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芦別市

「山のホスト」と「山のエース」が創る、新しい森林組合のカタチ20220314

「山のホスト」と「山のエース」が創る、新しい森林組合のカタチ
今年度始動した「森の魅力発信し隊」!
若手林業・木材産業従事者を中心とした仲間が集い、日々情報交換をして盛り上がっています。
そんな「森の魅力発信し隊」のメンバーについて、ご紹介する記事の第5弾です!

「森の魅力発信し隊」についてはこちらをご覧ください

芦別のカラマツ林に映える、息の合った2人

「60年!大先輩ですよ。それを安く売っていいんですか?!」

北海道中央部の芦別市。60年ほど前に植林されたカラマツ林で、チェーンソー片手に声を上げたのは「なかそらち森林組合」管理部長の藤田悠介さんです。ヘルメットには、「藤田」とかつての愛車・FJクルーザーを掛けた、「FJ」のステッカー文字が光ります。

藤田さんの肩書は、文字にするとお堅そうな感じですが、実際は遊び心にあふれています。真ん中で分けた長めの前髪を揺らし、笑って白い歯をのぞかせる藤田さんは、やんちゃな少年をそのまま大人にしたような雰囲気です。ここだけの話、仲間内では「山のホスト」と呼ばれています。

nakasorachi_30.JPG「山のホスト」こと藤田悠介さん

そばに立つのは、がっしりした体格で屈強そうな森林整備係長の富樫智明さん。森への負担を少なくする道の整備の仕方や、間伐の種類を取材チームに教えてくれました。同じく、地元の仲間からは「山のエース」と呼ばれています。

2019年7月に、「芦別市森林組合」から看板が変わった「なかそらち森林組合」。芦別と同じく林業が盛んな赤平市も管轄しています。将来的には現場の施業を自前で手がけるほど事業を大きくすることを目指していて、現場でのフォローを手厚くするため、名称変更や事務所移転を機に、ベテランの富樫さんが仲間に加わりました。

nakasorachi_14.JPG「山のエース」こと富樫智明さん

ベテランの仲間入りで、現場仕事が充実

じっくりインタビューをさせてもらったのは、芦別市中心部にある組合の事務所でした。前身の組合の事務所は芦別市役所の庁舎内にありましたが、現在の林業センター(旧保険センター)のビルへ移転しました。それに合わせ、現場に出向く担当を、藤田さん1人ではなく、新たに富樫さんを迎えて2人体制となりました。

藤田さんと富樫さんが務めるなかそらち森林組合の仕事は、現場では森の境界や木の材積量を調査する「森林調査」。また、管内に数百人いるという森林所有者の山林に対し、植栽や間伐などの「森林整備」に関するプランを提案します。補助金を扱う事務も多く、道への申請資料づくりもこなします。富樫さんが新たに加わったことで、多くの現場をカバーできるようになったといいます。

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藤田さんは高校まで地元芦別で育ち、かつては「夢を追うバンドマン」でした。高校卒業後は、「すべてを捨てて」ベーシストとして上京。卒業を待ってくれていた先輩と組んで、インディーズでCDを出すなど活動しましたが、家族の事情で帰郷。いくつかアルバイトを掛け持ちしながら、安定した職に就こうと仕事を探していました。

パチンコ運営会社の面接に合格しましたが、知人に「体を動かすの好きでしょ?」と声を掛けられたことがきっかけで、土日に休みが取れる環境の安心感も重なり、19歳で森林組合に入ります。それまで林業には全く興味がなかったといいますが、徐々に魅力を覚えていったそうです。

一方の富樫さんは、市内にある林業事業体で長く勤務し、木を育てる造林をメインに手掛けていました。藤田さんとはよく知った仲。20年近い経験を生かせる新たな環境を求め、森林組合に転職しました。

nakasorachi_2.JPG山にあるものを使った「ものづくり」も好きですと話す、富樫さん

同じ仕事はない。「木が着く」と嬉しい

藤田さんは間伐をするなどして森林が整備され、所有者にもメリットがある形で事業がうまく進められると、やりがいを感じるといいます。

泉のように言葉があふれる藤田さん。緩急自在で軽妙なトークに引き込まれます。人と話すことが好きで、訪問した森林所有者の心をすぐにつかむのがイメージできます。決して強引ではないのに、ぐいぐいと引っ張ってくれるような語り口です。

自然も人も相手にする仕事は、時期によっても条件によっても変わってきます。藤田さんは「僕は飽きっぽいんで、この組合の仕事に向いていますね。毎日違って、同じことなんてありません」と断言します。

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藤田さんと富樫さん、2人が口をそろえるのは、植えた60センチほどの幼木の成長を目にした時に、喜びが大きくなるということでした。

「『木が着く』と呼んでいますが、雪解けを経て葉っぱが広がっているのを見る瞬間が好きです」と藤田さんが言えば、富樫さんは「『昔、これ植えたんだよな』と思えるのがいいですね。今すぐは分からなくても、長く仕事していると、『こんなにでかくなったんだなぁ』とすごくうれしいです」と声を弾ませます。わが子の成長を喜ぶような感じでしょうか。

富樫さんはかつて一民間の会社員でしたが、森林組合に転職したことで他の事業者にも技術的なアドバイスができ、旭川の「北の森づくり専門学院(北森カレッジ)」など林業志望の若者にも、現場のやりがいを直接伝えられるようになりました。機械化が進む林業ですが、地図から現場の状況を想像したり、木の倒し方、作業道のつけ方といった森に関わる「基本」を自分の頭で考えたりする大切さも伝えています。

nakasorachi_13.JPG冬の雪山なんて、なんのそのと、どんどん山の中へと入っていくお二人です

若い林業家たちへ...「木を植える」すゝめ

芦別とその周辺には、若手の林業家が多くいます。また「なかそらち森林組合」では、北森カレッジの学生らを受け入れることもあります。お二人は若い力が身近にいることを喜びながら、「基礎」をまず体で覚える方法を教えてくれました。

林業や木材産業と一口に言っても、造材に特化した事業体や製材工場などさまざまで、お二人は木を育てる造林の現場を体験してほしいと熱く語ります。

藤田さんは「地道な山づくりから、林業の世界に入ってほしいですね。若い人が憧れる機械乗りはかっこいいけれど、技術と経験が必要とされる重要なポストですし、全員がそこに行けるわけではありませんから」とアドバイスをくれました。

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木を育てるところからキャリアをスタートさせることで、「長い目で見ると応用が利きます。造林の経験者は木の切り方、木を集めやすい倒し方、必要最低限の道のつけ方が分かっているので、いろんな現場で生かせます。人手不足で、体力面ではつらいけれど、達成感はすごいですよ」と勧めます。

富樫さんも「体が慣れないうちはキツいですが...」と言いつつ、「基本的に山で使うスキルが全部含まれているんです」と強調します。春先と秋口には苗木を植えますが、その前の整地(地ごしらえ)から始まります。どうすれば間伐しやすいかを考えて植え、その後は刈り払い機で草を刈り、チェーンソーで間伐して...という一定のサイクルはありますが、現場や時期が違うと、全く同じ作業をするということはありません。
例えば、1つの造材会社に所属していれば、特定の機械に乗り続けるというキャリアも想定されますが、造林であれば「必要な全て」を自分の力で身に付ける醍醐味があるといいます。

nakasorachi_22.JPG木が育まれるように、林業のスキルも時間をかけて成長していくのですね

育てた木を「高く売る」のに、必要なこと

藤田さんは、道庁の林業木材課が事務局となっている「森の魅力発信し隊」のメンバーにもなっています。オンラインの飲み会では、こんなことを言い、盛り上がったそうです。

「僕らが大切に木を植えて、お金をかけて育て、太らせた木材。それを1円でも付加価値をつけて売りたい。安売りしすぎちゃだめだ、もっと高く売ろう!」

もちろん取り引きする上で決まった基準や相場はありますが、「山側」が存在感と発言力を高め、価値を伝えられるようにすることで、価格が上がるかもしれません。売り払い額が増えることで組合の事業規模は大きくなり、人を多く雇えるようになり、また、運搬する人の待遇の改善など、波及効果も高いと藤田さんはみています。

その一例として、大規模な土場(木材が集まる場所)に複数の山からの材を集め、入札することや、土場に積んだ丸太の太さをAIで自動的に認識し、データで管理する、「スマート林業」によって作業の無駄を省いてコストを下げることをイメージしています。

nakasorachi_5.JPGなかそらち森林組合では、北海道と一緒にスマート林業への取り組みも行っています

現在、なかそらち森林組合では、8,200ヘクタールの民有林を管理しています。ただ、藤田さんは「5倍にしたい。みんながいい思いをするためにはそれくらい欲しいですね」と言います。面積が増えることで、一定量を伐採しても、植え続けると「永遠に循環する」持続可能な林業が実現できるといいます。

藤田さんによると、芦別市は88%が森林で、そのうち91%が国有林。組合が管理しているのは、現在、5%の民有林のみです。国有林の事業は未挑戦の領域ですが、入札に参加することも目指しています。

そのためにも、「一から十まで自分たちで全部やりたい」と藤田さんは意欲を見せます。現在の仕事内容は造林のみですが、本格的な造材や売り込みまで、直営で手掛けられるよう、準備を進めています。もっと、山や仕事を理解し、自分たちのペースで、自分たちの考え方で、フレキシブルに動ける自前の「現場作業班」を動かすのが目標です。

ますます変化に富み、チャレンジしがいのある仕事が生まれそうです。

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息の合った2人が描く、森林組合の青写真

撮影でお邪魔した時、車を停めてから森の中まではスノーモービルが活躍。藤田さんと富樫さんはいつものとおり、息を合わせて乗り合わせ、勢いよく進んでいきました。途中でスタックしてしまった時も、焦ることもなく「せーの!」で持ち上げ、脱出。お話ししている時も、夫婦善哉のようにネタが途切れることはありませんでした。

藤田さんは、夜な夜な自宅でアコースティックギターを弾いて歌い、奥さまに怒られているといいますが、楽しそうな歌声が頭に浮かびます。「楽しまないとやってられないですよ」と言っているとおり、林業以外にも興味を持つ分野は多く、常に新しいものを吸収しようという柔らかさが印象的でした。ヘアスタイルがよく変わるというのも納得です。

nakasorachi_10.JPG笑い声が絶えない、とても楽しい時間を過ごした取材でした!

富樫さんは、前職で国有林の仕事を20年続けてきた経験があるだけに、「フジ!」と呼ぶ藤田さんにとって強力なパートナーです。藤田さんをはじめ、建設会社社長、文房具屋さんら地元の仲間と一緒に、自然体験を通し、芦別の魅力をYouTubeなどで発信する「アシベンチャーズ」のメンバーとしても活動しています。

釣りや山菜取りなど自然遊びが好きで、森で拾ってきた枝や松ぼっくりで季節ごとの飾りを作ったりしています。「木育から林業に興味を持ってほしい」という思いで、過酷なイメージがある林業の入口を広げるため、身近な森の恵みの楽しみ方を伝えています。

「ホスト」と「エース」のコンビが引っ張る、なかそらち森林組合。これからどう変わっていくのか、目が離せません。

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なかそらち森林組合 藤田悠介さん・富樫智明さん
なかそらち森林組合 藤田悠介さん・富樫智明さん
住所

北海道芦別市本町17番地10

電話

0124-22-3270


「山のホスト」と「山のエース」が創る、新しい森林組合のカタチ

この記事は2022年2月10日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。