若手林業・木材産業従事者を中心とした仲間が集い、日々情報交換をして盛り上がっている「森の魅力発信し隊」。
そんな「森の魅力発信し隊」のメンバーについて、ご紹介する記事の第7弾です!
12月のある日、雪が積もった林業現場。
山の奥から丸太がどんどん運び込まれ、重機で積み上げられていく光景は圧巻です。
ここは苫小牧市の林業会社(株)イワクラが請け負っている現場の土場(伐った丸太の集積場)。
本日は、ここで働く1人の若者にお話を伺います。
彼の名前は、鎌田和希さん。
くらしごとでも何度も取材している北海道唯一の林業専門学校「北の森づくり専門学院」(略称「北森カレッジ」)の第一期卒業生です。
2022年3月に北森カレッジを卒業、4月から(株)イワクラに就職し、社員の1人として活躍しています。
鎌田さんは北森カレッジの生徒の時から、北海道で林業に従事する将来を見据え「森の魅力発信し隊」の活動にも積極的に参加してきました。
今回は、念願を叶えて北海道での林業を仕事にした彼に、お話を伺います。
こちらが鎌田和希さん。
少しずつ芽生えた「林業をやってみたい」という思い。
鎌田さんは現在26歳、神奈川県の出身です。
地元・神奈川の普通高校を卒業したのち、信州大学の農学部森林・環境共生学コースに進学しました。
信州大学に進学した理由は、やはり林業について学びたかったからだと言います。
鎌田さんが「林業」に興味を持ちはじめたきっかけは何だったのでしょうか?
「祖父が北海道で林業に従事していたことが一番大きいですね。実際に林業の現場を見せてもらったわけではないんですけど、祖父を通して『林業』という仕事があることは幼い時から知っていました」
なんとなく「林業」を仕事にすることを考え始めたのは、鎌田さんが高校生の時。
「運動が好きだし勉強は好きではないし(笑)、体を動かす仕事が自分に向いているかなと思っていて。当時はまだ全然本気じゃなかったんですけど、『林業をやってみたい』と言ったら祖父がとても喜んでくれたんです。その喜ぶ姿がすごく心に残って、自分でもよく分からないんですけど、やってみようという気になったんですよね」
そうして信州大学に進学した鎌田さん。
大学では、学問としての林業はもちろん、2年生からは週1回の実習も始まり、地拵え(植え付け前に邪魔な草木などを除去する作業)や苗木の植え付け、チェーンソーを使った木の伐倒作業に至るまで、林業の基本的な作業をひと通り学びました。
「実際に大学に入るまでは、林業のことはざっくりとしか知らなかったんです。でも、大学で林業について学び、実習を重ねていくうちに、真剣に『林業をやってみたい』という思いが強くなっていきました」
そうしていよいよ就職というタイミングで、鎌田さんが選択したのは、北海道の北森カレッジに進学することでした。
いざ北海道へ。導いたのは祖父との思い出。
大学で林業を学んだ鎌田さんであれば、そのまま本州で林業の仕事に就くことも可能だったはずです。
しかし、鎌田さんはわざわざ北海道へ移住し、北森カレッジに進学しました。
鎌田さんは、なぜ北海道を、そして北森カレッジへ進学する道を選んだのでしょうか?
「体を動かして働くなら、自然がある環境で働きたいという思いがありました。神奈川の父はサラリーマンなんですけど、朝6時には家を出て満員電車で通勤し、一緒に夕飯を食べられないくらい遅い時間に帰宅する。そんな姿を物心ついた頃から見ていました。高校生になって自分も満員電車で通学するようになると、『自分は都会で毎日満員電車に乗るような働き方は耐えられないな』と感じまして・・・(苦笑)」
そう感じていた鎌田さんを北海道へ踏み出させたのは、北海道で過ごした小さい頃の思い出だと言います。
「父も母も北海道の出身だったので、夏休みや冬休みには北海道の祖父母の家に遊びに行っていました。置戸町で林業をしていた祖父とは、家の前の土場で薪割りを手伝ったり、スノーモービルの後ろに乗せてもらって冬山に入ったりして・・・そんな体験を通して、『北海道って楽しいな。北海道の自然っていいな』という印象が、僕の中に刻まれたんだと思います」
折しも、鎌田さんが就職というタイミングで、北海道初の林業専門学校「北森カレッジ」が開校することに。
北森カレッジの開校を知った鎌田さんは、迷いながらも北海道での進学を決意しました。
「せっかく大学を出たのになぜまた専門学校に?と反対意見もありました。でも、大学で林業を学んだと言っても、実際は北海道の林業の特性も知らなければ、チェーンソーや重機の資格も持っていないという現実。悩んだ末、『林業に必要な資格を取ること』、本州の林業とは異なる『北海道ならではの林業を知ること』、これから北海道で林業を続けていくためにも、色んな人に会って『横の繋がりをつくること』。この3つをしっかりやっていく2年間にしようと決めて、北森カレッジへ進学することにしました」
祖父と過ごした北海道での原風景と、「北海道で林業をしたい」という思いが、鎌田さんを北海道へと導いたのでした。
「北海道の現場ならでは」を学べた北森カレッジでの日々。
こうして意気込んで北森カレッジの門を叩いた鎌田さん。
「やっぱり北海道でしっかり学びの期間を設けられたのは大きかった」と言います。
北森カレッジが大学と大きく違っていたことは、まず現場を意識した実践性でした。
「座学に関しては、正直に言えば大学と大きな違いはありません。でも、北森カレッジは『現場で働ける人』を育てる学校なので、授業を教える人も現場経験のある人ばかり。大学の資料と同じことを書いていたとしても、『実際の現場ではこうなんだよ』と、現場を知る人からしか学べないことを教えてもらえたことは、すごく大きかったです」
もちろん、目標の一つとしていた「北海道ならではの林業」も、しっかり学ぶことができました。
北海道の林業は、主に冬に伐採作業を行うことが大きな特徴。降り積もった雪のおかげで、夏場は踏み込むのが困難な笹やぶや大きな沢も、スキーや重機で楽に行けるようになるためです。
「大学の実習では冬山に入ったことがなかったのですが、北海道の林業は冬山がメインなので、スキーなどの冬山ならではの装備や雪の中での作業についても学びました。はじめは本州との違いにびっくりしましたね」
立派に育った広葉樹のセンの木を、チェーンソーであっという間に伐っていく鎌田さん。
また、北森カレッジでは、実際に林業会社等で働かせてもらう短期・長期のインターンシップが複数回設けられています。
このインターンシップも、鎌田さんにとって、とても大きな学びになったそうです。
「インターンシップでは、ありがたいことに一緒に働く山子(やまご=林業従事者のこと)の先輩方にとても恵まれました。チェーンソーの目立ての仕方から、木の伐り方まで、プロの方々がすぐ近くで見守ってくれる中で作業させてもらえたんです。実際の現場で数十本も伐らせてくれて、伐り方や危ないところを指導してくださったりして。すごく恵まれた環境で教えてもらえました」
学校の実習となると、決められた場所で決められた通りのことをする単調作業になりがちです。しかし、インターンシップでは実際の現場で作業させてもらうことで、現場ならではの緊張感や、ハプニングに対応する柔軟性を学べたと言います。
こちらが鎌田さんが2年間通った旭川市にある北森カレッジ校舎。
そんな充実感とは裏腹に、北森カレッジで学ぶ日々の中では、大学で林業を学んできた鎌田さんならではのプレッシャーもあったのだそう。
「実は、『林業って楽しいかも』とちゃんと思えるようになったのは大学3年生くらいの時だったので、まじめに大学の授業を受けてきたわけではなかったんですよね」と苦笑いの鎌田さん。
「でも北森カレッジでは、先生方から『鎌田くんなら(大学で勉強してるから)分かるよね?』と当然のように言われてしまって、内心『やべ!』って焦るわけです(笑)だからこっそり復習して勉強してました(笑)」と気恥ずかしそうに教えてくれました。
「でも、いい意味ではっぱをかけてもらいました。大学でまじめに勉強してこなかったからこそ、北森カレッジの2年間は『やり直す2年間』にしたいと思えましたし。ここまで来たからには、北海道に骨をうずめる覚悟でやらないと示しがつかないだろうと、気合いがはいりましたね」
北森カレッジ時代の鎌田さん。
森の魅力発信し隊で得られた、横のつながり。
鎌田さんは、北森カレッジでの「やり直す2年間」をさらに充実させるため、北森カレッジ以外の場所でも人脈を広げていきたいと考えていました。
そこで鎌田さんが参加したのが、北海道の林業に携わる若者たちで構成する「森の魅力発信し隊」です。
発信し隊が立ち上がったのは、鎌田さんが1年生の時。
北海道庁の方から誘いを受けた鎌田さんは、すぐに参加を決めました。
「道内の若者が集まるから横の繋がりをつくっていけるよ、と聞いて即決でした。僕が北海道で林業をしていくにあたり、『横のつながりをつくること』は2年間の重要目標の1つでしたから。このチャンスを逃すなんてもったいない!と思いましたね」
森の魅力発信し隊のメンバーが全道から集まり実施したセミナーに参加する鎌田さん。
北海道で林業を続けていく上では、悩みや課題を共有できる繋がりづくりも重要と考えていた鎌田さん。発信し隊の中で企画されるイベントや勉強会には積極的に参加してきました。
そこでは、すでに北海道の林業事業体で働いている先輩方との出会いがあり、「実際に働いてみてどうなの?」「北海道で林業をするにあたって大変なことは?」など、鎌田さんがこれから働くにあたって気になっていたことについて、リアルな声を聞くことができたといいます。
「コロナ禍だったこともあってオンラインでの交流がほとんどでしたが、発信し隊の中でお互いに顔を見て話すことによって、いろんな事業体の方に自分の顔を覚えてもらえたかなと思います。開校したばかりの北森カレッジ第1期生で注目度が高かったこともあって、事業体の人から興味を持って話しかけてもらえたし、そこから会話を広げていけたのは、すごくよかったですね」
発信し隊を通して各事業体の方々と交流できたことは、鎌田さんが就職先を決める時にも、とても役に立ったのだそう。
「せっかく就職するなら、新しいことにもチャレンジできる積極的な雰囲気のある職場で働きたいと思っていました。でも、そんな会社の雰囲気なんて求人票だけじゃ分からないじゃないですか。だから、発信し隊を通していろんな事業体の方とお話しできたことは本当にありがたかったです」
北森カレッジのこと、イワクラのこと、仕事のこと、林業のこと、笑顔で楽しそうに話してくださいました。
作業だけでなく、林業の「全体」を理解したい。
こうして、北森カレッジで学び、森の魅力発信し隊での活動にも参加しながら、北海道で働く地盤を整えていった鎌田さん。
充実した2年間を経て、卒業後の2022年4月、苫小牧市の(株)イワクラに就職しました。
鎌田さんが担うのは、林材事業部で現場全体を管理する監督の補助役。
チェーンソーで木を伐倒したり重機に乗ったりする現場作業員とは異なり、提出書類に必要な現場の写真撮影、運び出された丸太の数量を確認する検知作業、必要に応じて土場の丸太を玉切り(使用用途に合わせた長さに丸太を伐ること)するなど、現場全体の流れを見ながら、作業がスムーズに進むよう管理する仕事です。経験を重ねていくと、作業員に指示を出して現場全体を取り仕切る現場監督を任されます。
現場監督の木野さん(左)と一緒に現場をまとめます。
鎌田さんが、現場作業員ではなく管理する側である現場監督のポジションを選んだ理由は、「林業の現場全体を見ることができるから」だと言います。
「チェーンソーで伐倒する作業は大好きなので、もちろん作業員もやりたい。でも、この現場はこれくらいの丸太をこれくらいのスケジュールで集められて、これくらいのコストがかかる・・・というように、目の前の作業だけではなく現場全体を理解できるようになりたかったんです」
働きはじめて1年にも満たない鎌田さんですが、大学と北森カレッジでの学びはしっかり日々の仕事の中で活かされていて、「樹種や基本作業、安全面のことなど、林業の基本的なことは分かっているので、先輩方からも『仕事を教えやすい』と言ってもらえました」と控えめな笑顔。
一方で、「たとえば、積まれた丸太ひと山の材積が何m3なのかを見ただけで当てるだとか、経験を積むことで得られる感覚のようなものは、まだ全然分かりません」と、知識不足・経験不足も日々痛感していると言います。
「それでもやっぱり林業は楽しいですね。最近は、今日はこれくらいの丸太が出てきたから、トラック輸送でかかる経費を差し引いたらこれくらいで・・・というように、自分が現場を見ながら頭の中でイメージしていた数量と、実際の数量が合うようにもなってきて。そんな時は『面白い!』と感じます」
現場監督や作業員たちの打合せを聞いて、ひとつひとつの数値や考え方を少しずつ吸収してきた鎌田さん。これからも沢山の現場を経験して、自分の中の知識や経験値を増やしていきたいと意気込みます。
それでも、「やっぱり一番好きなのはチェーンソーなんですけどね」と、こっそり教えてくれた鎌田さん。
山での作業も、現場全体を見渡す管理業務も。どちらも貪欲に成長しようとする姿勢に、すっかり感動してしまいました。
高い向上心をもって臨む、これから。
イワクラで働き出してからも、森の魅力発信し隊への参加を続けている鎌田さん。
発信し隊には、イワクラがある胆振地方の事業体の方々も多く参加しています。
「胆振地方のコミュニティの中でも、発信し隊の方々と会えたりすることもあって。元々知ってる同士だから話しやすくて助かります。今後は、自分がいる地域だけじゃなくて、もっと全道各地の人たちとも繋がって、地形や気候の違いによる林業の地域性とかも情報交換していけたらうれしいですね」
ここでもやはり、目の前のことだけでなく、全体を理解したいという鎌田さんの向上心の高さが感じられます。
グラップルなど重機の操作も北森カレッジで学びました。
最後に、これからの鎌田さんの目標を教えてもらいました。
「まずは現場監督として一人前になりたいです。現場監督って何でもやるんです。逆に言えば、やろうと思えば何でもできちゃう立場だから、何でもできるようになりたい。丸太の状態でも樹種が分かったり、重機も操作できたり、そうなれるように頑張りたいですね」
自分で考え極めていく働き方に憧れているとも話していた鎌田さん。
「林業は正解が無いからこそ、自分で考えて臨機応変に対応しなければならないことがたくさんある。臨機応変に対応するためにも、しっかりした技術と知識を身に付けていきたいです」
自分の成長を見ながら仕事ができるのは楽しいという鎌田さんの笑顔を見ていると、これからのさらなる成長が、楽しみで仕方ありません。
- 株式会社イワクラ 林材事業部 鎌田和希さん
- 住所
北海道苫小牧市晴海町23番地1
- 電話
0144-55-6811
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