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小樽市

日本からアメリカ、そして銭函桂岡に。旅するように暮らす。20220725

日本からアメリカ、そして銭函桂岡に。旅するように暮らす。

今回の舞台は、小樽市銭函にある桂岡地区。『空と山、自然の音』がとても近くに感じられ、振り返れば『海やまち』も一望することができる場所に、小さな宿を営みながら暮らす一人の女性がいます。

愛犬の「キラ」「ルナ」と一緒に素敵な笑顔で迎えてくれた「打越一美(うちこし かずみ)」さん。たくさんの出会いと経験を経て3年程前、地元である桂岡に戻り『犬と一緒に泊まれる民泊=ezora(エゾラ)』(以下、ezora)を作ることに。

様々な場所で暮らし、自分らしく生きる中で『ezora』に辿り着いた打越さんの人生の歩みを真面目に、ちょっとユニークな実話をご紹介します。

幼き頃の夢だった『ムツゴロウさん』になること

ezora_kazumi2.JPG笑顔がとってもイキイキとしている打越さんです。


神戸出身のご両親が小樽市銭函にある桂岡に移住を決めたのが、打越さんが生まれる1ヶ月程前。北海道に住みたいという想いがあり桂岡地区に移住し、苺畑だった(現在のezoraが建つ)場所に自宅と5棟の下宿を建て、100人程の生徒さんを抱える下宿を営んでいました。

現在のezoraは当時、下宿の食堂で学生が集まる憩いの場だったのです。打越さんも夜になると、食堂でごはんを食べる毎日だったそう。

そしてそんな打越さんの幼少期の夢はなんと!『ムツゴロウさん』。

「私の世代は、ムツゴロウさん世代で(笑)。子供の頃からずっと大きくなったら『ムツゴロウさん』になると思っていました(笑)」と楽しそうに話します。小さな頃からの夢を心のどこかに残しつつ、人生の歩みが加速していきます。

「『ムツゴロウさん』になりたかったから、酪農関係の大学を受験したけど受かったのは、滑り止めで受けていた医療大学だったんです。受けた理由は『動物に関わる仕事をしたい』という想いと、友達から『話を聞くのが上手だね』って褒められたことがあったから(笑)。大学資料を眺めていたら『社会福祉士』という言葉を見つけて、こんな仕事もあるんだなぁって思ったのがきっかけです」

本人が思っていた方向とは、ちょっと違うものだったのかも?!ただ、何かに導かれた様に医療大学へ進むことに。

ezora_kazumi3.JPG笑顔の愛犬のルナちゃん。人懐っこい性格で、訪れる人を和ませてくれます。

卒業後は社会福祉士の資格を取得し、札幌市内にある病院の精神科に5年間勤めました。

「自分の性格とすごく合っていて、何より面白かったんです。当時『精神障害者の人権とは?』など熱い運動があり、私も『平等であるべき』という熱い考えを持ちながら勤めていました。ただ、いろんな事にぶつかり、上手くいかなくなって、全然人の助けになってないと感じて・・・5年程で辞め時だと思いましたね」と当時を振り返ります。

その後は『動物のことやりたい!』という思いが蘇りつつ、今までやってきた福祉も活かせる仕事を探していた中、思い出したのが20歳の時にテレビでふと見た『アニマルセラピー』という言葉。それは、飼っている犬と一緒に病院に行き、入院している人と交流する中で癒しを提供するというものでした。

「本屋さんに行って『アニマルセラピーのコーディネーターになるためには』という本を手にとりパラパラって・・・最後にある著者の経歴に『アメリカ』の文字。それを見て『行かなきゃ!』って思ったの(笑)。行けば学べる・・・そう思って飛び込んでみたんです(笑)」

当時27歳。

貯金を崩して、ロサンゼルスにある学校へ行くことを決意。

ただ何の当てもなく飛び込んだアメリカでの暮らしは、簡単ではなかったようで・・・

「病院で働きたくても『あなたみたいに、英語が話せない人がきても困る』と門前払いに合うこともあって。ボランティアもしたけれど、誰にも取り合ってもらえなかったから、半年程で帰ろうかなって」

そんな諦めかけていた時に、新たな出会いが訪れます。

出会いと出会いが繋がり、叶えられた夢。

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最初の出会いは、アメリカの専門学校で介助犬のトレーニングを学び、既にインストラクターとして働いていた『さえちゃん』。

きっかけは当時、流行っていた『mixi(ミクシィ)』でした。

「『アニマルセラピー』で検索しヒットした唯一の日本人だったのです。これは行くしかない!」連絡をとり5時間かけて、会いに行ったといいます。 それにしても、凄い行動力!!アメリカに来て半年で現実を知った打越さんでしたが、彼女の素直さと行動力が生んだ出会いの一つだったように思います。

「さえちゃんに出会い、大型犬に触ったことも無かったけれど本気で、犬についてきちんと勉強をしようと思えたんです」

さえちゃんによる導きにより、学校に入学し、介助犬のトレーナーとしての訓練をメインに週1回、アニマルセラピーの授業も受け1年間必死に勉強する日々。(当時通っていた専門学校の名前は「The Assistance Dog Institute」。現在は大学となり「Bergin University of Canine Studies」という大学名です)

「お金も無くて、その日暮らしで。物置みたいな所に住んでいたけど、不思議と辛さは無くて。うちのお母さんはそんな私の様子に泣いていたけど(笑)。楽しかったし、全く苦に感じなかった〜」と、ひょうひょうと話す姿を見ると『楽しい』が勝っていて充実感に溢れていました。

自信がついた頃に日本へ帰国し、愛知県にある介助犬をトレーニングする施設の『トレーナー』として働くことに。

「昔、病院で働いていたことも活かすことが出来た職場でした。ただ、アメリカでやってきた事は日本では、なかなか通じずで・・・」と、アメリカと日本との考え方の差を感じたそうです。

ちょうど当時お付き合いしていた方からのプロポーズを受け、結婚を機に何もかも辞め0の状態で再びアメリカへ戻ることにした打越さん。

このまま、養われて生きていくんだと思いつつも、何かせずにいられない性格。次は日本人でも働き先がある会計士の勉強をすることにしました。

ちょうどその頃、今も一緒に過ごす愛犬『キラ』と保健所で出会い飼うことになります。この二つ目の『キラ』との出会いが、次の出会いへ繋がっていきます。

いつものようにキラと公園で散歩していると、「『あなたアニマルセラピーって知ってる?やらない?』って女性が声をかけてきたの。すっかり忘れていた『アニマルセラピー』という言葉を聞いて、やりたかった事を思い出し、いっきに昔の熱が込み上げてきちゃった(笑)」

この三つ目の出会いは、チルドレンホスピタルのボランティアハンティングをしていた、アメリカ人の女性でした。こうしてキラと一緒に念願だったアニマルセラピー活動をすることに!!

予期せぬ所で、夢を叶えることができた打越さん。どんな場所でも自分らしくイキイキしていたからこその、出会いだったのかもしれませんね。

地元、桂岡に戻りそれから

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そんなアメリカ生活を過ごしていたものの、自分の居場所をアメリカ人のご主人との生活の中で見つけられなくなったと話す打越さんは、ご主人と別々の道を歩むことを決意します。そして、40歳を節目に悩みながらも日本に、地元である桂岡に戻ることにしました。

日本に帰って何をしようか?と考えた時に、アメリカで犬と旅行をする際によく利用していたAirbnb(アメリカの民泊サイト)のように、犬と泊まれる民泊を自分でやろう!という考えが生まれたのだとか。

「自分でアニマルセラピーのプログラムを作りたいと考えた時、アメリカのアニマルセラピーを行っているクリニックの紹介で出会った『ルナ』を引きとる事にしたんです。帰国するまではルナとトレーニングなどの準備をして、そのために、お金もほとんど使い果たして帰国したから、大変だったけど(笑)」

日本行きの片道航空チケットを手にして、愛犬2匹と地元である桂岡に戻ります。帰国当初、お兄さんの不動産会社のお仕事を手伝いながら日々を過ごしていました。

そんなある時、またまた出会いが訪れます。

2019年1月頃に『紙を折人=orito(オリト)さん』との出会い。

「月1回、ワークショップをしていて『工房に自由に来てください』というInstagramをたまたま見つけて。フォローもしてないし知らなかったけれど、暗い中にある和紙の照明をただただ『見たい!』と思い参加してみたんです。その時に、もともと実家が営んでいた下宿で、民泊をやりたいという夢を世間話程度にしていたら、あれよあれよと進んで...」

ezora_kazumi8.JPGezoraのお庭から摘んできたお花

そこで紹介してもらった設計士の方がすぐに現地を見に来てくれ、その後はスムーズに話が進んで行ったといいます。

「とは言え、民泊用にリフォームもしなくてはいけないし、そのためには銀行からまとまった金額の融資が必要だったことも不安のひとつでした。自分の思い描いている民泊が、もし間違っていたら?その時借金はどう返済すればいいのか?そんな不安がある中で、oritoさんや設計士さん、家族の協力があったからこそ、前に進めたと思っています」と、当時の不安を思い返す打越さん。

しかし、打越さん自身に何か引きつけられるモノを感じるからこそ、oritoさんをはじめ、設計士さんや、過去にアメリカでアニマルセラピーに興味はあるか?と声をかけてくれた人だったり、人が集まってくるのだろうなと話を聞いていて感じ取ることができました。

もう一つの目標であるアニマルセラピーの活動はというと...二つのボランティア団体に加入し情報収集から始まり、自分の考えと照らし合わせながら方向性を定めていく日々。

「善意のボランティアで終わりたく無くて、より実践的な事までやりたい気持ちが強いんです。学びたい人達も沢山いるから底上げもしたい。どうにか治療の一環として医療のリハビリプログラムと連携できないかなと?と考えている最中にコロナになって・・・今は個人で少しずつですが活動をしています」

打越さんの熱い信念は、アメリカで言われた『やりたくないと思っている所には絶対行くな。喜んでもらえないよ。』という言葉。その言葉を胸に、コロナ禍でもコツコツと個人での活動を続けています。

ezoraに込めた想い

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2019年9月にOPENして海外のお客様の予約でいっぱいだった時にコロナに直面。

ただ、現在ではリピーターさんも付いて、自分が信じたビジネスプランが世の中で通じたという事実にとても自信がついたと打越さんは話します。

「不安だったけど成功したことが嬉しかった。一区切り、今年はついたかな。前はお客さんきてほしい!と力が入りすぎていたけれど、ようやく力を抜いて運営できる様になったかな。犬と一緒に旅をする。それが、犬を飼っている人たちの責任やしつけの底上げになったらなと思います。ezoraでの犬の宿泊条件が厳しくしているのはそういった理由があるんです」

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打越さんが長く犬と一緒に、アメリカで過ごしてきたからこその思いがezoraに行くと感じることができます。

「日本人のあまりの忙しさに驚く日々です。せっかく旅するのだから風景を楽しめるぐらい、ゆっくりとした時間を過ごしてほしいです」

経験豊富な打越さんが、近くに居てくれるというのも、安心の一つ。分からないことや地元の情報をすぐに聞く事ができ、食事付きにしていない理由も納得できるもの。

「ここは札幌と小樽の中間地点。どちらへも行きやすいので、中長期滞在をする人も多いんです。あとは、地域活性というのも大切にしているのでezoraでは食事は提供しないんです。まち行けば美味しいパン屋さんもあるしと美味しいものに溢れているから、色々と楽しんでほしい」

ezora_kazumi7.JPGezoraに宿泊された方が描き残した絵

この銭函桂岡という場所で『暮らすように旅をする』。そんな体験を楽しめるのは、沢山の経験で養われた、モノの見方や価値観を客観視することができる打越さんならではの、新しい旅のカタチ。

「海外の生活で感じたことは『落ち着く』を大事に旅先でも『気を使わない事』。犬も一緒という事を考えると、気を使わない程度のものを置く事を大切にしています」 『新品』とは違う『清潔』を大切に、お客様の声も聞きながら運営改善に努めていると話します。「お客さんの声は有難い言葉ばかりです」こんなに楽しく、自分にはまるとは思ってもいなかった様子。どんな困難でも、乗り越えてきた打越さんの次なる展望とは...?

今後の展望

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様々な出会いが繋がり現在に辿り着いた打越さん。最近もまた新たな出会いがあったのだとか。

「この間、動物病院の先生に偶然会って話をしていたら『パートで働かない?』って(笑)。ちょうど仕事は探していたけれど、知り合いのところで働くのはなぁ?って最初は思ったんだけど・・・ただ不思議と『ムツゴロウさん』になりたかった夢に繋がったの!」と目をキラキラと輝かせながら話す打越さんは幼少期に戻ったかの様。

今後は、ezoraに泊まる人などの犬の預かりが出来たらと考えているのだそう。

「ここに犬を置いて、更に遠くに旅してほしい!北海道は保護自然があって犬を連れていけない所があるから私も困った経験があって。食べたいごはんを食べに行って北海道を満喫してほしいんです」

その為に必要な資格取得を目指し、オンラインで勉強すると同時に、実務経験を動物病院で培うのだとか。

打越さんの夢である『ムツゴロウさん』になるための道は、まだまだ続きそう・・・今後、どの様な出会いがあり変化していくのか?目が離せない。銭函桂岡という地で、『旅するように暮らす』打越さんに会いに、ぜひ一度、泊まりに行ってみてはいかがでしょうか?

民泊ezora
住所

北海道小樽市桂岡町21−26

URL

https://ezora-otaru.com/

【民泊「ezora」の名前の由来】

宿はアイヌ語の「エゾ(北海道)」と、大空の「ソラ」から「ezora(エゾラ)」と名付けました。

【予約サイト:Airbnb「ezora」】

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日本からアメリカ、そして銭函桂岡に。旅するように暮らす。

この記事は2022年6月3日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。