札幌から高速に乗り、小樽方面に車を走らせること1時間。大きな国道沿いに、ひときわ目立つまぶしいピンク色の看板が見えてきました。そこには「フルーツショップ 階楽園」の文字が。
今回のくらしごとの舞台は、北海道仁木町にある果樹農家です。仁木町といえば、知る人ぞ知る果樹のまち。
お邪魔した階楽園さんの農園は100年前から拓かれている歴史ある場所。そして仁木町で3番目にこの土地で直売所を開いたそうです。
国道沿いにあるのが直売所。その奥に農園が広がっています。
この農園では、さくらんぼを始め、もも、オーガニックぶどう、プルーン、なし、りんご・・・と数多くの果樹が植えられています。特に、ぶどうに関しては「オーガニック」に注目している方々が、これを目当てに来ることも少なくないと言います。
さて、農園を進めば進むほど、どんどん奥に続くその広さに取材陣も驚き。その広さなんと5ヘクタールほどにも及ぶという、もはや想像もつかないくらいの広さです。それにより、農園内は軽トラックが走れるようにもなっています。
そんな広々とした農園を歩いていると、まだまだ小さなさくらんぼがひょっこり顔を出していましたよ。
これからの収穫時期に向け、丹精込めて大西さんたちの手によって育てられていきます。
そんな100年程の歴史を担うというこの農園のお話を聞かせてくださったのは、社長の大西紀寛(おおにし のりひろ)さん。
未だ続くコロナ禍ではありますが、これまでフルーツ狩りのお客様も多く受け入れてきたことから、地元のみならず、全国各地からここに人が訪れます。国道沿いという立地から東南アジアの方々がドライブがてらふらっと立ち寄ってくれることもあるそうです。
実は大西さん、昔オーストラリアに留学していたという経験もあり英語も話せます。過去には中国人やベトナム人の技能実習生を受け入れていたこともあるなど、言葉の壁がない農園でもあるのです。
こちらが大西さん。物腰柔らかい、優しい雰囲気。
階楽園のお客様は、その80%が常連の方々。
「皆さんお土産をたくさん持ってきてくれるんですよね。お菓子から、置物、手作りの『いらっしゃいませ』の看板とかまで」と大西さん。
店内を見渡すと、様々なお土産が飾られ、それがまた、この場所のあたたかさをより一層演出してくれているような気がします。
また、お客様だけでなく、毎年その時期になるとたくさんの収穫スタッフが集まります。それも、全国各地から応募があるそう。滞在場所がない方々のために住む場所の提供ということで、一軒家も用意。こうして働き手のこともしっかり考えているからこそ、リピーターも含め、毎年収穫スタッフがたくさん集まってくれるのかもしれませんね。
しかし、収穫と一言に言っても、採るのは案外難しいのではないでしょうか?と聞いてみると、未経験の方でも長くて半日程で、そのコツを掴めるようになるそうです。
そんなお話をしていると・・・
お?ひとりの若者がハウスの中で何やら作業をしているようですよ。
「ここ、超ホワイト企業です」
ハウスの中で何やらのこぎりを使って木を切っている若者がいました。小樽出身の瀬戸川稜(せとがわ りょう)さん、23歳。若い、力強いエネルギーを感じつつ、それでいて優しい雰囲気が印象的な方でした。
ちょうど果樹に架ける看板を制作中のところ、少しだけ手を止めてもらいお話を聞かせていただきました。
早速ですが、瀬戸川さんがここで働き始めたきっかけは・・・?
「学校を卒業後、群馬県の機械系の会社に入って働いていたんですが、群馬は気候が暑すぎて、もうあそこは人が住むところじゃないなって思って(笑)。それで小樽に帰ってくることに決めて、まずはお菓子の会社に入ったんですが、自分には合わないのを感じて求人を探していたところ、この農園を見つけました」
そもそもたくさん求人がある中で、どうして階楽園さんを選んだのでしょうか。
これに対し、瀬戸川さんは少し恥ずかしそうに言いました。「募集要項の中に、10時と15時に休憩があって、しかもお菓子と飲み物が出るって書いていて、それに惹かれたんです(笑)」
瀬戸川さんの応募の背中を押してくれたのは、なんと休憩の待遇!瀬戸川さんはさらに力強くこう続けました。
「ここ、超ホワイト企業ですよ」
若干23歳。しかし、すでに他の会社での経験値もあってからか、ここでの働きやすさを肌で感じている様子。2020年の収穫時期に初めて働き始め、その後も「良かったら今年もどうだい?」と大西さんより声をかけてもらい、2021年度も働き続けることに。
「ここで働くまで、実はフルーツってあんまり得意じゃなかったんです。でも、ここのフルーツは美味しいと思ったし、逆にここ以外のは食べられなくなりました(笑)」と、はにかむ瀬戸川さん。休憩時の待遇だけでなく、フルーツのおいしさも瀬戸川さんの心をぐっと掴んだようです。
また、瀬戸川さんは階楽園の魅力をもうひとつ教えてくれました。それが・・・「おかあさん」。
実は社長の大西さんも口にしていた階楽園の名物・・・!?「おかあさん」の存在。そのおかあさんに、お話を聞いてみましょう。
階楽園、と言えば「ピンク」の「おかあさん」!?
ハウスの中から笑顔で出てきてくれたのは、大西さんのお母様。大西綾子さん。御年80歳!今日も元気にハウスでお仕事されていました。
まずは早速気になってしまうそのピンクのヘアカラーについて聞いてみます。
この質問に対し、第一声「目立つでしょ」とニコニコ笑顔。その話し方の雰囲気があまりにも優しくて、思わず取材陣の顔もほころびます。「迷子になった時も目立つし、この髪色でハワイに行った時も、海外の人たちから好評だったの」と、とても嬉しそうに話してくださいました。
大西さんいわく、おかあさんの好きな色はピンク。髪色だけでなく、販売所の店頭に立つ時はピンクの服も着て接客していたそうで、気付けばおかあさんのイメージカラーに。違う色の服を着ていたら、「なんでピンク着てないの?」と常連さんから言われることも(笑)。
でも実は、それだけじゃないのです。
おかあさんの芯となる部分が反映されているということが、お話を聞いていく中で分かりました。
「私は九州の出身で、18歳の時に北海道に来たの。旭川にいる叔父の仕事を手伝いにね。そしてお見合いをして、仁木町に来たのが24歳の時」
なんと、九州のご出身だったとは!
はるばる南から北までやって来たというのですね。暮らしの変化に戸惑いはなかったのでしょうか?
「最初は文化の違いに驚いたよ〜。まだあの時代は男女が平等ではない時代。特に九州はその色が強くてね。でも北海道に来てみたら『先にお風呂入っていいよ』『先にごはん食べていいよ』と言われるもんだから、え〜!?ってびっくり!北海道はなんて住みやすいんだろう〜と思ったね(笑)」と笑います。その笑顔からにじみ出る人柄に、取材陣も心を奪われていました。
「ただ、九州にいた頃の教えで『女性はどんな時でも常に化粧をしなさい』と身だしなみについて教わって、それは今でも唯一守っていることなの」
お化粧やヘアスタイルなど、身だしなみを人一倍意識しているおかあさん。それは、生まれ故郷での教えがあるからだったんですね。身だしなみを整えることが、仕事へのスイッチになっているようです。
こうしてニコニコ話すおかあさんの人柄が、この階楽園の魅力のひとつ。おかあさん目的で来るお客さんも多いのだとか。それもよくわかります。
おかあさんの若かりし頃。おしゃれに気を配るおかあさんは、金髪にしている時代もあったそうですよ
実はおかあさんが5代目で、それを継いだのが現社長の大西さんです。しかし、そんな大西さんも実は農園を継ぐつもりはなかったと言います。
やった分だけ成果が出るのがこの仕事のやりがい
冒頭でもお話しましたが、大西さんはかつてオーストラリアに語学留学していた経験があります。そこで培った語学力を活かした仕事がしたいと、東京の貿易関係の会社に就職しました。
北海道とは違うあたたかい国に行きたくてオーストラリアをチョイス
海外とのやりとりということもあり、時差の関係で深夜に仕事が終わる日々。
そんな働き方に疲れた大西さんは、その会社を退職し北海道へ戻ってきました。
新たな職場は、札幌の学習塾。ただ、学習塾も生徒が学校終わりに通う場所ということもあり勤務終了時間は夜遅く・・・。
改めて今後の自分の働き方を考えてみた時に「人に雇われるより、自分でやった分だけやった成果が得られる方がいいのかもしれない」と、階楽園を継ぐことを決意したのでした。
こうしておかあさんの人柄と、大西さんのコミュニケーション力も相まって地元のみならず、全国から愛されている農園が50年程前から今日まで続いています。
現在はジュースやジャムの自家製品もつくるなど商品開発も手がけていますが、今後はここで採れた果物を使い、スムージーやアイスクリーム、ケーキとかも販売してみたい、そんな夢を語ってくださいました。
冬はお仕事はおやすみ。大西さんは事務仕事をされますが、おかあさんは韓国ドラマに夢中。こんな働き方・暮らし方が出来るのも農業の魅力のひとつかもしれませんね。
- フルーツ農園階楽園
- 住所
北海道余市郡仁木町北町13丁目1番地
- 電話
0135-32-2143
- URL