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栗山町

「食べることは生きること」食のストーリーを伝えていく!20230126

「食べることは生きること」食のストーリーを伝えていく!

道端に落ち葉の姿が目立つようになった秋の始まり。ほんのり肌寒い風が吹く中、札幌から車を走らせること1時間ほどで今回の目的地である栗山町に到着しました。かつて北海道日本ハムファイターズを牽引していた、栗山監督とゆかりの深いまちとしても有名です。

そんなまちの駅前ロータリーで今回の主人公と待ち合わせ。車に乗ってキュートな笑顔とともに颯爽と現れたのは、栗山町地域おこし協力隊として活躍中の土屋綺香さん。2021年3月末に東京から移住してきました。

現在は「まちなかキッチンマネージャー」という名称で、栗山町を食で活性化させる活動を担っています。
...が、話を聞けば、前職はエネルギー関係のお仕事。さらにその前は地図に携わる仕事だったりと、全くの異業種からこの世界に来たことが分かりました。

しかも、若干26歳にして事業責任者に抜擢されたバリバリ働くTHEキャリアウーマン。正直今私たちの目の前にいる土屋さんからは想像ができない...!なんて思ってしまったのはここだけの話ですが、まずは土屋さんの過去から少し覗いてみましょう。

ayane2.JPGこちらが土屋綺香さん

自分の心に目を向け選んだ新しいレール

埼玉で生まれた土屋さんは、大学で環境問題について学び、卒業後はまちづくりに関わる仕事がしたいと東京にある建設コンサルタント業の会社に就職。2年程働いた頃、他部署の先輩から「エネルギーの新事業を立ち上げたので来てくれないか?」と土屋さんの能力が買われ、引き抜かれました。

異動後は少数精鋭で自由に仕事をさせてもらうことにやりがいを感じ、日々の仕事に邁進していたそうです。こうして、あれよあれよという間に26歳にして事業責任者に抜擢。

「若くして飛び級の出世をしてしまったので、周りから心配もされたし...理想と現実のギャップに苦労はありましたね...。ごはんも半年くらい食べられない時期がありました...」と、順調そうに見えて実は苦しんでいたという当時を振り返ります。

「仕事も裁量を持って取り組めて、お給料もそれなりにもらって、海外旅行にたくさん行ったり、化粧品に使ったりして...全然貯まらなかったです(笑)」行きたいところに行き、欲しいものを買う...そんな生活をしていても、なぜか自分の心は満たされないことに気付きました。

労働と消費のサイクルを続けているだけで、何も得ていないのでは?あれよあれよと出世してしまったけど、もともと出世欲があったわけではない。私はどこを目指しているんだ...と、満たされない心にモヤモヤを抱えていました。そんな中でとあるベンチャー企業の求人を見つけ、副業としてベジタリアンやヴィーガンの方向けのECサイトの立ち上げや運営に関わるようになりました。ただでさえ忙しかったのに、さらに忙しさは加速。それでもやりたいと思える仕事ができていることに満足感を感じたそうです。

ayane7.JPG

そして、新型コロナウィルスが蔓延。土屋さんの職場でも、リモート勤務が取り入れられました。

「ずっと1Kの部屋の中で生活と仕事をして過ごしていました。息苦しくて、今の生活は人間からかけ離れた生活してるなって。トントン拍子でここまで来たけど、都内の大学を卒業して、東京の会社に入って出世して...この先結婚して、郊外に家を買って...って、私こういう未来を描いていたんだっけ?」

私が描いていた未来のレールはここじゃない。

さらに、ずっとやりたかった食に関わる副業を始めたことで、副業ではなく自分のメインの仕事として食のことにチャレンジしたくなった、どうせやるなら食の生産地へ行って、より深く日本の食について課題や魅力を探して仕事にしたい、そんな考えにたどり着きました。

こうして、第二の道を模索し始めた時に「地域おこし協力隊」という道を選択することに。

「食」と「まちおこし」に注目

そもそも「地域おこし協力隊」を以前から知っていたんですか...?と、ふとした疑問を投げかけてみると...首を縦に振る土屋さん。

「大学の同期が別のまちで協力隊をやっていたり、大学時代にも実際に協力隊の方と接触する機会がありました。私はどこのまちがいいかなと探していた時に、たまたま見つけたのが栗山町の『まちなかキッチンマネージャー』だったんです。食のことでまちおこしが出来るかも...?これ、私だ!!!!!って思いました(笑)」と、満面の笑みで話す土屋さん。

前職時代にも時間を見つけては実家で畑仕事をしたり、料理イベントを主催したりと、もともと関心の高かった食と、まちづくり。その点と点がちょうど、線となって繋がった瞬間でした。

「栗山町の存在は知らなかったけれど、調べてみたら新千歳空港からも、札幌からも近いし、田舎暮らし初心者にはいいかも!と思ったんです」

そこで、一度栗山町を訪れてみることに。フットワークの軽さが土屋さんの魅力のひとつです。実際にまちに足を運び、自分の目でこのまちを見て「住めるな」と納得。それよりも「思ったより田舎じゃなかった」なんて印象を抱いたのだとか。

こうして栗山町の協力隊募集に応募し、見事採用され2021年の3月にこのまちにやって来ました。引っ越し費用を抑えるために、ほとんどの家具家電は知人に譲り段ボールに入る分だけを持って。

ayane3.JPGたまたま取材中に遭遇した協力隊の同僚、宇野さん。

現在は協力隊として、町内にあるシェアキッチンの運営をしたり、農家さんたちと関わったり、町内外でお野菜ごはんを提供したり、料理教室やワークショップを開催したりとさすがは元バリキャリ!と思わせるほどに、精力的に活動している土屋さん。

東京時代にやっていた副業も、栗山町にいながらずっと続けているのだとか。時には札幌をはじめ、栗山町以外からも講師や料理人として呼ばれることが多いと言います。

「呼ばれたらどこへでも行く」と、にんまり。知り合い0からスタートし、まだ移住して1年半ではありますが、これも土屋さんのフットワークの軽さがあってこそなのでしょう。

「生産者やお店の人と仲良くなれたり、友だちがその友だちをイベントに連れて来てくれて知り合ったり、Twitterやインスタグラムを見て気になる人には声をかけてみたり...(笑)。そしたらたくさん輪が広がっていきました。大人になってからでも友だちってつくることが出来るんだ!ってわかりましたね」

ayane6.JPG自分の軸があれば、そこを共通点として人は集まってくる...それを実感した土屋さんです。

食べ物すべてにストーリーがある

さて、普段から栗山町の作物や食に関わる土屋さん。北海道に来てから新鮮野菜のうまみを日々噛みしめています。

「東京で食べる野菜とは全然違います。でもそれは、『北海道だから美味しい』ってことだけじゃなくて、例えば7:00に農家さんから電話がきて『とうきびもぎにおいで〜』と電話がきて、もいで30分以内の作物を食べることができる。作っている人の顔が見えるのもそうだし、お手伝いができる近さにいる。農業の大変さを近くで見ることができるからこそ、その野菜のストーリーを感じた上で食べる美味しさはひとしおなんです...!」 土屋さんが何度か口にしていた「ストーリー」。

その野菜が出来るまでのストーリーが口に運ばれたときのうまみはたまりません。

ちなみにこれを読んでいるみなさんは、北海道といえばどんなイメージをお持ちですか?

土屋さんはこう話します。
「北海道といえばラーメンやジンギスカン、野菜だったらじゃがいもってイメージが強いと思うのですが、そのイメージを広げたいと思っています。もっと作り手と食べ手を繋げたい。例えば、この野菜がどういう想いでどう育てられているのかとか。にんじんの葉はどう食べたらおいしいか?いちごはどうやって生えてくるのか?どうやったら農家さんの野菜を買えるのか?町内の人でさえも知らないことがたくさんあります。そういうことを、多くの人に伝えて、もっと作り手のストーリーを生かしていきたいんです」

当たり前のように身近にある、北海道の食文化の宝。それを土屋さん流で、伝えていきたい。

ayane4.JPG来春(2023年)4月、駅前に観光交流拠点施設が誕生予定。そこでも食のイベントが開催されるかも。

最後に「土屋さんにとって食とは?」そんな難しい質問を投げかけてみました。

うーん、と唸りながらも「...食べることは、生きること!」と力強い第一声と、土屋さんスマイル。

「誰と食べるかも大事、どう食べるかも大事。ファストフードも美味しいし、お腹はいっぱいになるけど、それだけばっかりだと味気ない。何も考えずに脳を働かせない状態で食べる美味しさじゃなくて、その土地や食材のストーリーに触れて食べる美味しさを知って欲しい。そういう機会を提供していきたいと思っています」

東京から見知らぬ栗山町へやってきた土屋さん。今では多くの仲間に囲まれて、笑顔が絶えません。

今後も食に関わる仕事をこのまちから発信していこうと考えています。現在は、大学と協働でロスになってしまう有機ミニトマトを使った加工品開発を進めていて、来年度には試験販売もしていくとか。これからもきっと精力的に活動していく土屋さん。いつかあなたのまちにもやってくるかも。

ayane5.JPGかぼちゃを持って舞う...カメラマンからの無茶ぶりにも笑顔で対応してくれました!ありがとうございました!

栗山町地域おこし協力隊 土屋綺香さん
住所

北海道夕張郡栗山町松風3丁目252(栗山町役場)


「食べることは生きること」食のストーリーを伝えていく!

この記事は2022年10月6日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。