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北海道で暮らす人・暮らし方
北斗市

まちの電器屋とカフェ。二足のわらじをはいて地域を豊かに!20210219

まちの電器屋とカフェ。二足のわらじをはいて地域を豊かに!

北海道函館市の隣、道南の北斗市で約70年間営業を続けるお店があります。

北斗市は平成18年に亀田郡大野町と上磯郡上磯町の2つのまちが合併して誕生しました。北海道新幹線の新函館北斗駅があり、ゆるキャラのずーしーほっきーが全国的に知名度をアップさせていることでも有名。近年では隣まち函館市のベッドタウンとしても人気を集め、定年退職者の移住や若い世代が家を建てることも多いんだそうです。

(有)いとう電器は、創業以来ずっと北斗市に根ざして、家電の販売などを通じて地元の方の生活を支えてきました。まちの電器屋というと、どのまちにも昔からある普通のお店と思えますが、実はこの(有)いとう電器はそれだけではありません。社長であり、北斗市本町商店街振興会の会長も務める伊藤哲朗さんが、長年夢見ていた事業を実現した場所でもあるのです!

電器店のガラス扉と、その右には木製の扉が2つ並んでいます。どちらからお邪魔するべきか迷いながら、右の扉を開けてみました。何やら店内は社名から想像していた、「電器屋」という雰囲気ではありません。

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店内はテーブルがずらりと並び、飲食店のように見えます。入口を入って左手にはピカピカに磨かれた立派な電気蓄音機(現役で動くそう!)、右手にはカウンター席とキッチン、お店の中心にはいくつものテーブル席、さらに奥には5人ほどが立てそうなステージ。その上には、ドラムセット、ピアノ、アンプ、スピーカーが並んでいます。

そう、ここは、伊藤さんが2016年に創業した音楽カフェ、「Sound Space Cafe Chabo」。この、伊藤さんの夢を詰めこんだ場所で、それぞれのお店の歴史や挑戦した事業についてのお話をうかがってきました。

イカの塩辛がラジオ部品に変身?

社長である伊藤哲朗さんは、昭和23年生まれ、現在73歳。生まれも育ちもずっと北斗市です。お父様の代で20年経営し、伊藤さんがこのお店の経営を引き継いでからは50年になります。北斗市で約70年間経営を続けている歴史深い電器店です。

hokuto_itodenki24.JPG数年前に立て替えた、とても綺麗な店舗

創業者で先代であるお父様は、元々小学校の先生だったのだそう。
「親父は専攻が理科で、電気関係が得意だったので、学校の放送設備とかも進んでやっていたみたいです。その後、電気関係の会社に声を掛けられたといって教員をやめて、その会社に勤めたんですよね。数年してから、電化製品好きが高じて独立し、函館市やこの地域に同じような電器店はなかった時代にこの店を開きました。私はまだ小さかったですが、創業当時は真空管ラジオ、照明器具の販売とか修理をやっていたようです。だけど、修理を頼まれてもこの辺りでは部品が手に入らないから、仕入れに苦労してたという話はあとで聞きましたね」

それでも、地域のお客さんからの修理依頼は入ります。
「ほら、一斗缶(18リットル入る四角い缶)というのがありますよね。それに、ここらの名物のイカの塩辛をめいっぱい詰めて、船と汽車ではるばる東京まで行ってそこで塩辛を売って、そのお金で真空管ラジオの部品をいっぱい買って帰ってきてたって話ですよ(笑)」

なんとも古き良き昭和の時代を感じるエピソードです。北海道では電器屋さんですが、東京では定期的に塩辛を売りに来るおじさんだったわけですね。お店を継続させるため、お客さんの依頼を受け続けるためのお父様のアイデアには驚いてしまいます。

hokuto_itodenki26.JPG現在店舗では、電球やケーブル類などを現品として用意しています

冷蔵庫・洗濯機・白黒テレビが三種の神器と呼ばれていた昭和の高度成長期時代。電化製品の流通と発展を支えてきたのは、伊藤さんのお父様のような、まちの電器屋さんの存在が大きかったことでしょう。

二代目誕生。家電のプロは人付き合いのプロ

函館中部高校を卒業した伊藤さんは、3年ほど電気工事会社に勤め、電気工事士、高圧電気工事士の免許も取得。大手の下請けで作業を行い、電柱に登っての外線工事や、木の電柱に登って部品の交換をしたりしていたといいます。昇柱器(木の柱を登る用具。足に取り付け、トゲを木に刺しながら人力で登る)で登ったり、一般家庭内の電気配線をしたり。本格的に電気工事の道に進もうかなとも考えたといいますが、同業者がたくさんいたこともあり、家業の電器屋を継ぐことを決意します。

「4人兄弟で、男3人では1番下。他の兄たちは大学にも行ってしまって、取り残された親もかわいそうだし自分が店を継ごうと思ったんです」と、伊藤さんは笑います。

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こうして20歳ちょっとで家業の「いとう電器」を継いだ伊藤さん。2003年にお父様が亡くなるまで、一緒にお店を営みました。まさに二人三脚で?と思いきや、「いや、いっつも喧嘩ばかりでしたね」と冗談をとばす伊藤さん。それでも伊藤さんとお父様の2代で育ててきたお客様との信頼関係が北斗市に深く根をはっていることは、お話のはしばしから伝わってきます。

「うちは50歳以上のお客さんが圧倒的に多いですね。新しい家電を買っても操作が複雑でわからない、という方が多いです。業界ではナンセンスコールと呼ぶのですが、故障じゃないのに呼ばれることもしょっちゅう。電源が入らないとか、操作方法がわからないとか。行ってみると、違うボタン押してただけということもあるんですよ。でも、『なんだ、こんなことで呼んだのか』とは思いません。このあたりは一人暮らしのお年寄りが多いので、聞ける人もいないし仕方ないんですよね」

さらに、「離れて暮らす子どもさんから、『親が新しい家電を買ったので、何かあればよろしくお願いします』って電話がきたりもするんですよ」と、伊藤さん。忙しいときには、なんだ、故障ではないじゃない!とついつい思ってしまいそうなお話ですが、地域の方のためだと大らかに笑います。

「まちの電器屋」だからできること

(有)いとう電器では、パナソニック製品を専門に取り扱っています。パナソニック製品であれば全て修理のノウハウがあり、直接メーカーに聞いたりもできるため、他の店で購入した商品でも修理に対応しています。また、それ以外のメーカーの製品でもできる限りは対応していますが、「はじめて聞くような格安の外国メーカーの家電も多くなってきているので、そうなると部品が手に入らず修理がむずかしい場合が多いですね」と話します。修理は1日4〜5件対応しているそうですが、時代とともに進化する家電。ひとつひとつに対応する電器屋さんの大変さがうかがえます。

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「今の時代、大型量販店やインターネットは商品を安く買うにはいいかもしれませんが、電化製品に詳しくない人は買った後の心配が残る方もいると思います。今うちのお店を利用してくれるお客さんに言わせれば、うちにはなんでも相談しやすいみたいです。『カタログを見てもわからないから、機能のちがいを教えて』とか。強みはというと、地元密着でやっていることもあり、お客さまが家の中に上がらせくれてしっかりお話ができることですね」と、伊藤さん。

こんなにも親しみのあるまちの電器屋さんですが、残念ながら日本全国ではその数が減ってきていることが現状なのはご存じのとおりです。しっかり生計を立てることは、大変なのではないかともつい思ってしまうのですが、地域店舗の強みとはどのようなことでしょうか?

「点検で家に訪問したりもするので、『これ、そろそろ交換だね』『古くなっているから買い換えしたらどう?新しくこんなのが出たよ』と押し売りではなく、本当に必要なときに話せるんです。『伊藤さんが勧めるものでいいよ。うちの家のこと色々知ってるでしょ?任せる!』とか、『間取りを知ってるから、家に合うサイズがわかるでしょ?それでいいよ』とか、なんでも頼ってくれるお客さんもいます(笑)」

この、「家に入らせていただいて、しっかり話ができる」という点が、まさに地域で長く営んでいる電器店ならではの一番の強みなのだと力を込めます。また、「伊藤さんの選ぶものなら間違いない」というお客さんの言葉からは、(有)いとう電器さんに対する信頼が本当に絶大なものだということが伝わってきます。

夫婦でも二人三脚で

ここで、お店の事務のお仕事が一段落した奥様の則子さん。「いえいえ〜わたしの話はいいですから~」とはにかみますが、ご夫妻で力を合わせて50年営業してきたお店。せっかくの機会ですから!と、お話を聞かせていただきました。

hokuto_itodenki03.JPG奥様の則子さんと

おふたりの出会いは、奥様がお店の隣の喫茶店でアルバイトをしていたことがきっかけでした。結婚してからは奥さんが電器店の事務をずっと担当し、お店の経営を支えてきました。ところが、約5年前にお店にとっての転機がおとずれます。

それは、「コンビニを建てたいので、お店の土地を譲ってほしい」という移転のお願いでした。奥様は当時をこう振り返ります。「長く営業してきたお店なので『もうそろそろお店の看板をおろしてもいいんじゃないかな?』と思っていたんです」。ところが、ご主人の伊藤さんからは、事業の幕を閉じることとはまったく逆の考えがとびだします。

それが「演奏したり聴いたりと、音楽を楽しめるカフェ」の構想でした。

そんな突然の構想に、奥様はさぞ驚かれたことでしょう。「何も話し合う間もなく決まっていった感じだったんです。主人が趣味で集めてたスピーカーやら音響機材やらも家にたくさんあったし、まぁ、やりたかったんでしょうね。しょうがないですよね(笑)」と、当時をふりかえります。

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「いやぁ~わるい男だなぁ、オレ(笑)」と笑う伊藤さん。お二人の息の合った掛け合いに、思わずニッコリしてしまいます。

ご主人が夢を叶えたあともしっかりサポートを続ける奥様。カフェメニューのドリンクや、ランチで提供する料理は、奥様と奥様の妹さんで担当しているそうです。ちなみに店名の「チャボ」は飼い猫の名前からとったのだといいます。元は野良だったチャボちゃんは伊藤さんご夫婦に保護され、今は看板猫としてお仕事しています。

hokuto_itodenki05.JPG寛ぐチャボちゃん

長靴のピアニスト現る

「北斗市にはライブハウスやカフェと呼べる場所はなかったので、地元の方に音楽文化を身近に感じてもらうためにこの場所を作りたかったんです。僕自身音楽を聴くことが好きなので、気軽に音楽を聞いたり演奏してもらったり、そしてゆっくりお茶やお酒を飲めるような、くつろげるような、そういうお店にしたくて。コンビニ出店で土地を手放したときに、次の夢を叶えてみようかな、と思ったんですよね。いつもはコーヒーやソフトドリンク、ランチにはハンバーグやカレーを提供しているんですが、金曜にはお酒や手打ち蕎麦も提供しています。夜にみんなでワイワイ集まって、楽しい時間を過ごしていますよ」

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今は第二・第四金曜にピアノの生演奏ライブを開催しているといいます。「ピアノの演奏者は、近所にお住まいの86歳の方なんですよ!うちに最初に来たときなんて、いきなり長靴姿で入口に立ってて(笑)。どこの田舎のお父さん?と思ってたら『今日ピアノ演奏でお世話になる者です』って入って来たもんだからビックリ仰天しましたよ。その日は兄がやっていたバンドでピアノを弾いてくれたんですが、演奏が本当に格好良くて。伴奏もジャズも、楽譜なしのセッションもできるし、まぁ、すごい人なんです(笑)」と、驚きのお話も。

hokuto_itodenki15.JPGピアノも完備しています

現在伊藤さんは、北斗市でイベントが開催されるときにはPAとして音響を担当しているそうですが、ミキサー(音響を調整する機械)の扱い方も独学で学んだのだとか。また、新型コロナウィルスが流行する以前までは、色々な地元周辺の演奏者を呼んだり、プロの演歌歌手・落語家の公演も行っていました。

何のしがらみもなく、お客さんも、伊藤さんご夫婦も、みんなが自由気ままに過ごせるお店。これが伊藤さんが思い描いていた夢のかたちなんだと思います。2020年は新型コロナウイルスの影響で、人を集める大きなイベントは自粛されているとのことでしたが、近い未来には老若男女の楽しい笑い声が戻りますように。

これからも地域と人をつなぐ場所であってほしい

北斗市で70年営業を続けてきた(有)いとう電器は、これからも地域に根ざして営業を続けていきます。長年にわたりこのお店を頼りにしてくれるお客様のためにも、音楽を楽しみたいとカフェに通ってくれるお客様のためにも、この事業この地域で残していきたいと伊藤さんは考えています。

「自分も周りも歳だし、誰か手をあげてくれる人がいるなら、事業を引き継ぎたいと思っているんです。今は、函館まで車で少し走れば大きい店がたくさんありますが、この界隈でいえば電器屋はうちしかなくなってしまって、生演奏が聴けるようなお店もない。お客さんのことを考えると、この先も、地域から頼られる電器屋として、存続させていきたいですね。もし若い人が引き継いでくれたら、若いお客さんが増えるんじゃないかな、この界隈も盛り上がるんじゃないかな・・・とも思います。電器メーカーのサービスを身につけている方だと、スムーズにお店を継いでいただけるかと思っています」

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また、伊藤さんは電器事業の今後について、このように話を続けます。

「年齢を重ねるにつれて商売視点での新しいことには取り組んでこなかったけど、もっと自分が若かったら色々やってみたかった気持ちはあるんです。例えば、毎月家電の特売チラシやポスターをつくったり、ホームページやSNSで目玉商品を紹介したり。やり方によっては、価格競争だけでない地元密着の店らしさで勝負ができると思っています。今は年配のお客さんでもっている店だけど、安い商品が用意できて、さらに大型量販店やネットショップよりもアフターサービスを含めて上回れるのであれば、若い客層に対してもアプローチができるし、知ってる顔の人から買う安心感が付加価値になりますよね。あと、あまり知られていないけど、家電には量販店用とうちみたいな専門店でしか扱えない商品っていうのが2種類あって、より性能を重視するお客様のニーズにも合わせられるかもしれませんね」

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さらに、地域の方との繋がりがすでにあることも、魅力のひとつです。
「うちは同業者と意見交流できる『はこでんグループ』に入っているので、函館界隈の事業者と協力して新しい取り組みなんかもできるかもしれないですね。メーカーもその月ごとに力を入れて販売したい商品がいくつかあって、毎月連絡は来ているけど積極的な販売はできていなかったので、戦略や販路次第ではもっと稼げる可能性があるかもしれません」
伊藤さんとお父様が丁寧に積み上げてきた土台があって、そして後継者の新たな視点が加われば、地域にとっても新しい取り組みになるかもしれません。

ただ、電器屋とカフェ事業という全く違う業態の組み合わせは、現実的に両方引き継ぐことが難しい場合もありそうですが、「もちろん両方の事業をまるごと引き継いでくれる人がいたら嬉しいですが、どちらか片方だけ・・・という方もウェルカムですよ!」と、伊藤さん。

「『Chabo』のほうは、今はカレーやハンバーグなどの軽食メニューや飲み物を中心に提供しています。ただ、全く違うジャンルのお料理をメインにしていただいても大丈夫ですよ。飲食店経営の経験がなくても、調理師免許を持っている方であれば大丈夫だと思います。今北斗市にはライブハウスなど、生の音楽や演奏に触れられる場所はないので、音楽を通じて地元の人脈や文化をつないでくれる場所として続けていってもらえたら嬉しいですね」

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音響設備や演奏のための機材はすでにととのっていますし、今後もプロ・アマチュアを問わない音楽家の発表の場、地元住民のイベント会場、個展を開きたい画家や芸術家を集める・・・など、現在のお店をベースに文化発信の場としての幅を拡げていくという可能性が広がっていそうです。

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北斗市では、新規開業者向けの補助金・支援金の支給もあります。市から商店街等元気づくり事業補助金として最大300万円、さらに商店街から最大50万円、あわせて最大350万円の補助金を受け取れる制度です。伊藤さんもこの制度を利用してライブ喫茶の開店資金にしたそうです。
(※北斗市の「商店街等元気づくり事業補助金」については支給要件があります。詳しくは北斗市市役所ホームページ等でご確認ください。https://www.city.hokuto.hokkaido.jp/docs/7199.html

最後に、伊藤さんはこう続けます。
「電器屋も飲食店もノウハウはあるので何でも教えますし、お客さんもそのまま引き継ぎます。新たな客層を増やすことにも大賛成です。でもひとつだけ。どんな形態の店になったとしても『地元の方を大切にする気持ち』は忘れないでほしいですね」

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70年もの間、走りつづけてきた「(有)いとう電器」。古き良き魅力はそのままに、これからの未来に向けた新しいかたちへと変化させられる可能性を秘めた場所でもあります。
この想いをがっちりとキャッチしてくれる後継者さんに巡り会えますように。そして、地元住民の憩いの場のあかりが、いつまでも灯りつづけますように、ということを願わずにはいられません。

(有)いとう電器/Sound Space Cafe Chabo(チャボ)
住所

北海道北斗市本町2丁目1−41

いとう電器さんの事業に興味がありましたら、公的機関の北海道後継者人材バンクさんがお問い合わせを賜ります。


北海道後継者人材バンク

(北海道札幌市中央区北1条西2丁目 北海道経済センター5F)

https://www.hokkaido-jigyoshokei.jp/bank/


まちの電器屋とカフェ。二足のわらじをはいて地域を豊かに!

この記事は2021年1月27日時点(取材時)の情報に基づいて構成されています。自治体や取材先の事情により、記事の内容が現在の状況と異なる場合もございますので予めご了承ください。