもあって、家庭でさばく機会はグッと減っています。魚は面倒という意識をなくし、魚離れを食い止めるためには僕たちが頑張らないとならないと思っています。魚を食べたいけれど...という人たちに向け、今はすぐに食べられる状態にして渡す時代なのだと思います」(青木さん)

merumaga_itiwa1.JPG一和鮮魚店さんの金曜日は、週に一度のお楽しみ、その名も『フライデー』! 揚げたてのお魚やお総菜がずらりと並びます

漁業従事者だけが頑張っても魚離れを食い止めることはできません。やはり、消費者との架け橋となる3人のような鮮魚店の存在が大事になってきます。「そのためには、魚のおいしさや魚の食べ方などをしっかり伝えていかなければならない」と青木さん。魚を焼く際にグリルを使いたくない、後片付けが面倒という人が増えていることも食卓から魚が減っている要因のひとつであるとし、「フライパンでもおいしく簡単に焼けるテクニックを僕たちも知っているので、そういうのももっと伝えていきたいですね」と話します。さらに、未利用魚と呼ばれる類の魚に関しても店頭で紹介していきたいと考えているそう。

木島さんも「もともと魚をたくさん食べてきた日本で、魚を食べる文化を絶やしてはいけないと思っている」と続けます。

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「これって、すごく重要な課題だと思うんです。30、40、50代の人たちにもっと魚をおいしく食べてもらって、次世代に繋いでいかなければならないし、そのためには小さな店であっても自分たちが頑張らないとならない。ニーズに応える以前にニーズを作っていくことが、僕たちが今やらなければならない仕事だと感じています」(木島さん)

「僕たちは小さな店ですけど、地域の人たちに向けて魚のおいしさや魚のことを面と向かって伝えていくことができます。お客さんと一緒に成長していけたらいいのかなと思います」(新沼さん)

木島さんと新沼さんが口をそろえて一番好きな魚と言う「ニシン」。北海道が日本一の漁獲量を誇るにも関わらず、骨がたくさんあるからと道民には敬遠されがち。「ニシンは北海道を繁栄させた歴史を持つ魚。そんな魚のことやおいしい食べ方を僕たちが伝えていかないとね」と木島さん。

sakanaya_zadankai19.JPGすでに、地域になじみつつある、新沼鮮魚店。

町に鮮魚店がもっと増えたら良い...と思いますか?と尋ねると、3人ともうんうんと頷きます。ほかにも同世代の鮮魚店仲間がいるそうで、実はこのあとみんなで飲みに行くとのこと。また、「今、北大生の男の子が魚屋になるため、うちに勉強に来ているんです」と木島さん。週1ペースで店に出ていて、「彼と話していると、僕のほうも勉強になる」と話します。鮮魚店も働き方改革が必要だと感じているそうです。

夢は、地域のコミュニティの場にもなる商店街をみんなで作ること!

SDGsが採択されて以降、利便性や価格の安さを基準にした大量消費から、値段に関係なく、必要な分を誰から買うか、どこで買うかを大切にする時代に少しずつシフトしている空気感があります。各地域にいろいろな商店が並んでいた時代は、その地域に暮らす人は皆「なじみの客」であり、そこには交流がありました。3人もそれぞれ自分たちの店が地域になじみ、コミュニティの場になればと考えているそうです。

merumaga_minatoya8.JPG鮮魚だけでなく、一夜干しや漬けなど、自家製の商品も充実。お客さんのニーズにこたえ、ニーズをつくります

「僕たちは魚屋だから魚を介してだけど、地域の人との温かいやり取りを大事にしたいと思っています。そして、地域の子どもたちにも魚を通じて、食を学んでもらいたいと思っているので、保育園や小学校の見学も受けています。地域への貢献も大事だと思っているので」(青木さん)

木島さんのところでは、毎月限定5家庭に、子どもが生後100日を迎えた際のお食い初め用の鯛を無料で配っているそう。「魚屋のことを知ってもらうためでもあるし、何より地域の人たちとの繋がりを大事にしたいなと思って」と話します。

merumaga_itiwa4.JPG何と!! 鯛が一匹無料に

新沼さんも、この取り組みはいいなと思っているそう。そんな新沼さんの店にも毎日のように近所の小学生が顔を見せてくれるとか。「お母さんと一緒に来てくれることもあるし、一人で来ることもあって」と、小さな常連さんのことを楽しそうに話します。

今後のことを伺うと、「みんなでいつか商店街を作りたいねとよく語っています」と青木さん。魚屋だけでなく、八百屋、肉屋、酒屋、菓子屋などが並ぶ商店街を作りたいとのこと。数カ月前、3人で東京へ行き、豊洲の見学のほか、東京で有名な砂町銀座商店街にも足を運んだそう。「ああいう商店街いいよね。しびれた」と木島さん。活気にあふれ、地域の人たちのコミュニティの場にもなる商店街を作りたいと夢を描いています。

merumaga_itiwa7.JPG店内には、鮮魚はもちろん、ウニのアイスや、釣り針(!?)まで並ぶ。とにかく見るだけでも楽しいお店!

楽しくて、真面目な話は尽きませんが、今日はこの辺りでお開きに...。これを読んだら、なんだか急に魚を食べたくなったのでは? ぜひ、それぞれの鮮魚店にも一度足を運んでみてください。
そして、是非話しかけてみましょう!
店主とのやりとりは、対面販売ならではの楽しさを感じるとともに、きっとあなたの食生活を豊かにしてくれるはずです。

merumaga_itiwa3.JPG毎日同じ品揃えじゃないのが魚屋さんの楽しさ。今日は、どんな美味しいお魚に会えるでしょう!

■みなとや鮮魚店  ■一和鮮魚店 ■新沼鮮魚店
住所

■みなとや鮮魚店/北海道札幌市北区新琴似11条3丁目5/7
■一和鮮魚店/北海道札幌市東区北39条東7丁目1-15
■新沼鮮魚店/北海道札幌市西区西野2条3丁目1-1

店主の個性爆発のインスタは、必ずチェック!

■みなとや鮮魚店 Instagram・・・https://www.instagram.com/minatoya_sengyoten/?hl=ja
■一和鮮魚店Instagram・・・https://www.instagram.com/sakanaya.18/
■新沼鮮魚店Instagram・・・https://www.instagram.com/sakanaya_marutoyo104/


魚を買いに行きたくなる!今どき「まちの鮮魚店」アツい店主座談会

この記事は2023年5月31日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。