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森を愛する彼女が下川町に見出した理想の暮らし20220120

この記事は2022年1月20日に公開した情報です。

森を愛する彼女が下川町に見出した理想の暮らし

北海道下川町は土地面積の約90%を山林が占め、豊かな森の資源を生かした産業の活性化やエネルギー自給、そして、教育活動にも取り組んでいます。暮らしと仕事がお互いに価値を高め合うライフスタイル「ワーク・ライフ・リンク」を、まちぐるみで推し進めているのも特徴です。
そんな下川町で取材を行った12月初旬、くるぶし程度まで雪が積もった渓和エリアの森に、季節外れの雨が降り注いでいました。「これ、ツルアジサイ。今時期は枯れていますが、6月ごろには白い花が咲いて森をきれいに飾るんですよ」「あっ、こっちには鹿の足跡!まだ真新しい」と、悪天候すら自然の贈り物とばかりに散策を楽しむ長尾綾(ながお あや)さん。ご両親の転勤で道内を転々とした他、就職後も各地で暮らし働いてきました。そんな彼女が、今、このまちに住むことを選んだ理由をインタビューから紐解きます。

道内を転々としていたのは「自分探し」のため!?

長尾さんのお父さんは、全道各地への転勤を余儀なくされるいわゆる転勤族。両親とともに釧路市、稚内市、網走市、札幌市などに暮らしました。

「一つのまちに長く暮らすという経験がなかったので、私には他の人が抱くような故郷という感覚があまりありません。幼いころから、住む場所にこだわることもなかったですね」

長尾さんは高校卒業後、札幌市で就職します。とはいえ、自ら望んだ職場ではなく、両親や学校の先生にすすめられたというのが大きな理由。ご自身を「思いつきで行動していた」と自己分析するように、「内陸部に暮らした経験がないから」という理由から帯広市の会社に転職しました。

「その後も、糠平温泉の旅館で半年間バイトしたり、かと思えば札幌に戻ってみたり、根無し草といわれても仕方のないフワフワっぷりでした(笑)」

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10年ほど前、長尾さんは一人旅で道内の海沿いのまちの民宿に出かけました。そこでヘルパー(食事と寝る場所を提供してもらう代わりに働く)をしていたところ、「ヒマならウチで働かない?」と声をかけてくださった方からの誘いを受け、その方の会社で働き始めたといいます。

「恥ずかしい話ですが、当時はまったく何も考えていなかったんです。自分に合っている仕事も、やりたいことも、夢も目標もなく...。道内を転々としていたのは、本当は『自分探し』だったのかもしれません」

「原点」を思い出し、自然とのんびり暮らす理想を求めて

長尾さんはその会社で約8年間働きました。しばらくすると事務職兼営業のポジションにシフトしたため、仕事の環境はなかなかハードでした。

「父は自然保護系の仕事に携わっていたので、小さいころはことあるごとに山に連れて行かれていました(笑)。ストレスフルな生活を続ける中で、無意識のうちに自然と遊んだ原体験を思い出し、自分の理想は山や森、海のそばでのんびり暮らすことだと気づいたんです。前にいたまちでも自然をなるべく楽しもうとは思っていましたが、仕事に追われて満足のいく時間配分にはなりませんでした。そんなジレンマを抱えていたところ、たまたま出会ったのが下川町の『NPO法人森の生活』の求人です」

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NPO法人森の生活は「森の体験事業」「森のまちづくり事業」「森のめぐみを届ける事業」「森を伝える事業」を軸に、下川町の森林環境教育も受託しています。自然の中でのんびり暮らすことと、仕事が直結しそうな予感を抱き、長尾さんはすぐさま応募しました。

「住む場所については公営住宅にすんなり入ることができました。仕事は基本的に土日祝日がお休みですし、下川町は森にひょいと入れる環境ですから、仕事についた当初ワークライフバランスが整う期待感に胸をなでおろしたことを覚えています」

長尾さんが数々のまちを経て、下川町に移住したのは2019年。想像していた以上に、自然とのんびり暮らせる毎日が始まります。

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「森」がゆるやかにつなげる、仕事とプライベート

下川町では認定こども園から高校までの15年間、一貫して森での教育プログラムや事前・事後授業、森を活用した学びなどを展開。長尾さんは中でも、認定こども園と小学校の森林環境教育を中心に担当しています。

「認定こども園では月に1回町内にある美桑(みくわ)の森で子どもたちと遊んだり、小学校では年に1回森林に関する学習プログラムを提供したり、その準備や企画を進めるのが主な仕事です。他にも、下川町民や町外の方に向けた日々の暮らしに森を取り入れるヒントとなる『森さんぽ(年7回開催)』も担当しています」

長尾さんは、仕事だけではなく、休日にも森にぶらりと散歩に出かけるのだとか。友人と誘い合って木の実や山菜などを採取したり、一人で森林浴を楽しんだり、理想としていた暮らしを実践しています。

「森を散策する日の休憩で、お茶やコーヒーを飲むのが定番です。プライベートで森に入る日も、リースづくりのイベントに使う素材を拾っておくなど、暮らしの中で仕事につながるゆるやかな『収穫』をすることもあります」

下川町では仕事で得たものを生活にフィードバックしたり、生き方を仕事につなげたりする「ワーク・ライフ・リンク」の考え方をまちぐるみで推進。長尾さんは自然を楽しむ暮らしと仕事をリンクさせている実践者ともいえます。

究極の目標は「縄文時代」!?

長尾さんが下川町に移住してから約2年。今では一緒に森に出かけたり、自然との遊び方を教えてくれる人と数多くつながっています。こうした人脈はどのように築いたのでしょう。

「最初は移住者や町内の方と交流できる『タノシモカフェ』に誘ってもらい、出会った人からだんだんとつながりが広がりました。仕事で同年代と関わる機会も多く、肩肘張らずに友だちが増えていった感じです」

一昔前の田舎というと、近所付き合いを強制されたり、ウェットな付き合い方をせざるを得なかったりするイメージ。けれど、下川町では人と人との距離感が適度だといいます。

「下川町には自分の軸を持ち、やりたいことが定まっている人が多い印象です。波長が合えば誘い合うこともありますし、一人でアクションするのも一向に構わないというフラットな雰囲気も心地良いと思えますね」

とはいえ、長尾さんは楽しそうなことにはまずトライしてみるタイプ。下川町は山や森に囲まれているイメージですが、少しクルマを走らせれば渓流にも出会え、オホーツク海に出るにも1時間程度。「今年の夏は川釣りを始め、ニジマスやヤマメをゲットしました。25センチメートルのウグイを釣り上げたのも自慢です」と笑い、こう続けます。

20211201_nagao_14.jpg長尾さんが「お師匠様」に教わりながら作成した雪板には、手描きのアイヌの柄が。

「そうそう、雪板ってご存知ですか?簡単にいえば、スノーボードの足を固定せずに滑るような雪上のサーフィン。町内で雪板を楽しんでいる人に教えてもらい、ベニヤ板でのつくり方やペイント、扱い方を学びました。私は勝手にお師匠様と呼んでいます(笑)」

他にも、昨年オープンしたキャンプサイトで焚き火をしたり、昨年の冬はテレマークスキーに挑戦したり、とにかく下川町を中心とする道北エリアを遊びつくしている印象。けれど、こうしたアクティビティを楽しむには費用もかさみそうな...。

「下川町の公営住宅は家賃も安く、普通に暮らす分には生活費もそれほどかかりません。釣り道具は知り合いから貸してもらいましたし、雪板の材料費も全然高くないですし、テレマークスキーも近隣の朱鞠内の農家さんから借りました。意外とお金はかからないものですよ」

自然との遊び方をお話しする長尾さんは、とっても楽しそうに目を輝かせています。インタビューを終えようとノートを閉じかけた時、彼女はふと「縄文時代にあこがれているんですよね」と思いも寄らない言葉をつぶやきました。ん?どういうこと?

「下川町のワーク・ライフ・リンクを突き詰めると『仕事=生活』。衣食住を自ら賄う狩猟採集生活が、その完成形だと考えています。つまり、私の最終的な夢は下川町で縄文時代の暮らしを営むことなんです(笑)」

何ともタクマシイ夢。けれど、自らの食いぶちを自ら手にする「縄文時代」を満喫しそうなバイタリティの持ち主が長尾さんという女性。その暮らしが完成した時には、またインタビューさせてくださいね。

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NPO法人森の生活 長尾綾さん 
住所

北海道上川郡下川町南町477

電話

01655-4-2606

URL

https://morinoseikatsu.org/


森を愛する彼女が下川町に見出した理想の暮らし

この記事は2021年12月1日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。