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当別町

花は心の栄養。道内屈指の花卉生産の町でヒマワリ栽培に取り組む20230608

花は心の栄養。道内屈指の花卉生産の町でヒマワリ栽培に取り組む

北海道の農業といえば、ジャガイモや小麦、米、または酪農というイメージが強いですよね。実は、「切り花」の生産も全国的に見るとトップクラス。特に夏の切り花の主産地として花卉(かき)市場で北海道産は高い評価を得ています。

道内では、道央・道南エリアで花き栽培が盛んに行われています。今回は、道内でもトップクラスの出荷量を誇る当別町で、ヒマワリを中心に花卉栽培に取り組んでいる岩中農場・代表の岩中和則さんに花卉栽培への想いなどを伺いました。

反対を押し切り、2000粒のヒマワリの種から花卉栽培をスタート

当別町の農業は米や麦が主要作物ですが、水資源が豊かであることなどから、複合作物として花卉も積極的に生産。ユリ、ヒマワリ、カスミソウ、カラー、キイチゴなどが栽培されています。中でもユリに関しては、品質の高さと生産量の多さから、全国の市場で「ユリといえば当別」と言われるほど。ちなみにユリの国内3大生産地は、高知、新潟、そして当別なのだそう。


iwanaka_flower2.JPGお花をはじめ、色んな作物を栽培しています。

「当別のユリは歴史もあるし、技術的なことも含めて、花卉栽培をはじめる第一歩としてはちょっとハードルが高いかなと思って、まずはヒマワリから挑戦してみることにしたんです」

そう話す岩中さんは、当別の中小屋地区で代々続く農家の5代目。赤い作業着がトレードマークです。先代までは稲作と麦の栽培を行っていましたが、15年前、自身が跡を継ぐことになった際、花卉栽培もスタートしました。

札幌でサラリーマンをしていた岩中さんは、父親がガンを患い、農家を辞めると言い出したとき、跡を継ごうと決めたそうです。しかし、父親がつけていた帳簿を見て、これから先、自分が農家として続けていった場合、稲作と麦だけでは立ち行かないと判断。別の作物の栽培にも取り組もうと考え、カボチャと花卉を始めることにします。

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「花をやりたいって話したら、父親からは大反対されました。食べるものを作らない農家は農家ではないとまで言われて、大喧嘩。それでもとにかくやるって決めて、まずは2000粒のヒマワリの種をまきました」

反対を押し切ってまいた種からヒマワリは立派に育ち、初めての花卉栽培のチャレンジは成功。手応えを感じた岩中さんは、翌年もヒマワリを栽培します。ハウス2棟を使って得られるヒマワリ栽培による収益は、稲作2ha分と同じくらい。花卉の収益が上がるとともに、最初は反対していた岩中さんの父親も認めてくれるようになりました。現在、岩中さんのところでは、ヒマワリをメインに、チューリップ、カラー、ケイトウの花卉栽培を行っているほか、米、小麦、カボチャも手掛けています。

試行錯誤を続けて得た知識やスキルを新規就農者にも伝授

初年度、そして次の年もヒマワリ栽培は順調でしたが、生産量を増やしていくにあたって、そこから先は枯らしてしまったり、タイミングがあわずに出荷ができなかったりしたこともあったそうです。


「うちは代々、米と麦をやっていたから、それらのことは父親に聞けば教えてくれたけれど、花卉に関しては分からないわけです。当別の花卉農家は、みんなで力を合わせて組合を立ち上げ、ここまでやってきたこともあって、基本的なことはみんなが教えてくれましたが、ユリやカスミソウをメインにしている人が多く、ヒマワリはサブ作物。そういう状況だったので、教えてもらったことを参考にしながら、ヒマワリに関しては、8割は独学でしたね」

iwanaka_flower7.JPGイラストは、岩中さんが優しいタッチで描かれています。

栽培に適した土作り、肥料や水をやるタイミング、日当たりを考えてタネをまく場所を変えるなど、試行錯誤を繰り返してきました。それらはしっかり記録を取り、経験値と知識を蓄積。ここ数年は、記録のためにFacebookやインスタといったSNSも活用しているそう。

また、岩中さんのヒマワリは全体の6割が露地栽培。花卉で露地は珍しいですよね?と尋ねると、「一般的にはハウスだと思いますが、露地で育ててみたかったんですよね」と岩中さん。風が吹いた際にヒマワリが倒れないように防風ネットを張るなど工夫を重ね、現在は安定して生産できるようになりました。ハウスでの栽培に比べ、費用を軽減できるなど利点もあったそう。

「基本的に凝り性なんですよね。だから、いろいろなことに挑戦しながら、どうやったらうまくいくかをいつも考えています。トライ&エラーの毎日ですよ」と笑います。

iwanaka_flower8.JPGこれから咲こうとしているひまわり

これまでのこうした経験をベースに、現在は「当別花卉生産組合」の「ひまわり部会長」として、新たにヒマワリを栽培したい人や新規就農者の人に自身のノウハウなどを惜しみなく伝えています。

「当別の花は、JAで共同選別(共選)して出荷。栽培した花が市場に出るときは、当別ブランドとしてほかの農家の花も一緒に出荷します。だから、自分のところの花だけがよければいいというのではなく、みんなのレベルがそろっている必要があるのです。当別の花は市場での信用度がとても高いので、先人たちが築いてきたその信用を落とすことなく、品質を維持しなければならない。そして、さらなる向上を続けるため、技術や知識の共有などは行っています」

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岩中さんが所属する当別花卉生産組合は、昨年50周年を迎えました。数人の農家が、情熱を持ってカスミソウを栽培し、組合を作ったのがはじまりだったそう。その後、同じようにユリ栽培に心血を注いだ先輩たちにより、当別のユリは全国レベルに。「ヒマワリももっと伸ばしていけるように頑張りたいですね」と岩中さん。先人たちの熱い想いは岩中さんにも継承されているようです。

育てるほどにかわいさが増すヒマワリ。栽培のほとんどが手作業

「花のことはほとんど分からずにはじめたのだけど、育てはじめたら、花がかわいくてね」


ハウスの中で、目を細めながらヒマワリを見つめる岩中さん。毎朝、ハウスに入ると「おはよう」と花たちに声をかけてしまうと笑います。岩中さんにとって花卉たちは、子どものような存在。一粒ずつ自分の手でまいた種が芽を出し、成長していく様子を日々見ていると、愛情が湧くのも納得です。

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「こうやって花びらが立ってきた状態で刈ります」と見せてくれたヒマワリは、つぼみから花びらが見えるか見えないかという状態。明日にはもう少し開きはじめているだろうとのこと。毎日少しずつ成長し、花びらが立ち上がって開きはじめようとする姿は健気に見えると岩中さんは言います。

刈り取ったヒマワリは葉の部分を丁寧に外し、長さをそろえて束にしていきます。八分咲きの状態で花屋に並ぶよう、五分咲きの状態でJAへ出荷します。成長が早くて花びらが開いた花は直売所に出すこともあるそう。「開いた花もキレイで、かわいくてね」とまたまた目を細めます。

最近は機械化が進んでいる農業界ですが、花き栽培は、種まき、刈り取り、箱詰めまですべて手作業で行うそう。「花はデリケートだからね」と岩中さん。ほかの作物に比べると重労働ではないそうですが、「種まきからひとつひとつ手作業でコツコツやっていくから、性格的に大雑把な人より、細かいことが好きな人に向いているかな。自分には花卉が合っていたと思う」と話します。

市場のニーズに応じて、高品質の花卉を栽培、出荷

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岩中さんのところでは、冬から3月にかけてチューリップの出荷を行い、ヒマワリは毎年4月から出荷がスタート。9月いっぱいまでヒマワリが続き、多いときで1日に6000本近くを出荷します。7月半ばからはこれにカラーが加わり、11月まで出荷。カラーの生産量は当別が道内トップなのだそう。

花が市場を一番にぎわすのはお盆の時期で、その次は母の日と言われています。花卉農家はそこに合わせて逆算し、生産量を調整して出荷しています。最近は、葬儀でもヒマワリなど洋花を使う機会が増え、季節を問わず需要が高まっています。カラーも結婚式には欠かせない花として、首都圏で結婚式が多い秋に人気。そうした市場の同行を見据え、常に花を切らさないよう組合で相談しながら、各農家で栽培時期を少しずつずらすなどの工夫もしています。

「花卉市場は9割が前売り、1割が競り。つまりほとんどが、予約で決まるというわけです。売り先となる花屋さんとの信用で成り立っているので、品質のいいものを出すこと、必要とされる時期に市場に並んでいることが大切。うちは、高品質のものを出荷するため、実際に出荷するのは栽培したうちの7割なんです」

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コロナ禍で一時的に花の需要は下がったそうですが、「コロナで花卉をやめてしまった農家さんもいて、逆に今は需要に対して、花卉農家が足りていない状況」と言います。コロナがおさまりはじめ、冠婚葬祭のセレモニーが元に戻りつつある中、2022年は市場に花が足りず、高値になったそう。「去年はヒマワリを20万本出荷したのですが、市場の動向を見て、今年はその1.5倍の出荷を目指しています」と岩中さん。

会社員の経験があったから、労働環境の大切さも理解

今はパートさん含め、9人のスタッフで農場内の作業を行っています。花卉だけでなく、米、麦、カボチャと、いろいろ栽培しているので、皆さん、作業に飽きがこなくて楽しいと話しているそう。


スタッフが集まる休憩スペースのテーブルには、甘いものがたくさん並んでいました。岩中さんは、「僕が甘いもの好きなんで」と笑います。休憩タイムには、岩中さんもスタッフと一緒にここで休憩時間におしゃべりをしたりするそう。「会社員だったときの経験から、職場環境は大事だと思っています。風通しよく、みなさんに気持ちよく働いてもらうことは、いい品質の作物の生産にも繋がりますから」と話します。

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取材時にお会いしたスタッフさんたちは、皆さん明るくて話しやすい雰囲気の方ばかり。ちょうど雨が降りはじめ、そんな中でも一生懸命作業されていました。撮影終了後、「休憩入った?」「早く中に入って乾かして、風邪ひくよ」など、スタッフの皆さんにやさしく声を掛けている岩中さんが印象的でした。

一緒に花卉栽培を支えていってくれる人材を育てていきたい

2000粒の種からはじまった岩中さんのヒマワリ栽培、今年は51万粒(!)の種をまきます。これからは、当別のヒマワリのブランド力を高め、安定生産・出荷を維持していきたいと話します。新しい品目としてキイチゴの栽培も加えていこうと考えているそうです。

「食べ物は体の栄養、花は心の栄養。以前、そう言っていた人がいて、本当にそうだなと思います。食べるものを作らない農家は農家ではないと言われたこともあったけれど、人間に栄養を与えるものを作っているという点では、花卉も立派な農家の作物です」

当別の花のブランドを守っていくためにも、農園で一緒に花卉栽培を支えていってくれる人材を育てていかなければと考えているそう。人材育成のためには、働く環境もさらに整えるべく、来年は法人化する予定と最後に話してくれました。

岩中農場
住所

北海道石狩郡当別町中小屋2039-3

電話

0133-27-2234

URL

https://www.facebook.com/iwanaka.farm/?locale=ja_JP


花は心の栄養。道内屈指の花卉生産の町でヒマワリ栽培に取り組む

この記事は2023年5月8日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。