ハートンツリーが生まれ、軌道に乗るまでを主に前編でお話しましたが、今度はこの場所を舞台に「子連れワーケーション」を始めるお話です。前編ではあまり登場してこなかった、旦那さまの登場もあります。後編では、この旦那さまがキーマンとなってくるのでご注目ください!
みんなの「第二のふるさと」に
紆余曲折がありながらも、自分の大好きな場所で大好きな料理を作り、お客さんに提供をするという大好きな仕事を再開しましたが、お店を復帰した当時の「隠れ家カフェ」の雰囲気と、今取材陣がハートンツリーを訪れていて感じる雰囲気が少し違うな、という風に感じるのです。
今のハートンツリーは一言でいうと、「第二のふるさと」のような温かい雰囲気で、思わず「ただいまー!」って言いながら、帰りたくなる...そんな雰囲気を感じさせる場所のような気がするのです。現に「癒やしを求めてハートンツリーに来る人はとても多い」と言います。
一体、何が変わったのでしょうか?
「私たちは何も変わっていないの。今の時代は、みんな心や身体が疲れていて、そんな人たちがいるから、みんな癒やしだったり、家族の温かさを求めてここに来るんだと思う」
新型コロナウィルスで、故郷に帰ることができなくなってしまった技能実習生や留学生も、佐知子さんの温かさに触れにハートンツリーを訪れるといいます。
「みんな家に帰るように、安心して癒やされに来て欲しいなっていうのは思うな。実家みたく思って来てくれたらいいなって」
今、佐知子さんは子連れワーケーションや親子での旅行、旅育などの受け入れにも積極的に手をあげ、「新しい旅のスタイル」づくりに積極的に挑戦しています。
その先には、「忙しい日々」を過ごす親子に、少しでもリフレッシュしてほしい。
ここに来て、癒やされてほしい。
そんな思いが根底にあるといいます。 そうして、佐知子さんが村の事業者として新しい旅のスタイル作りに励む中、観光協会として、制度や仕組みづくりに励む人が同じ村内に居ます。
それが、「みんなの鶴居のお父さん」こと「服部 政人さん」。佐知子さんの旦那さまです。
服部さんはNPO法人うつくしい村 鶴居村観光協会の事務局長として新しい旅の仕組みづくりに奮闘しています。 鶴居村観光協会が目指す形のワーケーションや旅育といった新しい旅はどういったものなのでしょうか。話を伺いました。
自然が好きから自然を仕事にするまで
ワーケーションや旅育などの取り組みについて、話を伺う前に、政人さんがどういう人なのかについて、掘り下げます。
服部政人さんは、大阪府大東市出身。実家周辺は蓮根農家が沢山あって、教科書にのるような田園風景が広がるまちに住んでいたそうです。多趣味なご両親のもと、いろんなことにチャレンジさせてくれる家庭環境で育った政人さん。「地域みんなの距離が近く地域に育ててもらった感覚だった」とも言います。 高校を卒業したすぐ後に、電電公社(現、NTT西日本)に入社し、働きだします。
昔から、自然が大好きで佐知子さんとのデートも京都の山奥などの自然が豊富な場所へ行くことも多かったといいます。
そして「動物を飼うことが昔から夢だった」と語る政人さん。
なので、妻の佐知子さんから持ちかけられた、北海道への移住についても、特に反対することもなかったそう。 北海道への移住後は夫婦で酪農ヘルパーとして、酪農の仕事に関わるようになります。 大好きだった動物との仕事に充実した日々でした。
では、そんな酪農の仕事も楽しんでいた政人さんが観光協会の事務局として働き出したのはどういった経緯だったのでしょうか?
酪農ヘルパーとして牧場で働く中、「グリーンツーリズム」や「農泊」と言ったような新しい旅のスタイルの誘致や企画を行っていた政人さん。もともと北海道へ移住したときの思いも、自然×観光や農業×観光の組み合わせへの可能性を感じたことがきっかけでした。
「田舎にある資源を活かしながら、観光を受け入れるようなことがやりたい」という思いが移住前から根底にあった政人さんは、移住後も一貫してその想いで、観光受け入れの企画などを行います。
「田舎って『お金が儲かるかどうか』という発想ではなく、もう少し豊かな発想で生きている人が多いよね。ヒューマニズムとか生き方が仕事や生業として、成立しなければ意味がない。でも都会に住んでいると、損得勘定とかビジネス感覚とか、どうしてもそういう風に考えがちだと思うんだよね。なので、よく『観光の仕事よりも酪農の方が儲かるんじゃないですか?』って聞かれることもあるんだけど、僕は酪農して牛乳がんがん生産して儲けることには、やっぱりあまり興味は持てなくて。それよりも、都会の人たちにこういう農村に滞在してもらえる、グリーンツーリズムが好きだし、やり続けたい事だ!って思うんだよね。動物は好きだし、農村も好きだけど、自分で牛を飼って酪農がしたいわけじゃなくて、自宅で牛を飼っていることが話題になったりして、都市と農村との交流なんかができるようになればいいって思ってるんだよ」
そんな想いで、酪農ヘルパーの仕事をしていた政人さんが、観光協会の事務局長になったのは、そういった考え方や、新しいことにもチャレンジして取り組む姿勢が評価されたからだといいます。
自分の信念に基づいて、一つのことを突き詰めた結果、まわりの人にも「すごく合ってるよね」と言われる仕事に就くことになったのです。 事務局長に就任後も、グリーンツーリズムの促進や、農泊の促進、自転車の旅の促進など、様々な新しい旅の促進を進めた政人さん。多くの方が鶴居村を訪れるようになり、その結果小さな村の観光誘致成功例として、全国から多くの講演依頼が来るようになったと言います。
今ワーケーションを誘致するワケ
鶴居は本当に良いところだよと、教えてくれる服部政人さん
観光先として、有名な村である「鶴居村」。
なぜ、今ワーケーションや子どもを一緒に連れてくるワーケーションの誘致に今回乗り出すことになったのでしょうか。
そこには、政人さんの働き盛りの子育て中の人たちに対する、お父さんのような温かい思いが有りました。
「子どもが旅を通して成長すると言われる年齢の時、親は20代から30代半ばのことが多く、まさに働き盛りの世代です。小学校に入ったあと、夏休みが1ヶ月近くある中、子どものことを考えると、学童に行かせるだけではなく、旅行に行ったり色んな所に連れて行ってあげて、色んなものに触れさせてあげたいと、思う親も多いのではないでしょうか。
とはいえ、1ヶ月の休みをとることは、日本で企業に勤めている人にはなかなか難しく、長くても1週間が関の山だと思うんです。さらには共働きであれば、夫婦揃って同じ時期に同じぐらいの日数、休みを取るというのも至難の技だったりするのではないでしょうか。そういう人には、子連れワーケーションや親子ワーケーションと言って仕事を持っていくしか、旅行を諦めずにいられる方法がない」と政人さんは言います。
子連れワーケーションの企画を始めた当初、1日7時間、しっかりと時間をとって、村内にコワーキングスペースを作って、仕事も旅行もしっかりと楽しんでもらえる...。そんな形を理想として考えていたと言います。
しかしながら、子連れでのワーケーションは大人が単純に考えるようにうまく順調にいくものではありません。
子どもの「お母さん、お母さん」攻撃は、止まらないですし、その子どもの相手をせずに仕事をしていると、今度は親の方にも罪悪感が溜まってしまいます。子どもが保育園や小学校に行っているときのように仕事に集中をすることができ、「仕事をする場所を変えただけ」 という状態を作ることができたら、きっとすべてがスムーズに行くのかも知れません。
『子連れ』であったとしても、『ワーケーション』という形の成立を考えた時に、いつも観光協会として、鶴居村に来てくれる人たちにどう楽しんでもらうか。どう満喫してもらうかを考え発信している政人さんは「誰かが楽しくない思いをするかも知れない観光の形を作るのは正しいのだろうか。そして、せっかく数ある旅行地の中で鶴居を選んでもらったのに、そのやり方で親も子も本当に楽しんでもらえるのだろうか。また鶴居に行きたいと思いを寄せてもらえるものになるのだろうか」と感じたといいます。
「鶴居は鶴居の子連れワーケーションの形を作りたい」 そんな矢先に、子連れワーケーションのコーディネーターからこんな話があったといいます。
「私のやりたかった子連れワーケーションってこれなんだ。と気づいたものがあって、それが『旅を通して育てる』ことなんです。旅を通して普段とは違うどこかに行くことで、子どもが楽しめて、学びになるようなことをしたいのであって、旅行先でがっつり仕事がしたいわけじゃないし、する必要も無いと思うんです。それを色々と調べていると、『旅育』という言葉にたどり付いたんです。きっと鶴居村が目指しているワーケーションも同じ気がして...。鶴居村独自の旅育の形を作るのはどうでしょう」
子どもの学びが主軸で、親はその付き添い。大人は旅行に行った先で仕事ができる環境があるから、仕事をするという「新しい旅」のスタイル。「鶴居村の旅育」と言う話を聞いた時、政人さんが子連れワーケーションに感じていた違和感が、解決された瞬間だったといいます。
「子連れワーケーション」は、どちらかというと、大人の仕事場や仕事のことに付いて話されることが多く、子どもは「観光先」や「アクティビティ」を検討する時に出てくるだけでしか有りません。
「旅育」は子どもの教育が主になるため、子どもの学びになるコンテンツが有る場所から、行く場所を選びます。子どもも楽しめる、ワーケーション。 子どもが主役の旅育を鶴居村は新しい旅の一つとして、推し進めていきたい。と強くお話されていました。
村の事業者として、直接温かいサービスを提供するお母さんの佐知子さんと、村の観光協会として、制度の導入や形作りを頑張るお父さんの政人さん。 二人がそれぞれの立場にいるからこそ、 より良い観光の形が出来ているのかも知れません。 ぜひ、鶴が居る村「鶴居村」で、ワーケーションの際には、 このお二人に会いに行かれてみてはいかがでしょうか?
- ハートンツリー
- 住所
北海道阿寒郡鶴居村字雪裡496-4
- 電話
0154-64-2542
- URL