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北海道で暮らす人・暮らし方
札幌市

元ラガーマン店長が守る、大きなまちの小さな社交場。20210419

元ラガーマン店長が守る、大きなまちの小さな社交場。

(※撮影時のみマスクを外して頂いています)

深緑の壁と木製のどっしりとした扉。アイルランドから直輸入してきたというスツールや年季の入った木製のカウンターが並ぶ店内は、ここでたくさんの人がくつろいできたであろう歴史を感じさせ、まるで外国にいるかのような気持ちにさせてくれます。
ここ、Irish Pub BRIAN BREW(アイリッシュパブ ブライアンブルー)はラグビーのクラブチーム「北海道バーバリアンズ」のメンバーが海外へ遠征に行った時に、現地のパブ文化に感銘を受け「自分たちもメンバーが集まれるパブを地元につくりたい」と一念発起してオープンさせたお店。北海道初のアイリッシュパブとして1995年12月、札幌駅のお隣・桑園エリアに第1号店が誕生し、当時まだ日本ではめずらしかった樽生のアイルランドビール「ギネス」と「キルケニー」を提供するお店として注目を集め、さらにアイリッシュウイスキー、スコッチウイスキーなども種類豊富に取りそろえていることから、開店当時からウイスキーの愛飲家にも親しまれています。

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今回取材でお伺いしたのは札幌市の中心部・大通エリアに位置するBRIAN BREW南3条店。2004年6月に2号店として誕生しました。
アイルランドでは地元民が集まる酒場のことを「パブリックハウス」=「パブ」と呼び、そこで働く人を「バーマン」と呼びます。そんなアイルランドのパブ文化を継承し、札幌のパブとして18年間、お店を牽引してきたバーマン高橋一生さんのお話をご紹介します。

ラグビーが繋いだ縁

高橋さんは、おんねゆ温泉と白花豆で有名な北見市留辺蘂町の出身。北見北斗高校へ進学し、当時の担任から誘いを受けてラグビー部に入部します。実はこの北見北斗高校ラグビー部は全国大会の常連で、過去には準優勝まで上りつめたこともある強豪部。そうとも知らずに、ルールどころか何人でプレーするスポーツなのかも知らないままラグビー部へ入部した高橋さんでしたが、なんと高校3年生のときにはキャプテンに抜擢されます。ラグビーは一度試合が始まると監督は直接選手に指示を出すことができないスポーツ。すなわちグランド内ではキャプテンが絶対であり、キャプテンがチームを引率し状況に応じたゲームの戦略を立てていきます。チームメイトからの信頼なしでは到底勤め上げることはできません。

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「一人っ子だったせいか、他人がどう思っているのかに敏感で子どもの頃から相手の様子をよく観察していましたね」という高橋さん。その言葉通り部員ひとり一人をしっかりと見つめ、向き合うことで信望を集めていたのでしょう。
品位や規律、尊重などを掲げるラグビー精神を部員たちに説きながら、自分自身も部員の鏡となれるよう努力を重ね、ラグビー部をまとめ上げてきた高橋さんでしたが、高校生活も終わりに近づいてきた頃、まだ先の進路を決めかねていました。

「とりあえず大学に入ったら何か見つかるかもという甘い考えで(笑)、まずは札幌で浪人生活をすることに決めました。そうして札幌での生活を始めたわけですが、今度は受験勉強の合間にアルバイトをしようと思って求人誌を眺めていた時に、BRIAN BREWの求人広告を発見したんです。寮の近くだし、洋風のお店でカクテルを作れたらかっこいい!という軽い気持ちで応募しました」と苦笑い。
接客経験なし・アルバイト経験なし・さらに人見知りだったという高橋さんでしたが、面接では「北海道バーバリアンズ」のコーチでもあったBRIAN BREWの代表とラグビーの話で意気投合し、めでたく採用となります。高校時代のラグビーとの出会いがまさに、高橋さんがバーマンとして活躍するきっかけとなった瞬間でした。

パブとしての「ホスピタリティー」

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BRIAN BREWは「パブ」のアイデンティティを持つお店。でも、「パブ」って一体どんなお店?

「パブは地元の社交場です。そのまちに住む人にとっては職場と家の中継地点としてふらっと立ち寄って、偶然居合わせた知り合いと会話を楽しんだり、はじめて会う人とも気兼ねなく話せる場ですし、まちを訪れた人にとっては、地元民とのふれあいを通してそのまちの魅力を知ることのできる場でもあります。パブには上座も下座も存在しませんし、年齢も経歴も国籍も関係なくどんな人でもみんな平等に楽しむことができるんです」

お店に入ったら、カウンターで飲みたいもの・食べたいものを注文しバーカウンターを挟んでバーマンとおしゃべり。支払いを済まし、飲み物を受け取って、自分の好きな席を見つけてくつろぎます。席が埋まっていることもしばしばありますが、そんなときは立ち飲みで隣同士になった人と気軽におしゃべりを楽しみ、酒を交わせるのもパブならではの良さ。一人でふらっとくるも良し、いつもの仲間と訪れるも良し。「とはいえ、初めて一人で来店するのはちょっと緊張する...」という方も大丈夫。

brianbrews3_20210226_73.jpg高橋さんに、嬉しい出来事を報告したり、悩みを打ち明けたりする常連さんも多いそう。
「初めて来られたお客さまは、慣れない雰囲気に気後れしてしまう方も多いんです。でもそんな時はまずは僕たちスタッフと打ち解けてもらうためにカウンターの席にご案内したり、僕たちの声が届くところにやんわりと促したりするように心掛けています。もちろん決して無理強いはしませんので、安心してください。静かに本を読みながらビールやウイスキーを楽しむ方もたくさんいらっしゃいます」

来店された方の雰囲気や気持ちを汲んで、みんなが心地よく過ごせるような環境を提供する高橋さん。もちろん、ギネスをはじめとするビールやウイスキーの注ぎ方、管理などにも徹底的にこだわります。確実に美味しいものを提供するための日々の研究も怠りません。特にギネスやキルケニーは注ぐ人によって味が変わるとまで言われるとても繊細な飲み物ですが、来店したアイルランド人に「本国のギネスに負けないくらい美味しい!」とまで言わしめた腕の持ち主なのです。ウイスキーの味や香り、行程などに関する知識も豊富でお客さんからの質問にもきちんと答えられるように、日頃の情報収集も欠かしません。
そんな高橋さんが持ち合わせる真面目さと真摯な態度に信頼をよせて、彼目当てに足繁く通う常連さんもたくさんいます。

brianbrews3_20210226_11.jpgクリーミーな泡の上に描かれるアイルランド国花「シャムロック(三つ葉)」。BRIAN BREWは「パーフェクトパイント」と呼ばれる最高のギネスやキルケニーを提供するお店として公式認定されています。

「仕事を始めた当初、代表から口うるさく言われていた『ホスピタリティー』という言葉がいつも胸にあります。お客さまそれぞれへのアプローチの仕方を考えておもてなしするということなんですけど、そのためにはその方のことを知らなければならない。だから会話が大切なんです。とまぁ真面目なこと言ってますが、僕自身、お店に来た方と毎日自由に話せることが楽しいんです。刺激があって飽きないんですよね。だから右も左も分からない状態からはじめましたけど、こんなに長く働けているんだと思います。雇われている立場ではありますが、店を任せられている今、僕の色がかなり強く出ちゃってますね(笑)」

取材におじゃましたちょうどその日は、就職を控えたアルバイトの澤岡響さんがBRIAN BREWで働く最後の日でもありました。ラグビーが観たくてBRIAN BREWに足を運んでいたときにアルバイトとして働かないかと声をかけられ働くようになった響さん。3年間の勤務を経ての高橋さんの印象を聞いてみると
「生(なま※高橋さんの愛称)さんは、ひとことで言うと理解がある店長って感じですね。僕たちってやっぱ学生なので、テストとか実習、レポート提出とかの細かい用事がでてくるんですけど、それにあわせてシフトも組んで貰えるし、仕事の教え方もバイトスタッフそれぞれの性格やテンポに合わせて教えてくれました」

brianbrews3_20210226_45.jpgこの日がBRIAN BREWでのアルバイト最後の日だった澤岡響さん。
一度ここでアルバイトを始めると、ほとんどのスタッフは学校を卒業するまでの数年間働きつづけ、社会人になっても、北海道を離れても、必ずまたお店に遊びに来てくれるそう。パブならではの「会話のノウハウ」も就職活動や就職先でとても役にたっているとのことで。
「僕は4月から理学療法士として働く予定なのですが、患者さんとの会話は施術を行う上で大切な要素。年代・性別関係なくさまざまな人との会話を経験できたBRIAN BREWでの3年間は自分の大きな強みになると思っています」と自信たっぷりに答えてくれました。

これまで、お客さんに負けないくらい様々な個性を持ち合わせたアルバイトさんたちがパブ流の「ホスピタリティ」を学び、巣立っていきました。BRIAN BREWは地元の社交場であると当時に、このまちで暮らす学生さんたちの成長の場でもあるのです。

brianbrews3_20210226_33.jpg3児の父親でもある高橋さんにとって、アルバイトさんたちは息子や娘のような存在なのでしょう。

愛するラグビーで、みんなが一体になったあの日

高橋さんがBRIAN BREWで働き始める少し前の2002年5月、アジアで初めてサッカーの国際競技大会が日韓共催で行われました。全世界の総視聴者数が35億人を超えるとも言われるこのビッグイベントは、日本国内でも非常に大きな盛り上がりをみせ、BRIAN BREWの店内もサッカー観戦者で大賑わいだったそう。そしてこの翌年、ラグビーの国際競技大会がオーストラリアで開催されます。しかし

「開催国だったとはいえサッカーはあんなに盛り上がっていたのに、ラグビーの方は全く注目されなかったんです。ラグビーと繋がりの深いお店、そして自分自身もプレーしていた立場としては悔しい思いをしました」

もちろん、北海道バーバリアンズのメンバーや一部のラグビー愛好家の方はBRIAN BREWに集まってビール片手に試合観戦を楽しんでいましたが、この時高橋さんが感じたのは「僕自身がラグビーをやっていただけでは広まらない。ラグビーを魅せる立場として、自分自身がもっと世界のラグビーや日本のラグビーを観て、上手に伝えられるようにならないと」ということでした。一人でも多くの人にラグビーの魅力を分かって欲しい。野球やサッカーみたいに浸透させたい。そんな気持ちで店に訪れる人に地道に魅力を伝えてきました。

そうして16年の月日が経った2019年9月。とうとうここ日本でラグビーの国際競技大会が開催されることになったのです。東京での開幕戦を皮切りに約1カ月半、試合は全国12の都市で行われました。

「夢にまで見た日本初開催。しかも内2試合は札幌で行われるんです。いちラグビープレーヤーとして、ずっとこのまちでラグビーの魅力を伝えてきた立場として、とにかくラグビーファンをがっかりさせてはいけないという気持ちが大きくて、プレッシャーと興奮で開催2週間前に嘔吐(えず)いて朝起きました」と笑う高橋さん。
開催前から国内のメディアはもちろんのこと海外のメディアからも取材を受け、ラグビーを楽しむために最適な場所としてBRIAN BREWの存在は広まっていきました。

「お店に来た人全員が、安心してラグビーが楽しめるように。ここを訪れるであろう世界中の人たちと地元の人たちがラグビーを通じてふれあい、同じ場で同じ感動をみんなで味わって貰うために。どの場所よりもホスピタリティ溢れる空間を目指しました。そのために僕たちスタッフも日本代表のように一丸となって何度も何度もシミュレーションして万全の体制で挑みました。とにかく全員満足させて帰したい。ラグビーを楽しむ以外のことをお客さまに感じさせないようにしたかったんです」

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記念すべき開幕戦が行われる日の札幌は、夏の暑さを残した気持ちの良い秋晴れ。ラグビー観戦目当てに国内外からお客さんがぞくぞくと来店し、やがて店内は身動きが取れないほどの人で埋め尽くされました。
老いも若きも、日本人も外国人も、ラグビーに詳しい人もそうじゃない人も、お客さんもスタッフも。みんながラグビーに夢中になって、一緒に熱狂したあの日。決して広いとはいえない店内が大変な混み具合になってもお客さん同士お互いを思いやり、喧嘩ひとつなくとても平和な時間だったそう。
みんながハッピーでいられるようにと、全力でおもてなしをした高橋さん率いるBRIAN BREWのチームは幾度となく感謝と賞賛の言葉を貰いました。

初めての日本大会で札幌のパブとして「年齢も経歴も国籍も関係なくどんな人でも平等に楽しむことができる場」を提供できたこと、スタッフみんなでそれを創りあげられたことを心から誇りに思った高橋さん。バーマンとしての大きな自信に繋がりました。

brianbrews3_20210226_140.jpg混雑で店内に入れない酒屋さんに代わり、お客さんが頭上でビール樽を手渡ししながらバーカウンターまで運んでくれたそう!

たくさんの感動を残し幕を閉じた日本大会。これをきっかけに日本でもっとラグビーが盛り上がっていくはずだったそんな矢先、世界の状況が一変。国内でラグビーのトップリーグが始まるも、中止や無観客試合を強いられる異常事態のシーズンとなり、飲食業界は経営も危ぶまれる厳しい状況が今も続いています。

「ご存じの通り、僕たちも本当に大変な状況です。でも、しっかりと感染対策をしているお店もたくさんありますから、安心して過ごせるかどうかをご自分の目で見て判断していただけたらなと思います。こんな状況でも、みなさんの日々の生活に彩りを加えられるようにとみんな頑張ってますから、少しでも笑顔を見せに来て頂けたら幸いです」

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近頃は、家ではない「ほっと一息つける場所」で一人静かにお酒を楽しみたいお客さんがBRIAN BREWを訪れることも多いそう。
美味しいビールとおつまみと。ほんの少しだけ世間のニュースや喧騒から離れて、ゆったりとした時間を過ごし、「明日も頑張ろう」と思える力を養ってもらうために高橋さんは今日も「どんな人も安心して過ごせる場所」を守り続けています。

ここでたくさんの人がまた一緒になって賑やかに過ごせる、そんな日常が一日も早く戻ってくることを願いながら。

Irish Pub BRIAN BREW(アイリッシュパブ ブライアンブルー)南3条店
Irish Pub BRIAN BREW(アイリッシュパブ ブライアンブルー)南3条店
住所

北海道札幌市中央区南3条西3丁目 FA-S3ビル 1F

電話

011-219-3556

URL

http://www.brian-brew.com/bb/

Facebookページ・・・https://www.facebook.com/BrianBrewS3/


元ラガーマン店長が守る、大きなまちの小さな社交場。

この記事は2021年2月26日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。