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上士幌町

北海道十勝の季節感や色合いに魅せられて。旅とピザとお宿 咲色20220530

北海道十勝の季節感や色合いに魅せられて。旅とピザとお宿 咲色

どこまでも続く空。果てしない草原。ときおり現れる防風林。ひょっこり顔を出す野生動物。夏はどこまでも蒼く、冬は限りなく銀色の世界に自分の息までもが白く、凜とした空気が肺を刺す。そんな北海道の自然に見せられて移住する人をくらしごとではたくさん取材してきました。
「『大自然と言えば北海道』だから北海道に移住しました」と沢山の輝く人たちから聞きました。
そのたび私たちは北海道の企業であることが誇らしくて、嬉しい気持ちになるのです。

今回もそんな嬉しい気持ちになった移住者夫婦のお話。
上士幌町で「旅とピザとお宿 咲色-Sairo-」を営む粟田誠士(あわたまこと/通称Mark)さんと美咲さんのご夫婦です。
本州の自然も沢山満喫してきた、という粟田さんご夫婦が北海道に移住をしてきた理由、さらには北海道上士幌町で事業を起こしたお話をじっくり聞かせてもらいました。

sairo_kamishihoro17.JPG右がMarkさん。左が奥さんの美咲さんです。

移住という選択肢、そして上士幌町を選ぶまで

取材に伺ったのは北海道は十勝の3月。雪が解けて地面が見え始めたけれど、まだ遠くに望む大雪山渓には残雪がある時期です。
上士幌町のまちなかを抜けてナイタイ高原に向かい車を走らせていくと大草原の中に淡黄が際立つ三角屋根のかわいらしいカントリーなお家が。ここが「旅とピザとお宿 咲色-Sairo-」です。

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扉をノックする前に回りを見渡すと、きっと暖かくなる5月頃にはきれいな花で彩られるのでしょう、花壇を作る準備がされています。そこには既に北海道の春を告げる福寿草が、外壁と同じく明るい色を添えていました。
中に入ると朗らかな二人が「いらっしゃい」と出迎えてくれます。

こちらはピザをメインとした飲食店・そして一日一組限定のキャンプステイを掲げて2022年の3月6日にグランドオープンしました。どちらも完全予約制です。
店内には可愛らしいインテリアや趣味のギターなどが飾られており、こだわりをもってこのお店をオープンしたことが伝わってきます。
旦那さんのMarkさんが主にピザ作りなどの厨房を担当し、奥さまの美咲さんはデザートとドリンクを担当します。
お二人とも大阪府からの移住。Markさんはもともと神戸出身ですが大学進学を機に大阪へ出て、就職も大阪でした。
前職では子供向けのアウトドア・アクティビティを展開している会社に就職し、時には何百人の子どもたちを連れてキャンプに行くこともあったのだとか。

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「2泊3日で140人とかの子供を連れてキャンプに行ったり、ひと夏に3000人くらい子供たちと出会うような仕事でしたね。延べでいうと2〜3万人と出会っていたと思います。人数が多い、集団だからこそ生み出される熱量もあったけれど、続けているうちに一人一人に丁寧に細やかに携わっていきたいという気持ちが芽生えてきたんです」

お客さんと一対一でスロウライフを送っていく生活ができないだろうか、そんなことを考え始めたMarkさん。
そもそも小学3年生の頃からボーイスカウトをやっていてアウトドアやキャンプが好きだったと話します。
しかしどうして「北海道」だったのでしょうか。

「移住した今、考えてみたらなのですが」と前置きをした上で「高校時代に友達と青春18切符で神戸から普通電車を乗り継いで、丸二日かけて北海道にやってきたことがあるんです」とはにかみます。

「6人組の友達と夏休みに、道南の茅部方面の牧場で敷地内にテントを立てさせてもらって共同生活をしたんです。そのときに出会った北海道の自然にすごく感動しました。その雄大さを体感して、いつか住んでみたいと思ったんですね」

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自分の根底に根付いている北海道の自然への憧憬が青春時代にあったのだと振り返るMarkさん。
「それでも現実的に移住は今の仕事を退職してから、セカンドキャリアとしてからかな〜」と漠然と思っていたと言います。
ですがきっかけは突然訪れるもの。美咲さんとの初めて旅行で知床を訪れ、その大自然を目の当たりにした美咲さんも北海道をすごく気に入ったのだとか。
その旅の途中、さりげなく会話のなかに「北海道に移住したいなぁ」という話を盛り込んでみたところ、美咲さんも「いいね」と乗り気な様子にMarkさんは心の中でガッツポーズ。
2018年には「奥さんに内緒で、こっそり土地を探し始めたんですよね」と笑います。

移住を投げかけられた美咲さんは内心どうだったのでしょうか。当時のことを聞いてみると、
「京都府出身ですが、京都の中でも自然が豊かなところで育ったので、いつかは自然豊かなところに住みたいと思っていました。だから北海道の移住に関して言われたときも戸惑いはなかったですね。軽い感じでOKした気がします」と朗らかな笑顔で答えてくれました。

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北海道の中でも「上士幌」を選んだワケ

いざ土地を探し始めたMarkさん。なかなか思い通りの場所は見つからなかったと言います。
そんな時に上士幌町に移住体験住宅があることを知って、冬の2週間を経験します。その経験の中で、「THE・北海道」の見渡す限りの大平原、そしてナイタイ高原の景色に惚れたのでした。

「十勝の良さを経験しましたね。冬場の寒いけれど凜とした気持ちよさを経験したこと、あと晴天率の良さ、そして雪の少なさも知ることが出来て、二人で十勝にしようと考えが決まりました」

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こうして北海道の広大な大地の中でも「十勝」を選択したMarkさん。もともとは宿をやりたいという気持ちがあり宿ができるような土地を探していたのだと言います。
そして良い偶然というものは重なるもので、この移住体験の際に新しく上士幌町内にできた不動産業者の方を紹介して貰います。これがまたさらに上士幌町への移住を加速させる出会いでした。

「土地に関しては片っ端から検索しましたが全然出てこないんですよね」と苦い笑みを浮かべながら、こうつづけます。
「だけど紹介して貰った町の不動産屋さんに移住体験の最終日にお会いして『牧場と畑に囲まれてて、山が見えて、まわりに家がなくて・・・』とありったけの希望を伝えたんです。そうすると親身になって聞いて下さって、後日探し出してくれたんです」

最初の土地は農業振興の土地で、住宅を建てることは出来ない土地でした。そこで不動産業者の方も「期待させて申し訳ない」と更に土地探しを一緒に奔走します。それから半年くらい上士幌町を歩き回って探し出したのが、今は「咲色-Sairo-」が建つこの土地でした。

「実際に上士幌町に足を運んで、現地の人と出会えたからこそ出会えた土地だった」とMarkさんは目を輝かせます。

土地が決まり加速する上士幌への移住、開店への想い

「移住をする」と決めてから「では、仕事は何をするか」と考え始めたMarkさんはもともと考えていたやりたかった宿で「一人一人に丁寧に細やかに携わって、この十勝でスロウライフを提供する」を仕事にしたいと考えはじめます。そして宿と一緒にできるのは飲食店だなと思ったと話します。
もともと外食が好きで頻繁にいろいろなお店を食べ歩いていたというお二人。たくさんのお店を食べ歩きしていた二人が衝撃を受けたのが大阪のとある田舎で食べたピザでした。それは、古民家を回収したオーナーがやっているお店で食べたピザだったのだとか。

「僕たちは大阪からの移住なのですが、実は二段階移住してるんです。梅田っていう大きな都市に住んでいたんですが、いきなり北海道に移住して大丈夫かって思って。移住して失敗した、という話も結構聞くので(笑)。だからまずは大阪の北にある能勢という田舎に引っ越して2〜3年暮らしました。ただ、田舎に移住するとなかなか外でご飯を食べられる場所がなかったんですが、そのまちに田舎の古民家を改修した素敵なお店があって、そこで食べたピザがものすごく美味しかったんです。自分もこんなお店をやりたいと思ったんですよね」

しっかりと自分たちに田舎暮らしが合っているかどうかも考え、経験しながらの移住。人生を変える出来事だからこそ慎重に進めてきたことが分かります。
「そして、ここでピザをつくると想像したときに、上士幌だったら北海道十勝の食材の強さを活かすことができる。ほとんどが十勝産で全て解決できるっていうのですごくイメージが湧きました」

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このお店のピザのネーミングも他とは変わっています。よく見る「マルゲリータ」というメニューはありません。

「彩りをとても大事にしていて、この土地で暮らすことで感じる色や食材から感じる香りにインスピレーションを受けて命名しています」

マルゲリータは「旭(あさひ)」と名付けていたり、他にも色や花から受けた印象でメニューができることも有るんです、と楽しそうに話します。

「『たんぽぽ』って名前のピザをつくるために、色々と地元の食材を使って試行錯誤してみたり、名前や作りたい色が先にあって、世界中どこにもないようなピザができてしまったりもします。こういう季節に合わせ、そして北海道の旬に合わせたメニューを考えるのがとても楽しいんですよ」

こうして、十勝の空気を感じることにこだわって開業したのが「キャンプステイ」そして「ピザをメインとした十勝の食」を楽しめる「咲色-Sairo-」なのです。

sairo_kamishihoro21.jpgこれが「たんぽぽ」

自然のままを自然のまま楽しめるような場所に

お二人は2021年の7月に上士幌町へ移住、2022年の3月には「咲色-Sairo-」をオープンさせました。飲食店の方は1日14名限定で予約制。ありがたいことにSNSで噂を聞きつけた方から予約が入っていると言います。

キャンプはまだまだこれから。一日一組でじっくりと十勝の魅力を感じることのできるよう、お店の近くにティピーテントを張って中にはベッドやテーブル・チェアが設置されています。来てくれる方にはキャンプの準備は一切不要です。一見グランピングと言っても良い様な気もしますがグランピングの「Glamorous(グラマラス/華やかな)」とはちょっとイメージが違うのだとか。
「来て下さった方には『なんでもある』という沢山のアクティビティを提供するのではなくて、『季節の移ろい』や『自然の輝き』だったり『匂い』をじんわりと感じて欲しいと思っているんです」と柔らかな表情で想いを語ってくれました。

「旅をしたことがないひとに『旅したなぁ〜』と思って欲しい。旅先で会った景色や自然に触れあうことで、特別な時間をこの場所で過ごして欲しい。そうすると、訪れてくれた人の心の中になにか残る物があるんじゃないかなと思います」

旅行で十勝を、そして上士幌を訪れるひとにはそんな想いを込めて。そして地元上士幌の人たちにもとある想いを抱いているといいます。
「移住するときに『地域のためになることをしたい』と思っていましたが、コロナ禍での移住だったのであまり地元の方と会える機会が全然なかった。だからこそこれからだなって思っています」と前置きをした上で。

「町外の人はもちろん、地元の方にもこのお店をちょっと特別な日に使ってもらいたい。例えば家族が帰省した時とか、お誕生日の時に利用してもらって『ハッピーだったな』と思ってもらえたらいいなと思っています」

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お店の周りをお花で彩って、訪れてくれた人を少しでも喜ばせたい。とガーデンニングの準備もしているお二人。まさに丁寧に一対一のスロウライフを共に過ごすことに邁進しています。

最後に一つだけ、質問をします。
----お店の名前の由来は...?

「この土地を見たときに、すぐそこにサイロがあったんです」

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サイロとは酪農家が家畜の牛に食べさせる飼料の製造や貯蔵しておく蔵のことで、北海道で走っているとよく見かけるレンガで出来た円柱型の建物がそれです。

「コレをみたときに、あぁ北海道だなって感じて。僕たちの季節感や色合いを大事にしたいという気持ちを込めて咲色(サイロ)なんです。北海道の人は、春と秋はすごく短いし、夏は一瞬で終わるってよく言いますが、いざ住んでみるとちゃんと春があって、季節のグラデーションがしっかりと感じられるんです。夏は夏で色合いが違って一日一日違った顔を見せてくれます。そういう想いを店の名前にのせました」

北海道の土地に魅せられて、十勝の雄大さに惹かれて、そしてそこに根を張り色を咲かせようとする新しいお店。
ここで沢山の十勝の魅力に触れる人が増えていく、そんな未来が見えた気がしました。

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旅とピザとお宿 咲色-Sairo-
旅とピザとお宿 咲色-Sairo-
住所

北海道河東郡上士幌町上音更東1線

電話

050-3554-3160(ランチ営業時間内 11:00-14:00 のお電話はなるべくお控えください)

URL

https://sairo.localinfo.jp/


北海道十勝の季節感や色合いに魅せられて。旅とピザとお宿 咲色

この記事は2022年4月8日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。