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北海道で暮らす人・暮らし方
栗山町

2組の夫婦が営む生産者とお客様と繋ぐ架け橋レストラン20230615

2組の夫婦が営む生産者とお客様と繋ぐ架け橋レストラン

栗山町にある「小林酒造」といえば、日本酒好きの道民なら一度は訪れたことがあるはず。広い敷地内には、西洋建築を取り入れた古いレンガの蔵や札幌軟石を用いた石の蔵が歴史的にも価値のある建造物が点在しています。

同酒造の敷地の端、川のほとり近くの大きなレンガ蔵の中にあるのが、今回登場してもらう2組の夫婦が営む「restaurant & cafe pont(ポン)」です。

小林酒造の古い蔵を使った隠れ家レストラン

「restaurant & cafe pont(ポン)」は、隠れ家という言葉がぴったりのフレンチレストラン。

「ここで合っているかな?」と、看板の案内に従って静かなレンガの蔵の中へ進みます。ここは日本酒造りに使うための米を精米し、保管していた蔵だったそう。

一番奥に昔の蔵の木製の大きな引き戸があり、それをゆっくり開けると、天井が高く広々とした空間が現れます。

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「いらっしゃいませ、こんにちは」

出迎えてくれたのは、今回メインでお話を伺う葛巻瑞樹さん。なんと、大きくてまん丸なお腹をさすっているではありませんか。3人目のお子さんをもうすぐ出産予定なのだそう。

pontのオープンは2021年。瑞樹さんとその夫・紘さん、瑞樹さんの友人である七田あゆみさんと夫のセグレタン・バティスさんの4人で切り盛りしています。

地元の野菜をはじめ、厳選した食材から丁寧に作り上げる料理と、どこかノスタルジックな雰囲気も漂うお店の雰囲気は口コミやSNSでも評判。新聞などにも取り上げられ、幅広い層の人たちが足を運びます。

農業と食に関心を持ち、同級生と互いの夢を語り合う

瑞樹さんは札幌出身。あゆみさんとは中学の同級生でした。進んだ高校は別でしたが、中学卒業後もずっと仲が良く、大人になってからも年に1度は連絡を取っていたそう。


restaurantpont03.JPG右が瑞樹さん。左があゆみさん。

北海道大学の農学部へ進学した瑞樹さんは、いつか農家レストランをやりたいと考えていました。一方、高校卒業後に印刷会社に就職してデザインの仕事をしていたあゆみさんは、将来はカフェをやりたいという夢を持っていました。

2人は会うたびに、お互いの夢を語り合い、「同じお店で私がレストラン、あゆみがカフェをできたらいいねとよく話していました」と瑞樹さん。

瑞樹さんは農学部に進みましたが、当初は農業というより、タネの発芽に関する研究をしていたそう。

「造園系の勉強や研究を専攻していて、最初は農業にそれほど興味を持ってはいなかったんです。でも、在学時にたまたま親子農業体験のお手伝いをする機会があって、畑で農業を体験したらはまっちゃったんですよね(笑)」

農作業をしたあとに食べさせてもらった野菜のおいしさに感動するとともに、農業に従事することが環境問題の課題解決に繋がるのではないかと考えるようになったと言います。大学卒業後は、長沼町にある、農薬・化学肥料不使用・菌を活用している農家を選び、農業についても学びました。

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大学で同じサークルに所属していた紘さんと結婚した瑞樹さんは、出産を機に長沼を離れて札幌へ。紘さんは大学を中退し、料理人の道を歩んでおり、札幌のレストランで腕を磨いていました。瑞樹さんは子育ての傍ら、札幌の農家で農業に携わり、学生の頃から考えていた「店を持ちたい」という夢実現に向けて進んでいました。

restaurantpont04.JPG仲良しご夫婦です。ちなみに余談ですが、2人が所属していたのは「民謡研究会合唱団わだち」というサークル。日本各地の民俗芸能を舞い、演奏していたという。

一方、あゆみさんはハードワークで体調を崩すこともあり、その際に食生活を見直し、「食」の大切さを実感したと言います。また、世界中を見たいとたびたび海外へ。ちょうど、ニュージーランドを訪れた際、料理人だったフランス人のバティスさんと出会い、結婚。

restaurantpont10.JPGこちらがあゆみさんとバティスさん

日本で子どもを出産後すぐ、バティスさんにベルギーで仕事をしないかと声がかかり、ベルギーへ渡ります。

夢だったレストランカフェ。架け橋になれるようにと願いを込めた店名

ちょうどその頃、冬に小林酒造で酒造りに携わっている瑞樹さんの知り合いから、小林酒造の奥の蔵が空いているから店をやらないかと声がかかります。広い店内を見て、瑞樹さんはあゆみさんと語り合った夢を思い出し、「一緒にお店をやってみない?」とすぐにベルギーへ連絡をしました。

あゆみさんがバティスさんに相談すると、即答で「OK」だったそう。開店に向けての準備が始まります。

restaurantpont08.JPGお料理中のバティスさん

先に葛巻夫妻が栗山へ移住し、開店に向けて動き出します。7月のオープンに向け、あゆみさんとバティスさんもすぐに日本へ来るはずでしたが、世界中がコロナ禍でデリケートになっていた時期でした。なかなか出国できず、5月末に日本へ入国できたものの、待機の期間が長く、栗山に入れたのは6月に入ってからでした。

店を始める際、生産者さんの顔が見える野菜や食材を使って提供していきたいというのは4人の中で決まっていました。そして、身体と環境にやさしい店であることをコンセプトに掲げました。店名の「pont」とは、フランス語で「橋」を意味するそう。生産者とお客さま、北海道の食材とフレンチの架け橋になりたいという想いが込められています。

地元の食材を用いたフレンチを提供。子連れでも訪れやすいように工夫

restaurantpont05.JPGとっても美味しいランチプレートです。


お店で味わえるのは、季節の食材を生かした創作フレンチ。できるだけ地元の食材を用い、パンもデザートもすべて自家製です。小林酒造の酒粕を用いたパンやパテもあります。ランチタイムには、本日のコース料理(2000円~)やワンプレートランチを提供。デザートセットや単品のキッシュなどもあります。

14時からのカフェタイムにはバケットサンドも登場。テイクアウトも対応しています。ディナーは5000円~の予約制。「これまでもディナーは予約制でしたが、今年はあらかじめ月に1回、ディナーの日というのを決めて先に告知をし、気軽に予約してもらえるようにしたい」と瑞樹さん。

メニューの後ろのほうには、食材の仕入れ先である生産者さんたちが紹介されています。顔写真や畑の写真などもたくさんあり、瑞樹さんたちの言葉で紹介文が書かれています。運ばれてきた料理をいただく際、「この農場の野菜かな」と思い浮かべながら味わうと、より美味しさが増します。実は、紹介されている生産者さんの一人が、葛巻夫妻がいた民謡サークルの先輩なのだそう。瑞樹さんは、「結構、民謡サークルの人たち、農業関係にいるんです」と笑います。

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土日は予約をしないと入れない日もあるほどですが、常に店の運営が順風満帆というわけではありません。建物が古いため、雪で屋根がつぶれ、修理のためにオープンが遅れたこともありました。また、4人の意見がぶつかり合うこともあります。それでも、まだまだ始まったばかり。店を会場にイベントを開催するなど、挑戦したいこともたくさんあると瑞樹さんは話します。

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どちらの夫婦も子育ての真っ最中。子どもが一緒でも食事を楽しんでもらいたいと店内には絵本やキッズ用のイスなどを用意しています。小さな子どもがいるとコースでゆっくり食事というのはなかなか難しいものがありますが、子どもが一緒でもおいしいものを味わってほしいと用意したのがワンプレートランチなのだそう。ゆくゆくは蔵の空きスペースを活用して、託児などもできればと構想していると言います。

自分たちで畑をスタート。これから先も楽しみがたくさん待っている

昨年から地元のお寺の空き地を借りて、小さな畑を耕しています。今年は畑の面積を増やし、カボチャ、インゲン、ジャガイモ、レタス、トマトなどを育てたいと考えています。収穫したものはお店で調理し、提供。

ちょうど取材時に馬を入れて土おこしをするということで、私たちも見学させてもらいました。お腹の大きな瑞樹さんは指示を出す係。馬が引っ張る鋤(すき)をバティスさんがバランスを崩さないように支えながら、土をおこしていきます。

restaurantpont06.JPGとっても迫力のあった取材現場です。本来は林業用の馬で、普段は伐り倒した木材を運搬しています。

「小さな畑ですし、機械でやれば簡単にできると思うのですが、店のコンセプトにもあるように環境のことも考えたいと思って、馬で土おこしをすることにしました。そこらの雑草を食べてくれる馬の力を借りて、畑を耕し、馬の糞は畑にすきこんでいく。それって、循環しているんですよね」

移住して3年、栗山の暮らしにはすっかり慣れたと瑞樹さん。札幌から近いこともあり、特に不自由は感じないと言います。町の人たちも優しい人が多く、豊かな里山に囲まれているのも気に入っているそう。

pontは冬になるとクローズします。その間、男性陣は小林酒造で酒造りの仕事に携わります。冬の酒造りに関わる地元の農家さんが多いため、そこでまた新たな出会いもあるとか。今年は長ネギ農家さんと知り合い、そこのネギを使わせてもらうことにしたそう。

「3シーズン目に入り、お店にも町の人たちがたくさん足を運んでくれるようになりました。私たちも町の人たちと交流を深め、知り合いをもっと増やしていければと考えています」

4人で力を合わせながら、自分たちのペースでやりたいこと、やってみたいことに挑戦していきたいという瑞樹さん。これからpontがどのような架け橋の場所に育っていくのか楽しみです。

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レストラン&カフェpont
住所

北海道夕張郡栗山町錦町3丁目109(小林酒造敷地内)

URL

https://foodplace.jp/pont/


2組の夫婦が営む生産者とお客様と繋ぐ架け橋レストラン

この記事は2023年4月20日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。