HOME>北海道で暮らす人・暮らし方>3代にわたる農園にやってきた新たな仲間はベトナム人

北海道で暮らす人・暮らし方
余市町

3代にわたる農園にやってきた新たな仲間はベトナム人20210726

この記事は2021年7月26日に公開した情報です。

3代にわたる農園にやってきた新たな仲間はベトナム人

キレイな海、雄大な山、広大で緑豊かな大地。北海道の中でも温暖な気候に恵まれている余市町は、ぶどう、りんご、さくらんぼ、ミニトマトなどの産地として有名です。ドイツ系のぶどう種である「ケルナー」「バッカス」や、程よく果肉が締まった甘みの強いミニトマトの「よいっちゃん」「ひかるちゃん」など、近年ではオレンジ色の品種の栽培にも成功し、家庭の料理に華やかな色を添えています。

そんな余市町で23棟ものビニールハウスを所有し、3代にわたり農業を営み、ミニトマトをメインとしてぶどうの栽培も行っている中野農園。そんな中野農園に、つい最近初めての試みとして、特定技能のベトナム人が仲間入りしたと聞いて取材に伺いました。

そのベトナム人とは、ボ・テイエン・トンことトンさん。
これまでも外国人技能実習生の受入経験がある中野農園ですが、特定技能として外国人の方が入社して、いったいどのような変化があったのか。
そして、トンさんが遠い日本で農業に従事するきっかけや、中野農園での暮らしについても伺ってみました。

nakano_15.JPG

実は農業を継ぐつもりはなかった3代目

まずは中野農園について、そして3代目となる代表の中野大介さんについて聞いてみました。
中野さんは、高校卒業までを地元余市町で過ごし、その後、群馬県にある高崎経済大学で経済学を学びました。両親や兄弟が農業で大変な思いをしながら作業しているのを幼少期から近くで見ていたので、当時は農家を継ぐことは考えておらず、東京で働くことを夢見ていたそうです。しかし、大学卒業後に就職したのは、大都会東京ではなく、慣れ親しんだ北の大地、札幌でした。

「群馬から東京に就職活動で行くでしょ?そしたら、ここは人間の住むところじゃないなって感じたの。人は多いし、満員電車なんてすごいでしょ!だから俺は東京で生活するのは無理だわ!って思ってね」と笑いながら当時を振り返る中野さん。

nakano_6.JPG笑顔がとても素敵な中野農園代表の中野大介さんです。

そうして札幌で、教育系企業の人事部で勤務していたのですが、6年間が経過した頃、経営の悪化により、新しいお仕事を探さなくてはいけない状況になってしまいます。そんな状況の中、住んでいたアパート隣にあったゴミ収集を行う会社に「仕事はないか」と相談してみたところ、すぐに採用が決まり、そこから1年間、ゴミ収集の仕事を経験されます。

「隣に住んでいるし、いいよってすぐに採用してくれたのは良かったんだけど、実際仕事してみたらビックリでさ!朝から晩まで、ゴミ収集車が満タンになるまで、車に乗せてくれないのさ。最初、足が痛くて痛くてひどかったんだけど、病院行くお金もなくてね。3カ月経って、やっと会社が保険に入れてくれて、病院行ってみたら、医者から『中野さん足折れてますよ』って!(笑)さらに一巡してもう治りかかっているって言うからビックリだよね。そこで思ったのさ『同じ肉体労働しているんだったら、実家の農業でもいいのかな』ってね」

このゴミ収集の仕事に就いていなかったら、きっと実家に戻って農業をすることはなかったかもしれないと中野さんは振り返ります。さらにこの頃、時を同じくして、当時実家の農家を継ぐはずだった中野さんの弟さんが、別の農家の娘さんと結婚して婿入りすることが決まります。そして、弟さんから「兄ちゃんも肉体労働しているんだったら、戻ってきてくれないか」と相談もあり、自身が実家の農家を継ぐことを決心したそうです。

それから7年ほど実家での下積み経験をして、2014年に経営移譲して中野さんが代表を継ぐことになります。

nakano_7.JPGちょうど実家に戻る頃、奥さまとも出会いご結婚された中野さん。元々薬剤師だった奥さまは、そのままお仕事を継続しつつ、収獲などの繁忙期にはお手伝いをされているそうです。

初めて特定技能としての外国人を採用したその訳とは?

3代にわたり経営を行う中野農園では、ミニトマトとぶどうを9:1の割合で栽培しています。主となるミニトマトは、余市町でも10軒ほどの農家さんしか栽培していない「アイコ」という品種を栽培しながら、その他にも3品種ほど栽培しています。ぶどうやミニトマトなど、実はこれらの9割は道外へ出荷しているので、出荷量を維持するためには労働力の確保が非常に重要になります。そうした中で、中野さんが選択したのが、特定技能の外国人の採用でした。

「15年くらい前から、中国からの技能実習生の受入をしてきた経験もあったので、外国人の採用については抵抗はなかったんです。ただ、特定技能での採用は分からないことも多かったんだけど『ジョブキタ紹介(※)』が外国人の就労サポートもしているってことで色々話を聞いてみたら、やってみようかなって。それに新型コロナウイルスの影響で技能実習生も来られず、提供してた住まいも空いてたしね」

※ジョブキタ紹介とは、弊社株式会社北海道アルバイト情報社が持つ人材サービスのひとつです。

こうして、話はとんとん拍子に進んでいき、2021年春からベトナム人のトンさんが中野農園に仲間入りすることになります。現在、中野農園では、トンさんを含めて7名のスタッフが働いています。中野さんと奥様とご両親、日本人スタッフが2名、そしてトンさんです。

nakano_13.JPG繁忙期にはパートさんに手伝ってもらうこともあるそうです。

トンさんが働き始めてからまだ数カ月ですが、中野さんにトンさんの働きぶりについて聞いてみました。

「トンくんはこれまでも日本で農業の経験がある方だったので、その点はある程度慣れているので安心だったね。そして、トンくんはとても真面目に働いてくれるし、日本語もある程度できるから、全然心配ないんだよね。同じ外国人とはいっても、技能実習生との一番の違いは、やっぱりこの言葉の部分が大きいかな。トンくん日本語しっかりできるもんだから、こっちが全然ベトナム語覚えないもんね(笑)」

実はトンさんは元々千葉県で技能実習生として3年間農業を学んだ後、ここ北海道に来ました。そのため、農業についてはもちろん、ある程度の日本のマナーや言語についてはこれまでも学んでいました。日本語について、ゴミ出しなどのマナーについて、こうした基本的なことの心配がいらなかったのは、中野さんとしての負担もずいぶん軽減されているそうです。

nakano_14.JPGこちらは「イエロー」という品種のミニトマト。取材時にいただきましたが果物のように甘くて美味しかったです!

祖国、家族と離れて日本で頑張るトンさん

それでは今度はトンさんにお話を聞いてみたいと思います。

初めて日本に来た時、千葉県で技能実習生として従事していたのは、大規模な法人農家。トマトや大根、キャベツ、とうもろこし、じゃがいもなどたくさんの種類の作物を生産しており、他のベトナム人の実習生も3人もいるという環境だったそうです。始めは、日本の気候や環境にも慣れずに、体調を崩してしまうこともあったとその当時を振り返ります。

「日本に初めて来た時に一番難しいと感じたことは日本の言葉です。ベトナムでも日本語を勉強してきましたが、分からない言葉も多く大変でした。あと、マナーなどの文化ももちろん違うので、慣れるまで少し時間がかかりました」

日本語での質問にもきちんと日本語で答えてくれました。来日時の慣れない経験を話してくれるトンさんですが、お休みの日には仕事仲間と横浜や埼玉、東京など、遊びに行くことがとても楽しかったと笑います。実はトンさん、日本に来る前にご結婚し、現在は3才と1才のお子さまもいらっしゃいます。家族と離れて異国の地で働くトンさん、家族の将来のためにと日々頑張っているのです。

nakano_10.JPG最初は緊張している様子でしたが、徐々に慣れてきて笑顔も出てきたトンさん。

さて次は、ここ中野農園さんでの働き方、暮らしについて聞いてみます。

「千葉にいた時と違って、ここでは基本的にミニトマトの栽培がメインです。まず、この作物の種類の違いは仕事内容としても随分と違います。前は、覚えることもたくさんあるし、扱う作物も大根など大きなものは運ぶのも大変でした」

さらに中野農園のミニトマトは全てビニールハウスでの生産なので、天候により作業環境がそこまで大きく変化しない点も以前とは全然違うと話します。働く土地や環境が変わることに対して不安がなかったかを聞いてみると「先に北海道に住んでいる友人に気候などについて聞いてました。冬の北海道は雪が降るが、北海道に住んでいる日本人も雪国で生活できているのだから大丈夫だと言うので、心配してなかったです」と力強く話すトンさん。確かに私たちも長いこと冬の北海道にも住んでいるな、と納得してしまいました(笑)。

nakano_1.JPG

以前の職場環境では同じ祖国のスタッフもいましたが、現在ベトナム人はトンさん一人。そうしたこともあり、中野さんは仕事面より生活面を心配していたそうです。

「ベトナム人がここで働くことは初めてだったし、ごはん支度はどうするんだろう?とか、最初はそういった点を心配していましたね。でもトンくんはすごく料理が上手!いつも料理作ってくれて持ってきてくれるのさ。ウチの奥さんもトンくんにベトナム料理教えてもらってるんだ」と中野さんが笑顔で話します。

中野さんが教えてくれたようにトンさんは特技も料理というほどの腕前の持ち主だそうで、つい先日もベトナムの代表的な料理であるフォーをスタッフの皆さんへ振る舞ってくれたんだそうです。そのことを嬉しそうに話す中野さんの横で、すこし照れくさそうにしているトンさんを見ていると、なんだかとても優しい気持ちになりました。

また、トンさんの住まいは農園の敷地内にある、以前は技能実習生が住んでいた一軒家です。中野さんはじめ、ご家族との距離間も近く生活できているのは、トンさんにとっても安心できるのはないでしょうか。

nakano_9.JPG先代の中野さんのお父様とトンさん。すっかり中野農園に溶け込んでいます。

働いている人が楽しいと思える場所を

子どものため、家族のため、将来のために日本で頑張っているトンさん。そして、世界中が新型コロナウイルスに苦しめられる中、トンさんにもこの影響は非常に大きく、ベトナムに帰ることすら許されない状況が続いています。そんな中でも、前向きに笑顔で働くトンさんは、毎日仕事が終わった後に、必ずテレビ電話で家族の顔を見ながら話をするそうです。

トンさんや他のスタッフを束ねる中野さんへ、最後にこれからの目標についても聞いてみました。

「目標は働いている人がみんな仲良く楽しく働いてくれること。みんなが楽しければそれで十分」

このように、真っ直ぐに答えてくた中野さん。
中野農園には、働く上でとても大切なモノが育まれているのを感じずにはいられませんでした。

nakano_12.JPG

中野農園
住所

北海道余市郡余市町栄町703-20

電話

0135-22-2357


3代にわたる農園にやってきた新たな仲間はベトナム人

この記事は2021年6月1日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。