北海道余市町。日本海に面した北側と、ゆるやかな丘陵地に囲まれた他三方、その地形から数多くの果樹農家が余市町に身を置いています。今回は、そんな余市町でぶどう・ブルーベリー農家を営むソウマファームさんにお邪魔しました。快晴のもと、広大な畑で迎えてくださったのは、相馬慎悟さん。
ワインブドウ畑のみで2.3ヘクタール。総面積では6.2ヘクタールの広さをもつ農場に立つ相馬さんは、果物を育てているだけではなく、ここで採れた果物を使ったレストランやジェラート屋さんも7年程前から余市町内で展開。
「このまちの可能性」を感じ、余市で何か面白いことを仕掛けている人がいる...そんな話を耳にしたら、それは相馬さんのことかもしれません。
ワインをつくるなら余市一択
相馬さんはもともと北海道胆振地方に位置する伊達市の出身。仕事で札幌に移住し、飲食店に勤務。そこでマネジメント業務などを担う管理者として働いていました。ワインの仕入れなども担当しており、そのうち「自分でもワインをつくりたい」と思うように。そしてついに「ワインを作るなら余市しかない」という思いから、この地に移住してきたのでした。
「ワインをつくるならここ、余市だって決めていましたね。この土地では、すでにワインの歴史が蓄積されているし、教えてもらえる環境が整っていると思ったからです」
当初は新規就農というかたちでスタートしようと思っていたそうですが、余市で果樹農園を営む農業法人の方からタイミングよく声がかかり、その法人で働き始めます。その後5年ほど勤め、2019年に自分でこの農地を買うことに。
ついに、ソウマファームの誕生です。
このまちでの挑戦
また、冒頭でもお伝えした相馬さんが経営しているレストランやジェラート屋さんの誕生の背景にはこんな強い想いがありました。「こんなに余市にはぶどう畑があるのに、ワインを楽しめるお店がなかったんですよ。だから作りました。でも当初は『そんな店3ヶ月でつぶれるぞ』なんて、まわりから言われたりもして。でも、このまちでも出来るんだぞってところを見せつけたくて、頑張ってきました。結果、7年も続いているし、こういう店が余市にも増えてきたんです」
それが嬉しい、と相馬さん。
余市というまちに、「美味しい」を楽しめる場所を生み出し、その先駆者として走り続けているのです。
最近では、グランピング場もつくるなど新たなビジネスも始まりました。
まるでヨーロッパのような景色、ぶどう畑が広がる心落ち着くその景色に囲まれてのグランピング。さらにはそこで、相馬さんが作り出すワインを飲むのはきっと格別なことでしょう。また、相馬さんのレストランの食材を使ってバーベキューもできるなど、なんだか聞いているだけでワクワクしてしまうプランです...!
相馬さんの農場はこんな素敵な景色が広がっています
こうして様々なことに取り組んでいる相馬さんですが、果物の出来にももちろん自信があります。
特にびっくりされるのが、500円玉サイズのブルーベリー。みなさん、そんなに大きなブルーベリーを見たことはありますか?
北海道物産店で本州の方へ行くと、みんな口を揃えて「これは何?」と大きなブルーベリーを指差すそうです。それがブルーベリーだとわかると驚愕。
「手をかければ、こんな大きくて美味しいブルーベリーだってつくれるんですよ」と相馬さん。
それだけではありません。サロン・デュ・ショコラという、国際的なチョコレート業界の見本市に出展するようなパティシエが、相馬さんの作るラズベリーを「日本一うまい」とSNSで投稿したほど。その後、問い合わせが殺到したそうです。
ここまで相馬さんが美味しさを追求していけるのも、まわりの環境が要因のひとつ。
「この農場のまわりには、世界レベルですごい農家さんがたっくさんいるんです。だから自分も負けてられない。ワインの醸造家の方々もすごくアーティスティックな方が多い。だからこそ、その人たちを唸らせる果物を提供したい」
そんな強い想いが、相馬さんから、そしてこの農場からひしひしと伝わってくるようでした。
取材時はちょうどお花が咲いている頃でした。これから実をつけていくのが楽しみですね
働き手にもワクワクを!
もともと飲食店で働いていた時からマネジメントなどの経営のノウハウを持つ相馬さんは、夏場の収穫スタッフに対して近隣農家ではあまり見られない珍しい方法を取っています。それが「完全歩合制」。その果物にもよりますが、1キロいくら、と決まっており、あとはひたすら収穫するだけ。9時〜17時くらいの間で、好きな時間に来て収穫し、最後に重さを計量。頑張る人で1日2万円稼いで帰った人もいるほど!
未経験の方も収穫しやすいような状態を事前につくっておくとのことで、はじめての方も楽しんで収穫しているといいます。ゆっくりのんびり収穫して、自分の好きな時間に帰って良い。働き手も楽しく、ワクワクするような、それでいて働きやすい状態を生み出しているのはさすがのアイディアです。
そんな相馬さんは、夏場は朝早い時で4時から、日が暮れるまでこの広い農場でお仕事をされているそうです。お休みなどはしっかり取れているのでしょうか?と聞いてみると「夏は休み無しです!」と勢いのある一言。
「その分冬にガッツリ休みます!」と続けます。
しかし、冬は休みつつも本州の同じ果樹農家の方々へのコンサルもやっているというではないですか。
「もともとここが農業法人でやっていた時のオーナーの司令で、岐阜県にジェラート屋を作ったことがあったんです。その時に岐阜の全JAと関わって、人脈が出来たんですよね。それで『うちでもワインをつくりたい』『美味しいぶどうをつくりたい』って声をかけてもらうようになって、コンサルするようになりました」
こうして声がかかるのも、ソウマファームの果物の美味しさにみんな心奪われているからでしょう。
本州の現状も知っている相馬さん。だからこそ、余市で果物をつくる魅力を聞いてみると...
「余市ほどにはならないと思っています。なぜならこの余市という場所は、果樹をやるためにあると思えるほどの場所だからです。地形や、土壌、気候すべてが完璧なんです」
特に余市の温度変化が大きいのも良い役割を果たしているそうで、温度変化が大きいと生命維持のために、ギューっと養分をためる作用が働き、その実の糖度をあげるそう。だからこそ、余市での果物の生産量は多く、いいものをつくれる確率が高い場所とも言われているのです。
そんなこの場所を「もっともっと、面白い場所にしたい面白いことを仕掛けていきたい」と相馬さんは語ります。
農場から「まちおこし」
「今後の目標は、僕が提供できるサービスで、驚き、感動、わくわくを与えたい。農業や、レストランはその手段でしかないんです」
人が刺激になるもの作りたい、どうやらこれが相馬さんのやりがいのひとつ。これがあるから仕事が楽しいんです、と笑顔です。
「みんな食べ物を食べているけど、農業は知らないって人が多いじゃないですか。人口も減っているし。ということは供給量も減っている。やり方を変えていかないとって思っています。ここをエンターテイメントにしていかないと!」
そんなエンタメを、この余市から発信していきたい。
なぜならこのまちには、それが出来るポテンシャルのあるまちだと確信しているから。
そして同じ生産者として余市に来る人がいたら、販路はもう万全である状態をつくっておきたい、という先駆者ならではのアイデアも。相馬さんの人脈の広さから、色々な人を紹介し合えるのが、相馬さんの武器。新しくこの地に移住し、農業を始める人もサポートしたい、そんな想いからです。
そしてこのまちに、どんどん「ワクワク好き」が集まって来てほしい、そんな願いを込めて、今日も相馬さんは余市の農場に立ちます。
- ソウマファーム
- 住所
北海道余市郡余市町登町974-2
- URL
◇ジェラート&スムージー、クレープのお店「フルティコ-FRUTICO-」
◇余市の豊かな食材にこだわるレストラン「ヨイッチーニ-YOICCINI-」