HOME>北海道で暮らす人・暮らし方>憧れの北海道でいちご農家に、夫婦でつくる「ケーキの宝石」

北海道で暮らす人・暮らし方
様似町

憧れの北海道でいちご農家に、夫婦でつくる「ケーキの宝石」20221212

憧れの北海道でいちご農家に、夫婦でつくる「ケーキの宝石」

日高昆布や競走馬で有名な、様似(さまに)町と浦河町はいちごの一大生産地でもあります。
メインの品種はスイーツに使われる「すずあかね」。
国内のいちごが不足する初夏から晩秋にかけて収穫され、大手メーカーのケーキ用として東京方面に出荷されています。
様似町では新規就農者を支援する取り組みもあって、町外、道外から来た移住者もその制度を利用しいちご農家となった方がたくさんいらっしゃるのだとか。
くらしごと取材班は、9年前に移住した関西出身の柵木さんご夫婦に、北海道で農業を営むことになったきっかけや現在の暮らしについてお聞きしました。

masekinouen20.jpg

夜明け前から始まるいちごの収穫作業

「よかったら、食べてみてください」
ビニールハウスにおじゃました取材班に、ませき苺農園の柵木聡(ませき・さとる)さんがいちごを試食させてくれました。
贈答用かと思うほどに形が整った、真っ赤ないちご。口に入れると、甘さと酸味のバランスが程よく調和しています。
「実は、このいちごは熟し過ぎなんですよ」と笑う聡さん。
収穫の後は共同選菓場での選別、梱包を経て東京方面に空輸されるため、まだ白い部分が少し残っているうちに収穫をするそうです。

masekinouen12.jpg

農園を訪問したのはお昼過ぎで、すでに収穫は終わっていました。
「朝4時ぐらいとか、まだ外が暗いうちから収穫作業をしています。町の共同選果場へ運ぶ『門限』が9時なので、逆算するとそれぐらいの時間になるんですよね」。
搬入した後はフリータイムかと思えば、家でひと休みをした後、またハウスに戻って株の剪定に入ります。

株のランナー(つる)や、不要な葉っぱをひたすら摘み取っていくお二人の作業を見ていると、目で捉える前に手が動いているのでは? と思えるほどの速さ。まったく無駄のない動きに、思わず見とれてしまいました。
「腕が筋肉痛になりますね。長いときは日暮れまでやっています」と妻の雅美さん。
とても手間のかかる作業ですが、この摘み取りを行うことで、いちごの株の養分が分散されずに、質の良いいちごを実らせることができるそうです。

masekinouen3.jpg

ませき苺農園のビニールハウスは3棟、1棟につき7レーンあります。
「今年は、なかなか見つからなった収穫期のパートさんも隣町から来てくれるようになって助かりました」
(弊社がお手伝いした求人広告を見て応募してくれた人もいたとか、お役に立てて何よりです!)

すずあかねの収穫期は6月中旬から11月中旬まで。この間は休日がありません。
「繁忙時期は睡眠時間が1日5〜6時間くらいになることもありますね。急な用事ができたときも、収穫だけは済ませて行くようにしています」
そんな忙しいなかでも、雅美さんは体力や健康維持のために、食べる物には気を使っているとか。
「サラダやグラノーラ、フルーツ、そしてパンは全粒粉やライ麦を使ったものを選んでいます。調理は蒸すか、オリーブオイルで焼いて岩塩をかけるぐらいですね。北海道で取れるものは素材自体がおいしいので、シンプルに食べるのがいちばんです」

北海道が大好きな二人、知床での出会いから様似町で農業の道へ

柵木さんご夫婦は関西のご出身ですが、知り合ったのは知床の斜里町でした。
聡さんは、フリーターで自分の適職を模索していた夏、斜里町で喫茶店を営む友人の手伝いをしていました。
そこにお客として来たのが、近くのホテルで働いていた雅美さんだったそうです。

masekinouen19.jpg

おふたりに共通していたのは「北海道の大自然が大好き!」ということ。
家族旅行をきっかけに、北海道の魅力に目覚めたという雅美さんは「毎年ひとり旅でも来ていました。空に浮かぶ雲を見ているだけでもいいなと思うし、冬はスキーをしなくても雪を見ているだけでいいんですよね」と話します。
それまではブライダル業で働いていましたが、北海道で個人ツアーができる宿を営みたいと目標を立てて、道内各地の宿泊施設で働きながら理想のイメージを固めていました。

北海道の海がお気に入りという聡さんも、最初は宿泊業の仕事をしたいと思っていたそうですが「働いてみると僕には合わないなと思ったんです。ほかの業種も経験してみて、どちらかと言えば自分はものづくりが向いているし、好きなことが分かったんですね」
そこから、北海道で農業をしてみたいという気持ちが湧いてきたそうです。
「斜里町の隣の小清水町のいちご農家で働いていたときもあります。あちらでは積雪が2メートル以上になってビニールハウスがつぶれてしまうので、その前にビニールを撤去する必要があるんですね。様似町では、そういった必要がないのでありがたいです」

samaniyakuba3.jpg様似町は海がすぐそば。雪が少ない地域です。

お付き合いを経て結婚を決めたおふたり、宿泊業をするか、それとも農業で生きていくか...。
そんなときに、様似町でいちごの新規就農者を募集していることを知ります。
「僕は経験もあるし、初期投資も少なく済むので、いちご農家としてやっていきたいという気持ちがありました」。
雅美さんは宿を営むという夢がありましたが、ふたりでよく話し合った末に、様似町のいちご農家になることを決めました。

サポートしてくれる役場、先輩農家や仲間のいる心強さ

結婚後、柵木さん夫婦は様似町へ移住。
聡さんは『青年就農給付金準備型』という補助制度(今は『農業次世代人材投資資金 就農準備資金』)を使い、苺栽培の研修をスタートさせます。雅美さんは地域おこし協力隊に入って、様似町の観光事業のお手伝いとして、様似町観光協会に所属し、旅行会社の方と一緒に観光ツアーの企画・実施という仕事をスタート。
お二人とも着実に様似町に根を張り出して、そしてその後、町が貸し出すリースのビニールハウスで、夫婦でいちご栽培を始めます。
「この時期がとても大変で、緊張感がありました」と、口を揃えるおふたり。
というのは、独立のために必要な設備費の補助金を受けるためには、とても厳しい審査があったからです。
「3年の試験期間で、収穫量や売り上げなどの基準をクリアしているか、厳しくチェックされるんです。このことに関しては、様似町役場の農政課、木村さんに、ものすごく助けてもらいました」
(様似町役場、木村さんの記事は近日公開予定)
補助金のほかにも、設備のトラブルなど連絡すれば、迅速に対応してくれるという頼もしい存在です。

masekinouen1.jpg様似町役場の木村さんとの3ショット

その後、無事に補助金も認可され、「ませき苺農園」としてハウスを建てて独立。
それまでを振り返ると、先輩農家に栽培上のアドバイスをもらったり、ほかのハウスで働く仲間と雑談したりと、同業者が近くにいることで心強さがあったといいます。
しかし、ここ数年はコロナ禍で交流も少なくなったそう。
「コロナ前は、みんなで焼肉やたこ焼きをしたり、居酒屋に行くときもありました。いつもしゃべる話題がいちごのことばかりで...」と、少し寂しそうに笑うおふたり。早く、コロナが終息していちご談義に花を咲かせたいところです。

「手をかければかける分だけ、いちごがこたえてくれる」

様似町の用意したリースハウスで4年間営農した後、自分達のハウスを建設し、独立してから3年目になるおふたりに、いちご栽培のやりがいについて聞いてみました。聡さんはこう話します。
「約半年の収穫期間、毎日『どれぐらいイチゴが取れたかな』と、収穫した量が目に見えるのがいいですね。たくさん取れたときは手ごたえを感じます。先ほどの剪定もそうですが、手を抜かずにやるほど収量に跳ね返ってくるんですよ」
聡さんの言葉に、雅美さんも深くうなずきます。
「気を抜いて栽培していても、実の収穫はできるんですよね。それでも、手をかけてあげれば、かけてあげた分だけ、夫の言う『収量』だけでなく『品質』も上がるんです」
この収量と品質を上げていくことを、柵木さん夫婦は目指しているそうです。

masekinouen10.jpg

さらに、雅美さんは独自に販路を広げる活動もしています。
「冬は余裕があるので、ネットで調べて目星を付けたお店にお客として食べに行くんです。そこでメニューの味やお店の雰囲気を見て、うちのいちごに合いそうだと判断したら、あらためて営業の電話をします。大手の会社や市場にも直接営業をしていますよ」

なんというバイタリティ!
「うちのいちごの良さを知ってもらって、もっといろいろな所で使ってもらいたいんです」
そこには、柵木さん夫婦が愛情と手間をたっぷりかけて育てたいちごへの自信が感じられました。

masekinouen16.jpg作業中だったパートさんともパシャリ

ませき苺農園
住所

北海道様似郡様似町栄町167-1


憧れの北海道でいちご農家に、夫婦でつくる「ケーキの宝石」

この記事は2022年10月27日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。