木と触れ合い、木に学び、木と生きる取り組みである「木育」。北海道では、木育を普及する人材「木育マイスター」の育成を行っています。聞いたことはあるけれど、どんなことをして、どんな人がマイスターなのかは案外知らないという人も多いのでは? 今回登場するのは、空間デザインなどを手がける内田洋行グループのパワープレイス株式会社札幌オフィスに勤務する北川真紀子さん。木育マイスターの資格を有し、その知識を仕事でも存分に発揮しています。北川さんが実際に手がけた木をふんだんに用いた空間デザインなどを見せてもらいながら、木や仕事に対する想いを伺いました。
こちらが今回お話を伺わせていただく北川真紀子さんです。
オフィスや保育園などの空間デザイン、レイアウトを手がける
北川さんを訪ねて向かったのは、サッポロファクトリー1条館1階にあるパワープレイス株式会社の札幌オフィス。手前には、内田洋行グループの「札幌ユビキタス協創広場U-cala」があります。「ここは産官学連携の場として活用しています」と出迎えてくれた北川さん、笑顔のとってもステキな女性です。「こちらへどうぞ」と案内されたスペースには、木がふんだんに使われており、温かみがあって落ち着きます。
現在、オフィス、保育園、福祉施設、病院などの空間をデザイン、レイアウトするデザイナーとして活躍中の北川さん。設計やデザイン系の学校を出て、この仕事に就いたのかと思いきや、最初からデザイナーではなかったそう。
札幌ユビキタス協創広場U-cala
「短大を出たあと、内田洋行に内勤の事務職で入社しました。でも、お客さまとやり取りしながらデザインをしていくオフィスデザインの仕事を間近で見て、自分もやってみたいなぁと思うように」
デザインをやってみたいと会社に言い続けたところ、6年間の内勤業務を経て、晴れてオフィスデザイン部への異動が叶います。
「熱意が伝わって異動できたような感じでしたね(笑)。でも、これまでデザインの勉強をしたことはなかったので、AutoCADの習得からはじめて、周りにもサポートしてもらいながら、デザインや設計の勉強をしました」
丁寧なヒヤリングで、クライアントの希望に沿ったプランを提案
最初は小さなオフィスの設計を担当させてもらったそう。その後、めきめきと力をつけ、幼稚園や大学、病院、福祉施設、公共施設など、さまざまな空間のレイアウトを任されるようになります。
「あらゆるジャンルのデザイン、レイアウトをとにかく必死でやってきたという感じです。常に勉強だと思っています。福祉系のレイアウトを任されたとき、福祉施設のことを知るために、福祉住環境コーディネーターの資格も取りました。この分野のデザインやレイアウトは社内でも担当できる人が少ないので、今は北海道以外からも仕事を請けています」
空間のレイアウトやデザインは、いろいろなことに配慮しながら考えていかなければなりません。まずは、クライアントが望んでいることは何かを丁寧なヒヤリングで引き出していきます。どんな人がどんな状況で利用するのか、それに合わせて動線、色、家具の配置などを細かく決め、壁や床、家具の素材選びも行い、クライアントにとって最適なプランを提案します。
デザイナーになって25年近くになりますが、「資材の性能、建築技術などは日々進化しているので、こちらも常に勉強です」と北川さん。仕事における喜びは、完成したものを見たクライアントからの「ありがとう」という感謝の言葉。また、コンペを受注したり、たくさんのデザインの中から選んでもらえたりしたときもうれしいと言います。
都心のビルのフロアであることを忘れるような温かみあふれる保育園
さまざまな仕事を手がけてきた北川さんですが、ここ最近の仕事の中で思い出深い仕事を尋ねると、企業の中に作られた保育園(ベルキッズさっぽろ)と、新しく建てられたオフィス(北斗工機株式会社)の2つを挙げてくれました。
ベルキッズさっぽろは、オフィスビルの中にある保育園で、デザインのテーマが「もうひとつのおうち」。札幌の風土イメージから選ばれた札幌の景観色(70色)の中から選んだ色を随所に取り入れたほか、道産の杉を使った家の形をしたパネル、オリジナルの木のおもちゃなど、できるだけ道産材を用いるようにしました。スライドを見せてもらいながら、ここがビルの中のフロアであることを思わず忘れてしまいそうになります。それくらいどの部屋も温かみのある空間に仕上がっていました。
「この保育園は、繋りのある様々な木育マイスターの協力を得て作りました。ここで使っている道南杉は、マイスター仲間のところの木材なんですよ」
北川さんは、7年前に木育マイスターの資格を取得。マイスターになったことで、クライアントに道産材を用いたデザインを提案しやすくなったと話します。
ベルキッズさっぽろのコンセプトなど詳しくお話してくださいました
木育マイスターとして、仕事を通じて道産材の普及と大人の木育を推進
北川さんが木に興味を持ち始めたのは、「約17年前にグループ会社である内田洋行のショールームが国産木材を活用した空間づくりを行っていたことがきっかけで、その空間で働き始めてからかな」と振り返ります。内田洋行グループとしても、二酸化炭素の固定化や木材活用への取り組みの先駆けとして、2004年から学校や企業、自治体などに対して木製家具の販売を積極的に行ってます。地域産材を積極的に活用するために自治体や地域の事業者さんとも連携を行ったり、木材の伐採、利用、植林、育成の循環の強化にも取り組んでいます。
こんなことからも、北海道の木のことを知りたいと思った北川さんは、木の勉強をするために木育マイスターに申し込みます。道産の木についての知識も身につきましたが、それ以上にマイスターを通じた繋がりがたくさんできたことのほうが北川さんには大きかったそう。
北川さんの席には、木育マイスターの認定書が飾られていました
「木育マイスターには、林業の人もいれば、教師や木工作家、アウトドアガイド、保育士など、さまざまな人がいます。マイスターの間では、森で仕事をしている人を『緑の人』、製材したものを生かす人を『茶色の人』と呼んでいるんですよ。みんなの共通点は木。マイスターになって、これまでは繋がることがなかった方たちと繋がりができ、仕事にも生かせているのがとても嬉しいです」
会社としても木を使った空間作りを提案していこうという流れがあり、実際ニーズも増えており、木育マイスターである北川さんの知識やネットワークは大いに生かされています。
「道内企業のクライアントには、できるだけ北海道の木を使いませんかと提案させてもらっています。オフィスに道産材を取り入れることは、大人の木育になると思っているので」
仕事ぶりと人柄が認められ、フロアのデザインを丸ごと任されたオフィス
さて、北川さんが空間デザインで関わり、思い入れが深いという北斗工機の新社屋を実際に見せていただきました。
北斗工機は、北海道の農業を支える穀物プラントの設計や施工を行っている会社。2023年3月に完成したばかりの新社屋のエントランスは、札幌軟石を用いた温かみのある雰囲気です。吹き抜けのロビーの正面には、会社の事業内容が一目で分かる線画のイラストがシンボルアートとして掲げられています。「このイラストを提案してくれたのは北川さんなんですよ」と、取材班を出迎えてくれた同社技術部部長の伊田清作さん。
こちらが札幌市西区にある北斗工機の新社屋です
技術部がある2階へ案内してもらうと、こちらも木をふんだんに用いた落ち着いた雰囲気です。大きなサイズのデスクが配置されていますが、遮るものがほとんどないのでゆったり広く見えます。さらにカフェスペース「HINNA CAFÉ」が設けられており、ここで休憩したり、パソコンを持ち込んで仕事をしたりできるそう。そして、フロアの端のフリースペースにはなぜか大きなテントが張ってあり、そこだけキャンプ場のようです。「これは社長の趣味(笑)。テントの中で社長がコーヒーを淹れてくれることもあります」と伊田さん。
こちらが2階の様子。木の温もりにあふれたお洒落な空間です
そのテントを張った張本人である社長の須藤聡さんは、「2階の家具、レイアウトは全部北川さんに好きにしていいよってお任せしました」と振り返ります。もともと事務所に置くオフィス家具だけを北川さんに依頼する予定でしたが、丁寧に話を聞き取り、イメージしていたもの以上の提案をしてくれる北川さんに、社長をはじめ、担当社員の皆さんはすぐに全面的に信頼を置くように。
左から、北斗工機の稲葉副部長、技術アシスタント上村さん、(北川さん)、須藤社長、伊田部長。みなさんとても賑やかにお話をされていました!
須藤社長の希望は、「現場に出ている社員が多いので、事務所にいるときはリラックスできる空間がほしい、白い壁や天井の事務所はいらない、むしろスタバのような雰囲気に」というものでした。その想いをくみ取り、「せっかく新社屋を建てるのだから、後悔はしてほしくないと思って、家具以外もそっと提案させていただきました」と北川さん。道産材を使うという提案にも、須藤社長は「うちは純粋などさんこ企業だから、道産材の使用は大賛成でした」と話します。
北川さんと密にやり取りをしていた技術部の上村希美子さんは、「北川さんは控えめな方なのですが、打ち合わせを重ねるごとの提案が素晴らしかったんです。それで、家具だけでなく、床や壁、天井なども含めて空間デザインをお願いすることに。一緒に作り上げていく時間は楽しかったです」と話します。完成までの約1年半の間には、社長や伊田さん、上村さん、技術部の副部長・稲葉喜信さんらで一緒に内田洋行本社のショールームに行き、家具や照明などを選んだそう。また、「木の棚板にHOKKAIDO WOODのロゴの焼き印をみんなで一緒に押したのもいい思い出」と上村さん。
北川さんは、「皆さんに本当によくしていただき、私もとても楽しく仕事をさせてもらいました」とニッコリ。今後も社内のレイアウトなどに携わっていってもらいたいと皆さんが口を揃えて言うほど、北川さんが信頼されているのが分かりました。
新しい社屋になって以来、上村さん曰く、「朝早く来る社員が増え、社員間の会話も増えました。カフェスペースがあることで、みんな息抜きができ、気持ちの切り替えもしやすくなったようです」とのこと。空間デザインがいかにそこに集う人に影響を与えるものかがよく分かる話です。
まるで北斗工機の社員のように馴染んでいる北川さん。みなさんで記念撮影!
道産材を使った居心地の良い空間をもっと増やしていきたい
休みの日には、趣味のフラダンスのレッスンに行ったり、おいしいものを食べに出かけたりしているという北川さん。夏場は野菜の直売所へ行って、珍しい野菜を見つけて料理するのが楽しみと言います。年に数回は、木育関連で植樹に出かけるなど、森づくりの活動にも参加しているそう。
また、コロナ禍前には、「札幌ユビキタス協創広場U-cala」で木育広場などの企画も担当。コロナも落ち着いてきたので、そうしたイベントや活動もできればと考えているそうです。
これからのことを尋ねると、「木のある空間は心が落ち着くし、居心地がいいと思うんです。今後も木育マイスターの仲間と連携しながら、私自身もさらに学びを深め、もっと道産材を使った空間デザインを提案していけたらと思っています」と語ってくれました。
- パワープレイス株式会社 札幌デザイン室 北川 真紀子さん
- 住所
札幌市中央区北1条東4-1-1 サッポロファクトリー1条館1階
- 電話
011-214-8535
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