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アクセサリーづくりと英語。「好き」をビジネスに繋げた軌跡20230116

アクセサリーづくりと英語。「好き」をビジネスに繋げた軌跡

6月下旬。北海道に爽やかな初夏が訪れていたころ、自宅から世界に向けてアクセサリーパーツを販売している女性がいると聞き、札幌市内のとある住宅街にやってきた取材班。気持ちのいい青空の下、戸建のお家が並ぶ道をてくてくと歩いていると、ズッキーニやナス、ラベンダーやビオラがあざやかに花を咲かせている家庭菜園が目に飛び込んできました。

こちらのお宅に住むのが今回お話を伺う、中村裕里子さんです。中にお邪魔すると、子どもたちの写真やダイナミックな書き初めがお出迎え。関西出身の旦那さんとの間に授かった元気な男の子2人のお母さんでもある中村さん。今回はそんな彼女が「自分の好きなこと」で起業するに至ったエピソードをご紹介します。

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留学で養われた「度胸」と「やってみよう精神」

「私は神奈川県横浜市うまれで、小学校6年生のときに、両親の出身だった北海道へと引っ越してきました。中学時代は部活動でバトミントンに打ち込んでいたので、忙しい毎日を過ごしていたのですが、そんな日常のなかで虜になっていたのが、海外ドラマだったんです。当時放送していたアメリカのファミリードラマが大好きで。吹き替えでしたが、これが海外の文化に興味を持つきっかけとなり、やがて英語が好きになっていったんだと思います。おかげで英語の授業で『よくできましたシール』いっぱい貰ってましたね(笑)」

5D3A4722.JPG小学校6年生のときに、横浜から札幌へ引っ越してきた中村さん。

聞けば、もっと前の幼少期のときから英語教材のテープを耳にしていたということですが、自覚できるくらいの「英語愛」の芽がひょっこりと顔を出したのは中学時代。高校生になる頃には海外ドラマも吹き替えから字幕で見るようになり、その数も増えていきました。

「高校にあがると、周りの友人たちも海外ドラマや洋楽に興味のある人たちばかりだったので、さらに英語への興味が深まっていきました。その頃かな、フワッと『将来は英語を生かした仕事をしたい』と思いはじめたのは。だから高校卒業後の進学先の短大では英文科を選んだし、オーストラリアのメルボルンに短期留学にも行きました」

大好きな英語にどっぷりと浸かれるオーストラリアでの留学生活!さぞ楽しかったのでは!?とたずねると

「いやあ〜それがホームシックになってしまって。ホストファミリーの生活環境に慣れることができず、実家が恋しくなって最初はシクシク泣いていましたね(笑)。でもホストファミリーの10歳くらいの子がそんな私を見て、ゲームを持ってきてくれたり話しかけてくれたりしながら慰めてくれたんです。自分より小さい子がそんな風に接してくれるのを目の当たりにしたら、なんだか吹っ切れちゃって。『環境は自分で変えればいい!』って考えられるようになりました」

問題にぶつかっても不満を募らせるのではなく、自ら行動し、目の前にある状況を変えることで前向きに行動するようになった中村さん。さらに留学生活を送るなかで、「度胸」と「やってみよう精神」も養われていったそうです。

大好きなアクセサリーづくりをきっかけに、起業の道へ

ホームシックを乗りこえた中村さんは、残りの留学生活のなかでさまざまな人種・習慣・文化・言語に触れ、充実した毎日を過ごしますが、4カ月では自分が思っていたほど英語力は成長しなかったと語ります。しかし留学を終え「もっと英語を喋りたい」スイッチが入ったようで「大学に在籍する留学生と積極的に交流を持ったり、今まで以上に海外ドラマを通して勉強するようになって、自分でも実感できるほど英語力がぐんと上がりました」と振り返ります。当時仲良くなった留学生とは今でもメッセージをやりとりしながら交流を続けているんですって。

yurichan_IMG_0002.jpg中村さんの短期留学生活の様子は、学校のパンフレットでも紹介されました。在学中には北海道の野球チームのアメリカ人監督への英語取材も経験。

短大で2年間の課程を終了したのち、さらに2年間研究生として編入した中村さん。英語にとどまらず、コミュニケーション学や心理学を学んだのち卒業しますが、時は就職氷河期。英語を活かした仕事に就くことは難しく、とある大学の事務員として働き始めます。そんな中、中村さんのなかにあった英語に対する情熱は「語学」という広い分野へと変わり、やがて大学の事務員を辞め、商工会で募集していた「韓国語講座」の受講試験を受けることになります。 しかし、なぜ突然韓国語を?

「オーストラリアの留学時代に一番仲良くなったのが韓国人で、韓国語の音が可愛らしくて好きだったし、実はずっと話せるようになりたいと思っていたんですよね」

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留学時代のさまざまな経験は、中村さんが歩む人生の道しるべとなっていたようです。そうして試験に見事合格した中村さんは、日本と韓国の架け橋となる人材になるべく1年間韓国語を学び始めます。

「この頃、韓国語講座で仲良くなった友人と趣味で一緒にアクセサリーづくりを始めたんです。作ったものはイベントや商業施設の中にあったレンタルボックスを使って販売していたのですが、アクセサリーを作っているうちに今度は、日本にはない、海外のかわいいビンテージパーツを使いたいな〜と思うようになって。インターネットでパーツ探しをしていたら、とあるハンドメイドオンラインショップを見つけたんです」

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世界150カ国以上の利用者をもつと言われるそのハンドメイドオンラインショップには、日本のビンテージ着物や小物、古物を売っているカナダ人ご夫婦がいたそうで、それを見た中村さんはオーストラリア仕込みの「度胸」と「やってみよう精神」で、自分も何か売ってみようと、手始めに日本のアクセサリーパーツを販売してみることに。

「意外にもこれがすぐに売れたんですよ〜!だから少しずつ出品して販売していたら、『デコパーツない?』という問合せをもらって。私自身、このとき初めてデコパーツというものを知ったのですが、探して仕入れて売ってみたら、これもまた売れたんですよね」

yurichan_5D3A4833.JPGカラフルでかわいらしいデコパーツ。アクセサリー類から携帯ケースなどさまざまなものをデコレーションするのに使われます。

最初はデコパーツの卸業者を見つけられず、普通の小売業者から買って利益を上乗せして売っていたこともあり、価格設定は高めだったそう。しかし、当時は競合があまりいなかったこともあり、デコパーツは順調に売れていきました。

「アメリカやイギリス、カナダからの注文がメインなんです。日本で同じものを売っても、こんな風に売れないと思うんですよね。かわいいデコパーツが簡単に手に入らない海外の人に向けて販売していることで、需要が生まれているんだなって実感しています」

自分が選んで仕入れたパーツで「あんなの作りたいな」「このパーツでこんなジュエリーにしたら...」と作り手にインスピレーションを与えられるようにと、自然光を取り入れたり、綺麗なお皿を使ったり、商品の撮影にも気を使っています。そんな中村さんの思いが伝わって、お客さんも順調に増えていき、新型コロナウイルスや戦争などの世界情勢を受けて売上が変動することもありますが、多い時は月100件以上の注文が入ることも過去にあったんだとか。

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起業はとっても効率的!

そんなデコパーツ・アクセサリーパーツ販売で忙しくしている中村さんですが、冒頭で紹介した通り、普段は二児のお母さんでもあります。育児や家事との両立、大変ではないのでしょうか。

「子どもたちの体調不良や家庭行事なんかでお店を閉めればもちろん注文も減るし、そうなると状況を立て直すのが大変ですね。仕事が進まないことへの焦りも出てくる。だけどそんな時こそ『あきらめのキモチ』が大事だと思っています。仕事でも家庭でも自分の代わりはいないから。無理して自分が体調を崩すことにならないように気を付けています。でも、もちろんいい面もあって、仕事ができない状況になっても会社の人に迷惑をかけていると思うこともないですし、今日は午前中だけ仕事しようとか働く時間は自分で決められる。長くても5時間くらい働けばそれなりの収入になるので、働いている時間に対する収入のバランスで考えてもとっても効率的だと思います」

yurichan_5D3A4687_2.JPGお花摘んだり、雑草を抜いたり。土いじりが、中村さんのストレス発散法。

全ては自分次第。代わりがいないからこそ、自らが健康的に日常生活を送れることが大前提の働き方を大事にしていると教えてくれた中村さん。無理なことは無理と断ること、仕事をし過ぎず余白時間をしっかりもつこと、そして時には「あきらめのキモチ」を持つことが大切だと教えてくれました。

「お客さんには『子どもが熱をだしたので、発送が遅れます』のような家庭の事情を話すこともあるんですが、共感してくれる人ばかりで助かってます。顔は見えないけど、海外のお客さんとの距離はとても近く感じますね。思ったことをダイレクトに伝えてくれるからかな?『商品のチョイスが最高!』とか『欲しいものがあり過ぎて選べない!』とか嬉しいことを言ってくれるんですよね〜!東日本大震災や北海道胆振東部地震のときにも『大丈夫?』って心配してくれるメッセージが何十件も届きました」

yurichan_5D3A4819.JPG中村さんのショップページには、なんと4万件以上の好評価コメントが並びます。

誠実に丁寧なやりとりをしてきた中村さんだからこそ、世界中のお客さんといい関係を築いていることが分かるエピソードです。最後に何かビジネスをはじめてみたいと思っている方へのアドバイスを聞いてみると

「はじめの一歩が大事だと思います!まずはとにかくやってみる。パーツ1個売ってみたら『意外にいける!』って私自身も勢いで始めましたし、何も分からないところからはじめて、ダメなところは都度修正していったらいいんですよ。特に今はネット販売とか気軽に始められますからね」

小さなきっかけから自分の「好き」を仕事にすることとなった中村さん。「やってみよう精神」でトライアンドエラーを繰り返しながら、しなやかに歩む彼女の姿は、子どもたちの目にも「自慢のお母さん」として映ることでしょう。

大好きな英語を使って、日本から世界へかわいいアクセサリーパーツを届け、家事に育児にと奔走する中村さんの充実した毎日は、これからも続いていきます。

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アクセサリーづくりと英語。「好き」をビジネスに繋げた軌跡

この記事は2021年6月24日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。